2005年04月13日(水)  お風呂で血まみれ事件

■わたしがアメリカに留学したいと言いだしたとき、「ええことや、行っといで」とおおらかに、そして無責任に背中を押してくれた久子ばあちゃんは、ちんまりした見た目に似合わずなかなかぶっ飛んだ人だった。初孫のわたしと対面した最初の一言は、「かわいい」でも「うれしい」でもなく、「鼻がない!」で、さらに続けて「穴しかない!」と叫んだという。それほどわたしの鼻は生まれたときから低く、それでいて鼻の穴は大きかった。そんなことを風呂場で血まみれになって考えていた。薄れ行く意識の走馬灯ではなく、噴き出す鼻血を持て余しながら。その鼻血の原因というのが情けない。お湯から上がろうとした瞬間、どういう弾みか小指が鼻の穴に飛び込み、よく伸びた爪が鼻の奥を突き刺した。弾みとはいえ、こういうことが起こる確率ってどれぐらいあるのだろう。剣玉だって狙わなきゃ入らないのに……と悲しくなり、それほどわたしの鼻の穴は懐が広いのだと思い当たり、ばあちゃんの実も蓋もない言葉を連想ゲーム式に引き出したわけだった。貧血になるかというぐらいよく血が出た。あまりに情けなくて、誰かに聞いてもらいたくて、帰宅したダンナをつかまえて報告したら、心底不愉快な顔になった。鼻に小指突っ込んで血まみれになるのも悲しいが、そんな女が自分の妻だというのも気が滅入るものらしい。

2002年04月13日(土)  パーティー


2005年04月08日(金)  懐かしくて新しい映画『鉄人28号』

去年秋オープンした渋谷のPICASSO347へ。そそられるかわいいお店がいろいろ、でも今日のおめあては、7・8階にあるシネコン・アミューズCQN。冨樫森監督の『鉄人28号』(このサイト、よくできてます)を見る。冨樫監督の『ごめん』に鉄人28号のプラモデルが登場するのだが、今度はどーんとでっかく本物サイズ。といってもわたしは漫画をちゃんと読んでいないので、漫画の実写版という見方はできず、いきなり実写版で出会ってしまった。映画版では少年の成長物語に光を当てたとのことで、キャッチは「鉄」+「勇気」。主人公・正太郎役の池松壮亮君は、8000人を超える応募者から選ばれたそう。蛍雪次朗さんが出ているのを見つけて、うれしくなる。あっけにとられる表情だけの演技がお見事。漫画を知らない人にも楽しめるストーリーになっているけど、原作と比べられたらもっと楽しいかもしれない。ラストで流れる主題歌はテレビ版と同じものなのだろうか。懐かしそうに聴き入っている人がいた。

2004年04月08日(木)  劇団ジンギスファーム「123」
2002年04月08日(月)  シナリオに目を向けさせてくれた「連載の人」


2005年04月02日(土)  アンデルセン200才

■わたしの作品をいくつか観てくださったという政治家氏にお会いしたときのこと、「良かったですなー、あなたの、あの人魚姫の話」と『真夜中のアンデルセン』(2002年8月、NHK夏の特番で放送)のことをほめていただいた。タイトル通り真夜中の放映だったので、「よく起きていて観てくださいました」と感激したら、「いやー感動しました。陸の世界に憧れた人魚姫が危険を冒して夢に向かっていく姿……」と賛辞が続いたが、そこは脚本家のわたしが手をつけるとっくの昔に原作者のアンデルセンが創った部分であった。「バーを舞台に『人魚姫』をモチーフにした音楽芝居を」と依頼を受けて脚色にあたったが、原作のエッセンスはできるだけ活かした。19世紀に書かれた作品は、21世紀の人の心を動かす力を失っていなかったのである。今日2005年4月2日は、アンデルセンの生誕200年。自分の作品が人にどう思われているか人一倍気にしては、小躍りしたり落ち込んだりしていた(わたしが彼の自伝でいちばん共感したのはこの部分だった)アンデルセン大先生、政治家センセイの感想を聞いたらさぞかし喜んだだろう。■アンデルセンの誕生日にちなんで今日は「国際子どもの本の日」でもあるらしい。子どもではないけれど、ひさしぶりにアンデルセンの童話集を読んでみようと思う。もしも『真夜中のアンデルセン』の第二弾が来たら、『雪の女王』をやってみたい。

