セクサロイドは眠らない

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2001年12月05日(水) あなたといると気持ちいいから、もっとそばにいてよ、なんて、言える筈もないから。

職場の新人のMは、美しい顔立ちだった。性格も、明るく、周囲に気を遣う気持ちのよい青年だ。

「今日から面倒を見てやってくれ。」
と、部長のRから言われた時、私は、正直に言えば、気持ちがはずむのを感じた。

初日から、Mと、少々はしゃぎ過ぎで会話をしてしまった私に、Rからの社内メール。「今日、寄るから。」と。

「面倒だな。」と思う。

男のために、部屋着を選び、化粧を直し、シンクに溜まった食器を片付けなければならない。

来るとなると、多少気持ちは浮き立つものの、もう長いこと続いた関係は、面倒なことのほうが多くなる。それでは、なぜ、そんな関係を続けるのかと聞かれたら、私はどう答えるだろう。寂しいから。情が移ったから。今更、生活のリズムを崩すのが嫌だから。

別れてしまったら、ぽっかりと空いた時間に、「一人」を感じてしまうのが怖いから。

--

その夜のRは、なかなか帰ろうとしなかった。

「もう、帰ったら?」
と、言いたいのをこらえて、空いたグラスを満たし、氷を入れる。

化粧を落として、息がしたい。

「結婚。」
「ん?」
「おまえも、そろそろ結婚したいか?」
「なんで急に?」
「俺、お前のこと縛ってたから。」
「別に、あなたのせいじゃないわよ。」

思い違いを笑い飛ばそうとして、男の悲しげな表情に気付く。

最初の頃だけよ。あなたを狂ったように求めていたのは。でも、今はもう。

ああ。分かった。嫉妬しているのね。Mのせいだわ。じゃ、なぜあなたは、Mをわざわざ私の下につけて面倒を見るように言ったのかしらね。

--

結局、夜中の二時過ぎ、飲み過ぎて動けなくなった男を、タクシーに押し込めてようやく解放されたのだ。

仕事中、思わずアクビが出る。

Mが笑う。

「やだ。見てたの?」
私も照れ笑い。

--

「ねえ。誰かに似てると思ったら、ね。」
私は、ランチの時、Mの顔を見ながら言う。

「あなた、私の弟に似てるんだわ。」
「弟?」
「うん。顔じゃなくて、しゃべり方とか。笑い方とか。ずっと、誰に似てるんだろう、って考えてたのよ。」
「そうかあ。弟か。弟でも嬉しいや。」

私は、Mといると、弟と一緒にいるみたいに、わがままを言って困らせたくなる。

「今度、飲みに行こうよ。」
と、誘う。

「いいですよ。」
と、Mは微笑む。

--

私は、随分酔ってしまって。それでも、Mをそばに置いて、いつまでもおしゃべりしていたくなる。

ピンク・レディーのメドレーなんて、カラオケで入れて、年上の女性にソツなく接してくる男の子。

気持ちいいのだもの。

若い子前にして説教臭くなっちゃうおやじの気持ち、分かるなあ。だってね。そうやって引き止めておくしかないの。あなたといると気持ちいいから、もっとそばにいてよ、なんて、言える筈もないから。

--

酔ってふらふらする私を、Mはアパートまで送り届ける。

「上がって行く?」とは言わず、ドアの前で、握手する。

「ねえ。なんでこんなに付き合ってくれるの?」
じゃあね、と別れるのが寂しくて、訊ねてみる。

「あなたが・・・。」
「ん?」
「あなたを見てるとね。両親、仕事行っちゃって、一人ぼっちで朝食食べてる子供みたいに見えたから。」
「それって、可哀想、ってこと?」
「ううん。一緒に朝ご飯食べてあげたくなって、どうしようもなくなっちゃうっていう意味。」
「あなたって、まったく・・・。」

私は、笑い飛ばそうとして。

あれ?

あれあれ。

なんだか、涙が出て来ちゃった。

私って、可哀想だったんだ?

Mが、私の頭をそっと自分の胸に引き寄せる。まったく、近頃の男の子は、お姉さんを泣かせるのも、慰めるのも、なんて上手なんだろうと思いながら、私は、そのまま顔をうずめる。


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