FILL-CREATIVE [フィルクリエイティヴ]掌編創作物

   
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CREATIVE特選品
★作者お気に入り
そよそよ よそ着
ティアーズ・ランゲージ
眠らない、朝の旋律
一緒にいよう
海岸線の空の向こう
夜行歩行
逃げた文鳥
幸福のウサギ人間
僕は待ち人
乾杯の美酒
大切なもの
夏の娘
カフェ・スト−リ−
カフェ・モカな日々
占い師と娘と女と
フォアモーメントオブムーン
初 出:LOVER'S BRAIN(9)恋歌


 俺が店に着いたのは、11時も過ぎた頃だった。SANAのステ−ジはもう2回目が終りに迫っていた。扉を開けて音響が耳に飛び込んできた時には、SANAはちょうど初披露するという自作の曲を歌い始めるところだった。今日のラストを飾る歌だった。

 もしもあなたに出逢えるならば
 闇を超えて迎えにいこう
 どんなに深く霧がはばむも
 途切れてもなお時をつないで
 あなたの熱を感じとろう

 もしもあなたと出逢えなければ
 空も海も宙の彼方も
 大気のくずにまぎれていても
 あなたのかけらを探しにいこう
 私は感じて止まずにいるから

 灯火に芯をさとされるように
 嵐に反旗をひるがえすように
 臆することなく今を生きよう

 尽きない語りを果てなく抱いて
 恋人たちは 愛 ささやく

 LOVER'S BRAIN
 知力の全てを 恋にささげて

 力のみなぎる想いを ここに
 あなたに 放とう 愛を歌おう

 LOVER'S BRAIN
 あらゆる知能も 駆使して灯そう

 力を宿して想いを ゆだね
 あなたに 託そう 愛を尽くそう


 SANAの響く声そのままの余韻を空間に残して曲は終わった。ピアノの伴奏は溶けだす音を静かにフロアーに落とした。SANAの瞳はフレームの中で見つめていたそれと同じに輝き、大粒の涙があふれて尽きなくSANAの頬をつたっていた。

 俺はその時、SANAを感じる以外に他に何ができただろう。
 最善列を陣取るどの客よりも、室内に響かせる誰の拍手の音よりも、素早くステージに駆けつけてSANAを抱き寄せた。抱き寄せてなおきつく抱きしめた。すぐにもギターリストが気をまわして、俺の肩に触れて制していなければ、涙で湿ったSANAの顔を俺はキスで拭っていたかもしれない。

 興奮の冷めやらぬスポットライトの表側。仕上がったばかりの青く染まるキャンバスをピアノにたてかけ、SANAの手を引いてステージを降りた。
 バンドのメンバーたちは終了を告げ、退場する歌姫を拍手で送ってくれるようにと客に促した。マスターには、SANAを連れ去る代償にこの絵をおいていくと目配せで合図した。そのまま俺たちは出口の扉へと向かった。

 二人は手を握りしめあって温もりを感じあい、外気へと繋がるステップを駆け上がる。新たな協奏への風を受けて肌にからむ空気の層は、俺たちをまばゆく迎え入れていくのだった。



収納場所:2001年11月12日(月)


 
 
  フィル/ フロム・ジ・イノセント・ラブレター  
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