さて、次に海洋小説にマルタが登場するのは、1813年すなわちオーブリー&マチュリンの9巻です。町の様子など、占領当初と比べるとかなり落ち着いてきていますね。オブライアンは当時の町を活き活きと描くのが上手いので、このマルタは読んでいてとても楽しい。【現在のマルタ中心部】9巻を読んでいると、当時の中心地はグランドハーバーであり、この湾を中心に旧市街バレッタと対岸(スリーシティ)の港湾施設が広がっていたように思われます。騎士団時代のマルタの中心地は城塞都市バレッタだったのですが、英国海軍がこの島を重用視した理由は、何と言っても天然の良港グランドハーバーですから、町の中心はこの港を中心に移動したのでしょう。バレッタの反対側の港マルサムシェット・ハーバーが開けるのは、もう少し後の時代のよう。現代の地中海リゾートとしてのマルタの中心は、このマルサムシェット・ハーバーと対岸のスリーマ地区、ここにはオーシャンビュー(正確には地中海はoceanじゃないけど、まいいでしょ)の高級リゾートホテル群が立ち並んでいます。もっともアリステア・マクリーンの「女王陛下のユリシーズ号」の中には、ブルックス軍医中佐がマルタ勤務時代のスリーマでの思い出を語るエピソードがありますから、第二次大戦前にはすでに、スリーマ地区はリゾート開発されていたようです。話を1813年に戻しましょう。9巻を読みながら地図と付き合わせてみるのですが、当時とは地名の変わっているところもあります。サプライズ号が係留されていたのはスリーシティの何処なのでしょう?アドミラルティ・クリークとあるのですが、現在その地名は見当たらず。ドックヤード(工廠)・クリークはありますが、ここがドックヤードになったのは実は19世紀半ばのことなので。ただ9巻表紙の挿画に聖アンジェロ砦が描かれていること、このアンジェロ砦が当時のアドミラルティ(海軍司令部)だったことから、カルカーラ・クリークかドックヤード・クリークのいずれかが、当時アドミラルティ・クリークと呼ばれており、サプライズ号はここに停泊していたのではと思われます。【聖アンジェロ砦とカルカーラ・クリーク】ジャックとスティーブンはバレッタのホテル住まいだったと書かれています。城塞都市バレッタは、町ぐるみ世界遺産に指定され、今も騎士団時代のひいてはジャック達が訪れていた頃の姿を見せています。しかし第二次大戦時に軍港グランドハーバーはイタリア軍の猛爆を受け、この町も無傷ではいられませんでした。破壊された建物の多くは戦後もと通りに復元されましたが、オペラハウスだけは復元されず、史跡として無惨な姿を後世に残しています。【バレッタ地図】ジャックとスティーブンの宿泊していたサールズ・ホテルはどのあたりでしょうか?9巻上P.17からはアッパーバラッカ・ガーデン(地図�◆砲�らほど近いことがわかり、P.52からは、ホテルがカスティーリャのオーベルジュ(カスティーリャ出身騎士の館:地図�ぁ砲茲蠎蠢阿砲△襪海箸�わかります。ホテルで耳栓をして寝ていたところを叩き起こされたスティーブンは、7分以内に身支度を調えて総督公邸(地図� 砲冒�っていって間に合いました。地図��あたりの一画にあったのでは?と思われます。【港よりアッパーバラッカ・ガーデンを見上げる】水際の建物はカスタムハウス(昔の税関)。実は私、偶然この一画のホテルに泊まってたんですけど、でもバスなし(シャワーのみ)1泊朝食つき10.00ML(3900円)という安ホテルで、今はとても勅任艦長クラスが泊まるようなところではありませんね。前にも書いた通り、現代の高級ホテルは対岸のスリーマに移動してしまい、バレッタの城壁内にあるのは、部屋数10〜20の個人経営のプチホテルばかりです。最近はマルタに行く団体旅行のツァーもありますが、団体だとスリーマのホテルにまわされてしまって、なかなか城壁内には泊まれないようです。バレッタの旧市街の味わいある古ホテルに泊まりたかったら、個人旅行になるのかもしれません。んーでも、古いホテルには不便もあって。私の泊まっていたホテルはお湯が出なかったんですよ。真冬の12月にこれはちょっと辛かったです。旧市街の風情とグランドハーバーの眺望はすばらしかったのですけれども。【ホテルの部屋よりグランドハーバー】ジャックたちが見ていたのとほぼ同じ光景だと思います。物語に登場する場所を探してみましょう。当時とは名称が変わっているところもあり、探しても見当たらないものもありました(おそらくオブライアンが架空の名称を当てたのでしょう)。スティーブンが単旋聖歌を聴きに行き、ローラ・フィールディングがルシュウールからの指令を受けていた聖シモン修道院教会は、現代のバレッタには存在しないようです。200年の間になくなってしまったのか、それともオブライアンの創作か。けれどもバレッタの市内にはカトリックの美しい教会が数多くあり、クリスチャン以外の観光客でもミサの見学は可能です。私はちょうど12月8日の無原罪の祝日(聖母マリアが懐妊した日とされる)に居合わせたため、バレッタの聖ヨハネ大聖堂の記念ミサを見学してきましたが、カトリックのミサというのは聖歌も含めて儀式として壮麗なので、良い経験ができたと思っています。スティーブンが呼び出された総督公邸は現在の大統領官邸です。上記地図の�,�これに当たります。聖ヨハネ騎士団時代の団長宮殿を英国統治時代は総督公邸にしていて、独立後は大統領官邸とした…という流れですが。9巻でバレッタの目抜き通りとされている「国王通り」も今はありません(女王通りもありません)。バレッタ一の目抜き通りは今は「共和国通り(Republic St.)」と言います。マルタ共和国ですから。おそらくこれが元の国王通りなのではと推測しますが、上記地図で黄色っぽく塗ってあるところ(総督公邸=大統領官邸)の前の通りです。【リパブリック・ストリート】ここを大型犬ポントが突進してくるわけですね。クリスマス前なので商店街のイルミネーションが綺麗です。【路地裏の小道】ローラの家の行く途中はこんな感じ?ローラ・フィールディングの家…はちょっと手がかりが少なくて探せそうにはありません。バレッタ市内にあったことは確かのようですが、替わりに、市内および近郊に今も残る邸宅の写真を、少しはイメージがつかめるでしょうか?【ウィルヘーナ邸】騎士団の有力者だったウィルヘーナの邸宅。【国立美術館の中庭】邸宅に中庭…というスタイルは地中海地方では一般的なスタイルなのかもしれません。国立美術館は、19世紀半ば以降、聖アンジェロ砦から海軍司令部が移転した建物。中庭…というと、私としてはリチャード・ボライソーとキャサリン・サマビルのロマンチックな逢瀬の舞台というイメージで。