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2016年10月30日(日)
『fractrec launch / mouse on the keys 10th anniversary』

『fractrec launch / mouse on the keys 10th anniversary』@TSUTAYA O-EAST

mouse on the keys十周年+レーベル設立おめでとうございます〜! フルハウス! 演出からなんから確固とした世界観と鉄壁な演奏、いんやもうあまりにもすごいものを観るとゲラゲラ笑うよね……。川さんが以前「デカいところより、UNITくらいのキャパがコンスタントに満員になるくらいの活動をしたい」と仰ってましたが、広いところでやるならやるで、その場所でしかつくれないステージを見せてくれます。建築にも強い傾倒があるそうなので、空間全体のことを考えてライヴの企画を練っているのでしょう。

ちなみに前回(彼ら主催で)ここでやったのは確か六年前、“an anxious object”tour。このとき初めて「こういう空間をつくりたかったのか」と合点がいったのでした。EASTは天井の高さも含め、映像と照明を効果的に使うmotkには合っていると思うけど、この規模のライヴを頻繁にやるのは難しい。だからこそ貴重な機会。

開場が20分程遅れ、開演も同様。二階席ほぼセンター二列目を確保、ぼんやり下のフロアを眺める。EASTは動線的に上手側に行くのがちょっと面倒ではあるんですが(狭いPA卓前を通らないといけない)、それにしてもドラムが位置する下手側にひとが多い…わ、わかる……。セッティングからしてトップバッターはtoe、ここも柏倉さんが下手側だもんね。

てな訳でtoeからスタートです、圭作くんもいますよ。アコギセットからの〜エレキ、そしてまたアコギ。濃密。山㟢さんエモい。演奏が熱くなるにつれどんどん内股、ひらりとしたハーフパンツにレギンス、右膝にプロテクターのシルエットはローラーガールな風情です。そんな姿で海老反りからの〜頭でブリッジしたまま演奏バキバキとか爆笑と紙一重で素敵過ぎる。実際この場面、楽曲のエモさも相俟ってフロアがドッとわきました。MCも炸裂してまして、「(ポカリスエット飲みつつ)中身はいいちこです」「ポカリ自前なんですよ、もらえない。(CMの音楽やってる)大塚製薬からは何ももらってない。ひどいでしょ、お金しかもらってない」「今日はハロウィーンだから皆仮装してきてんでしょ、それエモいバンドのライヴ観に来る客のコスプレでしょ」とか出るわ出るわ、大ウケ。でもいいちこっていうと吉村さん思い出しちゃうね。しみじみ。「繋がる遥か彼方」「グッドバイ」も聴けてうれしかった。

「十周年おめでとうございます。いつから十周年なのかよくわかんないんですけど、初めてマウスのライヴを観たのは〜、下北沢の小さい、ERAっていう…三人しか入れないライヴハウスなんですけど」「そこでライヴを観て、ウチのレーベルから出しませんかって」。そうそうタワレコで「あのnine days wonderのふたりが新ユニット結成、toeのMachupicchu INDUSTRIASからデビュー!」とかPOPに書かれてた。このシーンの繋がり、切磋琢磨含めて敬愛しております。

転換に時間かかるだろうなと思っていたら、メインステージに緞帳が降ろされ上手側のカーテンが開く。そうだ、EASTってサブステージあったわ。二番手Kineticの登場です。千葉広樹(electronics/b)、服部正嗣(drs)のふたりユニット。ドラムはヘッドフォンして叩いてるんだけど、聴いてるのはクリックじゃないのかな? と思ってしまう。上半身が拍を刻んでいるというより踊っているようなんです。ズブズブな音にグルーヴィーなヴィジュアル、格好いい。千葉さんが「『the flowers of romance』のレコーディングにストリングスで参加している縁で。一緒にライヴが出来るなんてうれしい」とMC。終演後調べてみたらドラムの服部さんは『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2012』(後楽園ホール!)で千住くんと対戦型インプロやったひとだった。うーわーあのときは生ドラムだったから雰囲気違ってわからんかった、あれすごかったよねえ。Kineticはオムスくんとのコラボもあるそうなので俄然興味がわきました。

・Kinetic
・Masatsugu Hattori

前にいたひとが出て行った(帰ったんじゃなくて一階フロアに降りたとポジティヴに考える)。わーい最前ですよ。壮観。

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黒い緞帳に新しいバンドロゴ、続いて十年間のアーカイヴ映像が浮かびあがる。クラシックな映画のよう。幕があがると後方にシンメトリー配置のスクリーンが二面、ポール型のLED照明に囲まれた楽器群。メンバーの衣裳もかわらずモノトーン。いーやー美しいわ……見惚れていると「I Shut My Eyes in Order to Sea」、ドカンと「Leviathan」。音デカい! ドラムデカい!

事前告知されていなかったゲストプレイヤーは佐々木大輔(tp)、根本潤(sax)、ケンジー(sax)。アンコールで飛田雅弘(g。歓声わいた。envyの今後にも期待!)、千葉広樹(cb)。VJはrokapenis。

視界を遮るものがないのでプレイヤーの手元も動きも表情もガッツリビューだ〜と喜んでいたのも束の間、スタイリッシュな暗い照明で予想より見えなかったっていうね……てかゲストも見えない。ネモジュンが暗がりに現れたとき、出てくるとこ見てなかったからおばけかと思ってギョッとしたわい。ハロウィーンだけにな〜。ネモジュンも佐々木さんもそろ〜と出てきて、そろ〜と楽器置いて出てったりしてて。ストロボっぽい照明もあり川さんの動きがまんまコマ送りに見えてニヤニヤ、「Seiren」では暗闇でカウベルを打ち鳴らすネモジュンのシルエットにニヤニヤ。いや、格好いいとおかしいは紙一重です。

とにかく空間全景がひとつの美術作品のよう。この風景は観客だけが見ることが出来て、プレイヤー自身は見られない。なんて特権、感謝感謝。

演奏の緊張感は途切れることがない。「fractrec」レーベル設立第一弾となる新譜『Out of Body』からも数曲披露。楽曲群は観念的な方向へ向かっている印象。そこにこのバンドの特性である身体性が加わる。観念と肉体は常に切っても切れない関係、このバンドを見ているとひしひしと感じる。キーボードについているちいさな灯り(譜面台ライトを鍵盤用に使ってると思われる)のおかげで、清田さんの手元はよく見えた。印象的なネコの手。「さて、いきますか」と言うようなストレッチ、演奏前に鍵盤上を滑らせる指。ああ、次は「最後の晩餐」だな、と判る仕草も楽しい。引きで見ていると、川さんと清田さんの丁々発止が非常にスリリング。「soil」では『irreversible』のワンシーン、清田さんがニヤ〜とエロい顔で川さんを見ているシーンを思い出しましたよね。官能的な演奏というのも一貫してる。清田さんは川さんのことも新留さんのこともよく見ている。そうそう、上からだと普段はなかなか見えない新留さんの手元も結構見えてよかった。

