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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
スティーブン・マチュリンの造形

米シカゴ・トリビューン紙に、面白い記事がありましたのでご紹介します。

English actor Paul Bettany finds, for him, it's 'Carry on, doctor'
ポール・ベタニーは主に舞台とヨーロッパの映画で活躍してきた性格俳優である。背が高く痩身のベタニーの外見は、「ギャングスターNo.1」の殺人鬼から、「The Heart of Me」の妻を愛しながらも不誠実な夫まで、演じる役によって様々に変化する。
アメリカではベタニーは、「ビューティフル・マインド」の、ラッセル・クロウのルームメイト役が知られているが、「マスター・アンド・コマンダー」では、彼は再びクロウと、複雑な友人関係を演じている。

監督のウィアーによれば、マチュリンは現代的なキャラクターで、(できごとの背景に)今日的な理由を追及するが、オーブリーは、賢明な戦士ではあるものの、当時の絶対専制的な権力に律されており、今となっては歴史のゴミ箱行きの人物である。
長年の友人である二人だが、フランス艦の追撃というストーリー展開の中で、その違いは表面化、激しく対立することによってドラマは盛り上がる。「(この物語で)魅力的なのは、二人には共に、身にあまる巨大な目的があり、常にその目的と格闘してきたということだ。その中で二人の友情の歴史はつづられている。オーブリーはその目的に見込みと希望を見ているが、マチュリンは裏切られたような気持ちを抱いている」
クロウの相手役のキャスティングにベタニーを選ぶことは、最初の時点で明白に決まっていた。「ラッセルの相手役には(共演経験のない)新しい俳優を選ぶことも、考えるべきだったかもしれない。それより何よりベタニーの外見は原作のマチュリンの外見(小男の設定)とは似てもにつかない」
「だが、ラッセル・クロウのような圧倒的な存在感のある俳優を向こうにまわし、正面から渡り合える役者はそう多くない」とウィアー監督は言う。
ベタニー曰く永遠に続くのではないかと思われたオーディションの後に、ウィアー監督は、ベタニーこそがもっともオブライアンのマチュリンにふさわしい人物、との結論に達した。「彼はたとえ二年一緒に航海しても尽きない話題を提供できる人物だ。ポールにはスクリーンでの存在感がある。二人の人間関係と友情を描いたこの映画にとって、それはもっとも大切なことだ」

二人の間には、すでに「ビューティフル・マインド」で確立した友情と絆があった。ベタニーの言を借りれば、音楽とピータ・クックの物真似と、罵詈雑言とクラレット(赤葡萄酒)…という共通項が。
「僕はラッセルを信頼しているし、彼も僕を信じてくれる。あまりよく知らない信用できるかどうかわからない人間と仕事をする時は、相手のエゴを傷つけたりしないかと心配をするものだが、彼と僕の間にはそんな気遣いはまったく必要ないと言える。“ダメだ、そんなのはクソだよ”と言って議論になっても、あけすけな物言いや手のうちをさらけだすような発言で互いを傷つけるようなことはない。“私はここをこのように変えた方がよろしいでしょうか?”とか“その場合、あなたの演じるキャラクターはどのように反応されますか?”なんていう議論は必要ないんだ」

ウィアー監督はこの作品を、しかし、友情についての映画ではなく、(船という閉ざされた)世界の中で、友情とは何かについて学ぶ映画であると語る。
原作ファンの一部は、映画に落胆を覚えるかもしれない。ウィアー監督は、二人の友情のなれそめを説明する必要はないと考えているし、マチュリンが諜報員として暗殺者としての顔を見せることもない。
ベタニー自身も、マチュリンという人物の膨大な人格の一部しか見せることが出来なかったと語っている。「彼はきっと、10年間たった一人で独房に閉じこめられていたとしても、出てきた時には以前と全く変わりがない…というような人物だろう。僕だったらもちろん気が狂ってしまうだろうけど」
彼を理解し、彼の技術を学ぶべく、ベタニーはロンドンの国立外科医科大学(Royal College of Surgeon)やスクリップス海洋研究所(Scripps Institute of Oceanographic Study)の専門家たちの助力を得た。
面白いことに、マチュリンという人物を理解するのに最も役立ったのは、以前に録画されたパトリック・オブライアンのインタビュー映像だったとベタニーは言う。「原作者が最も自己を投影しているキャラクターはスティーブン・マチュリンだと一般には信じられている。この小説は半分自伝のようなものだとね」

教師と秘書(ただし役者としての経験はある)の両親を持つベタニーは、演技という仕事は、常に何か新しく学ぶものが無くなってしまえば、時間の浪費にすぎないと言う。ロケ現場で一緒だったスタッフに言わせれば、ベタニーは真摯で、好奇心旺盛で、自己批判厳しく、面白い奴だが決して無理はいわない人だとのこと。
クロウとベタニーは本当に一生懸命バイオリンとチェロの練習をしていたとウィアー監督は語るが、ベタニーは「僕たちは7ヶ月練習したけど、出来は二人して怪我した獣を殺そうとしているような音しか出なかった」実際にそのシーンを撮影する時は、BGMにプロの演奏を流しながら演奏したそうだ。だが苦労した甲斐はあったとベタニーは考えている。

完成した映画に、彼は満足しているが、だからと言ってハリウッドに行ったきりになるつもりはない。これについて外交的な言い回しをすると「僕はエピック・ムービーが好きだ。ハリウッドはこのジャンルが得意だ。英国ではこれほどの予算と規模でエピック・ムービーは撮れない」とのこと。


2003年12月22日(月)