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2014年03月21日(金)
『ダンシング・クィーン』

『ダンシング・クィーン』@キネカ大森 シアター3

えー、ウチのtwitterを見て下さってる方はご存知でしょうが、『新しき世界』でチョン・チョン役を演じたファン・ジョンミンさんにすっかり魅了されており、過去作品をディグっている現在です。この作品は2012年の作品。日本では2013年に公開され、既にDVDを購入済みだってのですが、今このタイミングで映画館にかかってるなら映画館で観たいわ!と大森に出掛けていきました。原題は『댄싱퀸(ダンシング・クィーン)』、英題は『Dancing Queen』。

前置き長くなりますが(いつもか)、わたくし最初にこの役者さんを認識したのが『新しき世界』な訳ですよ。プロフィールや作品紹介に悉く「実力派」と書かれており、これは『新しき世界』だけを観ても納得の言葉なのですが、出演が決まった時点で「実力派三人の共演が話題に」と騒がれたそうなのですね。となるとこれ迄どんな仕事を…?と気になってくる。調べてみて驚いた。キャリアスタートは舞台。『CATS』(ユダ)から『NINE』(グイド)、『ラ・マンチャの男』(セルバンテス/ドン・キホーテ)と言った名作ミュージカルから『笑の大学』(劇作家)と言ったストレートプレイ迄出演している。この「タイトル、役名を聞いただけでピンとくる」っぷり…相当じゃないの。こういうとこ、舞台作品のスタンダードを実感するところです。

そして出演作品を追うごとにだんだん気付いてきた…『新しき世界』で演じた役柄は、この役者さんのほんの一面に過ぎないと言うことを。観る作品観る作品(DVDで観た作品の感想もおいおい書いていきたい)タイプの違う役ばかり。驚きとともにますます沼にはまっている次第ですヨ!そんななか観た『ダンシング・クィーン』は……?

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ちょう上質エンタメコメディでした、これはめっけもん!皆でハラハラドキドキ楽しめて、終わったときには拍手したくなるような作品でした。客席のあちこちから笑い声も聴こえて楽しかった、映画館で観られてよかった!

人生に大切なものって何だろう?ちいさいけれどだいじなもの、夢を諦めないこと。見ているひとはいる、認めてくれるひとは絶対にいる。遺恨が残らず、清々しくフィナーレを迎えられるのも嬉しい作品です。主要キャストが役名=本(芸)名ってところも楽しめた。ファン・ジョンミンさんはファン・ジョンミン役、オム・ジョンファさんはオム・ジョンファ役。この当て書きと思ってくださって結構ですと言う仕掛けが利いてます。

歌と踊りが得意な町のマドンナジョンファ。スカウトを受けたその晩とある事件に巻き込まれ、幼なじみのジョンミンと離れられなくなる。名刺をくれたプロデューサーへ連絡するきっかけを失ったまま、ジョンファはジョンミンと結婚。ジョンミンは七年かかって司法試験に合格、弁護士になるが、ひとのよさが災いして損ばかり。ジョンファはエアロビの講師をしたり親から借金をして夫を支え、妊娠、出産、子育てと怒濤の日々を送ります。この流れ、モンタージュで構成したスピーディな展開がとても効果的です。

あれよあれよと大きな波に巻き込まれ、あれ?私は何がしたかったんだっけ?私の夢は何だったっけ…?なんて数年後にふと思い出す。前回『新しき世界』の感想で「外国の映画を観ると言うことは、作品を通してその国の文化や慣習を知ることでもある」と書いたけど、同時に、どの国も同じなんだなと感じることもある。そしてそれが親近感になる。

さてそのジョンファの「夢」は、ひょんなことから再び実現への道が開けます。アイドルになれるかも!ところが同じ頃、ジョンミンもソウル市長選挙に立候補することに。ふたりの「夢」は叶うのか?

