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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
パイレーツ・オブ・アトランティック

先日の日記で前編をご紹介した「Blackbeard」の日本版DVD「パイレーツ・オブ・アトランティック」後編・日本語字幕付を見ることができました。

バハマ諸島をアトランティックと呼んでしまうタイトルが示す通り、かなり考証が大ざっぱなので、この時代に詳しい人は大らかな気持ちをもって見る必要はありますが、ディズニー海賊映画その1のように、2人でフリゲート艦を動かしてしまうような無茶はありません。
ふつうに見れば楽しいよくできた冒険活劇でしょう。熱帯ロケですし、帆船も実物が海の上を走ってますし、ハラハラどきどき楽しめます。

でも予告警告というか予防線張っておきます。
歴史考証に詳しい人は片眼をアイパッチで覆って見てくださいね。
これは娯楽時代劇で歴史ドラマではありませんから、水戸黄門を見ながら水戸光圀はこんなことをしなかった!って言うような野暮はナシ!
あのタイプの艦に艦長クラスがいるのはおかしい、とか、士官が多すぎるとか、指揮権代行はこれでいいのか?とか悩んではだめですよ。
最大の問題は艦が新しい上に小さすぎることですが、M&Cのように一隻まるごと当時の通りに改造する…なんて予算はTVドラマの場合不可能ということで、手に入る船を借りてくるしかなかったであろう大人の事情は推して知るべしというか…。

なんだか当時に詳しいのも善し悪しだなぁと思います。
このドラマ、細かいところは妙に細かいし考証もしっかりしているんです。ところが映像化にあたってかなり大きなところで(艦が小さくて新しいとか)大穴をあけてしまっている。
当初脚本段階と、実際に予算内に映像化してかつTVドラマの一般視聴者にわかりやすく演出しなければならないという現実の間のギャップが、なんとなく見えてしまって…。
気がつかなくても良いことに気づいてしまうのも哀しいもの。
一般視聴者だったらまったく悩まずにハラハラドキドキ楽しく見ることができたでしょうに。
この物語、美男の正義漢にお姫様、暴れん坊の山賊ならぬ海賊に悪代官…じゃなかった私服をこやす総督…と正統派時代劇の美味しいところは全ててんこもり作品なのにね。

お姫様…というか総督令嬢のシャーロットが素敵。
毅然としたお嬢様と、庶民的な親しみやすさの二つが違和感なく解け合ったあっさり系の美女なので、ラミジに登場するロックウェル侯爵令嬢サラーってこんなイメージかしら?と思いました。
美男の正義漢ことメイナード海尉も、ただのヒーローではなく結構しぶとい奴だったりするので好感がもてます。

(ねたばれになりますけど)

前編の最後で絶海の孤島に置き去りにされた彼は、島の木で筏を作って海に乗り出し(無茶苦茶な)、案の定半死半生になったところで運良く漂流中のボートを発見、ボート上には飢えと乾きで干からびた(筈の)死体がある(ことに脚本上はなっているんでしょうけど、実際は普通の役者さんがあまりメイクもなく演じているから全然やつれていない死体がある)。

メイナードは十字を切ってから死体を海に投げ落とし、ボートを借用させてもらいますが、ここで活字航海経験豊富な私は、あの死体ぜんぜんやつれてないからひょっとして伝染病隔離のために流された人じゃないの?メイナードに病気うつったりしないの?…と心配した上に、実はこれが伏線で、後半大事なところでメイナードが熱病発作をおこしてクラッと倒れたり…てなことまで期待(?)したのですが(ボライソーじゃありませんって)、ただの予算不足によるぴんぴん死体のようで、そのような伏線はありませんでした。

(ねたばれ終了)

でも一番魅力的なのは、やはり海賊たちでしょうか?
ディズニーの海賊とは異なり、こちらはさすがに海賊らしい海賊…というか、裏切りには非情、掠奪は残虐で、力だけが支配する世界ながら、仲間うちには彼らなりの絆と力関係と尊敬もしくは忠誠らしきものもある、というR・L・スティーブンスンの「宝島」に代表される伝統的な海賊社会(いわゆる「海賊には海賊の仁義がある」という世界ですね)がドラマになっています。
これはディズニー映画には無い世界だったので、私はひさしぶり(宝島以来でしょう)で嬉しかったです。

最後に、このドラマに登場する英国海軍さんは全員、下っぱの水兵さんまで青い上衣を着ていますが、これは許してあげてくださいね。
この物語、海賊と海軍と、私腹をこやす総督の三つ巴で、総督は公邸を警備しているレッドコートの赤海老さんを指揮し動かすことができます。
海賊はもちろん全員私服というか、粗末なシャツとズボンです。
艦長が歴史考証通り、艦の水兵(粗末なシャツとズボン)と海兵隊(レッドコート)を連れてきたら、海賊・総督との三つ巴乱闘シーンで、誰が海軍さんだか画面上はわからなくなってしまうのです。

あぁぁなぜ私がこんな弁解をしなければならないのかしら。
いやその、このHPにいらっしゃる方の中には歴史公証に詳しい方が多いのは承知していますので、こういうところがダメだからこのドラマはダメ…と思ってしまわれる方がおられかねないと思うのです。
でも私個人としては、出来ればそのあたりには目をつぶっていただいて、歴史ドラマではなく時代劇としてこのドラマを楽しんでいただけたら…と思います。
「紅はこべ」以来久しぶりの、楽しい娯楽時代劇を見たと私は思っています。このような海洋冒険ドラマも良いのではないでしょうか?

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NHK地上波総合 日曜19:30 ダーウィンが来た
先週放送予定だった「ガラパゴス島・後編」は台風13号に1週間吹き飛ばされて(ニュース延長で放映延期)今週末24日になりました。
後編は鳥の生態です。よろしければぜひご覧ください。

9月24日(日)19:30〜 NHK地上波総合「ダーウィンが来た・ガラパゴス後編」


2006年09月23日(土)