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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
P. O. W.

M&Cで副長のトム・プリングスを演じたジェームズ・ダーシー主演のTVドラマシリーズ「P.O.W.」(DVD)を見ました。
強力なお勧めとともにCさんからお貸しいただいたのですが、
Cさん>本当にありがとうございます。
私もここで、これから強力に皆様にお勧めしてしまいますね。
では、ねたばれ無しで、ご紹介いきます。

「P.O.W.」は2003年に英国ITVで放映された6回シリーズのTVドラマ、ダーシーは2002年にM&Cの撮影を終えた後、このドラマに取り組んだようです。
P.O.W.とは、Prisoners of War すなわち戦争捕虜の略です。

第二次大戦中の1940年、ダーシー演じる英国空軍の軍曹ジムは、撃墜されパラシュートで脱出、ドイツ領内に降下し捕虜となります。
彼が送られた先はStalag 39というドイツの捕虜収容所。そこには既に、50人ほどの陸軍部隊が収容されており、厳重な監視下にありながら脱走を狙ってしぶとく密かに抵抗を続けていた、という実話に基づいた物語です。

このドラマに関する詳細はこちら
カバー写真右の青い制服がダーシー演じる空軍軍曹ジム(Fright Sergeant Jim Caddon)。中央がStalag 39収容所の捕虜の中では唯一の士官である陸軍大尉アターコム(Captain Richard Attercombe)。左は兵卒の一人ドルー(Private Drew Pritchard)。

収容所でジムはかけがえのない仲間たちとめぐりあいます。
年配の伍長ジョン(Corporal John Stevens)は、苦労人で厳しいけれども情も知っている、TVのホーンブロワーのマシューズを思わせるキャラクター。演じるEwan Stewartは「タイタニック」の一等航海士役(氷山に衝突する時に当直で、後にパニックを鎮めるために発砲した後自殺してしまうあの航海士です)や、「ロブロイ」などにも出演しているベテラン。

私は19世紀の帆船小説だけではなく第二次大戦当時の海洋小説も多少読んでいますが、第二次大戦ものの人間ドラマに特徴的なのは、これは日本でも事情が同じですが、兵士がもとは普通の市民であること。
それがある意味、第二次大戦の悲劇でもあるのですが、少なくともこのドラマ「P.O.W.」においては、この、戦争にならなかったら普通の市民だった兵士たちが、重要な役割を果たしているだろうと思います。
それが、Craig Heaney演じるホントにいい奴、ラリー(Private Larry Boyd)であったり、温厚なとりなし役のフランク(Private Frank Brown)だったり。このフランクを演じているのは「シャクルトン」で金髪の航海士役だったShaun Dooley。
彼らが感じること、大切に思うこと、守ろうとするものは、一般市民の幸福。これは戦いの時代を知らず平和に暮らす今の私たち市民として共感しやすく、身近に感じられる人たちです。

カバー写真で大尉の左にいるドルーは、Joe Absolomが演じてますが、彼はたぶん戦争前は町のチンピラだったんだと思います(ヒアリングに自信が無いので断言はできませんが)。でも彼にも彼なりに守りたいものや正義もあって、決して仲間は裏切らない…いやぁホントにイイ奴なんですよ。
ちょっと年齢は若いけど、私、ラミジ・シリーズに出てくるロンドンっ子の元スリにして泥棒、スタッフ(スタフォード)ってこんな感じなのかしら?と思いながら、ドルーを見てました。

収容所の所長は、名誉を重んじる昔気質の独逸軍人Kommandant Reinhold Dreiber、戦争前に国際結婚をしていて妻のアリスは英国人、自身も英語が堪能です。演じているのはAnatole TaubmanとAmelia Curtis。

本当によく出来たドラマだと思います。悪いドイツ軍に果敢に抵抗するイギリス軍…ではなく、本来そうであった単調な収容所の日常を描きながら、英独どちらの側も同じものを守りたいと願いながらも、戦争というシステムの中で命のやりとりをしなければいけない、その残酷な構図を描き出す。
おそらく、英国人唯一の士官である大尉の孤独を理解しているのは、部下たちよりもむしろ、ドイツ人の所長でしょう。
妻と子供たちの待つイギリスに帰りたい、自分の家庭を守りたいと脱走準備に励む兵士に対して、兵士が脱走したらドイツ人の夫との自分の家庭の平和が壊れると知っているイギリス人の所長夫人。底に流れる思いは、本当は同じものなのです。

ゲストで登場するSSを除いては悪役がいないゆえに、それでも生じる犠牲者にやりきれない気分になる回もあり、軽々しく見られるドラマではありませんが、本当によく出来た価値のあるドラマだと思います。
1話50分の6回シリーズですが、各回の密度が非常に濃いので、1回分見るとぐったり…まぁヒアリングが難しいという問題もあるのですがね(兵隊さんたちの英語は訛が強すぎてさっぱりわかりませんわ)。
私はPtrick Baladi演じるアターコム大尉がお気に入り。

さて、このドラマでジェームズ・ダーシーが演じているジムですが、プリングスや「ドット・ジ・アイ」で演じた青年などに比べると、素直な熱血漢という印象です(いやプリングスもある意味そうですけど、副長という立場上もうちょっとあちこちに気を使っているので)。
空軍さんだから空色の制服…どうもサプライズ号首脳部は第二次大戦になると空軍さんに転職(?)するみたいですね?
ラッセル・クロウがかつて演じたのはオーストラリア人の連合軍パイロットだったし、ポール・ベタニーも「スカートの翼広げて」では空軍将校。
マウアットのエドワード・ウッダルは「エニグマ」で海軍の変人暗号解読者だったけど、軍服着崩して提督に怒鳴りつけられる役でしたし。そういえばまともな海軍さんがいないかもしれません。
クリス・ラーキンは「ムッソリーニとお茶を」では陸軍将校です。

戦争ものゆえ、残酷なシーンを含むということで、このDVDはR指定になっています。
あまりにも地味ですから、英国以外ではまず放映されることはないと思いますが、価値あるドラマです。
砲弾は一発も炸裂しませんが、戦争というシステムの非情さがよくわかります。
是非おすすめしたいと思います。
Cさん>教えてくださって、本当にありがとうございました。


2005年01月29日(土)