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2016年07月16日(土)
『ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン』

『ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン』@シアターコクーン

近年の松尾スズキ作品ではいちばん好き。ちなみに歴代でいちばん好きなのは『業音』です。共通項を考える。芸能の力、表現の欲、ひとの命の軽さ、命がけのデート、宗教観、物理的には不要な墓。そしてアップデート。中東情勢、夫婦のありよう、音楽の位置。以下ネタバレあります。

か〜るいとわかっている命を使いきるために、何をするか。どう生きるか。死んだあとはどうするか、どうしてもらいたいか。ヤギ三頭とひきかえに売られるひとの価値、それを救済しようとする人間の傲慢。傲慢を自覚している、表現にとり憑かれた人間が、どこ迄、どうその欲に向き合うか。松尾さんの腹の据わり方。善意の両面を見据え、その矛盾を掘り起こす。矛盾のなかにある美徳を貫く信念を見せる。「自由がないってなんて安全なんでしょう」「夢を見ないって、とっても楽なのよ」。数々のキラーフレーズにめった刺しにされた気分だが、特に「親切をなすりつけさせてくれ」という台詞には参った。背筋を凍らせ乍ら、笑いに笑う。笑い乍ら、頭が冷え切っていく。

作家の覚悟に真っ向から向き合った演者も、やはり腹が据わってる。あてがきとも思える箇所は多々ある。寺島しのぶは『キャタピラー』がモチーフとなっている場面で啖呵を切る。これにはシビれた。歌舞伎仕様の立ち回りもビシリと決まる。背中が美しい、立ち姿が美しい。声が強い。「装苑の表紙」に笑い、『ねじ式』に笑い、幕切れの華やかないでたちに見惚れる。よく思うことだが、いつか彼女が演じるブランチを観たい。そして、あのスタンプほしい。

魂に生えた手足が伸びるような吹越満。どこ迄も追いかけてくる、ついてくる。「頭のいい」「いい男」を慕って。M.I.A.とすら呼べない巻き込まれ方、これが戦場のデフォルト。異形で去るその姿を見送るせつなさ。岡田将生の掛け値なしの美しさには心根も含まれる。そんな彼だから、死後変身に憧れる姿がより胸に迫る。中年になった阿部サダヲは、劇作家の腹の中を表現するような重厚さをも身につけた。音楽でも大貢献の伊藤ヨタロウ、義太夫語りならぬG太夫として、その立ち位置も含め天上から世界を見降ろすよう。あんなに踊れるひとだったんだ! と驚かされた近藤公園、冷酷な二枚目(と判断)女衒(この場合は男衒か)村杉蝉之介、今迄の立ち位置を逆手にとったような顔田顔彦の新境地。もともとのポテンシャルの高さに厚みを加えた池津祥子、宍戸美和公、平岩紙の女優陣と、大人計画の面々も仕事人ぶりを発揮。

出色は岩井秀人。皆川猿時をはじめとする濃い役者たちのハイテンションをスポンジのごとく吸収し、ゆるゆるに排出する笑いで湧かす湧かす。これだけのキャパの劇場は初めてだと思うが、届く届く、その声が、そのふるまいが。しかも突き抜けて格好よい。なんでや…なんであの出で立ちで格好いいんや……。バズーカのとこなんか「やだ惚れる!」と声に出して呻きそうになる。実際「うっ」くらいは口から出た。そして幕切れ近くのあの台詞。これを彼に言わすか! 配役表にクレジットされている彼の役はワギーと似池だけだ。ほぼ全員が複数の役を演じている。転換等の段取りに関係するところもありそうだ。あの役は、岩井さんではない役者が演じることも出来る。それを彼に――あの台詞を彼に託した、というのは、芝居を組み上げていく段階で決められたのだろうか。戯曲も読んでみようと思う。いやまじで岩井さんすごくよいです、岩井さん好きは観に行くといいよ。

綾音による邦楽演奏、義太夫仕様のものがたり。エスニックダンスはボリウッドのようでもあり、日舞も魅せる。振付稼業 air:man、腕のみせどころ。殺陣のクレジットがないので、寺島さんの立ち回りも彼らが振り付けたかな。邦楽のビートとともにエキサイティング。シーンによっては冗長に感じる部分もあるが、これは日を追うごとにブラッシュアップされていくと思う。

きっと再演される。シアターコクーンのレパートリーになる。こういう作品を上演し続けられる世の中であってほしいし、松尾さんがこういうものを書き続けられる世の中であってほしい。それも地獄だ。現世は地獄だし、天国も欺瞞だ。