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2015年05月17日(日)
『聖地X』『国際市場で逢いましょう』

イキウメ『聖地X』@シアタートラム

プロトタイプ(と言っても、当時ちゃんと本公演として上演された作品ですが)の『プランクトンの踊り場』は未見です。いーやー面白かった。

オカルト的な事象を理詰めで解説していく、しかしどうしても解明出来ない謎は必ず残す。その余白をやはり理屈だけでは証明し得ない衝動や感動へと落とし込む、と言う手法に磨きがかかりまくっている。

理詰めで解説していくため、「またまた〜」「このひと頭おかしいのかな?」と言うところから一歩踏み込むことが出来る。理解出来ない事象に対してツッコミを入れる人物を配置することで、「信じられない。有り得ない」が「自分が信じようとしていなかったのだ。では、信じてみたら?」と言う変換のガイドになる。過去の作品に出てきた言葉でもあり、前川さんが言っていたこともであるが、「人類が誕生してからの長い歴史を考えると、今生きている人間よりも、過去に死んでいる人間の人数の方が全然多い」と言う当たり前の事実は、そりゃー生きてる人間の知識を結集しても解明出来ないことがあるのは当然だよなあ、と納得させられる。

「納得」は「信じてみる」ことでもあり、そして今回のストーリーにも出てきたように、「信じる」ことは「祈り」に繋がる。それは奇跡を呼ぶこともある。

登場人物たちのバランスの取り方も巧い。散々兄とAmazon(小道具の段ボール箱はAmazanになっていたが・笑)に罵詈雑言を浴びせた妹が、その兄のパソコンでAmazonを使って製菓道具を購入する。高等遊民の兄は、帰郷を知られた同級生に対して気まずそうだ。その同級生はクライアントに誠実で、自分の仕事を楽しんでいる。歯の浮くような夫の言葉、おいおいこれどうなの? 笑うとこ? とギリギリ迄引っ張っての「消えろ」、爆笑。理路整然、軽妙洒脱なやりとりは以前からの特色だけど、コメディとしてのやりとりがこんなに面白かったかこの劇団…と瞠目する場面もしばしば。安井順平が劇団にもたらした効果と、劇団員全員の実力がグイグイあがっていることを強く感じる。間、テンポ、リズムのよさ。

イキウメならではの、ともすれば説明としての処理になりがちな仮説→実験→検証の場面展開。これらを笑いとともに鮮やかに見せる技がますます冴える。料理人とオーナーのすれ違いを回想のちょっとした会話から眼前に再現する。シュークリームとペプシが出現する(笑)実験台として使われる人物の下準備にも唸らされた。常に俯瞰で構成されているなあと感嘆。兄妹の絶妙なコンビネーション、ケンカの抜け感も見事。各々の場所を小道具の位置がえと壁のスライドで見せた美術(毎度の土岐研一!)も、現在と過去、オリジナルとコピーを錯覚させ、目に見えるものがいかに曖昧なものかを実感させる。

劇団作品を続けて観ていると、と言う点では、今回の兄は『地下室の手記』の彼の違う人生かもと思える楽しさもあった。自立出来ていないように見える子供たちは、(前川作品に重要なモチーフである)地方都市にある実家と財産を有意義に使う。この兄にしても、不誠実な誠実を併せ持つ夫にしても、素直な心を持つが故に故障してしまう料理人にしても、当て書きか? なんて思わされてしまう(浜田さんごめん・笑)。女性の強さもね。今回いちばんグッときたのは盛さん演じる不動産屋さんでした。

後味はよいけれど、そこはかとない怖さ、割り切れなさも余韻として残る。「三人目」は生きている人間か? 彼はあの後どうなったのだろう。

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・余談。もーどこで何が起こるか判らない! と気を張って観ていたもんで、終盤兄がトイレから出てきたとき「これも増えたやつ?!」としばらく疑っていた(笑)て言うかトイレで増えるって判ってるのにここで用を足す兄の図太さに感心した…冴えてるけどやっぱアホの子の片鱗が……

・赤堀雅秋×前川知大インタヴュー『散歩する侵略者』(2006年)
当時張ったけどまた張る。つくづくこのタッグ企画したひと慧眼よな…観られてホントよかった……と、この日の観劇後話していたのでした。前川作品を他の演出家が手掛ける難しさ、映像にする難しさ、と言う話題から。見えないものが見える、対象物が増える、と言うのは映像では簡単に出来る技術だけど、果たしてそれは実際に「見える」のだろうか?

