HOME ≪ 前日へ 航海日誌一覧 最新の日誌 翌日へ ≫

Ship


Sail ho!
Tohko HAYAMA
ご連絡は下記へ
郵便船

  



Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
「ルパン」見てきました

終了直前駆け込み(またですよ)で、「ルパン」を見てきました。
主役(ルパン)のロマン・デュリスって、ラミジ役にいいのでは?というご推薦があったので、それもついでにチェックしちゃおうという魂胆もあったのですが。

映像、ストーリーともに楽しめた映画でした。
世紀末のフランス、華麗なる宝石泥棒、王政派の陰謀とか言ったらもうこれ以上は無いような舞台設定ではありませんか?
オペラ座や古城などロケ地をふんだんに盛り込み、今でもやはり、ひとつ通り裏に入ると19世紀に簡単に戻ることのできるパリという街の魅力…、ううん、あの時代のフランス文化の魅力があふれている画面…というべきなんでしょう。
そしてその時代に相応しい、華麗にして軽快な主人公…いや「かっこよさ」というのはその時代のかっこよさというのがあるんですね。
そしてルパンはまぎれもなく「世紀末のヒーロー」だわ。

「世紀末のヒーロー」という言葉にはなんとなく矛盾があるような気がしますが(世紀末というと頽廃というイメージがあるので)、でもデュリスのアルセーヌ・ルパンを表するのにこれ以上の言い方はないでしょう。いや彼はまぎれもなくあの世紀末の価値観と空気の中で颯爽と生きている、というよりむしろ、その淀み濁った水の中でこそ活き活きと泳いでいるというか。
この時代のフランスのヒーローはこれなんだろうなぁと。

でも待ってよ。この時代、海峡の向こう側のイギリスでは…、
グラナダTVのシャーロック・ホームズのドラマで、あの時代のイギリスについては社会的雰囲気も含めていろいろなことを知る機会はあったのですが。
同時代のフランスについて、同じような陰謀話を映像で見たことはなかったので、今回は比較という意味でも面白かった。
同じ時代なのに想像以上に…というか今のロンドンとパリの差の100倍くらいちがいますね。
私もあまり詳しいわけではないけれど、雰囲気で言ったらむしろウィーンの方がパリに似ているんじゃないか…とか。
映画の面白さの一つには、当時の雰囲気の再現があり、これを楽しみに映画に行くこともある私にとっては、これは拾いものでした。

ところでラミジにご推薦をいただいたロマン・デュリスなんですが、うーん、私のイメージはやっぱりラミジ=クリスチャン・ベールから動かないかなぁ。
というか、デュリスの他の役を知らないから結論は出せませんけど、別にフランス人だからって訳ではないけれど、この役からはラミジを連想するのはちょっとキビシイかな?…と。
これはあくまでも私個人の感覚なので、皆さまがどう感じられるかはわからないんですけど、
英国軍の士官役には必須で、けれども今回のデュリスのルパンからは見えないものが一つあると思うんです。
それは硬質さ。
デュリスのルパンの魅力は柔軟さで、それは対極にあるもの。

硬質さというのは信念とはちょっと違うし(それならルパンにもある)、外見とか普段の態度とかに直結するものではないのだけれど、ひと皮剥くと昔の英国士官なら持っているもの…ではないかと。
ヨアンを見るとわかりやすいのでは? ラッセルのジャックも、陽気でおおらかで水兵たちにも愛される性格していますけど、本質に硬質さはきっちり持っていて、決断時などにときどき顔を出す。
俳優がイギリス系(英連邦含)ではなくて、たとえ国民性の異なるアメリカ人でも、この硬質さを出せる人はきちんと出していると思います。…「サハラに舞う羽根」で陸軍士官を演じたロス・ベントレーとか見事でしたけど。古くはグレゴリー・ペックとか(ホーンブロワーもですが、「ナヴァロンの要塞」のニール・マロリー役も)。

ちょっと形は違うんですけど、日本の役者さんを論じる時に「若くても歴史ドラマで武士らしい武士を演じられる俳優さん」っていますよね? この感覚に似ているかしら?
娯楽時代劇ではない歴史ドラマで、武士らしく見せられる現代の俳優さん…という意味ですが。
日本の武士にもちょっと形は違うけど、同質の「硬質さ」の伝統はあるような気がします。たぶんその正体は「自分律」のようなものではないかと思いますが。その基本は社会律(武士道だったり士官心得だったり)するんですけど、その社会の中に生きていることで自分の中にも律として取り込んでしまっているもの。

