セクサロイドは眠らない

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2002年08月30日(金) そうなればもう、私は、発情した体を彼に任せて、火照った下半身に支配された時間を過ごす。

「じゃあ、帰るよ。」
恋人が少し名残惜しそうに服を着始める。

「うん。」
私も、わざと甘えたように言う。

「たまには泊まって行きたいんだけどな。」
「だめだめ。このアパート女の子ばっかだから、そういうのうるさいし、ね。」
「うん。わかった。」

恋人はあきらめて私に軽くキスすると、
「じゃな。」
と言って、部屋を出て行く。

私は、恋人の車の音が遠ざかって聞こえなくなるのを確認して、服を脱ぐ。

やっぱり、いいなあ。この格好はくつろぐ。私は、うーん、と背を伸ばし、少しかたくなってしまった体をほぐす。

私は、昼間は人間の姿で、夜は猫の姿で過ごすのだ。

私の母さんもそうだった。

普通の人間だった父さんは、そんな母を、猫としても人間としても愛したけれども、早々に亡くなってしまった。

「いつか、父さんみたいな人と結婚できるといいわね。」
母さんは、しょっちゅう言っていた。

私は本当のところはそうは思わなかった。どちらかというと、母さんは父さんが死んでホッとしたように見えたし。所詮は、人間は人間なのだ。私達のような猫人間の気持ちなんか本当のところは分かりっこない。今の恋人とだって、そろそろ付き合って二年が来ようとしているけれども、私が猫になってしまうことは内緒にしてある。言えば、多分、それを丸ごと受け入れてくれるような。そんなやさしい人だとは分かっていたが。それでも、私は、全部を知られるのが怖かった。

--

日曜の午後。

私と恋人は、恋人の部屋でテレビを見ている。

テレビでは、猫の虐待をした男の報道が流れていた。

私は、その報道に怯え、身震いして、ついにはヒステリックに泣き出してしまったから。恋人は驚いて、私をなだめ、何とか落ち着かせようとした。

「どうしたんだよ。」
「何でもない。放っておいてよ。」

こうなると、自分でも手がつけられないことは分かっていた。いろんなものが吹き出してしまうのだ。小学生の頃、下校中にクラスの男の子達が子猫をいじめて遊んでいたシーンを見て感じた恐怖とか。あるいは、ペットショップで狭い檻に閉じ込められた猫の視線とか。そんなものを見ても、人前では平然と振る舞っているくせに、時折、感情が一気に押し寄せて来て、私はパニックを起こしてしまうのだ。

恋人は、私が前にもこんな風になったことを覚えていて、ただ、私の興奮が治まるまでじっと抱いていてくれた。

何時間経ったろうか。

私は、恋人の腕の中でボンヤリとして、彼の唇を全身に浴びるのを感じていた。私は、快楽の波を漂い、彼の腕にしがみついていた。

「落ち着いた?」

汗ばんだ胸に頭をつけて、私はウトウトしていた。

「ん。」
「良かった。今日は泊まって行けよ。」
「ダメ。それはできない。」
「何でだよ?」
「私、自分の枕じゃないと眠れないし。」

恋人は、少し怒ったように、裸の胸を私から離した。

「ごめん。」
「いいよ。きみが、何を隠したがってるのか分からないけどさ。」

私は少し悲しい気分になって、服を着る。

--

その日は私の誕生日だった。

恋人が笑顔で差し出した大きなバスケットの中からは、ミィミィと泣き声が聞こえていた。

「なに?」
「開けてごらん。」

開けると、そこには小さな白い猫がいた。

「猫、好きだろ?」
「どうして?」
「見てりゃ分かるよ。」
「そう・・・。ありがと。」
「嬉しくない?」
「ううん。嬉しい。でも、アパートで怒られちゃうわ。」
「大丈夫だよ。内緒で飼えば。」
「そうかな。」

私は、彼の嬉しそうな顔に応えようと、無理に笑顔を作った。

--

帰宅して、私は溜め息をつく。この私に猫を飼えと?無理な話を。こんなことになるなら、早いところ私が猫人間だって打ち明けてしまえば良かった。とにかく、2〜3日したら誰かにあげてしまおう。そう思って、その夜はミルクだけやると、隣の部屋に閉じ込めておいた。

だが、夜中泣く小さな声はどうしても聞き逃せなかった。

私は、仕方なく猫の姿で子猫のところに行った。

「ママ?」
「ママじゃないわ。」
「でも、ママと同じ匂いがするよ。」

と、出ない乳をまさぐって、それからようやく子猫は眠りに就いた。

--

私は、恋人とあまり会わなくなった。

会っても、どこか上の空だった。

「結婚。」
という言葉がふいに飛び込んで来て、私は慌てて目を上げる。

「聞いてなかったの?」
恋人は少し怒ったような顔で、私に言う。

「もう、僕はこれ以上待てないからね。」
「そんな急に言われても。」
「いつもそうだ。そうやってノラリクラリ。」
「ごめんなさい。私やっぱり、あなたとは・・・。」
「そうか。」

それが全ての答えだった。

彼は伝票を掴んで、私の前から去った。

--

「ねえ。私、フラれちゃったわ。」
私は、夜、猫に言う。

猫は、人間よりずうっと成長が早い。

いつのまにか、美しい青年に育った猫は、私が何を言おうとおかまいなしに、私の体にのしかかって来る。そうなればもう、私は、発情した体を彼に任せて、火照った下半身に支配された時間を過ごす。

私は、そんな行為も好きだった。恋だとか愛だとか、結婚だとか、所有だとか、そんなものとは関係もなく、ただ欲望を満たし合う時間が。

それから、美しい猫と私は寄り添って眠る。

--

時が過ぎ、私は美しい娘を。

娘も私と同じ。夜は猫になってしまう。私と同じような運命を背負った子は産むまいと思っていたのに、結局、産んでしまったわ。

この子の父猫は、ある日フラリと出て行ったまま、帰って来ない。

私は、年老いて一人暮らしている母に電話をする。
「どう?母さんのほうは最近。」
「新しい恋人ができたのよ。」
「また?」
「また、なんて。やあね。楽しいわよ。お互い、楽しくやりましょうって決めてるの。」

それは、人間の?それとも猫の?なんて無粋なことは訊かないでおこう。

年老いても、母は母なりの人生を楽しんでいるみたいだから。

私は母と会話しながら、代々女の子供しか産まない、猫人間について。あるいは、どこかに男の猫人間もいるのかしら。などととりとめもなく考えてみる。

「あなたも、恋をなさいよ。まだ若いんだからね。」

母の朗らかな声に、私は笑って、
「もちろんよ。」
と、答える。


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