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2015年04月09日(木)
『甘い人生』『建築学概論』

昨日に引き続きシネマート六本木。入り浸りで『悪魔を見た』も観たかったんだけど、体力(肩凝り)的に二本が限界でございました。せっかくなので? おひるごはんは六本木ヒルズの韓美膳でチーズスンドゥブ定食を食べましたよ。ウマー。

人生なが〜い、そしてみじか〜いとしみじみした二本。

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『甘い人生』@シネマート六本木 スクリーン2

シネマート六本木クロージング企画、『韓流祭』の「イ・ビョンホン祭FINAL」。ビョンホンさんの仕事を初めてちゃんと観ました…と言うのもこれ、ファン・ジョンミンが出演してるんですよ。この作品で注目され、同年の『ユア・マイ・サンシャイン』で実力派の地位を確固たるものにしたようです。

原題は『달콤한 인생(甘い人生)』、英題は『A Bittersweet Life』。本国でも日本でも2005年に公開(昨日観た『母なる証明』もだけど、同年に公開されてるところが韓流四天王たる所以ですね。この日も、平日午前中+過去作品であるにも関わらず超盛況でした)、監督はキム・ジウン。

ボスが上海に出張に行ってる間になんかある…と言うところに『新しき世界』を思い出してしまったり、ジョンミンさんがフィリピン絡みの仕事をしているってところにニヤニヤしてしまったり。いやね、ジョンミンさん、子供のときの渾名が「フィリピン」だったそうなんです(顔立ち参照。それにしてもこの渾名付けたひといろんな意味ですごいセンスだ)。『傷だらけのふたり』では「赤い顔の猿」って言われてたし(……)当て書きかと言う。しかし観ている限りの印象ですが、韓国では映画と映画スターが深く社会に溶け込んでいることをとても強く感じます。ジョンミンさんに限らず、その作品に出ている役者の他の出演作の小ネタが織り込まれていたり、役者本人に関するプライベートなエピソードが反映されていたりする。「国民的俳優」「韓国の母」「韓国の妹」と言ったキャッチフレーズもよく目にしますし、それだけ映画と言う娯楽が生活に根付いているのだろうな。ビョンホンさんのことはまだ詳しくは知らないのですが、今作にもそう言った仕掛けがあったのではと思います。

閑話休題。ボスが留守の合間に愛人の監視を命じられた裏稼業の主人公。序盤は主人公の堅実で真面目な仕事振り、ボスからの信頼も厚い様子が描かれます。ところがあることをきっかけに、彼の人生はみるみるうちに怒涛の展開を見せていきます。

せつないのは主人公がボスの愛人に抱いた気持ちについて、自分でもよく解っていないところ。ひたすら仕事に励んでいた彼は、恋愛に関してとても純真だったのかもしれません。いや、恋をすると言うこと自体を知らなかったのかもしれない。ラストシーンにほろ苦さが残ります。

まーそれにしても、バイオレンス描写の容赦なさっぷり。血みどろですがな。この回男性客の姿は見掛けなかったのですが、まぁ、とかはぁ、と声を漏らしつつも、きゃあ残酷! 怖いわ! となってる観客は殆どいなかったように感じた……皆さんタフ。まあ十年前の作品で、今回が初見と言うひとも多くはないだろうし、それをわざわざ観に来るくらいなので免疫があるのでしょう。それに何より、そのバイオレンスシーンを演じるビョンホンさんが格好いいんですよ。流麗にキマるアクションは眼福ものですし、血まみれの姿には被虐美すら感じる程。部屋で眠れぬ夜を過ごす彼の瞳は仔犬のよう。スーツ姿でケーキを丁寧に食べたり、エスプレッソに砂糖を入れたりと、タイトルに目配せしつつ主役のチャームを見せるところにはアイドル映画の要素を感じました。アイドル映画と言うのは、優れたエンタテイメントでもありますよね。

さてジョンミンさんは狂犬キャラで非常に楽しく観ましたよっと。『殺し屋1』の垣原みたいな口裂け傷がチャームポイント☆ 卑怯っぷりも死にっぷりバカッぷりも堪能致しました。いやんバカン。

『母なる証明』から二日連続で観たチン・グはなかなか印象に残る役で出ていました。あの子あのあとどうなったんだろうなあ……。そしてダルスのおっちゃんことオ・ダルスがチョーおいしい役で出てた。チョーかわいかった。

