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2022年09月11日(日)
『人質 韓国トップスター誘拐事件』

『人質 韓国トップスター誘拐事件』@シネマート新宿 スクリーン1


犯人たちがジョンミンさんのことブサイクブサイクいうのが腹立ったわ〜ブサイクじゃないわよ!!! てか普段自分からネタにしている「顔が赤い」「天然パーマ」「慶尚道なまり」というワードを効果的に(?)ちょいちょい入れてくるもんだから、よりリアルさが増しましたね……。こう書いているとなんだかコメディみたいだし、日本の配給会社も面白おかしい売り出し方(後述)をしていましたが、いやいやこれが見事なサスペンスアクションとなっておりました。以下ネタバレしてます。

原題『인질(人質)』、英題『Hostage: Missing Celebrity』。2021年、ピル・カムソン監督作品。アンディ・ラウ主演『誘拐捜査』のリメイクとのことです。この『誘拐捜査』も、実際にあった俳優ウー・ルオプー(呉若甫)誘拐事件がベースなのだとか。

『ダンシング・クィーン』でもファン・ジョンミンはファン・ジョンミンを演じていましたが、こちらはソウル市長選挙に立候補する弁護士の役。同姓同名だけど別人で、でも本人の人柄を観客は想像し乍ら観る……という二重構造が面白い作品でした。しかし今回はご本人もご本人、“俳優ファン・ジョンミン”が誘拐されるという設定。序盤から出てくるトートバッグは私物で、2018年の東京旅行カンヌ映画祭でも持ち歩いておりファンの間で話題になったもの。この物持ちの良さ…人柄……。じゃあこの車は? 家は? と考えてしまう訳で、すっかりこの映画の仕掛けにはまってしまいます。

仕事がなかったときの話、演技でもうひとりの人質を騙したことを謝る場面、犯人グループのひとりの話を聞いてあげる場面がとても印象的でした。ご本人の人柄が感じられるわ〜と思いつつ、いやいやこれも演技? と観る側の感情も行ったり来たり。やっぱりすごい役者さん。

犯人グループのひとりが『新しき世界』の台詞を真似したり、通報の手がかりになる名前が『生き残るための3つの取引』『ベテラン』でジョンミンさんが演じた人物名だったり(どちらも今作のプロデューサーのひとり、リュ・スンワン監督作品というところにニヤニヤ)と、過去作の引用が事件解決の鍵となる。実際ジョンミンさんが誘拐されたら、こうして危機に立ち向かうのかなと想像出来るところも面白いです。

あとネタバレ回避していたので、特別出演でパク・ソンウンが出てるって知らなかったのでビックリした! ソンウンさんも本人役な訳だけど、ジョンミンさんと共演した(そもそも共演作多いよね)『華麗なるリベンジ』『工作』での役柄のように、呑気でちょっと抜けているけど何気に頼りになる、朗らかで優しいという、うわ〜本人〜! ってキャラクター。いい仕事してます。

といえば、友情出演(後述)が豪華メンバーだった。こんなに出てた……? 過去作品のモンタージュシーンってだけじゃなくて、本編(撮り下ろし)にも出ていたの!? イ・ソンミンしかわかんなかったよ! リピートしたい……。

それにしても犯人グループが怖かった。ジョンミンさんが本人役なので、犯人グループが顔の知られている役者だと映画の仕掛けそのものがパーになってしまう。よって、舞台人や映画初出演の役者をオーディションで揃えたとのこと。今後注目されそう。いや、もうされているみたい。しかもジョンミンさん、「新人が発掘される機会を」と自分のギャラを制作費にまわし、オーディションや配役にも積極的に関わったとのこと。ひ、ひとがら……。

犯人たちは、それぞれが抱える事情や背景を短い台詞や表情の変化で表現する。実力のある役者さんでないと出来ないことです。そうそう、主犯役のキム・ジェボムは『오케피(オケピ)』で観ていたわ。あのトランペットの子か〜! 日本版では伊原剛志、寺脇康文が演じたモテ男の役です。この顔どっかで…どっかで……と思っていたけど全然違う役柄だったんでわかんなかったよ! いやあ、役者って本当にすごいいきものですね。

本人が本人役を演じるという、一見ネタものというかおふざけに感じてしまうストーリー。しかし演出と演技陣の力でしっかりエンタメとして成立させており、尚且つ現実の社会問題をチクリと指摘する。顔が知られているだけで「有名人」としてからまれ、勝手に写真を撮られたり、タメ口で話しかけられたり身体を触られたりするエピソードや、事件後なかなか復帰出来ない、心の傷が癒えないというエピローグに心が痛みました。こういう内容なので、日本配給の宣伝展開には違和感が残りました。

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・輝国山人の韓国映画 人質 韓国トップスター誘拐事件
いつもお世話になっております。共同制作にジョンミンさんのパートナー、キム・ミヘさんの名前が。そして友情出演、こんなに出てたのか……

・ファン・ジョンミンに“ファン・ジョンミン役”を演じてもらった理由は? 「人質」監督が明かす裏話┃映画.com
(ファン・ジョンミン本人が持っている“本来の姿”と)私(監督)が考える「ファン・ジョンミンならこうするだろう」という姿(略)、さらに観客が考える「ファン・ジョンミンならこうするだろう」というイメージもありますよね。それら“3つのファン・ジョンミン”をうまく混ぜ合わせる必要がありました。

・review / 人質 韓国トップスター誘拐事件┃A PEOPLE
彼の存在感はどこかSFチックだと思っていたが、この地球に迷いこんできた異星人の趣を有しているのだ。
ファン・ジョンミンには、いわゆるマッチョな男性主義からはズレた魅惑がある。
彼ならではの逸脱が、「人質 韓国トップスター誘拐事件」という日本語タイトルからは到底感知できぬ、とりとめのない宇宙を、わたしたちに垣間見せている。
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相田冬二さんのテキスト好き〜。邦題についてチクリと指摘しているところも好き〜


内容被るけど画像から雰囲気の違いを知ってほしく(笑)。出演している舞台というのも『ART』『スリル・ミー』『ブラザーズ・カラマーゾフ』と、翻訳演劇から大作ミュージカル迄ずらりと並んでいます。韓国の舞台好きにはかなり知られているようです

・韓国映画『人質』でクールな悪役を演じたキム・ジェボムが語る俳優への思い┃スポーツソウル日本版
映画の冷ややかな感じとは違い、インタビューではえくぼが目立つ笑顔が目立った。
「自分の長所は多様な顔を持っているという点だ。ある意味では悪くないが、ある意味では悪く変な顔をしている。監督も私の顔を見て驚いたことがある。喜ぶべきか悲しむべきかわからないが、今は嬉しい(笑)。平凡さが私の強みのようだ」

・日本版予告


・本国版予告



公開前、関係者に配られていたらしいうちわが「救出セット」として物販(?)に。邦題といい日本版予告といいこれといい、どこを目指しているのかわからなかった。といいつつ、うちわが売られていたらきっと買ってしまうというジレンマよ