演奏はどんどん進化している、音のレイヤーも増える。以前は単音右手だけだったシークエンスに左手でコードを足していたり。ブリッジのインプロもどんどん変わる。川さんの動向を見て、清田さんと新留さんが顔を見合わせる。笑っているようにも見える。どこに行くのかわからなくなるようなフレーズからよく戻れるよね……全然違う曲挟んでたりして。目が離せないし、耳は全く油断出来ない。

それにしても軽やか。不思議だ、こんなにパワフルなのに。腰の据わった演奏で腹にくる爆音、それでもフットワークが軽い。空間を飛びまわるような音の鳴りにも驚かされる。思わずスピーカーの位置確認しちゃったくらい。二階席にいるのに、背中を撫でられるような音もあった。

アンコールでようやくMC、「アンコールあると思ってたんで用意してました〜」。ほんと演奏とは裏腹に喋りはゆるいですね(微笑)。「十周年ってのは初ライヴから十年ってことです。あの〜今日が初ライヴの日って言っちゃったんですけど嘘です。本当は28日です」。だよね、最初の告知では10/28空けといてって言ってたからスケジュール帖に書いてたんだよ……危うく30日予定入れるところだったよ。衣装にご満悦のようで「コラボしているMilokでつくってもらいました、速乾性で洗って脱水した時点で70%乾く。そのまま部屋干しすれば完璧! 来月から僕らLITEとアメリカツアー行くんですけど、移動がたいへんなんでね」。喜んでましたがスタッフさんせめて二着つくったげて!「ビヨ〜ンて伸びるんですよ。ビヨ〜ン」と楽しそうに服を引っ張って見せる。ジャージ素材かな。「ボタンが磁石になってるんですけどお、うまくくっつかないな」…改良してあげて……。あんだけ激しい演奏だけど、スーツってのは拘りでしょうし、衣裳の可動域含め模索が続いているようです。そういう経過も楽しんでそう。

ダブルアンコール、「用意してなかったんで『A Sad Little Town』ってのをやります。全然練習してない(久しぶりにやる)曲なんでどこ迄出来るか!」なんて演奏始めましたがブリッジ新展開で完璧やがな。完奏後、川さんは両腕を高らかにあげて振り向きもせず退場していかれました。俺はやったぜ俺はやったぜ〜なガッツポーズでございました。徹底してスタイリッシュ。そしてフィジカル。破壊と建築、どちらも不可欠。見つけてこわせ、底に流れるハードコア魂。

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・入場時ポスター型zineが配布されました
nine days wonder reunion showで配布されたzine見てつくりたくなったのかな。そしてこのzine、綴じてありません(上記リンク参照)。でも川さんがzineというならzineで!(笑)
カメラ、VJ、音響、デザイン。クレジットでしか知らず気になっていたひとたちのことが紹介されてて読み応えあった。そしてこの日は建築とのコラボも予定してたそうですが実現しなかったとのこと。それどうやるの……

・mouse on the keys 10th anniversary tour trailer


・mouse on the keys 待望のニューEP『Out of Body』日本、北米、ヨーロッパ同時リリース決定!|SPACE SHOWER MUSIC
・mouse on the keys、来年1/25にニューEP『Out of Body』を日本、北米、ヨーロッパ同時リリース決定 | Skream!
・mouse on the keysが1月に新作EP、ラフマニノフをアレンジした楽曲も| CINRA.NET
・mouse on the keys - Out of Body|Topshelf Records
・Mouse on the Keys announce new EP, ‘Out of Body’|Punktastic

・LITE / mouse on the keys Split Teaser


・LITE / mouse on the keys SPLIT EP
- iTunes
- OTOTOY
- spotify

EPていうからアナログのみかな〜としょんぼりしていたら配信あってうれしい。この手のスプリットシングルのリリース方法にはニヤリとさせられます、やっぱオルタナマナーよな……。
新曲1曲ずつ、お互いのカバー(LITEが「最後の晩餐」、motkが「Echolocation」)も収録。むちゃよいですー。アメリカツアー気をつけて行ってらっしゃいまし! この組み合わせで凱旋ライヴも期待しております

・mouse on the keys Interview | clubberia
昨年秋、『the flowers of romance』リリース時のインタヴュー。千葉さんの話もしてる

・mouse on the keys 清田敦が忘れられない強烈な映画『魔界転生』 | i bought
おまけ、偶然見つけた記事。意外な切り口だったわ……



2016年10月23日(日)
『あいちトリエンナーレ 2016』(豊橋)、維新派『アマハラ』

『あいちトリエンナーレ 2016』

前日は名古屋から夕方はやめに移動して、豊橋地区の展示を観てから『勧進帳』の予定だった。が、そううまくはいかず。時間を気にすると流れ作業的な鑑賞になってしまい、見たという事実以外何も残らない感じになりそうなのでね……。ほんとは二泊三日くらいでじっくりまわりたいけれど、なかなかねえ。しかも今日は午後から奈良へ行くのだ。恐らく一箇所しか観られまい、吟味を重ねて開発ビルに絞る。ああ、水上ビルも行きたかったよ……。

最終日ということもあり11時のオープン前から会場入口で待っているひとが結構いる。開場と同時に入場。

■豊橋地区
・開発ビル
エレベーターで最上階迄あがり、展示を観つつ階段で降りていく。
このビルがまた味のあるところ。かなり古い建物で、その空室を利用して展示が行われているのだが、フロアによっては稼働中の企業が入っているのだ。CD店も入ってた、勿論営業中。フロア隅にむか〜しのCDやレコード用の広告やPOPが放置されていて、それを眺めるのがまた楽しい。
小林耕平の『東海道中膝栗毛』シリーズがアホさ滲み出る楽しい展示。髷が描かれたキャップを被り、弥次喜多さながらフィールドワークな旅。真剣にとろろ椀を流す筒とか作ってんのね……。
それにしてもフロッタージュものが多かった。地面を写しとり、土を採集する。成分を解析していたり。震災と関係あるかな、前回(2013年)は展示するには素材が揃わなかっただろうし、それだけの時間が経ったということだろうか。思い込みかもしれないが、土や樹木に何が…というかまあぶっちゃけ放射性物質がどのくらい含まれるかの興味って、原発事故がなければここ迄表面化しなかったように思う。
15分くらいかな〜とふんでいたハーバード大学感覚民族誌学ラボ『リヴァイアサン』の上映時間がなんと90分だった……うわあこれマストのつもりだったのに。アメリカ遠洋漁業の労働現場を収めたドキュメンタリー映像。海底をさらった網からヒトデや殻を除いて身のある貝や魚をひたすら分別する作業場面が続き(いやこのシークエンスも興味深く観たけど)、いちばん観たかった海鳥の場面は観られなかった……。あ〜いつか全編観たいよ!