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・輝国山人の韓国映画 甘い人生
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『建築学概論』@シネマート六本木 スクリーン1

同じく『韓流祭』、「オム・テウン祭FINAL」。チョ・ジョンソク(『観相師』『王の涙』出演)のスクリーンデビュー作だと言うので。

原題は『건축학개론(建築学概論)』(サブタイトル「Architecture 101 where our love begins」)、英題は『Architecture 101』。2012年作品、日本公開は2013年。監督はイ・ヨンジュ。

1990年代。大学で出会い、お互いの気持ちを伝えきれないまま苦い別れ方をしたふたり。十五年後、建築士となった彼の前に彼女はクライアントとして現れる。どんな家に住みたいのか? 顧客の理想とする家を建てるため、彼は彼女の気持ちを確かめていく。それはふたりの過去の記憶を呼び覚ます――。

90年代と現在のふたりを、別々の役者が演じる。十五年と言う期間なら、ひとりの役者で演じることも出来なくはない。しかし違う役者が演じることで、「忘れていた」過去の記憶はまるで初めて起こることのようであり、初めて見聞きするように感じる。そんな錯覚に陥るのは現在の登場人物だけでなく、観ているこちらも、なのだ。そんな大人になってしまった、初恋のひとの顔と名前を忘れる程になってしまった――確かに社会に出てからの十数年と言うのは、日々をこなすことに忙殺されているうちに気付けば過ぎている年月として絶妙な期間だ。

それを痛い程実感出来るのは、制作側が想定したであろう観客世代にどストライクだからです。ディスクマンにヘアムース、あのファッション……キエーーー(記憶の扉をいろいろと開かれたらしい)いたたまれない!!!「レコードプレイヤーしかなくて借りたCDが聴けない」と言うエピソードは、ちょっと後の世代だと「ビデオデッキしかなくてDVDが観られない」、今だともう「配信されてるからダウンロード先教えるね」って感じでしょうか。貸したものが返って来ないと言うせつなさはない。しかし若い世代の観客には、それに替わる現代のせつなさがある筈。彼らは彼らにしか感じ得ない気持ちを以って、恋人未満のふたりをやきもきし乍ら観るのでしょうね。重要なモチーフにもなっている当時のヒット曲「記憶の習作」も非常に心に響くものでした。本国の観客は特別な思いを持って聴いたのでしょう。

ここでふと思い出す、先日観た初恋もの『傷だらけのふたり』との共通点を見出しつつも、今作に苛立ちが起こらなかったのは何故か。それは女性側にも新しい道が開けていたからなのだろうな。そういうところは非常に現代的であったと言えます。「家を建てる」と言う行為に、登場人物それぞれの人生、重ねて来た時間を重ねられる。新しい家での生活が始まる。映画が終わったあとも、彼らの人生は続くのだ。それは十五年なんてものではない、まだまだ長い時間。抑えた演出で繊細に描かれた、人生のドラマとしても心に残る作品でした。これはかなり好き。

あ、あと韓国映画はバイオレンスものばっかり観てるので、素敵な女優さんが素敵な衣裳をとっかえひっかえ着てる様子をめっちゃ楽しんだ…癒し……。

さてジョンソクくんは90年代パートに出てくる主人公の友人。浪人中なのに勉強している様子もなく、ファッションと女の子に力を注いでいます(笑)。しかし実のところどうだったんだろう? 当時最先端のファッションに身を包んでいてもそれは街の風景からは浮いている(と言うか、あまりにも最先端だともはやダサい・笑)。ふたりの彼女、ウキウキとワクワク(この名前がまたいいじゃんね)は姿を現さない。恋に奥手な主人公に与えるアドバイスは、果たして経験上から得たものだったのだろうか……? ファンタジー的要素もあるキャラクターでもありました。現在パートに出て来ない彼は、今でも浪人生のままあの街をフラフラしてるような気すらします。ウキウキとワクワクと一緒にね。ちょっと妖精ぽいね、ファッションセンスの悪い(笑)。あっはっはかわいい。

そうそう、ジョンソクくんの台詞「どうする、お前」は公開年の流行語大賞のひとつに選ばれたそうなんですが、その台詞字幕に訳されてなかったんです。どの部分が「どうする、お前」だったの…口癖だったそうなので何度も出て来てたと思うんだけど解らない! まだまだ聴き取り力がありません(泣)。

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