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2023年01月27日(金)
『高橋徹也 × 小林建樹』1

『高橋徹也 × 小林建樹』@Star Pine’s Cafe


お互い相手の曲/詞を己に取り込んだ上で構成したデッキバトルという印象だった。興味深かったのは、小林さんは高橋さんの楽曲をアナライズし、高橋さんは小林さんの歌詞に着目していたところかな。それを念頭に両者ともセットリストを考えていたように感じた。それがああなるってところが凄すぎてな……恐ろしい恐ろしい。

『1972』以来、6年半ぶりのツーマン。今回おふたりとも、ライヴにあたっての取り組み方やヒントのようなものをweb上で公開していた。小林さんはYouTubeラジオで高橋さんの「ハロウィン・ベイビー」「Feeling Sad」を実際にピアノで演奏し乍ら楽曲解説。字足らず/字余りな言葉の載せ方に初めて佐野元春を聴いたときと同じような衝撃を受けたこと、YMO(坂本龍一)「Behind The Mask」のコード展開との類似性について話す。高橋さんへインタヴューも行い、あーこりゃ相当興味をもって研究しているなというのが窺えた。

一方高橋さんはブログで、「本を読むこと」により「日常生活と多層的に並走するもうひとつの時間軸」を持てることの心地よさを書いていた。

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さて当日、先攻小林さん。強いストロークでギターをカッ、と鳴らし、一気呵成に3曲。チューニング的なピッキングを曲間のブリッジにしてグイグイ進める。つっかえた箇所をやり直したりもするが、そこで停まらず同じテンポで繰り返し、そのまま「そういうフレーズ」にしてしまう。これはいつものことなのだが、恐らく脳内にクリックとグリッドがあり、やり直す際起点をそのグリッドに「置く」ことで演奏を停滞させないようにしている。ひとりでポリリズムを演奏しているようなものだ。どこ迄意識しているか判らないが、夢中で弾いている結果そうなっているようにも見えるので、やはり天性のものだなあと思ってしまう。そこに至る迄には相当練習している(本人曰く「オートマチックに弾けるようになる迄」)訳でもあるが。

そんな凄まじい演奏と歌の間に、ジャカジャカジャカ(ギター)「はいっ、こんばんは〜こばやしたてきで〜す♪」てなノリで話すもんだから聴いてるこちらは脳がバグる。なんだか壮絶なギター漫談を聴かされているみたいでもある。チューニングをしつつスターパインズでの思い出話と、当時のライヴ音源を今日持ってきてるんで〜と告知(?)するものの、それが収録されているアルバムのタイトル(『流れ星トラックス』)をいわないもんだから物販のスタッフさんは質問されるだろうな〜と思う(笑)。

それにしてもハードなセットリスト。「ロックンロール」「ラブ」という強いワードが入った歌詞、挟んでくるコード、ラップとフェイクを詰め込んだパーカッシヴなヴォーカル。高橋さんの作品から見つけた要素を自分の作品で応えるならこうかな、という選曲にも感じる。「告白」が圧巻。これはもともと「殺」「死」といった強烈なワードが入っている歌だが、今改めて聴くとここ数年の社会情勢にピタリと合うような歌詞。リリースされたのは2003年だ。中盤ギターから手を離し、声だけで進める。“だけども”のフレーズを、オクターブを変えて唄う。頭のなかで鳴っている音楽に身体がビュンビュンついていくのだが、それでも間に合わないときがある。そうなると言葉が追いつかないからストレートで強いワードが出てくる、声一本に絞って表現する。剥き身というか生(き)の歌を突きつけられているようで、思わず身震いする。かつて「言葉より先に行きたい」といっていたことを思い出す。そして、ラジオで言及していた「(高橋さんの歌詞の)字足らず/字余り」についても思い出し、そこから選曲したのかな、とも思う。

しかしここでも、演奏を終えると「『告白』でしたありがとうございま〜す♪」ジャカジャカジャカ、ジャーン(ギター)とニッコリ。チューニングをしつつ、「めちゃくちゃ寒いじゃないですかぁ」などと話し出す。このスイッチングは何なんだ、こちらもついていくので精一杯ですわ。しかし「練習の想定以上に寒い」という言葉に、アスリートのコンディショニングを思う。そこから「寒いのに合う曲」と平原綾香さんに提供した「誓い」を。おおおレア! 冬を愛せる楽曲!……私個人は冬がいちばん愛着ある季節なのだが、寒さで苦しんでいるひとも多いので、あんまりおおっぴらにいわないようにしているのだ(ボソリ)。ちょっと胸のつかえがとれた気持ち。

