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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
外国翻訳小説の日本での映画化―ゲド前記

先週は時間不足から更新が半端で、申し訳ありませんでした。
アメリカの友人が日本に来ていて一度会おうと言っていたのだけれど、土曜の晩に相談してみたら日曜しか空いている時間がないことがわかった…という次第。

ひさびさに会って互いの近況以外に話題といえば、両国で同じものを見たり読んだりする映画とか、小説(私にとっては翻訳小説)。
彼女は海洋小説は読まないのですが、ファンタジーの分野では多少、共通の話題があります。

指輪物語やナルニア国物語の映画の話をして、
もうじき日本では「ゲド戦記」がジブリでアニメーション映画になるのよ、と言ったら、初耳らしくて驚いていました。
マニア筋を知らない一般的アメリカ人であろう彼女でも、アカデミー賞をとったジブリ・アニメーションは見ています。


さて、その「ゲド戦記」の公開が近づいているわけですが、アメリカの翻訳作品を日本で映画化するという点で、私が案じている点は2つあります。
ひとつは、日本人が日本語翻訳を通じて描いたアースシー世界と、アメリカ人が英語で読んだ原作のアースシー世界の間にイメージの乖離はないのか?ということ。
ふたつめは、今回のストーリーは原作3巻だけではなく4巻にも一部踏み込むとのことですが、かなりフェミニズム色※の強い4巻を日本人男性が監督した場合、配慮点が微妙に異なる可能性があり、その点をアメリカ人女性が見た時にどう思うのか、とうことです。

※フェミニズム:日本で言うフェミニズムとアメリカのフェミニズムには価値観の差違があり、アメリカで言うフェミニズムは日本よりはるかに、日本で言うところのウーマンリブ色の強い(最近はジェンダー問題と言うのかしら?)ものです。
私はこのあたりきちんと追いかけているわけではないのですが、新聞などで漏れ聞き推測するに、日米のジェンダー観には相当な落差があるようなので。女性の私でもアメリカのジェンダー問題は理解できているとは言えないし、日本の女性でもゲド4巻にとまどう方はいらっしゃるので。それは社会の違いだから仕方ないとは思うけれども、これは結構微妙な問題をはらんでいるのではないあかなぁと。


今回の映画化にあたり、製作者は日本語版翻訳者に、解釈が違うところなどあったら指摘してくださいという依頼をされたそうですが、翻訳者は、自分の翻訳は一つの解釈なのだから、それをもって正とすることは出来ないと、製作者に解釈を任せたという話がネットに載っていました(読売新聞のサイトからリンクしている製作者サイトだったと思います)。

この翻訳者の方のあげられた理由は、原語と翻訳で2回、同一の小説を読んだ方なら理解できることでしょう。
どんなに良く出来た翻訳でも、自分が最初に原語で読んだ時に思い描いた映像と、翻訳で日本語を通して思い描く映像とでは、どうしても微妙な差違が出てしまう。
それは、英語と日本語ではリズムが違うし、ある単語の内包する意味範囲が微妙にずれますから、本当に致し方ないことではあるのですが。
翻訳者の訳した日本語版原作が絶対のテキストではないのです。


そのあたりの話をアメリカの友人にしたのですが、彼女いわく、でもひとつめのイメージ解釈の違いは、英語の日本語のという問題ではないのではないの?と。
言語の違いよりはるかに大きい解釈の違いがあると思うわ、と言う。その例として指輪物語を挙げていました。
彼女はロード・オブ・ザ・リングを、もちろん母国語である英語で読んでいるわけですが、「あの映画は私の思っていたロード・オブ・ザ・リングじゃない。あんなバケモノがうじゃうじゃ出てくるような話じゃないわ!」と言うのです。
いや、それは全く私もその通りだと思いますが。

私は日本語、英語という原語の違いにこだわりすぎているのでしょうか?

ともあれ間もなく公開となる「ゲド戦記」
海外でも50ヶ国で公開が決まっているそうですが、海外での解釈評価がどうなるのか、日本での評価とどう異なるのか、それが言語世界によるものなのか、それともロード・オブ・ザ・リングのように演出解釈によるものなのか、そのあたりに興味があって、楽しみにしています。
それと、日本語版を見る前にこんなことを言うのは何かもしれないのですが、英語吹き替えの海外版もぜひ見てみたい。
良い機会だから、原語のリズムでアースシー世界を感じてみたいな…と思います。
うーん、六本木ヒルズあたりで英語版の上映ってないのかしらん。

英語吹替版のゲドは誰になるのだろう。
…という話を別の友人にしたら「紅の豚のフランス語版みたいにベストキャストになるといいね」と言われました。
私、今まで知らなかったんですが、フランス語版の豚さんはジャン・レノだったんですね。ぴったり!感激!
じゃぁ英語版は誰?と思って調べてみたら、英語版の豚さんは、ティム・バートン版「バットマン」でブルース・ウェインを演じたマイケル・キートンでした。

個人的希望としては、ゲドの声にはクリストファー・リーのお名前を挙げたいと思いますが。いかがなものでしょう?


2006年07月08日(土)