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2015年04月11日(土)
『ヒダリメノヒダ』

マームとジプシー『ヒダリメノヒダ』@KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ

入場するといい匂い。藤田さんたちが舞台中央で何かを切ったり炒めたり煮込んだり、要は食事をつくっている。客席は対面式、開演迄の時間、それなりの距離はあるものの、マームとジプシークッキングを向かい合って見る観客と言う図式がなんだか面白い。そしておなかが空く(笑)。他の日を観たひとの感想を読むと、メニューは毎回同じではなかったようだ。

給食、調理実習、家族の団欒としての夕食、泊まりに行ったおともだちの家で食べる夕食。学校と言うコミュニティ、町内のコミュニティ。地元を出て行くと言うこと、残ると言うこと。生きるひと、死ぬひと。眼球の解剖、眼底に染み渡る目薬の感触、殴打の音、転倒の音。身体を擦り減らしたその先に見えて来るもの。藤田さんのパーソナルな経験や記憶によって構成されたストーリーは、舞台に立つ演者たちと言葉と身体表現の反復によってまた新たな物語になり、観客それぞれのパーソナルな記憶を呼び起こす。それは体験した感覚を思い出すことでもあり、体験したことがないのに思い起こされる感覚でもある。

個人的には故郷を出て行くこと、左目になんらかの曰くがあると言うところがポイントだった。どうでもいい話をすると私の小学生時代の渾名は新沼(謙治)です。世代がわかるねー! ちょっと前だとまりん(ex. 電気グルーヴ)、今だと富澤(サンドウィッチマン)でしょうか。90年代中頃になるとトム・ヨークと言うアイコンが出てきて「あら、この目を持つことって格好いいんじゃない?」なんて思えたりもして(笑)。

観た日のゲストはピアニストのKan Sanoさん。演奏だけでなく、出演者と、先生と生徒としての会話を交わす場面もある。他の日のゲストたちの名前も台詞には出てくる。ときどきピアノを教えに来るSano先生は生徒からの憧れの的。格好いいね〜。劇中幾度も演奏され唄われたのはエルトン・ジョンの「Goodbye Yellow Brick Road」。数日前『オズの魔法使い』に主演したジュディ・ガーランドの一生について調べていたところだったので、楽曲のよさとともに胸がつまった。少女にとっての未来、その行く先にあるものは光であってほしい。それが影を置いていくことでも。彼女はここを似合わないと思っている。『コルバトントリ、』に出てきた「似合わない」を思い出す。生きていることが似合うひとって誰だろう? そのひとはどこにいるのだろう? それを探すことが旅なのかなと思った。旅は死ぬ迄続くのだろう。