タイムアップ。ちょいとtwitterから拝借、レトロなパン&菓子店ボン千賀(定休日で残念!)、地元のランドマーク? ほの国百貨店(北海道物産展やってた。入りたかった〜)が並ぶ町並みを眺めつつ移動です。路面電車が走ってる。いい天気。さて、こっから分刻みです。

・「あいちトリエンナーレ2016」まとめてみた!岡崎・豊橋編 | TABlog | Tokyo Art Beat
前日PLATで観てほおお……となった大巻伸嗣『重力と恩寵』画像も載ってます

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こちらに未掲載分の含め、元画像はtumblrに置いています。まとめて大きな画面で見たい方はこちらをどうぞー。補正等しておりません。
・その1
・その2

豊橋〜名古屋〜京都〜大和西大寺。屋台村オープンの16時着目標です。帰りの新幹線の時間を考えると、終演後は30〜40分くらいしかいられなさそうなので開演前に堪能するのだ。時間に追われての移動なのでおひるごはんは名古屋駅新幹線ホーム、住よしのきしめんでした。噂には聞いていたが確かに旨い。今迄食べたきしめんのなかでもいちばん旨かった! 寒さ対策のため京都駅で一旦下車、ヒートテックを着込む。最初から着てたら暑そうだったのでね……。コインロッカーに荷物を預け、奈良行きには特急券を買いました。急行と10分くらいしか違わないみたいだったけどその十分が貴重なのだ。次を待ってたら開演時間ギリギリになってしまう。はやく屋台村に! 行きたい! ちょっとでも長く! 屋台村で! 飲み喰いしたい!

大和西大寺駅につきましたよ、『アマハラ』会場はこちらですと矢印を持ったスタッフさんや警備員さんをたよりにてくてく歩く。平城宮跡に入ってからが長い、どこに会場が……延々歩く。放置…ではないな、管理・保存されているのだが、遺された野原のまあ広いこと。空き地にも程が……と半ば呆然としつつ歩く。野球やサッカー、バドミントンをやってるこどもたち、レジャーシートひろげてピクニックなひとたち(ここで前日の『勧進帳』を思い出して涙ぐむ)。復原(元)途中の場所もまだまだ多いようだが、公園として地元のひとたちには親しまれているのかな。てか近所にこんな野っ原あったら楽しいよねえ。そして夜は怖いよねえ。そこがいいよねえ。

20分程歩いたかな、会場が見えてきた。巨大なイントレ。例年より規模がデカく見えたのは気のせいか……。今回の公演は『東アジア文化都市2016奈良市』参加のプログラムでもあり、前月同じ場所でSPAC『マハーバーラタ』も上演されていたので客席まわりは共有したのかな。屋台村の賑わいも聞こえてきた、数週間しか存在しない街が見えてきた!



手づくりイメージが強いけどそこはプロの集団、ガッチリ組んでます。てかプロが手づくりしてるんだって話ですな。なんで毎年寒くなるこの時期に公演するんだろうって話してたんだけど、夏だと天候が不安定だからかなと思った。よく考えられた時期なのかもしれない。



維新派とともに幻のように現れる屋台村もこれが最後。モンゴルパンが鬼の行列でした。確かにここ以外で売ってるとこ知らないわ……実店舗あったとしても関西だろうなあ。一昨年『透視図』のときとは被らないようにと考えつつ(笑)でもやっぱりまずはからあげいっときましょ、ハーブ塩味。トイレを考えて水分は終演後にしようと続いてタピオカサンドバジル&チーズ。これ旨かった、はじめての食感! タピオカ粉をのばしてこねてフライパンで焼いたもの、もっちもちでした。ちょ、これも屋台村以外ではどこで食べられるの……。ピザもいっときましょかとオーダーしようとすると「開演時間から逆算するともう間に合わないのでオーダーストップです、でも今予約しておけば終演後に食べられますよ」と言われる。ぬぬ、時間が読めないので断念、残念。ステージでは白崎映美さんがライヴのリハやってる、最後の維新派へようこそ〜♪ とか即興で唄ってはやくもウケてる。雑貨店、洋品店、理容店。いろいろあるでよ〜。山口商店というところでは「維新派の椅子」を売っている。よく出てくるあれね。むむ、ほしいかも。でも持って帰るのは難しい……。

そのうちスタッフさんがやってきて「混雑が予想されますのでそろそろ客席の方へ移動してください」と言ってまわる。そして「上演中も屋台村は営業していますが、お静かに願います」。そうそう、おともだちとか屋台村に魅入られているひとは、チケットなくても毎日通いつめて呑んだくれてるみたいだからね。「上演中はお静かに」の貼り紙もあちこちにあってウケた。当日券の入場者もエラい数、補助的なスペースがみっしり出来てる。イントレの隙間から観るようになっているところも。そしてなぜか、私たち最前ド真ん中だったんですよね…ビックリ……。一列前に当日券のベンチが入ったので実質二列目。迷ってるうちに先行が売り切れて一般でなんとかとれたんだけど、というか私はとれなくてポンチさんがゲットしたんだけどWeb分がなくなってから電話かけて確保出来たやつだったんですよ。それが何故最前! ド真ん中! うひー有難うございますー!!!