閑話休題、ここでギターパートが終了。ピアノに移り、指慣らしのウォームアップ(ハノンのあれ)から、そのまま「イノセント」の導入へ。これも移調しているかな、運指が結構変わっている気がする。コードの妙に聴き入る。こちらでもフレーズのリピートあり。そのままブリッジで繋げて「最初のメロディー」「スパイダー」。アウトロで「空想故郷」(!)を入れてきた。おおおこれ、音源でピアノ弾いているのはうさヲさんという方なので、ご本人がライヴで演奏するのは初めて聴いた。うさヲさん演奏のYouTube音源はこちら、ご本人による演奏はYouTubeラジオ『ムーンシャインキャッチャー “R”』第13回で断片が聴けます。『鎌倉殿の13人』での政子の話し方に影響を受けているとのこと(!)。大河ドラマ大好きなんですよね。

こちらも一気に3曲演奏し終わってひとこと、「緊張しぃでごめんなさいね」。

ううーん、緊張によるミスと気にしているのだろうか。高橋さんとの会話でも「きっちり決めてるんでアドリブに弱い」「時間通りに出来た〜!」と話していたので、「タイムテーブル通りきっちり進行する」ことを重視しているのかもしれない。もはやそういうのもひっくるめて物語として見られるな……。今月2日にリリースされたばかりの『何座ですか?』を紹介するとともに、その12星座の主旋律を順番に全部演奏。「牡羊座!」「牡牛座!」と矢継ぎ早にどんどん弾いていく。ライヴ前日に「僕は10曲やります」とツイートしていたけど実質22曲演奏しとるがな。しかしここは楽しかった。自分の星座を待っちゃうし、順番が来たらやっぱりうれしくなっちゃう。

「がんばって明るい、陽気な感じでやっていこうと思って」「あまりにも、あまりにも世の中が暗い感じなんでね」「パリピっていうんですかぁ、ああいうの絶対やだ! って思ってたけど、今はそういうのっていいのかもしれないですね」と話し、最後に「祈り」を唄った。少しでも音楽が、世界を明るく照らすように。

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A.Gt.:
01. M&R&R(『Mystery』)
02. Love(『Mystery』)
03. 進化(『Rare』)
04. ヘキサムーン(『Music Man』)
05. 告白(『Shadow』)
06. 誓い(平原綾香提供曲)
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G.Pf.:
07. イノセント(『Music Man』)
08. 最初のメロディー(『Blue Notes』)
09. スパイダー(『Emotion』)/空想故郷
10. 祈り(『Rare』)
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あちこちからはあ、と嘆息。背後のふたりづれは「すごかったね…」「やっぱりすごいね」と話していた。ちいさな台風というかつむじ風のような小林さんの演奏のあと、高橋さんはどう出るか? 折しも王将戦第3局の前日、羽生善治九段のコメントを思い出す。将棋でも後手は若干不利というが……。しかし高橋さんが指してきた駒は、それはもう見事に場の空気を変えてくれたのだった。

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客電が落ち、聴こえてきたのは『大統領夫人と棺』のオープニングテーマ。登場した高橋さんは珍しくシャツをボトムスから出している。普段はカチッとした着こなしなので、珍しいなと思う。リラックスした雰囲気で、彼の部屋に招かれたようだ。SEからそのまま「ブラックバード」へ。第一声でフロアがワァ…(ちいかわ)とした空気に包まれる。

高橋さんと小林さんが共演した[monologue]での一曲目が「ブラックバード」だったと記憶している。丁度10年前のことだ。それ迄テキストと写真でしか認識していなかった“高橋徹也”の、初めて聴いた曲がこれだった。あっという間に虜になった。それを思い出した。続いて「八月の流線形」、夏が来た。2曲を終えて「絶対寒いとか、そういうこといいませんよ(笑)」。すっかり高橋さんのペースだ。

ここからのMCがなかなか興味を惹かれるもので、「同級生の、よくわかんないかっこいいひとがいたなーと久々に(小林さんに)連絡してみました」といった話から、自分のデビュー時代の話題へ。「鳴り物入りですごい予算をかけて」「空前絶後の」「後で聞いた話なんですけど。すごい期待されてデビューした(んだなあと)」。何をいい出す……と思ったのだが、ライヴが進むにつれなんとなくイメージが見えてきた。憶測だが、時間についてがテーマにあったのではないか。

リスナーとして惹かれたのはドーナツ盤のB面曲。自分がデビューした時代のシングルは8cmCD。と、デビューシングル「My Favourite Girl」のカップリング曲「サマーパレードの思い出」を。こちらも夏を振り返る曲。「今日は無礼講なんで」と、小林さんともデビュー時のことを話す。多くの作品を出した40代を「充実した10年だった」と振り返る。そして「本を読むこと」と同じような「日常生活と多層的に並走するもうひとつの時間軸」を、音楽で奏でる。高橋さんの歌詞の世界には物語がある。

