セクサロイドは眠らない

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2004年10月05日(火) 気付いているのか。無邪気に僕に体を寄せてくるから。ああ。僕の気持ちは昂ぶってしょうがない。

母が初めて妹を連れて来た時、僕はそれを奇妙な奴だと思った。

オオカミにしては長い耳。前歯ばかりが大きい。爪もない。

幼い弟を亡くしたばかりで、母はかなりまいっていた。だからその動物の赤ん坊を、弟が姿を変えて戻って来てくれたのだと思ってしまったようだ。

僕らが住んでいたのは閉ざされたオオカミの村で、ウサギなんて見たこともなかった。

だから、母と僕は、その奇妙な生き物を、オオカミとして、妹として、家族に迎え入れることにした。

--

妹は、肉を好まず、体も小さかった。見た目も変だったから、小学校に上がってからはいじめられてばかりだった。僕は悪い兄だ。妹がいじめられているのを知りながら、知らん顔をしていた。見かねた同級生が妹をかばってくれることもあった。

恥ずかしかったのだ。妹と仲良くしてるなんて、友達にバレたら。

家に帰ると、僕らはよく遊んだ。

妹には友達があまりいなかったから、僕が唯一の遊び相手だった。

お兄ちゃんお兄ちゃん、と、僕にまとわりついていた。

小さい頃はそれが鬱陶しかったのだが、大きくなるにつれて強く惹かれる気持ちのほうが強くなっていった。

僕が小学校6年、妹が4年ぐらいの頃だろうか。いつも僕の前では明るい妹がポツリと言った。
「お兄ちゃん、どうして私だけ違うのかな。」
「違うって?何が?」
「耳が長い。歯も爪も、違うわ。」
「なんだ、そんなこと気にしてんのか?」
「うん・・・。」
「そんなこと、気にすんなよ。お兄ちゃんは、お前のこと可愛いと思うぜ。」
「ほんと?」
「ああ。本当だ。」
「ならいい。お兄ちゃんが可愛いって思ってくれるんなら、他の人がどう思っててもいいや。」
「そうか。」

妹は僕に飛びついた。妹の耳が僕の鼻をくすぐった。その時、初めてだった。何か奇妙な気分になったのは。

--

僕は、中学生になった。妹は、相変わらず友達が少なかった。だが、いじめは少しずつ減っていった。そのしなやかな体が成熟していく過程で、同級生達は、異端の者を嫌うというよりは、どこか心惹かれるものを感じたのだと思う。僕が感じたのと同じような。妹は、本当に美しくなった。

だが、相変わらず、僕と二人の時はとても子供っぽいのだ。

家に帰ると、カバンを放り出して僕の部屋に入って来る。

「なんだよ。ノックぐらいしろって。」
「いいじゃん。」

僕が勉強してようものなら、ふざけて僕の邪魔をしてくる。

僕が怒ったふりをして妹にとびかかると、きゃあきゃあ言って逃げ回る。

その日も、そんな風にはしゃいでいただけだったのだ。

だが、いつもと違ったのはそれからだった。僕のするどい爪が妹の頬に触れ、妹の柔らかな肌が傷付いてしまった。
「っつ!」
「ごめん。」

僕は慌てて、妹の頬から流れる血に口をあてた。その時だ。体を甘美な感触が包んだ。僕の動きが一瞬止まった。

「お兄ちゃん?」
「あ?ああ・・・。ごめん。ほんと。」
「いいよ。気にしないで。」

妹は頬を押さえて、平気だよと微笑んでみせた。

妹が部屋に戻ってからも、僕は、妹の感触を、手の中に、触れた爪に、思い出していた。それから、血の味も。

--

その日を境に、僕らの関係は、ほんの少し変わった。だが、妹は相変わらず僕に甘えてくるから。僕は、誘惑に負けてしまう。時折、ふざけたふりをして、妹の耳を噛む。頬を、腕を。ふざけたふりをして。

妹は気付かないのか。気付いているのか。無邪気に僕に体を寄せてくるから。ああ。僕の気持ちは昂ぶってしょうがない。

--

僕のクラスに転校生が来た。

銀色の毛をしていた。

クラスの誰よりも体が大きく、大人びていた。

僕は、彼とすぐ仲良くなった。

体育の時間に着替えているのを見たら、彼の背中に大きな傷跡があった。

後で聞くと、幼い頃に負った傷だという。彼は、一人でこの村にやってきた。両親を亡くしてからは一人で生きて来たと教えてくれた。僕はちょっぴり恥ずかしかった。父はいなかったが、母と妹と、ぬくぬくと暮らしていたから。