息を呑むとはこのこと。しばらく無言で眺める。開演前に記念撮影。



あれだけ混雑していたのにちゃんと定刻で始まったとこがなにげにすごい。開演時間は17:15、松本さんが設定したという日没の時間。遅らせるわけにはいかないよね。

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維新派『アマハラ』@奈良・平城宮跡

2010年、犬島で上演された『台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき』を再構成。移民の話、漂流の話。

フィリピン、ベンゲットの道路工事、台湾のダム建設、サイパンの東京。山口百次郎と松本金十郎、主にふたりの漂流が物語られる。異国に渡り、一旗揚げ、街を作り、戦争に巻き込まれ全てを破壊される。爆撃によりたった七時間で消えた街は、彼らが数十年かけてつくりあげた街だった。明治から太平洋戦争終結、その後の引き揚げ。夢のような数十年だが、その夢は苦難の夢でもある。「天草出身の松本さん」は先祖だろうか? 実在の人物だということだが、松本さんの父、そして兄のことを思い出す。それではこのひとは。そしてまだ生まれていない、物語の数年後生まれる松本雄吉という人物の旅路は。息遣いから始まり、おかえりで終わる。図らずも松本さんへの別れを意識する。『台湾の〜』では中盤に置かれていた曲が最後になったとのこと。松本さんへのメッセージのようにも、異国で働き、家族をもった移民とその子孫へのメッセージのようにもうつる。「そこはどこですか?」「おーーーい」「おーーーーーい」。

土地の空気や美術の壮大さに圧倒されることは常だが、改めて観ると、演者の身体表現と鍛錬の素晴らしさが印象に残る。これだけ群唱が揃うところ、他で観たことがない。それは言葉が謡になっているからかもしれない。リズムだけでなく、ピッチも合わせる。見事、思わず身震い。道路工事のシーンで、巨大な装置をするすると登り、滑るように降りてくる。宙吊りの場面はユーモラスに、しかし台詞は明瞭。公演によってはワイアレスマイクのコントロールが難しく、声量にも制限があったそうだが、今回そのトラブルは全く感じられず。一箇所だけ、演者のひとりが台詞を忘れたのかしばらく間が空くことがあり緊張が走るが、そのリカバリもリズミカルで素晴らしかった。

夕暮れに鳥が飛ぶ、暗闇の向こうに飛行機が飛ぶ。遠くから電車の走る音、しかしステージの奥に拡がる草原は海で、観客席は船上だ。維新派は街をつくる。訪れる観客は旅人だ。街は跡形もなく消え、再び旅人が訪れたときには記憶だけがたより。その記憶を消したくなくて、なんどでも思い出す。

さよなら松本さん、有難う。

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終演、退場時客席上方へあがって見えた景色。草原が金色に光っている、こうなってたのか! 最前列からは見えなかったわ…でもいいんだ、最後に目に出来たから。正面は生駒山だそうです。見えませんね。綺麗に撮れてるのはプロの方が撮影したもので〜(さがしてください)。

再び屋台村。時間に追われつつ最後の堪能。あまりの寒さに控えていた飲みものを所望。ホットコーヒーに砂糖入れる程ですよこの私が……。そして餃子。「ちょうど焼きたてですよ!」と明るい声のおねえさん有難う、皮パリパリのサクサク、餡はジューシーでめっちゃ旨かったです〜。終演後見ると山口商店の意味がわかる。あれは百次郎の店だったんだな……偶然だろうか? その謎が明かされることももうない。「天草出身の松本さん」ともども、虚構と現実の境目が見えなくなっていく。




タイムアップ〜、さようならー! 大和西大寺〜京都間には伏見があるので平尾さあんと思ったりもしていた。今年は本当に訃報が多い。新幹線改札を抜けると出発迄10分切ってる、いやー慌ただしい旅でした。頭痛が酷く車酔いしし(こだま、ひかりだと酔わないけどのぞみだと酔う三半規管)死んだように眠り、品川辺りで目覚めると平さんのニュース。頭痛は治まらず悪夢を見ているような感覚。まさか旅の帰り道で訃報を聞くことになるとは。あれが最後の舞台になるなんて出来すぎですよ……半ば呆然としたまま解散、帰路。おつかれさまでした。

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・主宰しのび「維新派」が最終公演 奈良・平城宮跡、14日から - 共同通信 47NEWS


・維新派 アマハラ|演劇◎定点カメラ
毎回お世話になっておりますまねきねこさんのページ。今回はデータだけでなく画像もたくさん、テキストにもジーン

・維新派「アマハラ」@平城宮跡|'A'
“舞台は「今ここ」でしか見られないものなのに、彼らの舞台は「今ここ」にはない。”
“かつてあった時間、かつてあった場所、まだない時間、まだない場所に向けて彼らは呼びかける。”
素晴らしいテキスト

・乗越たかおさんのツイート
“一人が夢想する舞台に、あれほどの人が集まり、あれほど巨大に実体化し、あれほど見事に消え去ることは、もうないのだろう。まあ、ないのが普通だ。あの日々が、奇跡だったのだ。”
強く頷いた。これからもいろんな才能がたくさん現れるだろうけど、ああいうひとは二度と現れないだろう。劇団の歴史からすると最後の数十年だけだが、その時代に居合わせることが出来て幸せでした

・今日の劇場 10月23日(日)| 維新派オフィシャルウェブサイト
・今日の劇場 10月24日(月)| 維新派オフィシャルウェブサイト

・10/23・十日目|Togetterまとめ
・10/24・千秋楽|Togetterまとめ
・10/25〜・公演後|Togetterまとめ
・劇場の「外」編|Togetterまとめ
いやもう延々読んじゃう…まとめてくださった方有難うございます!

・維新派ラスト公演はじまる | Lmaga.jp
長年維新派を取材してきた吉永美和子さんの記事とゲネプロの画像。吉永さん編集の本公演パンフレットがまた素晴らしく、公演決定から平城宮入り迄のドキュメントレポート、劇中に出てくる人物、出来事をまとめた記事と読み応えあります。所属役者の顔と名前が照会出来る頁(初めてらしい。そして半数以上が客演だったことに驚く)も有難い。これから何度も読み返すと思う

・サヨナラ、維新派 破格の野外劇集団が有終の美|NIKKEI STYLE
内田洋一さんによる記事。扇田さん亡きあとたよりにしている書き手の方。エモいとこも好き

・東アジア文化都市2016奈良市 | 維新派『アマハラ』平城宮跡公演 アーカイブページ
フォトライブラリー、内橋和久(音楽)、白藤垂人(美術)、平野舞(キャスト)、吉本有輝子(照明)、宮城聰(SPAC)のインタヴュー。貴重な話が満載

(20161110追記)
・維新派最終公演『アマハラ』千秋楽レポート | SPICE
吉永美和子さんによる千秋楽レポート。リハ、舞台裏、屋台村の様子も。「山口商店」を出していたのは役者の金子仁司さんだったとのこと



2016年10月22日(土)
『あいちトリエンナーレ 2016』(名古屋)、木ノ下歌舞伎『勧進帳』

『あいちトリエンナーレ 2016』

今年も行ってきました、2010年2013年ときて、三度目のあいちトリエンナーレ。こちらに未掲載分も含め、撮影した元画像はtumblrに置いています。まとめて大きな画面で見たい方はこちらをどうぞー。補正等しておりません。
・その1
・その2
・その3
とは言えあんまり撮ってないのよね……カメラ(iPad)出すの面倒くさいねん。自分の目で見るのが最優先なんじゃよ。

早朝名古屋に到着、朝ごはんを食べてからいちばんはやく開場する名古屋市美術館へ。

■名古屋市美術館
カンパニー・ディディエ・テロンのパフォーマンス『AIR』がリハから観られました。楽しい!