2002年04月02日(火)  盆さいや


2005年03月31日(木)  「またたび」の就職活動生

■就職活動の学生には、できるだけ時間を作って会うようにしている。社会人の先輩としてわたしが伝えられることもあるし、彼らから学べることもある。去年、エンジェル大賞の授賞式で知り合った博報堂の植木さんから「広告業界に就職したい学生に会ってもらえませんか」とメールをもらい、うちの会社にエントリーシートを取りに来たコピーライター志望のK君と会うことに。K君の友人でアートディレクター志望のM君も一緒に会社近くのカフェへ。好奇心旺盛、話題豊富な二人で、気がついたら2時間しゃべっていた。わたしが広告会社での仕事のことやアイデア出しのコツを話す代わりに、彼らも最近気になるCMのことや自分たちのことを話してくれ、「バナナが好き」といった妙なことで盛り上がったりした。大学は違うけど高校時代のサッカー部の同期という二人は、旅するアーティスト集団「またたび」のメンバーで、学生でありながら実にユニークな活動をしている。「またたび」は、熊本県御所浦町での「島まるごとワークショップ」を行う目的で、2003年7月に結成された団体だそうで、猫好きの集団ではなく、「また旅をする」が名前の由来だとか。M君がデザインした黄色い名刺は上下左右につなげると、「またたび」のロゴがつながるようになっていて、「人と人のつながりで生まれる広がり」を見せてくれる。東京と熊本を行き来する旅そのものがアート活動という考え方も面白い。現在は、「トラックの荷台に伝馬船を乗せ、東京から御所浦まで旅しながら、車が停まった所を展示場所にして路上にアートを広げる」という「しましままたたびただいま展」を展開中。わたしに会ったあとで、K君M君は就職活動へのやる気をますますかきたてられたようだが、わたしもいい刺激をもらった。就職する前に自分のやりたいこと、夢中になれるものがちゃんと見えているってすごいと思う。広告業界にぜひ来て欲しい二人とは、またまた、たびたび会いそうな予感。

2004年03月31日(水)  岩村匠さんの本『性別不問。』
2003年03月31日(月)  2003年3月のカフェ日記
2002年03月31日(日)  レーガン大統領と中曽根首相の置き土産
2001年03月31日(土)  2001年3月のおきらくレシピ


2005年03月28日(月)  『ダ・ヴィンチ・コード』で寝不足

■同僚に借りた『ダ・ヴィンチ・コード』(The Da Vinci Code)のおかげで寝不足に。なんて面白いんだーと興奮しながら、ページをめくる手がどんどん速くなり、上下巻を一気に読んでしまった。キリスト教や絵画にまつわる歴史や学説を一本のミステリーにまとめあげた著者ダン・ブラウンの手腕に何より感心する。両親は数学者と宗教音楽家、妻は美術史学者であり画家という環境は、この本を書くために整えられたかのよう。作家業に専念する前は英語教師だったそうで、翻訳であることを忘れさせる読みやすさにも納得。本書には女性を聖なる存在として礼賛する思想が繰り返し登場するが、著者の後書きで母親と妻を有能ですばらしい女性として讃えているのが興味深い。■謎を解く鍵としてアナグラム(綴りの並べ替えで意味の違う語句を作る遊び)がふんだんに盛り込まれているのも、暗号好きにはたまらない。もっと謎解きを楽しみたい人は、著者の公式サイトdanbrown.comUNCOVER THE CODEへ。『DIGITAL FORTRESS』(デジタル要塞?)という別な著書のコンテンツでは、本書に出てきたクリプトグラフィー(暗号書記法)の解読を楽しめる。著書もサイトもサービス精神旺盛。

