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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
こんどは津軽海峡を渡って開陽に会いたい

先週の3連休は結局、旅行に出かけてしまい、ネットにはすっかりご無沙汰してしまいました。
JR東日本には「3連休パス」という割引きっぷがあり、3連休限定でJR東日本乗り放題(新幹線、特急含む)26,000円。これを利用して本州の果て下北半島の大間崎まで行ってきたのでした。

本州最北端の地は、津軽海峡を挟んで対岸に北海道をのぞむことができます。
お天気がよかったので函館から松前まで一望のもと。

大間崎より津軽海峡と北海道をのぞむ



時節柄(というかこの日は日曜日だったので)函館といえば五稜郭(日曜8時は大河ドラマ新撰組!)。
それでハッと思い出したのですが、ここは「開陽」が沈んだ海なのですね。
司馬遼太郎「街道をゆく」の松前編を読んでいると、繰り返しこの開陽の話が出てきます。
開陽は、幕府海軍の機帆走軍艦。榎本武揚が率いて五稜郭まで航海してきたものの、嵐のためにこの津軽の荒海に沈みます。
このあたりの事情は「燃えよ剣」にはさらっとしか書かれていませんが、「街道をゆく」を読むと、司馬先生ご自身のこの艦への思い入れがひしひしと。

この開陽、現在は海底から引き揚げられ、10年ほど前には復元船も建造されました。
レプリカ艦は現在、江差町に係留されています。
新選組(土方歳三)にかこつけた(苦笑)、榎本と開陽の詳しい事情はこちらのHPを
新選組、北へ!「江差・開陽沈没」

このHPでは開陽の艦内が写真で紹介されています。
開陽は1860年頃にオランダで建造された艦で、サプライズ号の時代とは60年ほどの開きがあるのですが、砲列甲板の雰囲気などはあまり変わっていませんね。もっとも大砲そのものは、この60年でおそろしく進歩している筈ですが。
開陽の水兵さんたちは相変わらずハンモックで寝ていた模様、上記のHPによるとハンモック体験も出来るそうです。
これはちょっと、行ってみたいかも。
次回はぜひ、津軽海峡を超えて江差まで、サプライズ号体験を味わいたいもの。


先週末からのもう一つのマイブームはシャーロック・ホームズ。
18日の土曜日にNHKBSで放映されたシャーロック・ホームズ「バスカヴィルの魔犬」はさすがBBC製作、丁寧に作られた長編ドラマでした。
ホームズのドラマと言えばやはり、10年以上昔にNHKで放映された英国グラナダTV制作のシリーズが有名ですが、今回のドラマ化ではグラナダ版より若い俳優が演じていたこともあり、アクション部分もあって、ある意味楽しく見ることができました。
リチャード・ロクスバラのホームズは、グラナダ版のジェレミー・ブレットほど妖しいところは無いけれど、いかにも頭の切れる、猫のような身のこなしの完璧な英国紳士。
そう言えば、むかしグラナダ版を地上波NHK総合で放映した時にはカットされていた、ホームズがあやしげなクスリを打つシーン、今回はしっかり放映されていましたが、BSだからよいのかしら?
ワトソン(イアン・ハート)が予想外に活躍して、あら?この話ってこんなにワトソン格好良かったっけ?…と思いました。

一部原作をはしょっているという話だったので、確認のために新潮文庫版の「バスカヴィルの魔犬」を買ってじっくり読みなおしてみました。
カットされたのは1エピソードのみ、結末が変わったのも1箇所のみですが、これはこれでよいのではないでしょうか。

実は私、大人向けのホームズを読むのはこれが初めてなんですね。ホームズはその昔、小学校4年生の時に、ポプラ社から出版されていた子供向けシリーズで読んでしまったので。
大人向けのシリーズは、新潮文庫版も創元推理文庫版も翻訳者が明治生まれの方で、日本語に訳されたのはかなり昔のことと思われます。それゆえにホームズもワトソンも少々古風な話し方…夏目漱石の小説に出てくるような明治時代の会話口調…ですが、それ何ともあの時代らしい雰囲気です。
講談社文庫の「バスカヴィル」は大沢在昌が子供むけに簡訳したものであるため、二人の会話は現代口語。子供むけであるからには致し方ないとは言え、比べてみるとやはり新潮や創元のほうが「いかにも明治の男」で味わいがあります。

早川文庫のオーブリー&マチュリンも、やはり会話は古風。
もっとも彼らの場合は、明治の男ではなくって、実は江戸時代(文化・文政:将軍家斉の時代)なのですが、英国は既に近代化しているためか、日本語的には明治でも違和感はありません。
これはホームズでもコナン・ドイルの事件簿でも言えることですが、昔の英国紳士たるものは外出したり客に会ったりする時は常に完璧に身なりを整えているもので、その格式があの古風な口調に見事にあいまっていますし、規律を第一とするサプライズ号の世界にもなじむものなのでしょう。

え?最後をムリヤリM&Cの話題に落としているって?
そんなことありませんってば。
今回ひさしぶりにホームズを読んでつくづく、友人同士の機知ある紳士の会話って良いものだなぁと思った次第なので。
海軍というのは基本的に縦社会ですから、上下関係がつきまとい、対等の会話をかわせる友人同士を探すのは結構難しい。
敬語なしに話せる友人は、縦社会の外にしか登場しないというのが実状のようです。
英語だとsirがつくかつかないか程度の差しかないのですが、日本語は敬語が厳格なので、上下関係が結構はっきり出てしまいます。
ジャックとスティーブン以外にこの友人同士の会話パターンを探そうとすると、至誠堂から出版されたダドリ・ポープ描くところのニコラス・ラミジ艦長と、商船船長の友人シドニー・ヨークくらいしかないのではないかと思うのですが、シドニーはレギュラー出演者ではないので出番があまり多くないのが残念です。


2004年09月24日(金)