FILL-CREATIVE [フィルクリエイティヴ]掌編創作物

   
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CREATIVE特選品
★作者お気に入り
そよそよ よそ着
ティアーズ・ランゲージ
眠らない、朝の旋律
一緒にいよう
海岸線の空の向こう
夜行歩行
逃げた文鳥
幸福のウサギ人間
僕は待ち人
乾杯の美酒
大切なもの
夏の娘
カフェ・スト−リ−
カフェ・モカな日々
占い師と娘と女と
フォアモーメントオブムーン
創作物:占い師と娘と女と

 その占い師の女は、こじんまりと腰掛けて淡々と道行く悩める人々を受け入れていた。
 いつから居たのだろうか。ずっと昔から街ができるもっと前から、その場所を動いていないような微動だとしない落ち着きを漂わす。

 深いベールで顔を隠して表情は伺えない。ただじわじわと気迫のようなオーラを感じて。遠くから眺めただけで、視線は釘付けになる。 数秒間か数分間か、我に返って足を早めて立ち去りながら、たまらない後ろ髪を引かれて、また翌日もその場所にたたずんだ。

 地球の引力のように、知らぬ間に気づかずに引き寄せられている力。偶然の巡り合わせが必然と感じる時、既に運命は動いている。

 占いなど必要と感じる時はなかった。隣にいた娘が雑誌の片隅のホロスコープに一喜一憂してる姿は滑稽で、可笑しくて。でも、今日は星が三つだよと喜んで俺の運勢まで報告する笑みを見るのは好きだった。

 そんな娘も占いのお告げに従ったのか、とうの昔に、誠実しか取り柄のなさそうなつまらない男と結婚していった。誠実すら持ち合わせない男など、選ぶわけもなく。


 今日はめずらしく誰も待ち人がいないらしく、彼女のボックスはしんと静まり返っている。冷たい空気が痛そうで、入るのをためらって。彼女はそんな俺を見透かしたようにベールを外して、薄くさしたルージュを光らせて微笑みで迎え入れた。

「待っていたのよ。私が待っていたって気付いてたくせに。随分来るのは遅かったのね。」

 圧倒される雰囲気とは対象的に、物腰はとても柔らかい。想像よりもずっと若い普通の女だった。俺のタイプではなかったけれど。

「あなたを占っていたの。」

 昔からの同級生と話すみたいに気軽に言葉をかける。
 水が流れ落ち、星が光る絵の描かれたタロットカードの1枚を前に置いた。

『 スター 希望 』

「希望は見いだすもの。出会いは呼び込まれて、呼び入れて立ち止まるもの。そう、今あなたがここに来たように。」
「明日も9時に来て。待っているから。」

 と言って素早く道具を片付けて去って行った。

 俺はやっぱりたたずんだままそこに居て、エコーのように彼女の言葉を反芻していた。


 明日の9時。
 勤め先の同僚の送別会は顔を出す程度で早く切り上げればいい。行く気のしなかった会から中座できる理由ができて、内心安堵が胸に広がっていた。

 少し童顔な二つ年下の同僚の娘は、半年前から同じ部署に配属されてきた。ろくに仕事も覚えず、寿退社らしい。好みのタイプだったのに。

「本当はね。ドタキャンしそうなの。結婚。でも会社の人に言えなくて。」

 宴会もほどなく終了間近、娘は俺の隣に来て、耳打ちする。唐揚げ食べる?って言うのと同じようなテンションで。

「本当は好きだったの。あなたみたいな人。婚約者よりも。」

 けだるく俺の腕にしなだれる。

「この後さ、少しだけ約束あるんだ。すぐ終るから後で電話してよ。」

 携帯番号を教えて、そのまま席を立った。

 9時。約束なのかよくわからないが、とにかく占い師のもとに向かう。大事なものを取りこぼしてしまったような燻りを少しだけ感じながら。
 でも、5分前には着いていたのに、もう占いの彼女はいなかった。翌日もまたその翌日も、二度とその場所で見かけることはなく。

