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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
海洋歴史映画・小説入門(2)

《28日の日記より続き》

■ 海洋冒険小説

入門編ということで、現在、店頭注文で入手可能なものからご紹介していきます。
このほかにもドリンクウォーター・シリーズ、デランシー・シリーズ、オークショット・シリーズ、フォックス・シリーズなど1980年代の半ばには数多くの同時代を描いた歴史海洋冒険シリーズが邦訳出版されていたのですが、現在は古本市場でしか手に入りません。これらに興味を持たれた方は、海洋小説関連のHPをご検索ください。


なんといっても、まずは「M&C」の原作…という方に
1)オーブリー&マチュリン・シリーズ

早川書房でのシリーズ名は「英国海軍の雄 ジャック・オーブリー」。パトリック・オブライアン著。
ハヤカワNV文庫から現在1〜3巻と、映画原作となった10巻が邦訳出版されています。

ただし、欧米ではジェーン・オースティンと並び賞せられる格調高い名作…ですので、読み口の軽いテンポの早い最近の娯楽冒険小説に慣れた方にはちょっと辛いかも。
本来ならば1巻から読むのが筋ですが、指輪物語と同じで1巻上で挫折される方がままあります。
1巻途中で「これは駄目だ」と思った時は、そのまんま諦めず、3巻を先にお読みください。

また時間が無いから映画の原作だけ読みたい…という方>
この映画の原作は10巻となっていますが、じつは3巻からもかなりの部分が反映されていますので、是非3巻10巻と2冊お読みくださいますよう。

もし1冊だけ読むなら、私は4巻もしくは5巻をおすすめしたいのですが、これまだ邦訳されていないので…。
早川書房さま>早く4巻と5巻をお願いいたします。

なお、「オーブリー&マチュリンの読み方」「ねたバレせずに10巻を読む方法」「10巻補足解説」については、私の日記の2003年9月26日2004年1月24日25日2月8日をご参照ください


やはり物事は基本から…という方に、または悩める管理職の男性諸氏に
2)ホーンブロワー・シリーズ

同じくハヤカワ文庫NVから、シリーズ名は「海の男ホーンブロワー・シリーズ」全11巻。
今なお欧米で次々と新作が発表される「海洋冒険小説」という娯楽小説ジャンルの第一人者、セシル・スコット・フォレスターによる海軍士官ホレイショ・ホーンブロワーの一代記。上でご紹介したITVテレビドラマの原作でもあります。
日本で最初に邦訳された海洋冒険シリーズですが、厳密に言うとフォレスターは海洋小説の中興の祖、真の意味での第一人者は実際にナポレオン戦争当時に士官候補生として従軍していたフレデリック・マリアットとその小説群ですが、これはもう完全なる古典なので、海洋冒険小説はフォレスターから始まると言って良いと思います。

読み口の軽い娯楽小説というよりは本格歴史小説。ビジネスマン好みのリーダー論を読み取ることも出来、後藤田正晴元副総理が、自著の中で愛読書として取り上げていらっしゃいました。司馬遼太郎などがお好きな方へおすすめの海洋小説です。
通常は1巻から読み始めるものですが、試しに1冊だけ読んでみようと思われる方には5巻をおすすめします。


海のこと何も知りません。初心者向け軽い読み口から入りたい…という方に
3)アラン・リューリー シリーズ

徳間文庫から、シリーズ名は「アラン、海へ行く」。現在6巻まで刊行。
海洋冒険小説の作家は殆どがイギリス人ですが、アラン・シリーズの作者デューイ・ラムディンはアメリカ人。海洋モノにあまり馴染みのないアメリカ人読者に配慮しているため、海事関係の解説がわかりやすく、海には全く素人の主人公アラン・リューリーと一緒に冒険に巻き込まれていくうちに、少しずつ当時の船のことや海軍のことがわかっていく…という仕組み。
徳間文庫から現在6巻まで発行すみ。

アラン、海へ行く機屬呂澆世啓圓粒だ錙
別名を海洋青春小説(苦笑)。
相続のトラブルから、本人の意思に反して士官候補生に志願させられてしまった(父親が勝手に海軍に放り込んだ)アラン・リューリーくん17才「陸にもどりたいー!海軍なんて大っきらいだー!」と言っていたのに、海の生活に馴染んでいって時に愛着すら持つようになって、今度は「なんで俺はこんな生活が好きになってしまうんだー!」と自分に腹をたてるところが…カワイイ。
この子、負けん気は人一倍だし、実はけっこう正義漢だけど、女の子に手は早いんで…1巻の冒頭はベットの中から始まる…、一応は成人指定かしら?

