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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
エリザベス一世時代の技術革新

米国のパトリック・オブライアン・フォーラム(掲示板)の書き込みによれば、
2月21日(土)に英国のテレビ放送BBC2で、午後8時から「Elizabeth's Lost Guns」(長年知られることのなかったエリザベス一世の砲)という番組が放映されました。
この番組では、エリザベス一世時代の海軍軍艦の強さの秘密が明らかにされています。
以下、BBCのホームページからこの番組の概要をご紹介します。

原文はこちらです(写真もあります)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/7899831.stm

16世紀半ばヘンリー八世の時代、海ではフランスやスペインに押され気味だったイギリスですが、16世紀末エリザベス一世の時代になると、その艦の火力を恐れられるようになります。
スペインのフェリペ二世も、英国艦の砲撃力の高さについては用心するよう、アルマダ海戦以前に警告を受けていたことがわかっています。
しかし、いったい何がイギリス艦の砲撃力を高めたのか、その攻撃力の秘密が何であったのかについては、これまで解き明かされてはいませんでした。

このたび、英仏海峡のチャネル諸島沖の海底から、1592年に沈んだエリザベス一世時代のピンネースが発見され、昨年夏、その大砲の一部が引き揚げられました。
引き揚げられた2門の砲については、当時の方法・材料で復元され、発射実験が行われました。
その結果、この砲の射程は1マイル(1.6km)、当時の砲撃戦における相手艦との交戦距離100ヤード(91m)では、ガレオン船のオーク材の船体を撃ち抜く十分な破壊力があることが証明されました。
更に、このピンネースが搭載していた砲12門が全て、鋳鉄、同一規格で、同一砲弾を共有していたことが明らかになっています。

帆走軍艦が同一規格の砲を搭載し、同一規格の砲弾を使用するのは、18世紀の海洋小説では当たり前の話ですが、エリザベス一世の父、ヘンリー八世の時代には行われていませんでした。
ヘンリー八世の旗艦メアリーローズ号は、砲のサイズも砲弾のサイズも異なる様々な陸戦用の大砲を、艦の諸処に搭載していたことがわかっています。
これらの砲は破壊力も射程も異なるものでした。

ところが今回確認された1592年のピンネースは、砲の搭載方法が大きく異なります。
それまでの艦には存在しなかった、一種の砲列甲板(a gun platform)が存在し、そこに同一規格同一砲弾の小型砲が並ぶという設計になっていたのです。

海事史を専門とするSalford大学のエリック・グローブ教授によれば、「これは戦争のメカニズムを完全に変えるもの」であり、
オクスフォード大学の海事考古学者メンスン・バウンドによれば、「これにより集中砲撃が可能となった」

ピンネースは比較的小型船ですが、100ヤードの破壊力を持つ12門の砲で集中砲撃を行えば、大型のガレオン船とも十分にわたり合うことができます。
この艦が沈んだ4年前に当たる1588年、イギリスはアルマダ海戦で、数で勝るスペインに対し勝利を得ました。
この勝因については、焼き討ち船による夜襲、スペイン艦に十分な水深が無かったこと、暴風雨により艦隊が分散を余儀なくされたこと、などが従来挙げられてきました。

今回発見されたピンネースは小型船であり、アルマダ海戦の主力であった大型艦も同様に最新式大砲で武装されていたか否かはわかりません。
が、この革新的な同一規格の砲が、イギリス艦に有利に働いたことは多いに考えられると、このBBCのドキュメンタリー番組は結論づけています。


2009年03月01日(日)