2005年04月17日(日)  ティッシュちりぢり映画『コーラス』

■新聞で激賞されていた『コーラス』を観にシネスイッチ銀座へ。上映30分前にも関わらず「立ち見になるかもしれません」と窓口で告げられる。前のほうにかろうじて席が残っていたが、前評判はかなり高いよう。はじまってみると、『ニュー・シネマ・パラダイス』でサルヴァトーレを演じたジャック・べランが高名な指揮者ピエール・モランジュ役で登場。彼の元に、一冊の日記を携えて少年時代の友人ペピノが訪ねてくる。日記は二人が出会った寄宿舎学校「池の底」に舎監として赴任したクレマン・マチュー(ジェラール・ジュニョ)が遺したもの。日記に書かれた1949年の出来事を追想する形で物語は進む。家庭環境に恵まれない少年たちは校長のスパルタ教育に抑圧され、ますます荒んでいく毎日。そこに現れた風采の上がらない失業音楽教師は、少年たちに合唱を教えることを思いつく。少年たちの歌は次第に磨きがかかり、暗く沈んでいた瞳にも光が宿ってくる……という読める展開なのだが、予定調和になりそうなところで小さな裏切りが仕掛けられ、登場人物たちを人間くさく描いている。うまくいくかと思えばハシゴを外し、がっかりさせておいて不意打ちのような救いが用意されている。脚本は、この作品が長編デビュー作となるクリストフ・バラティエ監督の手によるもの。フランス人監督のデビュー作にしては手堅くまとめた印象もあるが、ツボを押さえたストーリーと演出にしっかり泣かせてもらった。■何より涙を誘ったのが、少年時代のモランジュを演じたジャン=バティスト・モニエの声。サン・マルク少年少女合唱団のソリストだそうで、まさに天使の顔と奇跡の声の持ち主。彼の澄んだ歌声が響くたびに、客席からは洟をすすり上げる音が聞こえる。チラシのキャッチコピーには、「涙がこぼれそうなとき、歌があった」とあるが、わたしは「歌が流れるたび、涙がこぼれた」。心洗われる声というのは、人をこうも無防備にして揺さぶってしまうのか。不覚にもハンカチを忘れ、花粉症対策のティッシュは水を含みすぎてちりぢりになり、金魚のように腫れた目で銀座の街を歩くことに。ハンカチに加えてサングラスも持って行くべきだった。■作品のサイトによると、フランスでは7人に1人が観て、サントラ盤を150万枚売り上げたそう。さらに少年時代のペピノを演じた愛らしい男の子マクサンス・ペランがジャック・べラン(製作にも参加)の息子だったと知る。


2005年04月16日(土)  オーディオドラマ『アクアリウムの夜』再放送中

■「怖いです」「夢に出そう」「眠れません」「助けて」という悲痛なメールが今週はたくさん届き、わたしを喜ばせた。11日からNHK-FM青春アドベンチャーで再放送が始まったドラマシリーズ『アクアリウムの夜』(全10話)の感想。怖い怖いと言われるほどうれしいのは、稲生平太郎の原作を脚色するにあたり、わたしも相当怖い思いをしたから。怖がりなくせに執筆にあてられる時間は夜しかなく、人一倍たくましい想像力のせいで恐怖が増幅され、夜中に半泣きでワープロをたたいていた。停電事件なんてものにも肝を冷やされ、わずか150センチの身がさらに縮む思いをした。そんなわけで、ラジオの向こうの皆さんに怖がっていただけると、報われたような気持ちになる。出演者(松田洋治 國府田マリ子 有馬克明 清水紘治 秋元紀子 谷川清美)の力演、ミステリアスな音楽(選曲:伊藤守恵)に盛り上げられて、脚本よりもさらに鳥肌度倍増。来週18日からは後半6〜10話の放送(月〜金22:45〜23:00)と前半1〜5話の再放送(月〜金17:45〜18:00)がスタート。途中から追いつく人はあらすじをどうぞ。

2002年04月16日(火)  イカすでしょ。『パコダテ人』英語字幕


2005年04月15日(金)  トンマズィーノでアウグーリ!