この小説、現在続刊の発行があやぶまれております(未訳が6冊待機しているのに)。ぜひ皆様お買いあげくださいまし、そして徳間に続刊希望のお手紙を出しましょう!


「M&C」では「Uボート」まがいの密室人間ドラマが面白かった…という方に
4)ボライソー・シリーズ

艦内という密室の人間ドラマを描かせたら右に出る者はいない作家がアレクサンダー・ケント。海軍士官リチャード・ボライソーの生涯を描いた大河シリーズは、ハヤカワNV文庫から24冊邦訳され、リチャードの大往生後は、甥のアダム・ボライソーが主役を引き継いで最新は26巻、英国では27巻がすでに出版されていますので、近々日本でも邦訳27巻にお目にかかれるのではないかと思います。
シリーズ名は「海の勇士ボライソー・シリーズ」。ハヤカワ文庫NV。

日本語版は原則、リチャードの年代記風に17才の1巻から始まっていますが、最初に読んでいただきたいのは何といっても4巻「栄光への航海」。1巻完結なので、途中から読んでも全く問題はありません。
反乱艦の艦長職を引き継いだリチャード・ボライソーを主人公に、艦という閉ざされた空間の中で展開される濃密な人間ドラマです。
この人間ドラマこそが海洋冒険小説の醍醐味だと思っている私にとっては、この「栄光への航海」は歴史海洋小説のベスト1なのですが。
極限状態で試される信頼、裏切り、友情、兄弟の絆。ハラハラドキドキ最後まで読者を引っ張っていく娯楽小説としてのテクニックは見事だと思います。

ちなみに作者アレクサンダー・ケントは本名のダクラス・リーマン名義で第二次大戦を舞台にした海洋小説、海兵隊を主人公にした冒険小説(後述)も多々発表されていますが、第二次大戦ものの中にはそれこそ「Uボート」の世界を描いた、国王陛下のUボートもあります。


サプライズ号一家のチームワークが魅力的! 囮筏や艤装船のトリックが面白かった!…という方に
5)ラミジ・シリーズ

至誠堂から「ラミジ艦長物語」でシリーズ化。全23巻。
映画「M&C」のサプライズ号の一体感を見ながら私が思ったのは、ラミジのカリプソ号ってきっとこんな雰囲気だったんだろうなぁということ。カリプソ号も独航のフリゲート艦で、艦長は現場主義で部下思い(ジャックに比べるとラミジはかなりせっかちな性格ですが)、艦全体に活気があって生き生きしている。

さらに、実はあのカラミーの初指揮艦になる囮いかだと、艤装船のトリックは、あきらかに脚本家がラミジ・シリーズから拝借してきたもの(ちなみに、ミズン・マスト切り離しのエピソードはボライソーから来ています)。「パイレーツ・オブ・カリビアン」でエリザベスが提案する捨て錨で回頭作戦も、私はラミジで読みました。
作戦と戦略の面白さで言ったら、やはりダドリ・ポープのラミジ・シリーズはピカ一なんじゃないでしょうか? 海洋小説にしてはこの小説、死傷者率が低いですし、ある意味安心して楽しく読むことができます。

通の方むけには、操船描写のすばらしさをアピールしたいと思います。
風と潮と波に艦がどう反応してどう動いていくかが、もっとも実感として感じ取れる作家がポープでしょう。巨大戦列艦が港内でどのように行き足を殺して停船するか…など詳細に描いているのはこの小説だけのような気がします。

個人的には、最初にプリングス役のジェームズ・ダーシーを見た時に、この人ってカリプソ号のエイトキン副長のイメージにぴったり!だと思ったことを白状します。アレン航海長にもかなり、カリプソ号のサウスウィック航海長のイメージが入っているような気がするし、監督か脚本家のどちらがダドリ・ポープお好きなのでは?と私は推察しますが。

