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JIROの独断的日記
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2010年10月30日(土) 【演奏会評】金子三勇士氏、ピアノ・リサイタル(10月30日、於:トッパンホール)

◆結論:完璧な演奏はない、というが、あえて「完璧だった」と言いたい。

10月30日(土)トッパンホールで、金子三勇士氏のCDリリース記念リサイタルを聴いた。

CDリリース記念、と書いたが、そのCDレビューは、既に書いた。

2010年10月01日(金) 【音楽】絶対お薦め。ピアニスト金子三勇士氏のデビューCD。ココログ

「CDリリース記念」であるから、プログラムはほぼ、CDに収録されているのと同じだが、

これが今日のプログラムである。





CDと今日のリサイタルの相違点は、曲目が一曲「オーベルマンの谷」がコダーイ:セーケイ属の民謡だったことと、

演奏順である。いずれも何ら問題はない。


CDで聴いた時点で既に、演奏の完成度の高さに驚嘆したが、生の演奏は、

更に素晴らしい。ピアノ・リサイタルでこれほどの感銘をうけ、強烈な印象を受けたのは、

40年間、音楽を聴いているが、初めての経験である。


結論を最初に書くと、金子三勇士氏は21歳になったばかりだが、既に完成された音楽家である。

真摯な演奏家ほど、
自分の演奏家に本当に満足したことはない。

という。金子三勇士氏もまた、同じ事を言うかも知れない。

しかし私の耳で聴いた限り、リサイタルの演奏は、「完璧だった」といっていい。


◆物凄いテクニックと繊細な感受性、音楽性を兼ね備えている。

音楽を聴く側にとって、生の演奏とCDとの最大の違いは、前者は音楽を耳だけではなく、

謂わば、「全身で聴く」ということだろう。

これは、ピアノ・リサイタルでもオーケストラ・コンサートでも同じである。

ステージで演奏家が音をだすと、楽器の音がもたらす「振動」がステージの床から

客席の床につたわり、床に固定されている観客席にとどく。

本当に良く楽器が鳴っている場合、客は足もとからその振動が身体に伝わるのが

はっきりと分かる。人体は70パーセントが水分であるから、自分の身体が音に共鳴するのである。

それが、生演奏の「迫力」の正体の一要素である。


金子氏の演奏は、ピアノ(スタインウェイ)をこれ以上は無い、というほど完全に鳴らす。

フォルティッシモは単に力任せに鍵盤をぶっ叩いても、汚い音がするだけであるが、

演奏者が正しい奏法を身につけている場合、物理的な「力」は必要最小限でありながら、

楽器は極限まで鳴る。

そしてまた、正しい楽器の鳴らし方を奏者が会得している場合、極限的な最弱音ですら、

遠くの客にまで、その音ははっきりと聞こえる。


金子氏の演奏が正にそれである。

「ハンガリー狂詩曲第2番」でも、「ラ・カンパネラ」でも、「ロ短調ソナタ」でも

金子氏の最弱音から最強音の幅(ダイナミック・レンジ)はすさまじく、オーケストラに匹敵する

表現力を可能にしている(無論、強弱だけが表現力を決定するのではないが)。


更に金子氏の演奏が非常に優れているのは、音の強弱に関わらず、音色の美しさ、音の粒の揃い方が

崩れないことである。最強音の迫力は物凄いが、決して割れたり濁ったりしない。

また、逆に最弱音での速いパッセージでも、一音一音が全て明瞭に聞こえる。これはフォルティッシモよりも

更に高度な「技術」である。

金子氏のピアノ演奏を更に仔細に観察すると、ペダリングに非常な神経を使っていることが

すぐに分かる。実に細かくペダルを踏み分けているが、失敗すると、音が濁ったり、或いはフォルテが

十分にフォルテにならなかったり、アクセントが不十分になる。

この辺りは、私より、一応ピアノを専攻した家内(偶然だが、単に年次で言えば東京音大で金子氏の先輩である)の方が、

餅は餅屋で正確に理解出来る筈だから、確かめたが、

一つ一つの音をものすごく大切に弾いていることが明らか

だという。作曲家は命を削るようにして曲を書いているのだから、一音とておろそかにするまい、という

金子三勇士氏の真摯な音楽への姿勢が、彼の演奏を磨き上げる原動力になっているのだろう。


リストを若い人が弾くと、弾けることは弾けるが、自らのテクニックを誇示する「手段」として曲を利用している場合を

しばしば、見かけるが、金子氏の念頭にあるのはまず最初に「音楽」でありテクニックは表現のための手段である、

という、非常に基本なのだが、なかなかあの若さでそれを貫徹することは困難なことを立派に実行している。


アンコールでは、リストと縁が深く、周知の通り今年生誕200年のショパンの作品群から、今日の天気も念頭に置いて

(との、ご本人の言葉だった)前奏曲集から「雨だれ」が演奏されたが、如何にもショパンの音色で美しかった。

最後に来年はイタリア統一150年にあたる記念すべき年だそうで、スカルラッティのソナタを弾いた。

金子氏のバロックを聴いたのは初めてだが、バロックには音の強弱とかテンポの指示が無いので、

演奏者の裁量に委ねられるが、曲の節目でのアクセントがメリハリをつけ、細かい音も綺麗に音の粒が揃った

柔らかい音色で、見事だった。

金子氏はソロ・ピアニストが普通に要求されるレパートリーを、たとえまだ弾いたことが無くても、

多分すぐ弾けるだけの実力を身につけている。その意味で、学生さんだが、既に歴としたプロである。

彼のピアノで、数あるピアノの名曲(ソロも協奏曲も室内楽も)を聴いてみたい、と、今日の多くの聴衆が

思ったことであろう。立派なリサイタルであった。

今週は天候が不順で身体が疲れた日もあったし、毎度のことながら、会社員の私は毎日面倒臭い俗事が

煩わしい。しかし、金子三勇士さんのピアノで、そんなことは忘れてしまった。

音楽の力の素晴らしさを、今更ながら思い出させてくれた金子さんに感謝する。

ピアニストとして、大輪の花を咲かせて下さることと信じて疑わない。

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