 結局、同僚からも電話はなくて、翌週の辞める最後の日、披露宴二次会には招待するから来て、と平然と言って去った。

 その後、送別会の夜は俺が帰った後に、部署で一番地味な男とその娘は連れだって消えたらしい、という噂がたっていた。マリッジブルーの気まぐれだったのだと男はなぐさめられて。


 俺は胸にささる寂しさに襲われて、街を歩く。人恋しく温めあう優しさに飢える心が疎ましかった。

 面白く、可笑しければ良いとしか思えないでいる日常。
 意味も持たず、すれ違う女たちを物色しながら誘った。ほとんど無視されるままに。立ち止まった女の人はとてもくたびれた顔をして、どこまでもつきあえるよ、と言って俺の横で歩調を合わせる。

 行き慣れない道を進みながら、占いの彼女の言葉を反芻していた。

『見いだす希望と 呼び入れる出会い』

 振り返れば、そこに彼女はいて、寂しげに俺を見つめる。占う様子もなく。
 たばこの煙が目に染みて、瞬きをしている間に消え去ってしまう、はかない姿。

 俺はかぶりを返して先を歩く。夜の街を深い道へ、くたびれた女と一緒に消えていく。

 ただ今をやり過すために。


[END]


※FILL書き下ろし2002.9.27


収納場所:2002年09月27日(金)


創作物:けんかと指輪

 もう一生口もききたくない。何度考えても胸がむかむかする。あんなに罵りあって。それでもまだ飽き足らず。腹が立ってしかたない。

 だけど。思いついたら、寂しかった。

 アイツとけんか別れになってから、何日が過ぎたっけ。さよならと威勢良く言って別れたまま、今日で10日も何もない。本当に終わりか。と今ごろ思う。諦めに半分。アドレスもナンバーも、勢いにまかせてもうない。アイツも捨ててしまったのか。二度と繋がらないふたり。

 無性に会いたくなっては、夜の街に繰り出してふらついてみる。会いに行けばいいものを。
 でも、譲るわけにはいかない。つまらない意地など馬鹿げているけど。何度、繰り返して失敗しなくなるのか。人間は愚かな生き物。


 小さな箱の小包が届いた。中には赤く光る石の指輪がぽつり。
 贈り物なんて行事に縁遠い不精な俺に、よりにもよってこんな指輪が送られてくるとは。それも送り主は自分。なんだこれ。おもむろに同封されている封筒を開く。

『「僕は君が大好きで昼も夜も頭の中は君だけ。君なしの人生なんて、にんにくの入っていないペペロンチーノだ。考えられない。君は僕のスパイスだ。君も同意だと、早く自覚したほうがいいと思うが…」

※上記コメント、修正、追加は可、主旨変更は不可。早くこれ持って彼女ん家行ってください。意地張るのもほどほどに。

心の叫びより』

 半年ローン契約書と一緒にそんなメモが舞い落ちる。

 ふざけてるなこの送り主。こんな誘いに乗るなど、男の沽券にかかわる。引っ掛かるわけにいかない。心で唱えて、腕は車のキーのあるトレーに伸びて。

 全く。とことん意地を通すつもりらしい。アイツ。だけどなんだか愛しくて。ハイウェイをめいっぱいに飛ばした。

 さて、こちらの意地はどう通そうか。策を巡らせて、彼女の住む街に続く出口は近付く。

 滑稽な日々。可笑しくて、皮肉で。それでも交わしていけるだろう。交わしていきたいと願った。これからもアイツと。

 いいアイデアも浮かばぬままに到着してしまう勢いの素早さ。ドアの向こうにある、彼女の少し拗ねた顔を浮かべて、安堵が心に訪れる。意地などどうでも良くなる瞬間。

 夜はやっと、緩和されて。くり返される時は喜びに変わる。


[END]


※FILL書き下ろし2002.9.22



収納場所:2002年09月22日(日)