ラミジは1巻から順に読んで構いませんが、サプライズ号的雰囲気を堪能したのであれば、フリゲート艦ジュノー号登場の10巻「タイトロープ」からがおすすめ。


ナイグルと水兵たちが印象的だった…という方に
6)キッド・シリーズ

ハヤカワ文庫NVから現在2巻まで刊行されている「海の覇者 トマス・キッド シリーズ」。
これまでご紹介した数々の海洋小説の主人公がすべて士官であったのに引き替え、この小説の主人公トマス・キッドは強制徴募された水兵(もとはかつら職人)です。
最初は不慣れな生活にとまどうキッドですが、レンジという良き友も得て徐々に水兵の生活になじんでいきます。士官を主人公とした上記の小説群とはまた違った世界をのぞくことができます。
この作品はとりあえず1巻「風雲の出版」から。


赤服の海兵隊に惹かれました、もしくはウィアー監督の映画「誓い」の世界が印象的…という方に
7)栄光の海兵隊シリーズ

ボライソー・シリーズの作者アレクサンダー・ケントが別名義(ダグラス・リーマン名義)で書いているシリーズ。ハヤカワNV文庫から刊行。
代々海兵隊士官となることを一家の伝統としているブラックウッド家の150年以上にわたる年代記。
19世紀を舞台にした1巻「緋色の勇者」から始まって、3巻「紅の軍旗」の舞台となるのが、ウィアー監督の「誓い」の舞台となる第一次大戦のガリポリ半島。第二次大戦を舞台にした最新刊4巻では三代目のマイケル・ブラックウッドが主人公になっています。最終的にはフォークランド戦争まで話しが行くそうです。
後半は近代戦が舞台となりますし、第一次大戦、第二次大戦での、作者リーマン父子の戦場での実体験が物語の核にあり、決して軽々しく読めるシリーズではありませんが、忘れることの出来ない人間ドラマが魅力的な小説群です。
1〜2巻は現在品切れになっていますので、古本店などでお探しください。


スティーブン・マチュリンのもう一つの顔が気になる…という方に
8)ジャスティス・シリーズ

原作をお読みの方はご存じの通り、スティーブン・マチュリンのもう一つの顔は諜報員…すなわちスパイです。
このナポレオン戦争を舞台にしたスパイ小説と言えば、至誠堂から3巻(上下巻あるので実際は5冊)刊行されているアンソニー・フォレストのジョン・ジャスティスを主人公としたシリーズ。
ジャスティスは艦長なのですが、このシリーズでは艦を指揮するシーンはほとんどなく、物語のほとんどは陸上の潜入任務。さながら19世紀初頭のジェームズ・ボンドと言ったところでしょうか?
頭の痛くなるような海事用語も出てきませんし、歴史スパイ小説として軽く楽しんでいただけるのでは…と。
この物語は1巻「ミッシング・スパイ」からどうぞ。


いま現在で入手可能な主な海洋小説シリーズはこんなものでしょうか? 昔はもっといろいろあったんですよ。フォックスとかデランシーとかオークショットとか、絶版になったまま再版されず、今はもう古本やさんでしか手に入りません。ドリンクウォーター・シリーズなどは私自身も未読でして何とか再入手したいと思っているところです。もっともオーブリー&マチュリン・シリーズとて、今回の映画化がなかったら同じような運命だったわけですが。
ほんとうに今回の映画化がきっかけで、少しでも海洋小説が売れて、続刊が続いてくれると願わずにはいられません。
特に徳間文庫のアラン・シリーズ(切実!)。

最後に、
やはりけなげな士官候補生が忘れられません…という方に。
これはジャンル的には少女漫画かもしれないのですが、今読んでも考証はしっかりしていると感心します。
青池保子「トラファルガー」

ブレイクニー君を見ていると、私やっぱりこの「トラファルガー」のリチャード君のことを思い出すんですね。
でも「マスター・アンド・コマンダー」が少年士官の映画ではないように、もちろん「トラファルガー」も候補生の物語ではありません。
ネルソン提督を狙ったフランス艦隊の狙撃手と、その旧友で奇しくも敵としてまみえることになった英国艦のユージン・ラドリック艦長の物語です。

印象的な候補生ということであれば、アレグザンダー・ケントのボライソー・シリーズかな…と思います。
忘れられないエピソードやキャラクターが多いですし。私の場合、ピーター・キャラミーには、17才のリチャード・ボライソーの面影(1巻「若き獅子の船出」がかぶります。

語り出すときりがないので、今回はここまでに。
これをきっかけに、少しでもこの世界を楽しんでいただければ幸いです。


2004年02月29日(日)