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2015年05月27日(水)
『高地戦』

『高地戦』@韓国文化院 ハンマダンホール

駐日韓国文化院の定期上映会。本年度のプログラムが発表になったとき、大きなスクリーンで観られる〜とDVDはお預けにしていたのでした。原題は『고지전(高地戦)』、英題は『The Front Line』。本国では2011年、日本では2012年に公開。

朝鮮戦争休戦直前、最前線のエロック高地で中隊長が「戦死」する。死体から味方の弾丸が出てきたため、防諜隊中尉が調査員として派遣される。そこには精鋭部隊と言われる「ワニ中隊」がいるが、やけにのんびりした風情だったり、少年の面差しを残した若者が大尉になっていたり。何かがおかしい。

そんな彼らは、北との密かな交流に憩いを見出している。高地は日々奪い奪われるので、両軍は同じ塹壕を入れ替わり立ち替わり使っている。ある日、南が塹壕を去る際隠した食料品が、数日後戻ってきてみると消えている。かわりに山盛りのウンコと手紙の置き土産。怒り狂った南は「判断力が弱っていた。冷静な頭だったら時限爆弾を入れただろうに」、手紙に返事を書いた。北は南にいる家族に手紙を送ってくれと頼み、南で流行っている歌の歌詞を教えてくれと頼む。南は彼らの依頼に応え、酒やマッチを受け取る。戦っている意味も判らず、お互いを殺さなければならないと言う同じ立場の彼らに、ほのかな仲間意識が生まれる。やがて休戦協定が締結し、高地から笑顔で立ち去ろうとする彼らだが……。

映画のセオリーとして、こうした異常な状況での幸せなひとときは、その何倍もの残酷さで崩壊する。兵士たちの笑顔は、最も悲惨な形で消えることになる。

ミステリ仕立ての導入からユーモラスなシーンを経由し、あれよあれよと言う間に戦争への憎悪が露わになる。のんべんだらりのワニ中隊がいざ本戦となると豹変するくだりや、「2秒」と呼ばれる凄腕の狙撃手(着弾から銃声が聴こえる迄2秒、つまり680m離れたところから標的を倒す)の描写、そしてその正体には「うわーあかん、これ格好いいと思ってしまうわ」と思う。無駄のない動きと連携、的確に素早くくだされる判断。その道のエキスパートへの畏敬の念すら抱く。ところがやがて、それらは「そうしないと死んでしまうから」だと判ってくる。

他に方法のないサヴァイバル術は、確実に兵士たちの心身を蝕む。そう迄して生き残っても、傷は消えない。以前の自分には戻れない。信じていたものは変わる、祈りも変わる。「死にたくない、助けてください」から「殺してください」に。終盤、大尉が何故自分たちが「ワニ」と呼ばれるのかを明かす。名付けたのはアメリカ軍だ。エロック高地は架空の土地。AERO-K、と書く。この名前は裏返すとKOREAになる。

この作品に興味を持ったのはシン・ハギュンが出演していたから。あの目にはこんなものを見てほしくなかった……と思わせられるような、瞳が綺麗な役者さん。とにかく目が物語る。変わってしまった友を演じたコ・スとのもの言わぬやりとりに、静かな激情を滲ませる。もの言わぬ、と言えば、「2秒」を演じたキム・オクビン(好き!)も物語る瞳を持っている。大尉を演じたイ・ジェフンも素晴らしかった。

前述したように、ユーモラスな演出ではあったものの兵士たちの排泄物がガッツリ映るシーンがあった。『王の涙』でも『国際市場で逢いましょう』でも同様のシーンがある。登場人物たちの過酷な状況が実感として伝わる。そういう描写から逃げないすごみは、韓国映画のすごみでもあると思った。

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・映画『高地戦 THE FRONT LINE』 公式サイト
日本の公式サイトまだ残ってた

・輝国山人の韓国映画 高地戦
いつもお世話になっております。ここ、キャストのプロフィールや他の出演作にリンク張ってあるのが本当に有難い。あの綺麗な顔の大尉どっかで…と思ってたんだけど『建築学概論』の子(主人公の若い頃の方)かーい! いやー全然役どころが違うってのもあるけどすごいな…あんなフワフワした大学生がこんな…戦争ホントいや! と思わせるに充分……素晴らしい。
それを言ったら二等兵の子(イ・デビッド)は『テロ, ライブ』のあの子かーい! 不憫な子の役ばかりじゃ…つらい……。
あと『チラシ:危険な噂』に出てきた盗聴マニアのおっさん、コ・チャンソクもいい仕事してはりました

・(逆風満帆)作家・森村誠一:上 原点に熊谷空襲の不条理:朝日新聞デジタル
話違うけどこの話思い出してね…森村誠一んちが8月15日に空襲(熊谷空襲)を受けたって話。不条理、理不尽。当事者とは誰なのだろう?