外苑前のトラットリア・ダ・トンマズィーノで同僚のE君とT嬢に2か月遅れで誕生日を祝ってもらう。互いの誕生日を祝いあう仲良しトリオなのだが、なかなか三人の予定が合わず、気がついたらカレンダーが2枚めくれていた。トンマズィーノは「東京でいちばんうまい!」と推す人も多い、シチリア料理が自慢のお店。去年の秋にはじめて来たとき、料理のおいしさはもちろん、店員さんもお客さんもいい顔をしているのが気に入った。食事を楽しませる雰囲気作りの天才のような店員さんたちが、誇りを持ってすすめるワインや料理は、運ばれてくる前からおいしい気持ちにさせてくれる。

E君とT嬢は、これまた食事をおいしくする最強カードの二人。三人そろうのがひさしぶりなこともあって、いつも以上に話が弾み、よく笑い、よく食べた。デザートが運ばれる時間になって、揺れるキャンドルの光とイタリア語の「Tanti Auguri a voi」の合唱がテーブルに近づいてきた。まわりのお客さんたちもおしゃべりをやめ、拍手を贈ってくれる。苺のティラミス、ベリーのプリン、セミフレッドのデザートの上にキャンドルを掲げたバレリーナが立っているのがお茶目。T嬢が見立ててくれたサラダカラーの花束にも感激。家に帰って活けてみて、春だなあ、と思う。冬生まれなのに、春に誕生日気分を味わえるなんて、ぜいたくな話。バレリーナは、新天地のプミラの土の上で回ってもらうことに。
バレリーナ

2003年2月9日(日) 何才になっても祝うのだ
2004年2月9日(月) 今年もハッピーバースデー

2002年04月15日(月)  イタリアンランチ


2005年04月14日(木)  マシュー・ボーンの『白鳥の湖』

「1回観といたほうがいいよ!」と8回観たという同僚T嬢にすすめられ、マシュー・ボーン(Matthew Bourne)の『白鳥の湖(Swan Lake)』を観る。

去年に続いてのロングラン公演にもかかわらず、bunkamuraオーチャードホールはほぼ満席。引き算の美学のようなシンプルな舞台美術に、ロイヤルシェイクピア劇場で観た『Beauty and Beast』を思い出す。真っ白い壁に映る大きな影は影絵を見ているようだし、何もない舞台中央に置かれたベッドの使い方も巧み。

『白鳥の湖』といえば、子どもの頃に日本のバレエ団の公演を観たきりだが、白いチュチュの四羽の白鳥の舞が印象に残っている。CMでもよく使われているせいかもしれない。だが、マシュー・ボーン版では白鳥たちは男性で、力強い群舞で迫ってくる。四羽のダンスもまったく違った見え方になる。この白鳥たちは、王子が湖で出会うシーンと、終盤の王子の夢のシーンで登場するが、白いベッドに群がる白鳥たちの動きがだんだん本物の羽ばたきのように見えてくる。

人間の肉体、人間の動きってなんて美しくて面白いんだろう……と感極まったところで、幕。その途端に拍手と「ブラボー!」の嵐。日本の劇場で、あんなに大勢が「ブラボー!」と叫んでいるのを見たのは初めてだった。前のほうの客席は総立ちで拍手を贈り、カーテンコールが何度も沸き起こる。

カーテンコールというものにわたしは弱くて、興奮と熱気に呑まれているうちに涙が出てくる。力を出しきった人間を、心を尽くして人間が讃える。その惜しみないやりとりの中にいると、気持ちが満たされてあふれだすのかもしれない。CGでも合成でもなく、生身の人間の肉体芸術。もっとバレエを見たくなった。

「やっぱりナマってすごいね」とT嬢に言うと、「音楽もナマだと、もっといいよ」。今日を含め4月6日(水)〜 17日(日)の東京追加公演での演奏は録音テープだったのだが、 4月19日(火)〜27日(水)は東京フィルハーモニー交響楽団による生演奏。T嬢は9回目を観に行くそう。

2002年04月14日(日)  おさかな天国


2005年04月13日(水)  お風呂で血まみれ事件

■わたしがアメリカに留学したいと言いだしたとき、「ええことや、行っといで」とおおらかに、そして無責任に背中を押してくれた久子ばあちゃんは、ちんまりした見た目に似合わずなかなかぶっ飛んだ人だった。初孫のわたしと対面した最初の一言は、「かわいい」でも「うれしい」でもなく、「鼻がない!」で、さらに続けて「穴しかない!」と叫んだという。それほどわたしの鼻は生まれたときから低く、それでいて鼻の穴は大きかった。そんなことを風呂場で血まみれになって考えていた。薄れ行く意識の走馬灯ではなく、噴き出す鼻血を持て余しながら。その鼻血の原因というのが情けない。お湯から上がろうとした瞬間、どういう弾みか小指が鼻の穴に飛び込み、よく伸びた爪が鼻の奥を突き刺した。弾みとはいえ、こういうことが起こる確率ってどれぐらいあるのだろう。剣玉だって狙わなきゃ入らないのに……と悲しくなり、それほどわたしの鼻の穴は懐が広いのだと思い当たり、ばあちゃんの実も蓋もない言葉を連想ゲーム式に引き出したわけだった。貧血になるかというぐらいよく血が出た。あまりに情けなくて、誰かに聞いてもらいたくて、帰宅したダンナをつかまえて報告したら、心底不愉快な顔になった。鼻に小指突っ込んで血まみれになるのも悲しいが、そんな女が自分の妻だというのも気が滅入るものらしい。

