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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
カティサーク炎上

「THE SHIP THAT DEFINED AN AGE」――ひとつの時代そのものである船
英国3大新聞の一つであるThe Independent紙は、本日6月22日の一面全面を、この言葉と快速帆船の海洋画で飾りました。
本日のうちならば、下記アドレスでこの紙面がご覧になれると思います。

http://www.independent.co.uk/
「THE SHIP THAT DEFINED AN AGE」

ロンドン郊外グリニッジの海事博物館に屋外展示されていた19世紀の快速帆船カティサーク号が、6月21日未明、不審火で多大な損傷を受けました。
このニュース、Japan Timesは一面トップ、朝日新聞も一面で驚きました。
でも日本の新聞だけではあまり詳しいことがわからなかったので、英国のサイトに行って、情報収集してきました。
損傷がどの程度が心配で、私もちょっと、いてもたってもいられませんでしたので。
以下、英国3大新聞22日朝刊記事+BBCサイトの合体要約です。

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グリニッジ在住のサンデギー君(18)は、5月21日(月)午前5時頃、雷のような音で目を覚ました。
それは嵐ではなく、カティサーク号甲板の厚板が熱ではじける音だった。
窓のカーテンを開けたサンデギー君が目にしたのは、船体中央部から吹き上げる橙黄色の炎だった。
グリニッジ博物館の夜警は4:46AMに通報、4分後には消防隊が到着したが、タールの塗られた船体に火はまたたく間にまわり、消防隊になすすべはなかった。

ようやく鎮火にこぎつけた時、カティサークの露天甲板(weather deck)と、中甲板(tween deck)は修復不可能なまでに焼け落ちていた。
火炎は1,000度に達したと推測され、この快速帆船の鉄製の船殻に、修復不能な損傷をもたらしたのではないかと憂慮されているが、カティサーク・トラストの専門コンサルタントはこれを否定している。

損傷箇所については下記BBCサイトの最下部の図を参照
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/england/london/6675381.stm

不幸中の幸いだが、カティサークは6ヶ月前から修復工事中だったため、マスト、リギン、船長室の内装、舵輪、雑用艇、そしてかの有名な船首像は、取り外されチャタムの造船所(historic dockyard)に保管されており、難を逃れた。

だがカティサーク・トラストのダウティ理事長は、「建造当時の素材を失うことは、建造時の職人の手触りを失うこと、すなわち歴史そのものを失うことである。カティサーク号を特徴づけているのは、かつて実際に南シナ海を航走したその厚板であり船殻だ」と述べた。

ジョウェル文化相は、「打ちのめされた思いだ。この船はグリニッジのみならず世界の憧憬を集めていた。世界中の人々に愛された船だ。悲劇という言葉ではとても言い表せない」とコメントしている。
52年前、カティサーク号を乾ドックに引き上げる作業にも携わったエジンバラ公フィリップ殿下は、22日の午後に早速、現場を訪れる。

火災原因については、不審火(公共物破壊行為:vandalism)との見方が濃厚で、現場近辺の防犯カメラ映像を中心に、警察が捜査を開始した。
損傷については今後の詳細調査が待たれるが、この修復に要する費用は500万〜1,000万ポンド(12億〜24億円)かかるものと推測される。

原文は以下参照
THE TIMES
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/uk/article1821591.ece
The Guardian
http://arts.guardian.co.uk/art/heritage/story/0,,2085263,00.html
The Independent
http://news.independent.co.uk/uk/crime/article2567981.ece

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公共物破壊行為(vandalism)って、英国では時々あるそうです。
たいがいは道路や鉄道の標識・案内板など、多くの人々が利用して目につく公共物を、憂さ晴らしに壊す反社会行為なんですけど、
まさかカティサーク号が標的になってしまうとは、

でも、今回の事件が英国と世界に与えた衝撃を考えれば、道路標識とは異なりその効果は絶大、確かにカティサーク号は、海洋国家イギリスの誇りを象徴する建造物だったわけで。
こうなるともう一つの木造帆船、ビクトリー号が心配ですが、あの艦は海軍基地内の乾ドックにあるので、まだアクセス・コントロールがなされているでしょうか?

しかし、The Independent紙の一面扱いといい、英国人にとって海と帆船というのは、その存在の大きさが違う…とあらためて納得。
カティサークのカティサークである由縁は、実際に南シナ海の塩水を知っているその厚板である、というカティサーク財団理事長の言葉に、私ちょっと感動してしまいました。
海と船への愛情がこぼれ落ちそうな言葉で。こういうセリフってやはり英国人ならではだと思いませんか?

アメリカのオブライアン・フォーラムにも早速書き込みがあり、レスがついて、アメリカの海洋小説ファンも損傷状態を心配しているようです。
私もこの一報はアーサー・ランサム・クラブの方からいただきました。やっぱり海洋小説ファンには衝撃でしょう。
日頃は時代の外に置かれているような帆船ですが、海洋小説ファンのみならず、一般の人々の心をも、これほど騒がせる存在なのだということに驚き、日本でまで一面記事になるとは思いませんでした。

【カティサーク号の甲板】1989年の写真です。



この舵輪が無事でよかった。
このおじさん見ず知らずのイタリア人観光客なんですけど(たぶん、イタリア語しゃべってたから)、なんだか海賊みたいですよね。

日本丸、海洋丸をはじめ、チリのエスメラルダ号、スペインのエル・カノ号、メキシコの号、英国のビクトリー号と、私も多くの帆船の写真を撮る機会にめぐまれましたが、カティサーク号の写真を撮ろうとしてびっくりしたことは、甲板最後尾に立って広角レンズで写真を撮ろうとした時に、帆桁がファインダーにおさまらなかったことなんです。
ヤードが長すぎてファイダーの外にはみ出してしまうんですよ。こんな船はじめて!他の帆船は全て、帆桁が広角レンズにおさまるのに。
さすがに世界最速の帆船なのだなぁと感心したことを覚えています。

甲板は張り直しになるのでしょうけれど、何とか再び優美な姿を取り戻してくれることを祈ります。


2007年05月22日(火)