面白いのは、ジョンミンの夢は巻き込まれ型だと言うこと。市長候補に推薦されるきっかけも、「たまたま」「偶然」の出来事で、本人が積極的に動いた訳ではありません。ところが彼は、周囲から尊敬と熱狂を受けることで、もともと持っていた優しい気質を市民とシェアする人物へと成長していく。一方ジョンファは、忙しい生活に追われ乍らも元来の才能を磨き続け、デビューが決まると同時にそれを円熟の魅力として開花させる。ライバルたちの妨害により窮地に立たされたふたりは、正直な気持ちをぶつけ合うことでお互いを大切に思う心、お互いが持つ夢を尊重し、支え合うことが出来ることに気付きます。

妻の夢を支えると決意した後の、ジョンミンの演説は感動的です。勢いで結婚したように見えるふたりが、人生の相棒となっていくと言うもうひとつのテーマが見えてきます。家族っていいね。

ジョンファを発掘したプロデューサー、オーディションに出ようと誘った友人(傳田うにさんに似てた)、ジョンミンを市長候補に推薦した同窓生が皆いいひとだったところもよかったな。こういう、実は根がいいやつの存在は映画と言うフィクションを幸せにする。生き馬の目を抜く芸能界や政治の世界で、こんなひとたちの存在を信じられるのは嬉しいことです。ジョンミンがなんとな〜く助けたゲイカップルや出前の兄ちゃん、おばあさんの存在も忘れ難い。

市長候補になったジョンミンが、ジョンファとともに街頭演説をしているシーンで映画は終わります。ジョンミンが市長になれたか、浮き沈みの激しい芸能界でジョンファのガールズグループはどうなるか、それは判らない。人生はまだまだ続く。でもそこには笑顔がある。

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ジョンミンさん、冴えない旦那が成長していく過程を魅力的に演じてらっしゃいました。前半ちょーにっくたらしかったけどかわいかったー。韓国では「ピンポーン!(ご明察)」を「ディンドンダーン(Ding Dong Dang)♪」て言うんだ〜ってのを知った。ここのジョンミンちょうにくったらしい(笑)。歌も踊りもバシッと出来るひとなのに、そういうのからきしダメな役を演じるときはホントどんくさくなるのもすごいですね…リズムにのってない踊りとか、ふなっしーみたいな動きだった……。しかしプロポーションのよさは隠せませんね!スーツ似合ってたわあ。

ロビーに張ってあった公開当時のレヴューも読めてよかったです。役名=本人の名前にした監督の狙いや、「“あの”ファン・ジョンミンが妻の夢を断ち切るなんてことがある訳がない、と観客は思うだろう」と言ったテキストに、本国でのジョンミンさんのイメージがなんとなく見えてくる。奥さん大好きなエピソードと言い、キャラクターがだんだん判ってきたわ…天使(まがおで)!下積み長かったり遅咲きだったりと言ったところもやっぱり当て書きなのだろうな。底抜けに明るい笑顔の裏に陰を感じる…と言うか、その陰を抱えてのあの笑顔なのだろうなと思わせられる役者さんですね。

ジョンファさんはちょう格好よかった!メイクによって鈴木砂羽さんにも似ている感じ。気っ風がよくて負けん気が強くて腕っ節も強そうで、歌も踊りもちょう素敵。セクシーだけど男子からも女子からもモテそう。「韓国のマドンナ」「韓国歌謡界の女王」と言われているそうです。いんや素敵だった。

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キネカ大森初めて行きました。いいとこだったー、観客のマナーもよかった印象。tomotomoさんが応援するわとよく言っていて、ずっと気になっていたのです。大森が地元だと言う片桐はいりさんのイヴェントも面白そう。観たいプログラムがあるし、また来月行けるといいな。

しかしあれね、前日ぼろ雑巾みたいになって死んじゃったひとが翌日はママチャリにかわいいお嬢さん乗せて走ってるの観られる映画っていいな、日々違う人生を生きる役者ってステキだなあと思いますね(アホの子の感想)。