あとこの美術館、常設がまたよくて。河原温やフリーダ・カーロ、モディリアニがごそっとあるんです。堪能〜。

名古屋の各会場は殆ど歩いて移動できる距離。カンパニー・ディディエ・テロンは同日午後から長者町会場でも『LA GRANDE PHRASE』を上演、とスケジュールに出ていたので、ハシゴ出来るかな? まあここはなりゆきで。

■長者町会場
ゑびす祭りが同時開催中、カオス。祭りの会場とあいトリの会場の区別がつきません(笑)。ちょ、ちょっと休憩しようかな……と、会場からワンブロック離れたロシア雑貨店リャビーナへ。このあたり、区画が碁盤目のように整然としていてわかりやすい。
さてのこのリャビーナ、普段通販でお世話になっているところで、実店舗に来たのは二度目……ですが、前回は臨時休業で入れなかったんですねー、とほほ。というわけで三年越しでした、うれしい〜。ちょっとしたカフェスペースもあり、ざくろジュースをいただきました。ロシアのチョコつき。


あいちトリエンナーレは街に根差した会場づくりが特色で、長者町会場は特にその魅力が満喫出来る。普段は空きビルや倉庫であろう展示場所を、探検していくような楽しさもある。建物愛でつつ展示を眺め、お散歩気分。
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・喫茶クラウン
今村文の赤い花で彩られた店内は実際に営業中。いやー、ここ、毎回会場になってるとこなんだけど「鑑賞のためだけに入っていいのか…な……」と迷って入れなかったんですよね。今回丁度出てきたひとがいたので、「展示だけ観るってのもいいんでしょうか?」と訊いたら「大丈夫ですよ」と笑われた。しかし入店したら純喫茶の素敵な雰囲気にあてられて、ここでお茶しないで出るのはもったいない、あの椅子に座りたい、くつろぎたいー! と思いまたもや休憩。アイスコーヒーをいただきました、おいしかった。長年つとめてらっしゃるような(オーナーかも)かわいらしいおばあちゃんの話をぼんやり聞きつつ、もともとのお店の調度品であろうまねきねこや絵画、オーナメントを眺めていると、お祭りやってる外とは別世界。ああ、たまらん。しかしさっきジュース飲んだばかりなのでお腹たぷたぷ。
・八木兵錦6号館
白川昌生の『らくだをつくった男 長者町物語』が面白かった、らくだ(のシャツ)創業者の歴史を展示してるんだけど、フィクションという。史実に基づきつつのこのでっちあげっぷり、ペテン師ー!
・学書ビル
うっかり通り過ぎそうになったビル内に静かに実ったりんごの木、これが『労働の成果』ってタイトルなんてナターシャ・サドゥル・ハギギャンのドイツな感じがまた素敵。
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時間配分もあり、カンパニー・ディディエ・テロンは断念。それにしてもこの混雑、どこでやったの……と帰宅後検索してみたら、こんな感じ(12)だったようです。わー衣裳も違ったのね。客いじりもあったのね。

■栄エリア
・旧明治屋栄ビル
まず建物がよいのねー。ここ、当時はこう使われていたんだろうなあ、売り場だったんだろうなあと想像する楽しさも。端聡『液体は熱エネルギーにより気体となり、冷えて液体に戻る そうあるべきだ。』は湿度や温度、音と「観る」こと以外にも五感が刺激される。あと単純にスチームパンクぽくて格好いい〜。その階上の寺田就子作品の一群でも、布をゆらす風や光の反射といった場所の持つ空気に魅入られる。光は色になるんだなあ、とか。バレエスタジオだったというフロアそのものも魅力的。ハラサオリさんが撮影したものがとても綺麗だったのでリンク張っときます。この視点がまたハラさんだなあと……美しいものには美しいものが共鳴するのねと思ったり。
-ハラサオリ『あいちトリエンナーレをぐるり。』
・損保ジャパン日本興亜名古屋ビル
大巻伸嗣の『Liminal Air』。15分入替制で行列出来てたけど比較的すぐ入れた。真っ暗闇の部屋に通され、ベンチに座って待っていると音と風の気配。目をこらすうちにわずかな光が差し、風にゆれるおおきな紗幕が遠くに見える。もっと見ようとすると光が遠のきまた暗闇、見られないもどかしさ、近づけないもどかしさがたまらない。色彩感覚もなくなり、自分が海底にいるような気分になる。あの見えそうで見えない幕……暗闇に目が慣れてくればちょっとは残像が見えそうなものだけどそれもなかったな。どうやってる……と調べてみたら、普段は白い紗幕を使っているシリーズだけど、今回初めて黒い幕を使用したとのこと。そうだったのか。あの感触は不思議だったなー、こーれーはーよかった、こういうの大好き。ビル外には同じく大巻伸嗣がペインティングしたTOYOTAプリウス。一転こちらは色とりどりの花。
・中央広小路ビル
山田亘『大愛知なるへそ新聞』、編集部はここにありましたヨ。フィールドワークものは長い時間がかかるもの、継続して見ていきたい。

■愛知芸術文化センター
おお、またもや大巻伸嗣。目の覚めるような真っ白なフロア一面に花、花、花!『Echoes-Infinity』がメイキング映像も含め素晴らしかった!
パブリックなワードローブ、西尾美也+403architecture[dajiba]の『パブローブ』も面白かったな。寄付された思い出タグのついた服展示。ミシン等が設置されたリメイクコーナーがあり、おなおしして試着出来る。会期終了前から譲渡もはじまる。ロマの家族を追ったマチュー・ペルノの写真作品群も印象的。主を亡くしたトレイラーが燃やされる映像の前には随分長いこといました。
吹き抜け構造、展望回廊に回遊歩廊。となりのオアシス21の外観含め、場所としても好きなところ。ひたすらうろうろ。ショップもかわいいもの揃いでお土産なんぞ購入。パッケージが素敵なきしめんとかも買いたかった…今回移動が多くあまり荷物増やしたくなかったので諦めた……。