創作物:逃げた文鳥

 最近彼は元気がなくて。大切にしていた文鳥が逃げていってしまったんだ。とだけぽつりと言った。
 私と一緒にいる時もふと遠くを眺めて、もの想いにふける。
 妬けるよ、文鳥なのに。口惜しく私はそんな彼を見つめる。

 もともと口数が少なくて、彼が何を考えているのか、わからない時のほうが多い。たまに電話をしてきて、会おうよと唐突に言って。私はいそいそと彼を迎えて。そんな関係だった。
 私にはメールするのさえ億劫がるのに、文鳥へは毎日欠かさず水をやり、餌をやり、挨拶をする。そんな不条理あっていいのか。私は鳥アレルギーで、文鳥が来てからは彼の家にも行けなくなったというのに。

 見るからにやつれている彼。もともとたくましい感じではなかったけれど、弱まっている男の人の姿なんて、あまりにも見るに忍びない。やるせなく私は励ますのだけど、あまり効果はなさそうで。よけいに胸は痛む。どんな文鳥だったというのか。側にいる女にも気を配れなくなる程に。
 仕方ないから好物を料理しに彼の家に行く。食べ物で元気がでてくれるなら単純でいいのだけど。
 私がつくったカレーはとりあえず全部食べる。もくもくと食べて、その姿はとても無邪気なのに。食べ終わって窓辺を見つめてため息をこぼす。

 いい加減にしろと殴りたくなる。そんな男と戯れて、私が文鳥だったらよかったのにと、切ない。
 何故そんなに悲しいのか、尋ねてみるけどあいまいに頷くだけ。鳥かごはそのままにしてあって、寂しさが増すから片付けようと言うのに、取り付く島もなく受け付けない。

 夜中に目が覚めて隣を見たらやっぱり彼も起きていて。
 泣いていた。

「本当は逃げたんじゃなくて、猫に食われたんだ。アイツ。首に歯が食い込んでいって、ぐったりしていった姿。見てられなかった…」
 「俺、その猫にも何もできなくてさ」

 と堰を切って言ったかと思ったら、無言に涙を流す。

 馬鹿な人。

 私は濡れた頬を拭いてあげ、キスをして、明日お墓をつくってあげようとたしなめる。彼はひっそり眠りについて。私はもっと胸は苦しい。


 翌日小さな植木を買った。今どき、庭も空き地も無い都会のアパート。土すら買ってこなければ手に入らない。
 植木に墓標を立てるのはそぐわない感じがして、細かい細工の掘られた木製のスプーンをさして代わりにする。観葉植物のツリーとスプーンでできた小さなお墓が整った。

「その子に毎日あげていたお水は、今日からここに供えてあげるのよ。生あるものはいつかは亡くなる。その命をずっと心に止めておくための儀式。それが弔いなの。それでその子もきっとあなたを忘れずにいられるから。幸せな涙なの」
「静かに、静かに。悲しみは空に返して。切なさは土に還元させて。痛みは包み込んでいくものなのよ」

 彼はもう泣かずに、私を胸に引き寄せた。

「ありがとな」
「俺の隣にはお前。それが幸せな涙だろ」

 さらっと心をこぼす。

「ずるい人」

 とつぶやいて…。
 やっと、ぽろぽろと頬をつたうものが私にも訪れる。見る見るくしゃくしゃな泣き顔に変わる。

「せっかく俺が泣きやんだのに」

 と、ようやく彼は微笑んだ。
 そのまま私を抱きとめたまま、優しいままに。静かに彼は待っていた。じっと私の涙がひくまで。

 私はもっと、泣いていたくて、やつれていたはずの胸にうずくまる。

 ただ、暖かいと伝える心に変換させて。私はそっと嬉しくて。



 ※FILL書きおろし2002.9.17



収納場所:2002年09月17日(火)


 
 
  フィル/ フロム・ジ・イノセント・ラブレター  
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