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『国際市場で逢いましょう』@シネマート新宿 スクリーン1

ファン・ジョンミン出演作。原題は『국제시장(国際市場)』、英題は『Ode to My Father』。昨年十二月に本国で公開され、あれよあれよと動員記録が塗り替えられていくさまをリアルタイムで見ていてヒェーッとなっていました。それから約半年で観られるとは…韓国映画の日本公開、大概一年後とかだったりしますので。東方神起(ユンホのスクリーンデビュー作だそう)効果でしょうか? 宣伝展開もとてもしっかりされていたなー。新大久保には期間限定でコンセプトショップも開店しています。配給さんに感謝。

韓国現代史をひとりの平凡な男の視点から辿る。主人公ドクスは朝鮮戦争で父と妹と離れ離れになる。西ドイツへ出稼ぎに行き、ベトナム戦争に技術者として出征する。長男である彼は、家長としてひたすら家族に尽くす。文字通り身を削って。

ちょっとしたことに頑なになり腹を立てる、現在の年老いた主人公。何故そんな些細なことに拘るのか? 観客が不思議に思うタイミングで、ストーリーは過去へと遡る。「歌手でいちばん」なのはナム・ジン、叔母から受け継いだ店と土地は絶対に手放さない、その理由。壮大? 確かにそうだが、これらはこの国、その時代に生きた人々に、満遍なく降りかかったことばかりだ。主人公が体験したことは、この国では「平凡」になってしまう。時代は過ぎ、語られなくなった歴史は忘れられていく。映画は、語られなくなりつつあるこれらの出来事を、誠実にひとつの記録として残す。沢山の涙と、沢山の笑いとともに。

そしてこの国における家長、長男の責任の重さたるや。父が帰ってくる場所を守り続けた主人公の生涯は美談にも出来る。しかしそれでよかったのだろうか? 映画を観ている間、頭の隅からこの思いが離れなかった。主人公の最後の台詞にひとつの答えがあった。安堵、恐怖、さまざまな感情が湧き上がる。彼のなかで父親は生き続けている。「父との約束」は呪いの言葉でもあったのだ。団欒の場から離れ、隣室でひとり涙を流す「平凡」な男。妻に泣くならふたりで、と言っていたのに、自分はひとりで泣いている男。いつでも「大丈夫だ」と言い、家族に見返りなど求めず、老年を沈黙で過ごす男。このシーンは、家族と言う枠組みについて苦い味を残す。

主人公は最後の台詞により、父系の呪いから自分と家族を解放したとも言える。彼は「特別」な男だった。そんな偉大な男たちが、この国には沢山いるのだろう。そして映画は、彼らに感謝の思いを贈る。副題とも言える英題(秀逸!)にそれが表されている。

同じような記憶は自分たちの国にもある。これらは繋がっていて、今も続いている。離散家族を探すテレビ番組は中国残留孤児の報道を見ていたときの気持ちを甦らせる(若い子は知らないよねもはや……)。傷痍軍人の姿や、炭鉱事故のニュースも幼い記憶に残っている。「チョコレートギブミー」も戦後の日本人の知識としてある。「技師なので危険はない、戦闘に参加する訳ではない」なんて、最近どっかで聞いたばかりの話だよね〜。そして『追憶のアリラン』ではソ連って国はよお…と思い、この作品ではアメリカって国はよお……と思ったのだった。

自分に寄せて話をすると、ウチの父は長男で、台湾からの引き揚げ組で、お父さんが早くに亡くなり、弟妹を育てるためにいろんなことを諦めたひとだ。やはりダブらせて観てしまうところはあった。数年前その頃の話を突っ込んで聞く機会があった。聞くことが出来てよかった。父は伴侶(まあ私の母ですな)も早くに亡くし、ここ迄自分を育ててくれて、育ったら放っておいてくれた。家族と言うものに縛りつけなかった。感謝してもしきれない。

さてジョンミンさんですが、いやもう素晴らしかったですねって言うかドクスにしか見えなかったですね! 鑑賞中はドクスとしてしか見てませんでしたね! と言いつつあの綺麗な茶色の瞳がスクリーンに映し出されるシーンでは監督有難う〜と思っておりました。なんかもう、この映画で「韓国の父」とかなんとかキャッチフレーズがついたようで…ここにもまた「国民的俳優」が……。特殊メイクやVFXによる見た目の変化もすごいですが、年齢に沿った姿勢や発声を丁寧に使い分けていたところに感嘆させられました。そしてドクスの生涯の友、ダルグを演じたオ・ダルスが最高でした。歴史の重みに押し潰されず観ることが出来たのは彼の存在が大きい。あの(いい加減な・笑)生き方、指針だわ。あたしゃダルグみたいな人間になりたいわ……。「ドクスやああ〜〜〜」の声が耳から離れませんよ。ファッション七変化も楽しんだわ〜ときどき竹中直人に見えた(笑)。

ドクスのお父ちゃんは『チラシ:危険な噂』(DVD発売時『ゴシップサイト 危険な噂』)にも出てたチョン・ジニョン。冒頭にしか出てこないのに強烈な印象を残す父親像。稲川淳二に似てると思っていた……。あと子役なー! 特にダルグの子供時代! よう見つけてきた!