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納屋橋会場がなくなっていたのは残念。もともとはボウリング場で、施設跡を残したまま倉庫になっていたところ。もうビルそのものがなくなってしまったそうだ。遺構を再利用するアートフェス、他の会場も年を経るごとに変わっていくのだろう。

水分はとりまくってたがごはん食べてなかった、そういえば名古屋っぽいもの食べてないなと17時にようやくひるごはん。鉄板ミートソースをいただきましたよ。

さて豊橋に移動。

・「あいちトリエンナーレ2016」まとめてみた!名古屋編 | TABlog | Tokyo Art Beat

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PLAT小劇場シリーズ 木ノ下歌舞伎『勧進帳』@穂の国とよはし芸術劇場 アートスペース

うぉおおおい、勧進帳でここ迄富樫に泣かされるとはー! いやまじで比喩ではなく泣いてもうたよ……いや、まいった。

対面客席をステージで分断。富樫側の臣下と義経側の四天王を同じ役者が演じる。同じ役者から同じ台詞が語られることで浮かび上がるその立場の違い、共通する未知のものへの恐怖、そして死への恐怖。誤認逮捕さながら、ひとちがいで落とされあちこちに転がる首は11個。「頭使えよ」、富樫は言うがそれが臣下たちには響かない。富樫の孤独はますます深まる。一方義経一行も迫る追っ手と立ちはだかる関所を前にして恐慌へ陥る。それを沈めるのが弁慶。富樫に弁慶のような臣下がいれば……富樫の切れる頭脳と振る舞いを見るにつけ、せつなさがつのる。

それにしても弁慶、キャスト表見て「リー5世て誰……」と思っていたのですがむっくりくまさん風貌の白人でした。芸人さんだそうで台詞まわしも軽妙、「たのむで」「せやから」「はよし!」と機関銃のように繰り出される関西弁にわく客席。すごいウケてたなー。それがやがて、物語が進むにつれ静まりかえる。演出杉原邦生がいう「異物」の存在感。このリー弁慶と坂口涼太郎演じる富樫が丁々発止とわたりあう山伏問答のエキサイティングなこと! 普段歌舞伎で観るときは言葉の問題もあり聞き流してしまうことも多いんだけど、木ノ下版はその内容が、問答としてしっかり伝わる。白眉!

しかしこの舞台、白眉がたくさんあるのであった。関所を通したあと、一行の最後尾にいた強力が義経だということに富樫が気づく場面。大音量で響くTAICHI MASTERのエレクトロサウンド、モノトーンの照明、ゆっくりと一歩一歩進む義経、追う富樫。まるでサスペンスの一場面のような緊張感、その身体表現の素晴らしさ。義経も富樫も下半身が強靭、腰が据わっているのでスローモーションな動きもポーズもキマるキマる。その姿勢の維持力にも恐れ入る。坂口さんは初見だったのですがあまりにも鮮烈な印象、歌舞伎の完コピだけじゃなかろう、身体表現の基礎があるひとじゃないか……と思っていたらダンサーの方でした。無駄のない動きをブーストするかのような衣裳も素晴らしかったなー。

そして終幕、酒盛りの場面。「おまえたちはいつもこんなに楽しそうなのか?」。富樫の孤独が再び浮かび、彼のその後に影を落とす。

停止→移動で時の流れを示す。時間を空間づかいで魅せる杉原演出、やっぱり鳥の目を感じる。関所を境界線に見立て、義経と弁慶の愛情(ラブソングのラップミュージカル仕立て)、義経を演じる高山さんのジェンダー、富樫が勧進帳の虚実を見破る瞬間といったボーダーも観客の判断に委ねられ、敵味方の境界をも消していく。

主宰木ノ下裕一、杉原さんのアフタートークも興味深く拝聴。怪我の功名と言おうか、初演時キャストオーディションをした際、募集要項に義経役は男性と書いていたのにも関わらず女性が応募してきて困り果てたが、試しにとやってみたらそれがよかった、それが後の義経のジェンダーレスという見立てに繋がるという話に、その女優さん応募してくれて有難うという気持ちに。ボーダーレスは大きく言えば世界平和に繋がると話す杉原さん、言葉にしてしまうと照れてしまうようなまっとうさ。それを舞台で表現するとああなるのか……。スタイリッシュな舞台、その実は熱い。ステージの配置、形状といい衣裳といい、整然とした容器のなかでシステマティックとも言える演者たちの動き。そこで爆発する登場人物たちの感情。そのギャップも魅力。

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劇場ロビーにはあいトリ出展のオブジェが。そのフォルムと内部から差す光のコントラストにしばし見とれてクレジットを見ると、またまた大巻伸嗣作品『重力と恩寵』でした。いやー今回は大巻さんにやられっぱなし。

ここでサさん、ポンチさんと合流。夕飯食べていったん解散。豊橋のホテルの寝間着が男女兼用のワンピースで、わあ『クレシダ』でシャンクが着てたやつみたーい。ベッドに寝っ転がって「ようこそ女性たちよ〜」なんてクレシダごっこをやったアホでした。当然翌日のことはまだ知らない。



2016年10月16日(日)
『フリック』

『フリック』@新国立劇場 小劇場

ほぼ三人芝居。映画のカット割りのような細かい転換(しかし一場)、台詞のやりとりのテンポのよさ。積み重ねられるエピソードに接し、登場人物たちとともに考え、悩み、信じて裏切られて諦めて、それでもまた信じて。三時間の舞台があっという間だった。普段上映時間は気にしない方なのだが(むしろ面白い作品であれば長い方が好きだったりする)、今作の翻訳を手掛けた平川大作がパンフレットに書かれていたように、一場で登場人物はほぼ三人、そのあらすじからは質の良い短〜中編が連想された。当日入口に掲示された上演時間を観て少したじろいだ。この週は(今もだが)ぼんやりしがちで、ふとした拍子にあのバンドのことを考えてしまう。居眠りをすることはないが、集中力が途切れてしまったらどうしよう?

