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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
[Sea Britain 2005] ある軍医の七つ道具の話

英国海軍の掃海艇HMS Dulvertonは、トラファルガー海戦にて使用された医療器具を輸送すべく、スコットランド・クライド湾を出航し、現在ポーツマスへと向かっている。
医療器具はポーツマスで一旦、ビクトリー号(HMS Victory)に里帰りするが、最終的にはグリニッチの国立海事博物館に送られ、特別に展示公開される。

この医療器具は、トラファルガー海戦当時にビクトリー号に乗艦していた軍医William Beattyのものであり、海戦時に致命傷を負ったネルソン提督の治療にも用いられた。
Beattyは後にグリニッチ病院の内科医となり、1831年にナイトの称号を下賜されSir William Beattyとなった。
これらの器具は長らく、グラスゴーのRoyal College of Physician and Surgeonに保管されてきたが、トラファルガー200周年を機に国立海事博物館で、7月7日から11月13日まで公開展示されることとなった。
器具とは、メス、鉗子、止血帯、探り針、冠状鋸など軍医の七つ道具である。

ということで、マチュリン先生が当時使用していた器具の本物をご覧になりたい方は、期間中にグリニッチの国立海事博物館にいらっしゃってください。

このニュース、それだけと言ってしまえばそれだけなんですが、結構いろいろなことが読みとれて面白い。

まず、ビクトリー号の軍医だったBeattyは、この記事によると外科医ではなくって内科医なんですね。
オブライアンのシリーズをお読みになった方ならご存じでしょうけれど、内科医が軍医を務めているのはかなり珍しい。全くいないわけではないのですが、確か艦隊に何人とかいう少数だった筈。

またこのBeattyは最終的にSirの称号を賜ることになるわけですが、いったい何の功績で叙勲されたのでしょう? 陸上の病院勤務になってからの功績か? それとも軍歴の中で軍医でも叙勲されるようなことがあったのか?

もう一つ、へぇぇと思ったのは、実はこのプレスレリースにあたって、現在の英国海軍の軍医士官がコメントを寄せているのですが、この方がSurgeon Rear Admiral(軍医少将)でCBE(上級勲爵士)なのです。
今は軍医もここまで出世して叙勲されるのですね。
200年前の軍医の立場の低さを考えると、隔世の感があります。

しかし、いくら歴史的に貴重なものとはいえ、医療器具の運搬にわざわざ軍艦一隻というのは芝居がかかりすぎているような…、一旦ビクトリー号に里帰りした器具をポーツマスからグリニッチまで運ぶのはHMS Illustriousだそうですけれども。
そこまで大仰にしなくても…と思うのは私だけでしょうか?

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2005年04月24日(日)