こうやって聴き比べると小林さんの歌詞は直截的な言葉が多い。「言葉より先に行きたい」思いがあるためか、ときどきギョッとするような単語も出てくる。一方高橋さんの書く歌詞はシュールな情景描写含め文学的で、アルバムやライヴがそれこそ一冊の本のように感じられることがある。そう思っていると、犬と猫の話が始まった。またもや何をいい出す……と思っていると、「無口なピアノ」が始まった。犬猫の話が導入だったが、主眼はピアノとギターというワードにあったのではと思う。ギターも弾くがやはりピアノマンの印象が強い小林さんと、ギター一本サラシに巻いて(巻かない)の高橋さん。おお、これは……まるで愛の告白のようではないか。いつもとは違う方向から光をあてたプリズムのように、歌詞の違う一面が見える。

「La Fiesta」を終え、「いやあ、スターパインズって気持ちいいですね」。恒例の大晦日イヴェントに出られなかったので、新年一発目のライヴがここで出来てうれしいとのこと。「では、ヤツを呼んでみましょうかね……愛すべき、一月生まれの同い歳、小林建樹!」。

顔をあわせるなり「すみませんなんか、小林さんについて勝手なイメージで話しちゃって」と高橋さん。「今回はリハにも付き合ってもらってすごく楽しかった」「電話したりごはん食べに行ったりするような仲ではないんですけど、ふとしたときに、ああ小林さん元気かなあって」「勝手にいつも共感してるひとりです」といったあと口にしたのは「どうですかこの、僕のラブレター」。おお、照れつつもハッキリいった。対して小林さんは「ああ、和音っていうかコードとかにシンパシーを感じますねえ」と予想に反して(?)楽曲についての話を始め、ピアノをパラパラと弾き始める。ほら、ほら、こういうの、とコードを弾きつつニコニコと高橋さんを見上げる小林さん。「それはちょっとあなたにいわれたくない」と高橋さん。お互いすごく気を遣っているようなのに、聴いてるこっちがヒヤヒヤする(笑)堅い会話が続く。どちらもずっと敬語。小林さんは何度も鍵盤の上に手を置きなおし、いつ始めるの? とでもいうように高橋さんのことを見ていた。

「元気でしたか?」と恐らく気軽に近況を訊こうとした高橋さんに、「世の中変わってきたので、合わせるのか迷いがありましたね」と、活動そのものについて深い話を始める小林さん。「100%我が道を行ってるように思われてるひとでも迷ったりしてるんですよね」と高橋さん。「ああ、そうかもしれないですね」」と小林さん。「いまいち盛り上がらない……(笑)」「何か話してくださいよ」「僕ライヴはきっちり決めてるんでアドリブ弱いんですよ」「ああ。僕はストーンズが好きなんですけど、あのひとたちいつも終わりが合わないんですよねー。ジャーン、ジャン。……あっあれっ、合わなかった。そういうところが好きなんです」。この噛み合わなさよ……。

そういえば[monologue]のときも、ストーンズの話をしていた。皆でセッションするならビートルズかねえと山田さんが提案したら高橋さんに「僕はストーンズ派なんで」と返された、という。そういう当時の話もしたかったのではないだろうか。デビューが1996年と1999年ということで、「じゃあ俺の方が先輩風ふかしていいんですね」と高橋さん、「いいですよ〜全然♪」と屈託なく応える小林さん。慌てて「いやいや、冗談ですよ……」という高橋さん。高橋さんが拡げたい方向に話が運んでいないように感じる(笑)。

さて、セッション。当初はお互いの曲をそれぞれカヴァーするのかなと思っていて、小林さんのパートがそのまま終わったのであれれ? と思っていた。お互いの曲を一緒に、セッションだったのだ。なんて貴重な。「何をやったら皆が喜んでくれるかなと……」と始まったのは、なんと「新しい世界」。すごいの出してきたな! 美しいピアノの前奏から、1番のヴォーカルは高橋さん、2番は小林さん、ポイントでハモり、転調部分のサビは交互に唄う。演奏に熱が入り、ピアノから楽譜が落ちる。聴いたことのない編成、聴いたことのないアレンジ、そして聴いたことのないデュエット。あの名曲にまだこんな光のあて方があったか。まさにプリズムだ。アウトロで小林さんは「チャイナ・カフェ」と相似性があるフレーズを入れてきた。意識してかはわからない。アナライズの答合わせをしているようでもあった。ただただ、固唾を呑んで見守る。こんなに演奏が終わってほしくないと思ったことはなかった。

ハケる小林さんを見送った高橋さん、「やぁ〜、自分以外の人が『新しい世界』を歌ってるのを初めて見ましたね」だって。「昔話もしてしまったんですけど」40代はアルバムを4枚出し、様々な企画でライヴも出来て充実した10年だったと話し、「とりあえず50まではがんばろうと思っていた」が、創作の泉が涸れることはなく「まだ、まだあるんだ、俺」と思ったと。「これから先のことをいつも思ってやってます」。小林さんも昨年のライヴで「人間の土台は未来によってつくられる」と話していた。ふたりとも前を向いている。最後の曲は「怪物」だった。正体見せてみろよ、君はシャイニングスター、マイフレンド。その対象は自分のなかの怪物か、それとも。

(文字数制限を超えてしまったので(…)分けます、続きは翌日)