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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
M&C的エスメラルダ見学記

先週末に、チリ海軍の練習帆船エスメラルダと、インドネシア海軍の練習帆船デワルチが東京・晴海埠頭に来航しました。

エスメラルダについては今回、Salty Friends -- セイルトレーニングシップ海星の元クルーを中心とし、帆船の魅力を広く紹介することを目的としたグループ(ホームページは http://saltyfriends.com。3月にはM&Cバックステージツァーを主催されています-- 主催の特別見学会に参加させていただきました。

この特別見学会は、Salty FriendsメンバーのQさんのご尽力により実現したもので、スペイン語が堪能なQさんは見学会の間、説明・案内役のチリ海軍士官・下士官の方の通訳としても大活躍でした。

現存する数多くの帆船の中で、エスメラルダがちょっと目立っている理由は、縦帆の大型帆船だからではないでしょうか?
古い話しで恐縮ですが、むかし大阪で帆船まつりが開催された時、旧日本丸と旧海王丸、ポルトガルのサグレス、メキシコのクワウテモック、コロンビアのグロリア、ポーランドのダルモジェジィと横帆船が揃う中、エスメラルダだけが、フォアマストのみ横帆であとは縦帆のバーケンティンでした。
その頃の私はまだ海洋小説を知らず、結果として戦列艦もフリゲート艦も知らない単なる児童文学(アーサー・ランサム)ファンだったので、横帆より縦帆の方が馴染みがあり(ランサムに登場する船は縦帆が多い)、以来なんとなくエスメラルダ贔屓になっているのでした。

エスメラルダ(手前)奥はデワルチ


「エスメラルダ」とはスペイン語で「エメラルド」の意。でもその白い船体、白い帆を広げて帆走する美しい姿から「太平洋の真珠」というニックネームも頂戴しています。
エスメラルダの母港は太平洋岸に面したチリのバルパライソ。

ここで、ピンッ!と来た方、大正解です。バルパライソは映画M&Cの最後でアケロン号を託されたプリングスが、捕虜の引渡しと修理のために寄港することになっていた、ガラパゴスからは最寄り(1800年当時。現代は他に近い港がいくらでもあります)の海港。町ごとそっくりユネスコの世界遺産に指定されているとのこと。バルパライソ港と日本の大阪港は姉妹港の関係を結んでいるのだそうです。

ここらへんの解説は全て、Qさんのご説明をそのまま中継させていただいております。
見学会の時にきちんとメモをとっておけば良かったのですが、写真をとりながらメモをとりながら落伍せずにツァーについていくのは不可能なため、これは記憶だけで書いています。
もし記憶違いなどありましたら、これはQさんの間違いではなく私の間違いです。
お気づきになられた方>お手数ながら左下の「郵便船」をクリックしてメールにてご指摘くださいますよう。

さて、これは英国でも日本でも同じですが、伝統ある船の名前は、代々引き継がれていくもの。現在のエスメラルダは、5代目(6代目目?)。チリ海軍の歴史で最も有名なエスメラルダは1879年のイキケ海戦でペルー海軍と戦ったエスメラルダ2世です。

現在のエスメラルダは鋼鉄製のマストを持ち、レーダーなど現代の電子装置を備えていますが、その内部はやはり、昔ながらの伝統帆船。

士官集会室とバーカウンター


M&Cで言えば2度目の宴会(キリックがガラパゴス・プディングを運んでくる)が開かれていた部屋に当たりますが、エスメラルダに勤務する20名超の士官が共有するダイニングルームです。とはいえ豪勢なバーカウンター付、正装でないと入りにくい雰囲気ですが、実際のところはどうなのでしょう?

艦長公室


「艦長の応接間です」との説明がありました。M&Cで言えば、ジャックとスティーブンが合奏している部屋ですか? 調度が豪華でソファーもふかふか、とても軍艦の中とは思えません。

この艦長公室の壁に、日本海海戦の油絵が飾られていました。「三笠(旗艦)から見た和泉」。日本海海戦で活躍した巡洋艦「和泉」の前身は、実はエスメラルダ3世(4世?)。日本がチリから購入した艦でした。
日本では戦後の特殊事情などもあり、日本海海戦のことは忘れられていますが、世界史的に見ると、大国ロシアに小国日本が一泡ふかせたこの海戦は、当時、欧米列強にやられっぱなしだった他の小国たちから予想外の評価を受けていることがあり、驚かされます。

もっともこの日記とて、トラファルガーやコペンハーゲンの海戦の話はしても5月27日(日本海海戦の日。戦前は海軍記念日で休日でした)は素通りしています。まぁ本来が200年前の英国の映画を扱ったHPだからですけど。
ヨーロッパの200年も昔の話なら気軽にできるのですけど、それは基本的に私たちに関わりのない話しだから…という部分はあるのかもしれません。アジアだと、400年前の文禄・慶長の役の話でも気をつかいますし、やっぱりものが戦争である以上、難しいですね。
来年2005年はトラファルガー200年であると同時に、日本海海戦100年でもあるわけですが、でもやはり日本では、イギリスのように無邪気にお祭りをやることは難しいのかもしれません。

士官候補生集会室


話し戻って、エスメラルダの候補生集会室。
M&Cの士官候補生室に比べるとかなり広いですが、エスメラルダは本来、練習帆船すなわち実習船ですから、士官候補生は100人前後乗り組んでいるそうです。ここは航海中に授業を行う教室でもあるとのこと。

医務室(手術室兼)


マチュリン先生の昔と比べて、今は専用の部屋と設備が整っています。盲腸程度の簡単な手術であれば船内ですませてしまうそう。
エスメラルダには1名の外科医と、1名の歯科医、3名の看護士が乗船しているとのこと。歯科医のための部屋もちゃんとあります。ここも見せていただきましたが、ヒギンズの仕事場より大幅に高級でした(笑)。

フトックシュラウド


M&C原作3巻6章に、奮起したマチュリンがマストのフトックシュラウドを登ってしまうエピソードがあります。
これがそのフトックシュラウド。
ご覧の通り、通常のシュラウド(下の段索部分)とは逆の角度をなしており、この写真の水兵さんはすでに上半身が檣台にかかっていますが、この体勢になるまでの何段かは完全に背中を下にして段索にぶらさがることになります。
自分の全体重を支えきれるだけの腕力がないと背中から甲板に墜落するわけで、登っている人も怖いだろうけれど、下から見てるだけでも結構ハラハラします。ましてや3巻の場合はぶらさがっているのは病み上がりの人なのですから…、ジャックとボンデンの気持ちがほんの少しだけわかりました。

最後に、帆船と言ったらこれでしょう…の艦首像(フィギュアヘッド)。
エスメラルダはコンドル。デワルチはインドネシアの海の神様です。




デワルチ全景


エスメラルダ見学に時間がかかってしまったため、デワルチはざっと甲板をまわっただけですが、インドネシアと言えば木の彫刻の凝った家具が有名。それを反映してか艦橋など木造構造物に丹念に彫刻がなされていたのが印象的でした。
こういう木造帆船のありかたもあるのか…と思うとともに、西洋起源の帆船でもその国なりにカスタマイズされて、お国柄が出るのだなぁと思ったのでした。

ご案内いただいたQさん、Salty Friendsの皆様、お世話になりました。ありがとうございます。


2004年06月22日(火)