2003年03月28日(金)  中国千二百公里的旅 干杯編


2005年03月27日(日)  今井家の『いぬのえいが』

■昨日観た映画『いぬのえいが』は、大阪の実家で飼っていた雑種のトトのことを思い出させてくれた。死に目に会わなかったせいか、トトのことを思い出しても悲しくも切なくもならない。ただひたすら笑いがこみあげる。そのせいで地下鉄でもエレベーターの中でもにやけて、きっとまわりの人には気味悪がられていると思うのだが、トトはとにかくどんくさいヤツだった。子犬の頃、自分で自分の足を踏んで、よく転んでいた。散歩に行くと、しょっちゅう視界から消えて、溝に落ちていた。家族で山登りに行ったとき、一人だけ車酔いして、いつまでもゲーゲー吐いて、背中をさすられていた。庭先で野良猫と50cmぐらいの距離で睨み合いになって、逆毛を立てられてすごすごと退散していた。妙にケチ臭くて、誰が横取りするわけでもないのに餌を土に隠していた。なのに、どこに隠したか忘れて、庭中を掘り返し、「犬のくせに、匂いわからんの?」と母に突っ込まれていた。人間と同じものを食べたがり、アイスクリームでおなかを壊した。トトもぬけてたが、牛乳パックに入れたトトのえさを間違って飲んだ父も負けてなかった。トトは家族以外の誰にもなつかず、うちに一か月ホームステイしたブラッド君が唯一の例外だった。家族の誰よりも寒がりで、石油ストーブのまん前に陣取り、白い毛に焦げ目がついてシマシマになっていた。もしも「犬の話を書いてください」という仕事が来たら、トトをモデルにした思いっきり情けない犬を書こうと思う。

2003年03月27日(木)  中国千二百公里的旅 食事編
2002年03月27日(水)  12歳からのペンフレンドと3倍周年


2005年03月26日(土)  映画『いぬのえいが』→舞台『お父さんの恋』

■19日から公開の『いぬのえいが』をシネクイントのモーニングショーで観る。宮崎あおいちゃん出演の最新作。といっても、短編のひとつの主役なので短い間しか観られなかったけれど、一段ときれいになっていた。いぬをめぐる6人の監督のオムニバス作品だが、つながっているものとつながっていないものが混じっていて、不思議な構成。ドッグフードのCMが得意先の意向を聞くうちにどんどんヘンになっていく「CMよ、どこへ行く」というお話は、誇張されているんだけど妙なリアリティがあった。と思ったら、脚本書いている山田慶太さんは電通のクリエイターらしい。2003年のヤングカンヌコンペ日本代表でもある。作品全体からも映画というよりCMっぽい印象を受けた。いぬっていいよキャンペーンのプロモーション映像とも取れる。観ている間、観客はそれぞれが関わったことのある犬のエピソードと作品を重ねていたようで、「ここで泣くの?」というところで号泣している人もいた。わたしは、うちで飼ってたおちゃめな雑種トトのことをひさしぶりに思い出した。
■「渋谷 自然食」で検索して見つけたパルコ近くのBiocafeでヘルシーなお昼を食べ、午後はパルコ劇場でパルコ+サードステージpresents『お父さんの恋 Family Tale』。寝たきりの父(前田吟)をめぐる長女(七瀬なつみ)、次女(菊池麻衣子)、息子(堺雅人)、家政婦(星野真里)、隣人の医者(池田成志)が織り成す家族のおとぎ話。『オードリー』や『新撰組』で気になっていた堺さん、はじめて舞台で観たが、いつまでも聴いていたいほど心地いい声。脚本の中谷まゆみさんは『ウォーターボーイズ』などテレビも書かれているようで、台詞も展開もテンポがいい。演出の板垣恭一さんは『動物園物語』のときにご挨拶した気がする。リアリティの中にあるドラマという感じで、素直に共感でき、楽しめた。

2003年03月26日(水)  中国千二百公里的旅 移動編
2002年03月26日(火)  短編『はじめての白さ』(前田哲クラス)


2005年03月25日(金)  傑作ドイツ映画『グッバイ・レーニン!』

リクエストしたレンタルDVDを自宅に届けてくれるTSUTAYA DISCASの第2便で『天国の日々』と『グッバイ・レーニン!』が届き、『グッバイ・レーニン!』を先に見る。同級生、同僚、家族、映画関係者などあちこちから「面白い!」の声が聞こえてきて、とても気になっていた作品。しかも、東西ドイツ統一の頃のことを描いているというので個人的な興味もあった。統一前の東ドイツに行ったときに意気投合したペンフレンドのアンネットとは統一をはさんで文通を続けていたので、「東から見た西」には親しみを覚えていたりする。東ドイツに行ったのは二十年も前のことだったけれど、はじめての海外旅行だったので何もかもが強烈に印象に残っていて、映画を観ていると「こんな感じだったなあ」と懐かしさが押し寄せた。

この作品は、東西ドイツ統一を極めて日常的な視点からとらえているところが面白い。瓶詰め食品、普段着、壁紙……毎日使うものが微妙にして決定的に違う。選択肢は少ないよりも多いほうがいいし、質は悪いよりも良いほうがいい。なのに、昔の時代に逆行せざるを得ない状況を作ってしまった設定がうまい。さらに、逆行すると見せかけて新たな歴史を作る展開へ持って行き、ある種のおとぎ話に仕立ててしまったところがお見事。台詞も映像も遊びごころいっぱいで、感心することしきり。

2002年03月25日(月)  脚本はどこへ行った?