2002年04月13日(土)  パーティー


2005年04月08日(金)  懐かしくて新しい映画『鉄人28号』

去年秋オープンした渋谷のPICASSO347へ。そそられるかわいいお店がいろいろ、でも今日のおめあては、7・8階にあるシネコン・アミューズCQN。冨樫森監督の『鉄人28号』(このサイト、よくできてます)を見る。冨樫監督の『ごめん』に鉄人28号のプラモデルが登場するのだが、今度はどーんとでっかく本物サイズ。といってもわたしは漫画をちゃんと読んでいないので、漫画の実写版という見方はできず、いきなり実写版で出会ってしまった。映画版では少年の成長物語に光を当てたとのことで、キャッチは「鉄」+「勇気」。主人公・正太郎役の池松壮亮君は、8000人を超える応募者から選ばれたそう。蛍雪次朗さんが出ているのを見つけて、うれしくなる。あっけにとられる表情だけの演技がお見事。漫画を知らない人にも楽しめるストーリーになっているけど、原作と比べられたらもっと楽しいかもしれない。ラストで流れる主題歌はテレビ版と同じものなのだろうか。懐かしそうに聴き入っている人がいた。

2004年04月08日(木)  劇団ジンギスファーム「123」
2002年04月08日(月)  シナリオに目を向けさせてくれた「連載の人」


2005年04月02日(土)  アンデルセン200才

■わたしの作品をいくつか観てくださったという政治家氏にお会いしたときのこと、「良かったですなー、あなたの、あの人魚姫の話」と『真夜中のアンデルセン』(2002年8月、NHK夏の特番で放送)のことをほめていただいた。タイトル通り真夜中の放映だったので、「よく起きていて観てくださいました」と感激したら、「いやー感動しました。陸の世界に憧れた人魚姫が危険を冒して夢に向かっていく姿……」と賛辞が続いたが、そこは脚本家のわたしが手をつけるとっくの昔に原作者のアンデルセンが創った部分であった。「バーを舞台に『人魚姫』をモチーフにした音楽芝居を」と依頼を受けて脚色にあたったが、原作のエッセンスはできるだけ活かした。19世紀に書かれた作品は、21世紀の人の心を動かす力を失っていなかったのである。今日2005年4月2日は、アンデルセンの生誕200年。自分の作品が人にどう思われているか人一倍気にしては、小躍りしたり落ち込んだりしていた(わたしが彼の自伝でいちばん共感したのはこの部分だった)アンデルセン大先生、政治家センセイの感想を聞いたらさぞかし喜んだだろう。■アンデルセンの誕生日にちなんで今日は「国際子どもの本の日」でもあるらしい。子どもではないけれど、ひさしぶりにアンデルセンの童話集を読んでみようと思う。もしも『真夜中のアンデルセン』の第二弾が来たら、『雪の女王』をやってみたい。