主人公が時代時代ですれ違う実在の人物たちも印象的。アンドレ・キムはすぐ分かった(笑・沼の知識として)。お相撲さんが分からなかったなー。国民的シルム(朝鮮相撲)選手、イ・マンギだそうです。シルム界の技のデパートと呼ばれ、現在は仁済大学教授とのこと。こういう豆知識をパンフ等で補足してくれると嬉しいな(要望)。ユンホさんは実在の歌手ナム・ジン役。出演時間は長くありませんがとても印象に残りました。歌も唄ってくれて、命も助けてくれて、そりゃドクスもダルグもぽわ〜てなるわ。

あと何度か観に行きます。映画館毎に違うコラボ企画をやっているので、有楽町でも観てみたいな。

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・『国際市場で逢いましょう』
日本の公式サイト

・輝国山人の韓国映画 国際市場で逢いましょう
データベース。いつもお世話になっております! 有難うございます!

・「国際市場」新大久保店 〜東方神起ユンホ出演『国際市場で逢いましょう』と釜山の魅力満載のコンセプトショップが期間限定で誕生!|韓流Mpost
・CJ JAPAN - 新大久保に、映画の舞台となった「国際市場」コップンの店が登場!|Facebook
行こうっと

・ファン・ジョンミン、インタビュー!「やっと自分の子供に見せられる映画が撮れました」 | 韓スタ!
・MOVIST|즐길 줄 아는 폭 넓은 배우가 되기까지 <국제시장> 황정민
・excite翻訳:楽しむことができる幅広い俳優になるまで『国際市場』ファン・ジョンミン
・스타 매력탐구 | 우리 아버지들의 초상 황정민, 그리고 <국제시장> - 한국의 ‘톰 행크스’가 쏘아 올린 연기의 ‘결(結)’
・excite翻訳:スター魅力探求|うちのお父さんの肖像ファン・ジョンミン、そして『国際市場』-韓国のトム・ハンクスが打ち上げた演技の‘結’
ジョンミンさんのインタヴュー、関連記事。写真も素敵。韓国のトム・ハンクスと言われているのは『国際市場〜』で主人公が韓国とその時代を代表する重要人物と会う場面から。『フォレスト・ガンプ』を連想させるんですね

・―韓国人の深き孤独―韓国映画「国際市場」|ハフィントンポスト
・ふしぎソウル:(11)大ヒット映画に見る激動の韓国現代史 - 毎日新聞
・『国際市場で逢いましょう』にみる韓国の家族像 - 西森路代|WEBRONZA - 朝日新聞社
・私の知る、最も紹介したい韓国がここに!´ぅ_ ;`)|韓国・ソウルの中心で愛を叫ぶ!
読み応えがあり、知識としても役立ったレヴュー。有難うございます

・映画『Ode To My Father(国際市場で逢いましょう)』〜より進化した「老化・若返り」技術〜|foton
ジョンミンさんたちの顔をツルツルに若返らせた(笑)日本のデジタルイメージングカンパニー、foton

・Vimeo: Age Reduction VFX “Ode To My Father”

レタッチメイキング動画

・Love Larson : Magnolia Agency
登場人物の70歳代特殊メイクアップを担当したスウェーデンのチームLove Larsonのサイト。『007 スカイフォール』も担当したと言うのは上記fotonの記事で読んでいたけど、『ドラゴン・タトゥーの女』もそうだったんだ! 一緒にアーカイヴされて並んでるの、嬉しいなあ

・‘국제시장’, 개봉 4일만에 100만 관객돌파 ‘입소문 시작됐다’
・excite翻訳
封切り四日で動員100万人を突破したときのニュース記事。口コミでみるみる動員が増えたようです。
出演者たちによる100万人突破有難う画像も。クリスマス近くだったのでサンタとトナカイに扮してるのがかわいい

・'국제시장' 천만 감사 인사 영상|CJ Entertainment Official

本国1000万人突破時の出演者コメント動画。
韓国では大体動員300万人突破すると結構なヒットなんだそうです。最終的には歴代二位、1410万人を動員したとのこと