2005年03月23日(水)  高校生がつくるフリーペーパーanmitsu

■高校生がつくるフリーペーパーanmitsuのvol.4が届いた。anmitsuを知ったのはブレーン・ストーミング・ティーンが出た頃だったと記憶しているが、あちこちの新聞で紹介記事を見かけた。その頃にvol.1が出たのだろう。ティーンによるティーンのための紙面作りというところに、ブレストの世界に通じるものを感じたのだが、同じように目をつけた人たちが「こんな活動をしている高校生がいますよ」と知らせてくれた。本を贈らせてもらったところ感想文が届き、お正月に「編集部で回し読みしています」のお便りとともにvol.3が送られて、はじめて実物を見た。わたしが想像していた高校生の手作り感をいい意味で裏切る、とてもセンスのいい出来栄え。企画や取材や資金繰りは高校生の手によるが、デザインだけはプロのデザイナーに依頼しているとのこと。そして、わたしをうならせたのが文章力。ちょっとしたコメントに書き手の視点が見えて、プロのコピーライターも真っ青。企業の宣伝担当者様、高校生向けのアドバトリアルなんて、この人たちに作らせたら、共感を呼ぶんじゃないでしょうか。vol.4の特集は「ただのノートじゃつまらない」。あんみつシネマは「インドネシアの俳優、ニコラス・サプトラ単独インタビュー」。あんみつ調査隊は「プリン」を食べ比べ、新連載「味のある高校生になりたい!」では卓球会館を訪ねる。モデル・東野翠れんさんのコラムあり、海外高校生事情あり、A3サイズを8つ折りにした表裏16ページは読みごたえたっぷり。フリーといえどもただものじゃありません。

2004年03月23日(火)  ENBUゼミ短編映画『オセロ』
2002年03月23日(土)  インド映画『ミモラ』


2005年03月21日(月)  弘前劇場+ROGO『FRAGMENT F.+2』

STRAYDOGにいた古川康大君から「どうしても観ていただきたい舞台があるんです」と熱い招待を受け、新宿pamplemousseへ。タイトルは『FRAGMENT F.+2』。弘前劇場主宰の長谷川孝治さんが書き、94年初演の『破片』を改訂し、97年に完成した『FRAGMENT』。その脚本を読んで雷に打たれた古川君が仲間の鈴木真君とともに弘前に乗り込み、「これをやらせてくれ」と訴え、弘前劇場+ROGO(古川康大・鈴木真)という形での上演が決まったとのこと。その経緯も熱いが、内容も熱い。舞台は海に近い灼熱のガソリンスタンド。劇中で瓶のコーラを飲み干すシーンが出てくるが、演技ではなく本気でカーッと飲む。渇いている。途中に男女一人ずつが絡んでくるものの基本的には二人芝居で、ガソリンスタンドで働く先輩と後輩の男二人が殴りあうように台詞を吐きあう。言葉の力と役者の力がぶつかり、火花を散らすようなパワーが生まれる。最後まで目が離せなかった。

いつもお芝居を見に行って思うのは、東京には(そして日本中には)なんてたくさんの役者がいて、それぞれに演技を磨き、しのぎを削っているのだろうということ。脚本家もライバルだらけだけれど、役者の層はもっと厚く、熾烈な戦いが繰り広げられている。小さな劇場で熱い舞台を観たときほど、そんなことを思ってしまう。先日、大蔵省君と二人芝居『動物園物語』(2004年2月7日)を演じたサードステージ!の瀬川亮君が今度のNHK連続テレビ小説『ファイト』で、ヒロインが心ひかれていく厩務員役を射止めたと知った。「群馬のキャベツ畑で1年、新潟のスキー場で半年」など住み込みで働き、「玉掛け」「フォークリフト」などの資格・免許を取得しつつ打ち込めるものを探してきたときに第三舞台の公演を観て衝撃を受け、門を叩いたのだとか。演技の世界で生きていたい、自分が何者であるかを見極めたいという熱を迸らせていた今日の出演者も、その手でチャンスをつかみ取って欲しい。

2004年03月21日(日)  アドフェスト4日目
2002年03月21日(木)  「かわいい魔法」をかけられた映画

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