FILL-CREATIVE [フィルクリエイティヴ]掌編創作物

   
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CREATIVE特選品
★作者お気に入り
そよそよ よそ着
ティアーズ・ランゲージ
眠らない、朝の旋律
一緒にいよう
海岸線の空の向こう
夜行歩行
逃げた文鳥
幸福のウサギ人間
僕は待ち人
乾杯の美酒
大切なもの
夏の娘
カフェ・スト−リ−
カフェ・モカな日々
占い師と娘と女と
フォアモーメントオブムーン
創作物:秋の雨・一年草(仮題) 2 - 未完 

--2--

 泣けてきた。嬉しいのではない。もちろん悲しいのでもない。
 なぜもっと早く、隣にいられるうちに言ってくれなかったのだろう。
 なぜ今でも好きだと言ってくれないのだろう。

 こんな自分勝手に、どう答えればいいというのか。あんなに愛した人からの手紙を、本当に捨てられると思って書いたのだろうか。そんなわけない。ずるいやり方。一年の月日だけで、私が心乱さずに平静でいられるようになっていると、どうして思えるのだろう。そんな無神経さ変わってない。

 愛情の反対語は憎悪ではなく、無視だと。言っていた人を思い出す。正確には、無視ではなく無意識だと私は思った。
 激しく思いつめた愛情が消え去るのは、それはふと、本当に何でもないふとした時に、訪れるものだ。空を見上げた拍子にとか、風が髪を吹き抜けていった時とか。いつの間にか無意識のうちに恋は終っていたと、気付かされる。開放される寂寥の時、愛情は姿を変える。無意識の意識の中で、もう、愛情ではないものにすり変わって、根付く。
 無視という意志で愛情を裏返す時、凛とした強さを心に灯さなければやり通 すことなどできない。だから私は無視を選ぶ。
 存在を認めて欲しい人を、あるいは認めてくれなかった人を無視できるなら、もともと愛情など容易い。価値すら認めずに過ごすむごさ。思えば思う程、心の膿は熱を持ってたまる。自分の記憶すら無視すべき激しさに、ため息はこぼれる。

 どんなことでも行き着く果てまでの道のりは険しいのが常だけど。こんな険しさなら、避けて通 ってもいいのにと、後戻りできない道を振り返って迷う。
 人はいつも愛情をもてあます。無視できるくらいなら、愛など簡単に食べ尽くしていただろう。

 喬を無視して私はやり過ごせるのだろうか。
 会いたい、と、何度も喉まででかかって食い止めた。

 一緒にいられた頃は、ただ一緒にいることだけを好んだ二人だった。一緒にいるのに、かもくで控えめで。喬も私も必要以上の言葉は使わなかった。でもそこにある空気はいつもとても濃くて、二人は通 じているのだと信じようと必死だった。
 普段はあんなにおしゃべりなのに、喬の前では言葉は大した役割を果たさずに溶けるだけ。  今思えば、なぜもっと話しをしなかったのか、よくわからない。実際話したいことは沢山あった。詰まるところ何も、ひとかけらとて喬は私を理解していなかったのだとも思う。もっと交わす心はあったはずだったのに。野暮になりそうな言葉を拒んだ。

 いや、ただの臆病だっただけなのかもしれない。
 スパイスで誘う刺激感は食欲をそそる。なのに度を越すと感覚を麻痺させて、わずかなさじ加減でさえ、もうそれを食べることすらできない後遺症を残す。それが怖くて刺激に怯えて、味わう感覚も忘れて。

 ただ、空気だけが澱んでいたのかもしれない。

 偶像と現実の境にさまよって、今だからわからなくなることが多いのは、なぜなんだろう。私は追憶の向こうに見失いそうな自分を見つめた。あたかも空気が澄んだ冬を待つ、秋の霞のように。


[つづく]



収納場所:2002年10月13日(日)


 
 
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