幕が開き、サムとエイヴリーが映画館の清掃を始める。ちょっとした作業の指示と受け応えがあり、あとは黙々と作業が続く。その沈黙に惹きつけられる。新入りがきたんだな、ふたりはまだお互いのことをよく知らない。仕事上のつきあいにとどめるか、ともだちへの第一歩を踏み出すか、迷っている。それが役者たちのちょっとしたしぐさや視線の動き、表情から察せられる。ローズがやってくる。サムはローズのことが気になっていて、エイヴリーは初対面の彼女にちょっとした恐怖を抱いたようだ。彼らを見守ることに、心が吸い寄せられていく。

翻訳ものだが現代の若者の言葉遣いが駆使されている。それを「いかにも」ではなく自然に話せるか、訳者と演者の力量が問われる。彼らが親しくなっていく経緯が、敬語が減っていく様子で示されるのは日本語訳ならでは。人種、年齢、生活環境のちがう三人。登場人物たちはそれぞれ持たざる者だ。失われつつあるフィルム映写機の上映館で働く白人ふたり。そこへやってきた裕福な家のインテリ黒人学生。ひとりはバイセクシャル、ひとりは不能、ふたりはホワイトトラッシュ。それぞれ問題を抱えている。そして彼らは、きっとマイノリティとは言えない。アメリカでも、あるいは日本でも。フィルムに拘るのにスマホで観る映像を楽しみ、PCでしか観たことがない映画の話をする。デジタル化の波に押され、映画館は変わる。三人が「持てないもの」も露わになる。

菅原永二、木村了、ソニン。役者たちがとてもよかった、そしてワンポイントで二役演じるあとひとり(村岡哲至)に救われた気持ち。ト書きも細かく書かれているホンとのことだが、ビシッとポーズをきめた菅原さんにモップの水が飛ぶのも指定なのかな? 踊り狂ったソニンがボソっと「私ばかみたい、ひとりで」という前の気まずさも。木村さんのマジでおえっとなる五秒前の表情も。そうした細部に笑いが宿り、痛々しい場面を優しさで包む。演出はマキノノゾミ。音としての台詞をノイズとハーモニーに腑分けし、キモの場面の間(沈黙)を恐れない。沈黙から観客は登場人物に目を向け、心を傾け、その胸の内を想像する。ラストシーン。戻ってきてほしい、いや、そうなるとあとでもっとさびしいかも。でもこのままではあまりにも苦い。そして、サムと同じ表情になる。

古い映画館内装、美術(奥村泰彦)にもジーン。衣裳(三大寺志保美)もよかった、従業員の制服。ちょっと洒落た渋い配色のボウリングシャツは“古き良き”も表現してる。それがパステルカラーの、ぶかぶかのポロシャツへ。サイズも考慮されていない、画一化の代表みたいな冴えないものへ。作中出てくる映画は52+1本。台詞のなかに、観客には見えないスクリーンに映し出されるエンドロールに、そして流れる音楽に。パンフレットには飯田橋ギンレイホール館主のインタヴュー。

繰り返される「どうでもいいけど」「たいしたことない」。裏切られ続けてきた者の諦めと自衛と、そしてちょっとのかまってほしさ。一歩踏み出す勇気が出ないのは、これ迄うまくいった試しがないと思っているから。それでも、ときどきはうまくいく。続かないけれど、少しの時間ハッピーな気分になる。その積み重ねでひとは生きていられる。映画が人生に喩えられる所以だ。映画館の話を演劇で観る。劇場へ足を運び、この作品を観られたことに感謝している。

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・フリック | 新国立劇場
今作の翻訳を手がけた平川大作さんのコラムが映画への愛情にあふれていてよいです。さりげない『シン・ゴジラ』への愛にもにっこり

・新国立劇場 演劇(@nntt_engeki)|Instagram
稽古場や舞台裏の画像たくさんで楽しい

・「人生の模索時代」を過ごす若者へエール マキノノゾミ×茂木令子 - インタビュー : CINRA.NET
「見掛けがのんきだし、問題やメッセージを声高に叫ぶ作品ではない」。でも、「過酷なことが日々起こる世界で、映画というフィクションが人を癒したり、誰かとつながるきっかけになる」

・『フリック』マキノノゾミ×木村了インタビュー!「不自由だからこそ、演劇は楽しい」 | エンタステージ
「人間が健気に体を張ってやっているという、まったくデジタルじゃないところが演劇の魅力」

・木村了、ソニンらによるフィルムを愛する若者たちのちょっと切ない日常、舞台『フリック』開幕! | エンタステージ
菅原さんは「ら」かい(U-zhaanがよくいうネタ)



2016年10月15日(土)
『あたま山心中〜散ル、散ル、満チル〜』

近藤公園・平岩紙 二人芝居『あたま山心中〜散ル、散ル、満チル〜』@下北沢 駅前劇場

竹内銃一郎作品を観るのはcurate246-T『かごの鳥』以来。西牟田恵と池田有希子のふたり芝居だった。今回もふたり芝居。そして出てくる鳥のかご。今作は落語『あたま山』とメーテルリンク『青い鳥』が主なモチーフになったもので、初演のキャストは串田和美と吉田日出子とのこと。

同じ劇団の近藤さんと平岩さんがこれだけガッツリ向き合う作品を観るのは初めて。それだけでもドキドキしたものですが、ふたりが演じる危うい関係がこれまたスリリング。兄妹、母子、恋人、夫婦。そしてラストシーンのあっ、と思わせられる間柄を瞬時に演じかえ、直球の愛と死を変化球な構成で演じる。出かけるのはどこ? 探しているのは何? お互いをいたわり、同時に傷付けあい、抱きしめあうふたりの愛らしく、官能的なこと。

鬼気迫る平岩さん、というのは予想そして期待していたもので、実際それが観られたことはたまらない嬉しさだったが、近藤さんの狂気がこれまた素晴らしかった。ちょっとお、鈴木勝秀演出作品に出てみませんか? と言いたくなったわよ(笑)。髪型のせいかとても幼く見える瞬間もあり、兄を演じる場面は少年のよう。一転、妻に責められ苦しむ夫の姿は一気に老け込み、『死の棘』を連想させる。『ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン』ではこんなに踊れるひとだったんだ! と驚かされたものだが、今年は近藤さんの新しい魅力に気付かされる機会に恵まれた。思えば蜷川演出作品をはじめ、外部公演から呼ばれるのも早かったものね。

そうすると平岩さんの演じる島尾ミホを観てみたくもなる。怒りとともに紅がさす頰が白い肌に映える。うわー今度はこのふたりで『死の棘』やってみませんか。今後の予定は未定とのことだが、続いてほしい企画です。

演出は寺十吾。思ったのはやはり舞台は演出家のものだなあということで、音楽や照明の過多をどう受けとるかは好みかな。個々の楽曲(坂本弘道)、照明(佐藤啓)の強さや色味はとても魅力的だったので、個人的にはそれらの起用のタイミングと回数が気になった。もっと、台詞をはじめとする演者ふたりのやりとりをじっくり観たかったという思いが残った。うーん、同じ演者、違う演出で観てみたい……。