クリスチャン・ベールは、たとえアメリカン・ヒーローのバットマンを演じていてもこの硬質さがあるんです。
同じようにタキシード着て、同じように美女をエスコートしていても、ちょっとやはり違うでしょう?
わかっていただだけます? ちょっと感覚的な話しで、わかりにくくて恐縮なんですが。

私が見に行った映画館、「ルパン」は明日28日までで、29日から次の作品の上映が始まります。予告を見てきたのですが、
アル・パチーノ(シャイロック)vsジェレミー・アイアンズ(アントーニオ)の「ヴェニスの商人」
名優対決の面白さに加え、ヴェネチア・ロケの映像が綺麗なんですよ〜。楽しみ。帰りにしっかり前売り券買ってしまいました。
この映画、六大都市+東北・関東・東海各県、広島、熊本で公開されるので、お近くの方にはちょっとお勧めかもしれません。


映画の話しついでに、一つだけ苦言。
土曜日にTVで「踊る大走査線・レインボーブリッジを封鎖せよ」を放映してましたよね。これ劇場で見損ねたので放映を楽しみにしていたんですけど、
うわ〜、凄く面白いテーマなのに、どうしてこうなっちゃうの? ちょっとあまりに初心者向けすぎない?
これってTVドラマの頃からこうだったの?(すみません。この映画の元にあるドラマ見てません)

いやこれと同じことを「海猿」の時も思って、ずっと不満抱えてたんですけど、「踊る…」がこうなら「海猿」がああなるのは仕方ないのか?

本店と支店の日本のタテ社会問題とか、優れたリーダーシップとは何か?とか、「踊る…レインボーブリッジ…」のテーマはすごく面白いんですけど、その描き方があまりに子供だましといか、テーマに比してドラマ展開がお約束的すぎるというか。
いや、署長3人組はコメディ担当だからあれでいいんですよ。お弁当談合も不倫メールも。マンガ的に誇張されすぎていても、ブラック・コメディだからあれはOKだと思うんですけど。
本庁からの監理官2人と青島とすみれのドラマまで単純明快にしてしまう必要はないんじゃないかと。あれでは逆にマンガみたいで現実から浮いてしまいません? せっかく現実的な面白い問題をテーマにしているというのに。

これね、実は「海猿」を見ている時も感じてたんですよ。というかずっと不満だったんですけど。
巡視船内の人間関係を見れば、もっと多くのドラマが出来る設定だったのに、どうしてあんな70年代青春ドラマみたいな見え見えのドラマになってしまったのか。
そりゃあTVですから、1回見ただけでさらっとわかる明快さがなければならない…という事情はあるのでしょう。
でも、にしてもこれは単純すぎる。お隣の局では十代の子をターゲットにあんなに複雑なアニメを放映しているというのに(=ガンダムのこと:こっちはこんなに複雑で大丈夫かと心配になるけれど)、夜9時台の大人向けドラマの海猿でこれは何?って。
ましてや「レインボーブリッジ」はテレビじゃなくて映画なんですよ!だったらTVほどわかりやすさにこだわる必要はないじゃありませんか?

これ、私の偏見かもしれないんですけど、まぁ苦言ってことで言わせていただくと、某局ってちょっとあまりに視聴者を初心者扱いしすぎる傾向があるのではないかと?
この局のスポーツ中継って、スポーツ・ファンからはおしなべて不評なんですよね。番組作りがあまりに初心者向けなので。
手とり足とり初心者に説明するがごとく丁寧な説明と、口あたりを良くするためのバラエティ的サービスの数々(スポーツ中継なのに)。

このドラマもなんだか…あまりにも「わかりやすすぎる」んです。
視聴者って本当に、こんなにみんな初心者かしら? 少なくとも十代で「特捜最前線」やら「Gメン75」やらを見ていた私の答えは、「中学生だってもっと複雑なドラマについていけます」ですけれども。


2005年10月27日(木)