2002年04月02日(火)  盆さいや


2005年03月31日(木)  「またたび」の就職活動生

■就職活動の学生には、できるだけ時間を作って会うようにしている。社会人の先輩としてわたしが伝えられることもあるし、彼らから学べることもある。去年、エンジェル大賞の授賞式で知り合った博報堂の植木さんから「広告業界に就職したい学生に会ってもらえませんか」とメールをもらい、うちの会社にエントリーシートを取りに来たコピーライター志望のK君と会うことに。K君の友人でアートディレクター志望のM君も一緒に会社近くのカフェへ。好奇心旺盛、話題豊富な二人で、気がついたら2時間しゃべっていた。わたしが広告会社での仕事のことやアイデア出しのコツを話す代わりに、彼らも最近気になるCMのことや自分たちのことを話してくれ、「バナナが好き」といった妙なことで盛り上がったりした。大学は違うけど高校時代のサッカー部の同期という二人は、旅するアーティスト集団「またたび」のメンバーで、学生でありながら実にユニークな活動をしている。「またたび」は、熊本県御所浦町での「島まるごとワークショップ」を行う目的で、2003年7月に結成された団体だそうで、猫好きの集団ではなく、「また旅をする」が名前の由来だとか。M君がデザインした黄色い名刺は上下左右につなげると、「またたび」のロゴがつながるようになっていて、「人と人のつながりで生まれる広がり」を見せてくれる。東京と熊本を行き来する旅そのものがアート活動という考え方も面白い。現在は、「トラックの荷台に伝馬船を乗せ、東京から御所浦まで旅しながら、車が停まった所を展示場所にして路上にアートを広げる」という「しましままたたびただいま展」を展開中。わたしに会ったあとで、K君M君は就職活動へのやる気をますますかきたてられたようだが、わたしもいい刺激をもらった。就職する前に自分のやりたいこと、夢中になれるものがちゃんと見えているってすごいと思う。広告業界にぜひ来て欲しい二人とは、またまた、たびたび会いそうな予感。

2004年03月31日(水)  岩村匠さんの本『性別不問。』
2003年03月31日(月)  2003年3月のカフェ日記
2002年03月31日(日)  レーガン大統領と中曽根首相の置き土産
2001年03月31日(土)  2001年3月のおきらくレシピ


2005年03月28日(月)  『ダ・ヴィンチ・コード』で寝不足

■同僚に借りた『ダ・ヴィンチ・コード』(The Da Vinci Code)のおかげで寝不足に。なんて面白いんだーと興奮しながら、ページをめくる手がどんどん速くなり、上下巻を一気に読んでしまった。キリスト教や絵画にまつわる歴史や学説を一本のミステリーにまとめあげた著者ダン・ブラウンの手腕に何より感心する。両親は数学者と宗教音楽家、妻は美術史学者であり画家という環境は、この本を書くために整えられたかのよう。作家業に専念する前は英語教師だったそうで、翻訳であることを忘れさせる読みやすさにも納得。本書には女性を聖なる存在として礼賛する思想が繰り返し登場するが、著者の後書きで母親と妻を有能ですばらしい女性として讃えているのが興味深い。■謎を解く鍵としてアナグラム(綴りの並べ替えで意味の違う語句を作る遊び)がふんだんに盛り込まれているのも、暗号好きにはたまらない。もっと謎解きを楽しみたい人は、著者の公式サイトdanbrown.comUNCOVER THE CODEへ。『DIGITAL FORTRESS』(デジタル要塞?)という別な著書のコンテンツでは、本書に出てきたクリプトグラフィー(暗号書記法)の解読を楽しめる。著書もサイトもサービス精神旺盛。

2003年03月28日(金)  中国千二百公里的旅 干杯編


2005年03月27日(日)  今井家の『いぬのえいが』

■昨日観た映画『いぬのえいが』は、大阪の実家で飼っていた雑種のトトのことを思い出させてくれた。死に目に会わなかったせいか、トトのことを思い出しても悲しくも切なくもならない。ただひたすら笑いがこみあげる。そのせいで地下鉄でもエレベーターの中でもにやけて、きっとまわりの人には気味悪がられていると思うのだが、トトはとにかくどんくさいヤツだった。子犬の頃、自分で自分の足を踏んで、よく転んでいた。散歩に行くと、しょっちゅう視界から消えて、溝に落ちていた。家族で山登りに行ったとき、一人だけ車酔いして、いつまでもゲーゲー吐いて、背中をさすられていた。庭先で野良猫と50cmぐらいの距離で睨み合いになって、逆毛を立てられてすごすごと退散していた。妙にケチ臭くて、誰が横取りするわけでもないのに餌を土に隠していた。なのに、どこに隠したか忘れて、庭中を掘り返し、「犬のくせに、匂いわからんの?」と母に突っ込まれていた。人間と同じものを食べたがり、アイスクリームでおなかを壊した。トトもぬけてたが、牛乳パックに入れたトトのえさを間違って飲んだ父も負けてなかった。トトは家族以外の誰にもなつかず、うちに一か月ホームステイしたブラッド君が唯一の例外だった。家族の誰よりも寒がりで、石油ストーブのまん前に陣取り、白い毛に焦げ目がついてシマシマになっていた。もしも「犬の話を書いてください」という仕事が来たら、トトをモデルにした思いっきり情けない犬を書こうと思う。

2003年03月27日(木)  中国千二百公里的旅 食事編
2002年03月27日(水)  12歳からのペンフレンドと3倍周年

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