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2014年04月12日(土)
『生き残るための3つの取引』

『生き残るための3つの取引』@キネカ大森 シアター2

ファン・ジョンミン特集継続中。原題は『로드 무비(不当取引)』、英題は『The Unjust』。2010年の作品で、日本公開は2011年。DVDは出ていますが、このタイミングに映画館でかかるなら!と行ってきたよ〜!キネカ大森いいとこ!パンフレット販売もあってラッキー。そして特典映像観たさにきっとDVDも買う。

いんやそれにしても可哀相でたいへんだった…後味悪い…つらしま……。以下ネタバレあります。

警察庁広域捜査隊のキレ者エースである主人公は、その実力を認められてはいるものの学歴がないため不遇な目に遭っている。そんな彼に、上司がある取引を持ちかける。捜査が難航し、社会的にも問題になっている連続女児殺害事件。大統領が介入する程ことは大きくなっている上、有力容疑者を誤って死亡させてしまった。警察の威信がかかっているこの事件を解決するために犯人をでっちあげろ、昇進を保証する……。自分と同じ憂き目を見ている部下たちや、浪費三昧の夫に悩まされている妹にいい思いをさせてやりたい…主人公はこの取引に応じることにする。

3つの取引とは「犯人捏造」「証拠隠蔽」「検事買収」。しーかーしーそれに付随するさまざまな駆け引きからしてもう3つじゃ済みません。捏造を隠すため新たな証拠をでっちあげる。買収を脅迫で覆す。警察、検察、建設会社に属する者たちの生き残りをかけたマウンティング合戦が繰り広げられます。これぞ泥沼。で、なんだかんだ主人公が正直者なんですよ…脇が甘々、駆け引きに向いてない。実直に捜査を進めることで成果をあげてきた彼は、ひとに取り入ることに慣れていない。翻弄されたあげく後輩刑事を殺してしまい、身も心もぼろぼろになった状態で彼は昇進に漕ぎ着ける。

しかしそこには皮肉の極みが待っている。でっちあげた筈の犯人が、その後のDNA鑑定で真犯人だったと判明する。捏造も買収も意味がないことだった…そして彼は、真相(と言ってもその経緯は知らない)を知ったチームの部下たちに抹殺されることになる。いやもう酷い!後味悪い!小市民のつらしま極まるわ……。

観てる作品がたまたまそうなのかも知れんが、韓国映画におけるエレベーター芸とキレ芸がたまらん。もう韓国のエレベーター、怖くて乗れないね!この事故、偶然か仕組まれたものなのか曖昧にしているところはパク・フンジョンテイストだなー。そして皆さんよくキレる、声の大きいもんが勝つの法則。主人公が大声出したのって後輩を殺しちゃったときくらいだもんね…そりゃ生き残れない……。検事役のリュ・スンボム(監督リュ・スンワンの実弟)のキレ芸がちょう面白い、『アウトレイジ ビヨンド』での加瀬亮みたいなキレっぷりでもはや笑えます。で、演出もまた笑えるようにしてある。世渡り上手な検事と、世渡り下手の主人公の対比が際立ちます。

スンワン監督はアクション演出が得意なひとだそうで、今作のアクションシーンも少ない乍ら見応えありました。寡黙で弁の立たない主人公は、行動が雄弁。黙ってキック!黙って一本背負い!黙々と何度も!画角もスタイリッシュ!ジョンミン兄さんの美脚がこんな形で堪能出来るとは(笑)。ほんと脚ほっそいな!なっがいな!ここはカタルシスあったわー。主人公の感情が露になる場面、ほんと少なかったから。それでも仏頂面なんですけどね…彼の抑えに抑えた感情が爆発するのは後輩を殺しちゃったときだけ。で、その後輩の遺族にダウン症かなって女の子がいたり、犯人の家族にも精神障害者がいたりと、独特な目配せがあります。社会的弱者は葬り去られる。主人公はだいじにしてきた部下に殺される。わびさびすら感じさせるニクい演出をする監督だなと思いました。

そしてこの作品、ジョンミン兄さんが出演しているってことと『新しき世界』脚本・監督のパク・フンジョンが脚本ってところに惹かれて観た訳ですが、余韻を残しグッときた主人公の末路がホンになかったものだったと鑑賞後パンフで知る。フンジョンさんのコメントによると、「書かなかった」のはチョルギ(主人公)と部下との関係と、それゆえに迎える死。「まず脚本にはチョルギが連れている部下が出てこない。そしてチョルギも死なず、他の不当取引を続けていくという設定だった。“ニセモノ”だったはずの犯人が“真犯人”だと判明すること自体が彼にとって死よりもつらい恥辱だと考えた」。

ニセモノがホンモノになる。主人公には信頼する仲間がいる。その後『新しき世界』でフンジョン監督がああいうラストを書いたことを思うと、スンワン監督とフンジョンさんがお互いに与えた影響は大きかったのかもしれないなと思いました。

はーそれにしてもジョンミン兄さんかわいそうだった。一市民が社会に踏みにじられていく役柄、ハマるよねえ(泣)。そういう役柄、ストーリーの作品を選んでいるところもあるのかな。幸せなジョンミンさんも観たいよ……。後輩刑事役のマ・ドンソクさんも印象に残るいい役でした。そしてあのひと出てた、あのひと!新世界のチャン・スギの手下のひと!ウエノくんとアベくん足して二で割ったような顔のひと!ペク・スンイクってひとなのね。新世界組ではジャソンの奥さん役、キム・インソも出てました。

余談ですが『チャーミング・ガール』にはファミリーマート、今作にはミニストップが出て来た。一瞬ここどこだっけ?てなる(笑)。