駅前劇場の舞台をはみださんばかり、客席に侵食してくるように枝を伸ばした桜の大木の美しさ(美術:杉山至)。ひとりの女の頭に根付く桜をして、その女に「桜の樹の下には屍体が埋まっているなんて失礼しちゃう」なんて言わせる。そのとき女は生きているのか死んでいるのか、その行方を男と追う心地よさもあった。

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・近藤公園・平岩紙二人芝居『あたま山心中』〜散ル、散ル、満チル〜|オフィシャルサイト
当日パンフレットがなかったので終演後スタッフクレジット探してあたふたした。このサイトのいちばん下にちっちゃ〜く載ってます

・近藤公園と平岩紙が初めての二人芝居に挑戦中!『あたま山心中〜散ル、散ル、満チル〜』 | 【es】エンタメステーション
近藤さんほんと少年みたいだったよね。白いシャツがまたお似合いで

・「あたま山心中」の思い出│竹内銃一郎のキノG語録
「久しぶりに読んだこの『あたま山心中』、相当に面白い」。ははは。今回の上演にあたり改訂を加えたことや、吉田さんたちとの思い出話が綴られています。ジュリエッタ・マシーナがモデルだったのだなあ。
モチーフには前述したものの他、深沢七郎の『楢山節考』などもあるとのこと。ああ、確かに姥捨の話でもあるなあ……

・(みちのものがたり)フェリーニの「道」 イタリア 妻のために書いた道化師役:朝日新聞デジタル
で、おまけ。観劇したその日に新聞に載っていて驚いた。『道』のジュリエッタのかわいらしさ、ものがなしさ……いつ迄も心に残る。あっ、そうなると近藤ザンパノと平岩ジェルソミーナで『道』もいいね。近藤さん身体鍛えて!(笑)



2016年10月11日(火)

もう一週間経ったなんてなあ。書いているのは10月16日。

初めて聴いたのはイシイくんの「Echo Exit」リミックス。ハラカミくんもイシイくん(FLARE)の「Curved Flow」リミックスで知ったんだった。ケンイシイさまさま。そして山崎マナブさまさま、弘石雅和さまさま。どちらのトラックも、リミックスにも関わらず耳に留まり続ける音だった。そこから長いつきあいになった。

別れの作品を用意してくれた。リスナーにも覚悟する時間をくれた。あるのはただただ感謝のみ。彼らの音楽を通し出会ったひとも、遭遇した時間も場所も数限りない。音を通してでしか有りえない、音にしか成しえない光景をたくさん、たくさん見せてもらった。そう、音を見せてくれた。彼らの音楽を聴いて、ライヴに行って、よく泣き、怒り、笑った。それはもう何度も、何度も。

ふたつの訃報を同じ日に聞いた。宮本大路は三宅純の盟友で、窪田晴男とも縁が深い。つまり自分のリスニングの地盤になっているプレイヤーのひとりだ。三宅さんと中野くんが同じようなことを書いていた。彼は辛く不自由だった身体から解き放たれ、今頃世界を飛びまわっているだろう。

おつかれさまでした。ありがとうございました。音はいつでも傍にある。



2016年10月08日(土)
『ひとりずもう 2』

テスト・サンプル 06『ひとりずもう 2』@早稲田小劇場どらま館

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一、『清掃員』奥田洋平
二、『鳩が丘』野津あおい
三、『パート・タイム』松井周
四、『朝』辻美奈子
五、『授業』古屋隆太

構成・演出:松井周

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サンプルの面々による一人芝居オムニバス、その2。その1は今年二月に開催されたのですが、スケジュールの都合がつかず観られませんでした。いーやー面白かった。ちょーサンプルだった。ひとりあたり15〜20分、裸舞台に机と椅子が数脚。上手側の机上にはノートパソコン、そこから流れている音楽を、登場した役者が停めるのがスタートの合図。

ホンの段階から役者と構成演出が一緒につくりあげる。虚実入り乱れ、しかしそこには演者の真実。トイレ清掃でえずく奥田さん、地元の変化に妄想の羽根を拡げる野津さん、自身の性と家族との関係にあがく松井さん、生活者のパワーを体現する辻さん、人間関係とエロの変換に挑む古屋さん。どれもがサンプルらしくうすら寒くて気味わるい。そして身に覚えがある。やだわー。キメラとはよく言ったものです。日常と非日常と、現実と虚構と。

松井さんの『パート・タイム』がタイトルといい構成といい演じる実体といい、作家で演出家で役者でって全部出来るひとはよお〜と憎らしい程整っててお気に入り。女装で近所を散歩した松井周、妻に責められ娘に泣かれ。ミルクとカタクリを混ぜて乳首に塗ったらおまえは飲んだんだよ! 俺だって好きで白いものをピューピュー出してんじゃないんだよ! どうせならこっち(乳首)からピューピュー出したいよ! リアル〜。しかもこのくだり、テンションみなぎりすぎて噛んじゃう松井さんがまたリアル〜。ボーヴォワールの「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」の引用が痛快です。ボーヴォワールもこういう解釈にされるとは思わなかっただろうよ。ひとは夫、父、男、をパートでやってんだ。う〜ん、うまいこという。整ってる。

野津さんの作品には心地よい驚きがあった。女性のひとりごとが舞台上の景色をみるみる変える。作中現れる人物との関係、土地との関係。愚痴かな、ぼやきかな、いや、自意識過剰かな? 悪口、噂話? いやだな、と感じてしまう導入から、いつの間にやら鳥の視点、駅前ロータリーの上空へと飛翔していく。20分弱でこれは見事。

古屋さんを観たの久しぶりで、えー髪のびたねえ、いや役柄上か? ヅラか? とそっちが気になってしまっていろいろ気が散った。いや、フォロモン出していきましょうな古屋さんを直視するのに照れたのかもしれない。その日の夜出演しているというので観た『世にも奇妙な物語』「シンクロニシティ」でもオールバックにしていたので地毛だったか。お似合いでした。いや〜あんな演劇教室、イヤ〜。見学はしたい〜。

奥田さんの細やかな表現と話し相手、職場を想像させる間隙に惹かれ、辻さんのバランス感覚に涙しそうになり。家庭はちいさな社会で、職場は他人が集まるコミュニティ。そこで感じる違和感や苛立ち、同時に安心感。他人は異物、異物とくらすのがいきもの。ぬるぬる、ざわざわするサンプルの観察記、これからも楽しみです。

時間の都合でアフタートークに参加出来なかったのが残念。どらま館行ったの何年ぶりだろう、前回行ったときはまだ銅鑼魔館だった。