HOME ≪ 前日へ 航海日誌一覧 最新の日誌 翌日へ ≫

Ship


Sail ho!
Tohko HAYAMA
ご連絡は下記へ
郵便船

  



Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
英国人の選ぶ絵画ベスト1はテメレア号

英国BBC放送が、ナショナル・ギャラリーの協賛を得て「英国で最も素晴らしい絵画」を選ぶ投票を行いました。
その結果、第一位を獲得したのは、ターナーの「Fighting Temeraire」でした。

「Fighting Temeraire」とその他ベスト10の投票結果。
http://www.nationalgallery.org.uk/what/news/gpib.htm

この情報はYさんからご提供いただきました。ありがとう!

Fighting Temeraireは1839年に発表された絵で、解体のためにテムズ河口へと曳航されていくテメレア号を描いたもの。
テメレア号は1805年のトラファルガー海戦で目ざましい働きをした98門戦列艦で、その果敢な戦いから「Fighting Temeraire」のニックネームを送られた帆走軍艦。
この絵の発表される前年まで就役していたが、1838年にその役目を終え、解体されることになった。
この絵は、海軍力の落日を表していると考えられる。
背後に描かれた落日と、解体のため曳航されるテメレール号の姿が重なる。
帆走軍艦を曳航していく蒸気船のタグボートは、小さく味わいないものとして描かれている。

これは、この絵に付された解説文(http://www.nationalgallery.org.uk/cgi-bin/WebObjects.dll/CollectionPublisher.woa/wa/work?workNumber=ng524)なのですが、これは海軍力の落日というよりは、帆走軍艦時代の落日では?と私は思います。
英国自体はこの後、ビクトリア女王の時代を迎え、海外に植民地を拡大、海軍は汽走軍艦の時代に入ります。
だから必ずしも海軍力の落日とは言えないのではないかと思うのですが…。

私は20世紀後半に生まれているから、英国海軍の落日と言われると、どうしても第二次大戦以後の、植民地が独立しもはや七つの海の全てに君臨する必要のなくなった英国、のイメージが強い。
そして、ナポレオン戦争時代の海洋小説を読み慣れた目でこの絵を見ると、「古き良き帆船時代の落日」にむしろ胸痛くなりますが。

私は帆船好きなせいか、どうも鋼鉄の軍艦に苦手意識があって、いやお好きな方には大変申し訳ないのですが、第二次大戦当時の上部構造物過剰な戦艦がどうしてこうも人気なのか…首をかしげる、すみません。鋼鉄の美学がわからない奴なんです。

でも、ターナーは同時代の人ですからね。1839年に生きた英国人として、彼は去りゆくテメレア号に何を思ったのか。
またターナーが何を思ってこの絵を描いたにせよ、当時この絵を見た人々は、この絵から何を感じとったのか、
当時の英国には、昭和30年代や40年代の日本のように、新しくて速くて綺麗なものを求め古き良きものには注意も払わないような雰囲気があったのか、なかったのか?

たぶんそれは、現代の英国人がこの絵を「もっとも素晴らしい絵画」に選んだ動機とは異なるものだと思うのですが。
現代の英国人がこの絵を選んだ理由は何でしょうね?


それにしても、1839年ですか。
ジャックやラミジは引退している可能性が強いけど、アダム・ボライソーはまだぎりぎり現役。
アネモネ号やアンライバルド号を心から愛していたアダムがこの時代に立ち会ってしまうのは、どうなのかしら?
彼の性格があのままならば(というかまぁ30台半ばにしていま現在あぁなんだから、60才近くなって変わるとは思えませんが)こういう事態は彼には辛いだろうな…などと余計な空想までしてしまったりして。
(ここでホーンブロワーの名前が出てこないのは、C.S.フォレスターにはこの時代を描きかけた短編があるからです。)


2005年09月09日(金)