2009年11月16日(月)  金蘭千里中学校講演「宝物はあなたの中にある!」


大阪にある私立の金蘭千里中学校にて講演。『子ぎつねヘレン』も応援してくださった今井雅子ファンの方のご紹介というわけで、その方が持参されたヘレンちゃんを手に記念撮影。

2年生の皆さんに「宝物はあなたの中にある!」をテーマにお話。先生方の他に父兄の方も何名か。地元大阪出身で、今日は実家のある堺から泉北高速に乗って天下茶屋で堺筋線に乗り換えて来ました、と大阪弁で語り始めると、親近感を持ってもらえた様子。


講演の内容は2年前に大学生を前に話した内容(>>>2007年10月26日(金) 愛知工業大学で「つなげる」出前講義
)をアレンジ。前回は作品ごとに「アイデアをどう結びつけたか」を話したが、今回は事前に授業で『子ぎつねヘレン』を観てくれているとのことで、ヘレンを引き合いに出しながら、「原作から脚本、映像になるまで」を説明したり、脚本開発や撮影の裏話を披露したりした。最初に刷った脚本で役者さんを口説き、決まった役者さんに合わせて脚本を書き直すこと(これを「あて書き」と言う)、ロケハンに行ったら太一とヘレンの家出先に想定していたゲームセンターがなくて、代わりに貨車でどうかと提案されたことなどを話す。


脚本家にとって大事な「つなげる力」は、「引き出しを使いこなす力」と言える。その引き出しの中身は、日々のちょっとした心がけで充実させることができる。それは、好奇心と想像力を掛け合わせて、「おもしろい!」と感動すること。感動したことは記憶に刻まれる。外国語もそう。丸暗記よりも、そうか、なるほど、と感心しながら覚えたほうが身につく。「L'arc en ciel」はフランス語の「虹」で、分解するとarc(アーチ)とciel(空)になる。空にかかるアーチで虹かあとうなずいたら、もう忘れない、


好奇心と想像力のアンテナを張っておくと、おもしろいことや出会いがどんどんあるし、どんどんつながる。金蘭千里中学校は進学に熱心な学校らしいが、おもしろがって学んだことは、受験を乗り切るだけじゃなくて、一生ものの財産になってくれると思う。


最後は『ブレーン・ストーミング・ティーン』の中にある言葉「宝物はあなたの中にある!」で締めくくる。

質疑応答の口火を切ったのは校長先生。「自分の意図したメッセージがうまく観客に伝わらなかった場合、どう感じるか」という質問に「作品は受け取ってくれる人がいて完成する。いろんな見方があっていいし、感想から発見すること、学ぶことも多い」といったことを答えた。

続いての先生は「中学校時代はどんな生徒でしたか」「作品を書くための専門知識はどこから得ますか」。中学校時代はソフトボール部の万年補欠で、週末は試合応援ばかり。でも、クラブ活動は最後まで続けなさいという母の方針で、続けたことが根気強さを養ってくれた。文化祭では脚本を書いたり演出したりした。作品に必要な専門知識は、たとえば『子ぎつねヘレン』なら獣医監修の方がついて、用語などは助けてもらえるが、幅広く知識を身につけるためには新聞を読むのがいちばん、と答える。

生徒さんの質問トップバッターは「小心者で人前で話すのが苦手」だという男の子。でも、手を挙げて真っ先に質問する勇気はさすが。わたしが中学生の頃はみんなの前で声をあげるのが極端に苦手だったが、「活発な人を輪の外から眺めている気持ち」を知っていることは、わたしにとっては大事なこと。恥ずかしいと思うのは自分を否定されるのを怖れるからで、裏を返せば、それだけ自分が好きということ。その気持ちも大切にしてほしい。

彼が「『つばさ』観てました」と言ってくれたのに乗じて、年末放送の総集編とスピンオフの宣伝をさせてもらった。

生徒さんのお母さんからは、母親からどんな風に育てられたかという質問があった。何事も最後までやり通せと言われて、続けることの大切さをたたきこまれたこと、中学一年のときに当時の東ドイツに連れて行かれたことがその後の人生に大きな影響を与えたことを話す。でも、後から思ったのだが、母がしょっちゅう「あんたはおもろい子や」と言ってくれたことが、わたしに自信をくれたように思う。ここにも「面白がることが力を伸ばす」法則が生きている。

質問に反射神経で答えるときの脳内は、ブレーン・ストーミング状態。自分の回答を客観的に聞きながら、へーえと思ったりする。

他には「スランプのときはどうしますか」という男の子からの質問。あまりスランプはないが、やる気が出ないときは無理して書こうとせず、まったく違うことをやって気分転換する。そうすると、また書きたくなる。仕事で一緒になった出演者の印象を聞いてくれた子もいた。

「仕事は楽しいですか」と質問した女の子がいて、そのシンプルさが印象に残った。「楽しいです」と答え、「仕事を楽しくするのもつまらなくするのも自分次第です」と付け足した。彼女は「どうやったら今日の話のような心を打つ言葉が出て来るんですか」と二つ目の質問をした。たとえば、「傘と心は〜」の言葉は、『風の絨毯』プロデューサーの益田祐美子さんが英語を教わっていたときの例文だったと紹介。日々の経験の中でわたしの心を動かした言葉が、彼女の心にも何かを残せたとしたらうれしい。

講演の後に校長室で歓談しているところに、生徒さんたちが次々と訪ねてきたとき、サインではなく握手を求めたのは彼女一人で、「仕事が楽しいのはいいことです」とあらためて言い、しばらく握手の手を離さなかった。もしかしたら、彼女は自分の毎日を楽しくする方法を探しているところなのかもしれない。

時計を持っていなかったので時間がよくわからなかったが、質疑応答も含めて2時間近くだったような……よくしゃべった。

校長室にて、中学校と高等学校の校長を兼ねる辻本賢さんと歓談。気さくでとても話しやすい方。わたしのサインを求めに来た女の子たちに「入れ入れ」と手招き。校長先生と生徒さんの距離が近い。今も教壇に立ち、公民を教えているとか。下敷きやらノートやらペンケースやらに生徒さんの名前と「宝物はあなたの中にある!」と今日の日付と今井雅子のサインを書き入れた。お母さんが質問してくれた生徒さんが来たので、USJの短編小説「クリスマスの贈りもの」の小冊子にお母さんあてのサインを入れて手渡した。

校長先生は映画青年だったそうで、学生の頃、早朝の映画館を借り切って自分の好みの作品を自主上映し、そこでの一年分の収益をつぎこんで無料上映会を開いたりしていたとか。あたたかみのある自慢の校舎は卒業生が設計を手がけたそうで、ゆったりとスペースを取った階段に「赤絨毯を敷いて結婚式挙げたらええと思うてるんですよ」。

学校はホーム、卒業生を含めた生徒とその家族、職員とその家族は大きなファミリーだと考える校長先生。その精神は、障子張りのパネルを開けると登下校する生徒が見える校長室のたたずまいにも見て取れる。わたしもまた帰ってきたいと思える素敵な学校だった。

2008年11月16日(日)  『七人は僕の恋人』→シブヤさんの結婚パーティ
2007年11月16日(金)  三丘スポーツ史3に『寄り道ブドウ』掲載
2006年11月16日(木)  映画『フラガール』に拍手
2005年11月16日(水)  『天使の卵』ロケ見学3日目 ミラクル

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