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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
英奴隷貿易禁止法200年

3月25日は英国で奴隷貿易禁止法が制定されて200年の記念日、記念式典が開催されたという記事が日本の新聞にも出ていました。

毎日新聞「奴隷貿易廃止法成立から200年」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070326-00000017-mai-int

この日にターゲットを合わせたのか、映画「アメイジング・グレイス」のロンドン・プレミアも先週末に開かれたようです。

「アメイジング・グレイス」ロンドンプレミア記事(日本語)
http://movies.yahoo.co.jp/m2?ty=nd&id=20070326-00000037-flix-movi

誰かホーンブロワー関係者はプレミアに来なかったのかしら?って英国サイトも探してみたけれど、私は見つけられませんでした。
俳優関係者ではジェレミー・アイアンズが来てたみたいですけど、誰の関係かしらん?

さて、それはともかく、これを機会に存在をアピールしようとしている組織は他にもあり、
その一つが英国海軍。
英国防省のサイトに「英国海軍と奴隷貿易取締」という特設ページが開設されていました。
Royal Navy and Anti-Slavery
http://www.royal-navy.mod.uk/server/show/nav.3938

これによれば、1807年の奴隷貿易禁止法成立以降、1866年までの60年間に500隻以上の奴隷貿易船を検挙、奴隷貿易の根絶に寄与したとあります。
西アフリカ海域に海軍力の13%を割き、奴隷貿易船の検挙に当たらせた。
この海域は水兵の罹患率が高く、疾病等で年25%の人員の損失を出していた。
取締の代価は、前世紀の奴隷貿易収入を大幅にうわまわるものだった。
…とあります。

奴隷貿易禁止法を推進したウィルバーフォース議員は、Kさんに教えていただいたところによると、オーブリー&マチュリンの17巻に話が出てくるのだそうです。17巻は奴隷貿易取締をめぐる話なのだとか。

現在のところ日本語訳されている海洋小説で、奴隷貿易をめぐる当時の様子がいちばん良くわかるのは、アレクサンダー・ケントのボライソーシリーズではないでしょうか?
船底の甲板に鎖でつながれ押し込まれた奴隷たち。逃亡を防止するため、航海中に鎖が解かれることはなく糞尿はたれ流し。
奴隷貿易船はその悪臭ですぐ、それと気づかれたそうです。
海軍の水兵たちは、家畜よりひどいその扱いに嫌悪を感じており、1807年以前でも奴隷船を発見すると臨検、積荷の押収(=奴隷の解放)などは行えた模様、ただ1807年の禁止法成立以前は、船主や船長らを検挙する権限が無かったため、実効的な手が打てず悔しい思いをする様子が、ボライソー19巻「最後の勝利者」などには描かれています。

シリーズの後半には、リチャード・ボライソーに好意的な政界の実力者としてサー・ポール・シリトーという脇役が登場しますが、彼は父親の代で財を築いた新興勢力の二代目。
しかしその父親の財が奴隷貿易であったため、ことさらに上流社会では成り上がりとさげすまれ、黒い噂の絶えないあやしげな人物と見られている。
このあたり当時…19世紀初頭の英国の価値観や雰囲気を小説の中からもつかみとることができます。

でもやはり、西アフリカ、海軍、奴隷貿易取締ときたら、
片方の表にひどい火傷を負い、奴隷商人たちに「半顔の悪魔」と恐れられる、ジェイムズ・タイアック艦長。
リチャード・ボライソーの旗艦艦長だった彼は、提督の死後、ふたたび西アフリカの海に戻ったという設定になっていますが、
上記国防省のサイトには、当時の奴隷貿易取締の様子がかなり詳しく述べられています。
読んでいるとどうしても、架空の人物でありながら、タイアックがちらついて困ります。
それだけ印象深いキャラクターだということなのでしょうけれども。


2007年04月01日(日)