「今度、僕んちに遊びに来いよ。母の料理はうまいんだぜ。」
僕は誘った。

彼は、うなずいた。

--

初めて妹を見た友人は、何か奇妙な声をもらした。

「はじめまして。」
妹は、恥ずかしそうに僕に隠れた。

「はじめまして。きみの事は、よくこいつから聞かせてもらってるよ。」
と、友人は微笑んだ。

その夜、食事を終えて友人が僕の部屋に来た時、彼はうめくように言った。
「きみの妹ってさ・・・。」
「なに?変か?」
「ああ。ちょっと変わってるな。」
「そうだ。本当には血が繋がってないんだよ。」
「当たり前だ。彼女は、ウサギだよ。」
「ウサギって?何?」
「知らないのか。」
「うん。」
「耳の長い、足の速い動物だよ。」
「そうか・・・。」
「でも、大事な妹なんだろ?」
「ああ。すごく。」
「なら、可愛がってやれよ。」

友人は、そのまま話題を変え、僕らは他のことを語り合って一晩中を過ごした。

--

「お兄ちゃん。なんだか、あの人怖いね。」
「怖い?」
「うん。私を見る目がなんだか、ぎらぎらしてた。」
「あいつは、いろいろ苦労してるからなあ。他のやつらとは全然違うんだよ。でも、すごいやつさ。」

それから、少し不安そうにしている妹を抱き締めて、少し強く肌を噛んだ。最近では、僕の欲望はエスカレートしていて、妹が何も言わないのをいいことに、妹の肌の見えないところに傷さえつけるようになった。

その日もそうやって、ふざけて。

気付くと、妹が泣いていた。僕の口の中には、彼女の体の一部の小さな肉片があった。

「ごめん。やり過ぎた?」

妹は無言でうなずいた。

それから、妹は泣きながら僕の部屋を出て行ってしまった。

僕は、呆然としながら。それでも、口の中の肉片を味わい、恍惚としていた。

肉親を食っちゃいけない。そんなの、どんな飢えたオオカミだって知っている。だが、僕は、このままだとあいつを食ってしまうかもしれない。僕の歯が妹の柔らかな腹を割き、熱い内臓をむさぼるところを想像し、僕は気が変になりそうだった。

--

妹は、その日、夜遅くに家を出た。

僕には、ごめんなさい、とだけ書いた手紙が置かれていた。

僕は、半狂乱になって妹を探した。一週間、学校を休んだ。

母も悲しんでいたが、どこか冷ややかな表情で、
「もう、放っておきましょう。」
と言った。

--

何とか学校に戻った頃、放課後の教室で、友人は転校すると告げた。

「転校?」
「ああ。」
「せっかく友達になったのにな。」
「そうだな。残念だ。」
「また遊びに来てくれよ。母も、きみが来てくれると喜ぶ。」
「うん。」

友人は、僕から目をそらし、言った。
「妹さんのこと、残念だったな。」
「ああ。」

それから、少し沈黙が続いた。

「じゃあ、僕は帰る。」
友人は、口を開いた。

「なあ。」
僕は言った。

「ん?」
「ウサギってさ。美味いのか。」
「ウサギか。僕はあんまり好物じゃなかったな。」

それから、友人は教室を出て行った。

--

何年も経って、僕と友人は再会した。

お互いにいい歳だったが、友人は、ひどく老け込んでいた。

「会えて嬉しいよ。」
僕は言った。

「僕もだ。」
友人も言った。

それから、何かしゃべったが、彼が言う言葉はほとんど聞き取れなかった。

友人は、アルコールと薬で、死人のようだった。

僕は本当は、会ったら彼を殴るつもりでいた。

妹を食っただろう?ってさ。

だけど、こんなやつ、殴ったってしょうがない。

妹は、どっちが良かったのだろう?本当は、僕に食われたかったんじゃないか。そんなことを、この何年もの間、考え続けていた。

いずれにしても、あの晩、妹はこいつの部屋に行った。

最後に、ようやくやつの言葉が聞き取れた。
「女ってのはさ。少々痛くっても、好きな男のやることは拒めないものさ。お兄ちゃんのことが好きだから、って、泣いてたよ。」
と。

すっかり弱っていると思ったが、やつは僕の隙を突いて殴って来た。何度も何度も殴って来た。

逃げようと思えば逃げられるのに、僕は、殴られるままになっていた。


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