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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
New Hollandで2種類のフリゲートを見る(1)

ジャック・オーブリーの時代、オーストラリアはまだNew Hollandと呼ばれていました。
最初にこの地を発見したヨーロッパ人はオランダ人で、17世紀のことでした。ためにこの地は、New Holland(新オランダ)と名付けられたのです。

イギリスとオーストラリアの関わりは、1769年のキャプテン・クックの探検に始まります。
クックのエンデバー号は、1770年オーストラリアの東海岸を探検し、彼らは現在のシドニー南部ボタニー湾に上陸しました。

オーストラリアは先年、このエンデバー号を復元しましたが、この復元船エンデバー号は「マスター・アンド・コマンダー」の製作に一役いえ二役かっています。
ひとつめはピーター・ウィアー監督とディレクター、撮影監督に帆船航海の経験を提供したこと。二つめは、サプライズ(ローズ)号の代わりにホーン岬をまわる航海に出て、本物のドレイク海峡の映像を撮影したこと。
あ、もうひとつありました。昨年11月のロンドン・プレミアに合わせて、テムズ川にその姿をあらわしましたね。

復元船エンデバー号は、クックの足跡をたどる再現航海も行っています。
この様子を記録したドキュメンタリーが昨夏、BShiビジョンで放映されました。この番組で私が魅了されたのは、オーストラリア・グレートバリアリーフの、海の青でした。
「マスター・アンド・コマンダー」の映画を見に行くだけなら、グアムでも香港でもマニラでも良かったのですが、どうせなら海の綺麗なところ、ジャックのゆかりの地とはいかないまでも、せめてエンデバー号ゆかりの地。

…というわけで、私が選んだ旅行先はオーストラリア北部の観光地ケアンズになりました。
東京からは7時間弱のフライトですが、南緯17度のケアンズは、南半球、熱帯に位置する常夏の地です。
飛行機は明け方の5時半に到着だというのに、気温はすでに25度をうわまわり、もあ〜っとした湿気と熱気。強烈な太陽。
空港からホテルまでのシャトル・バスの値段を聞いたら、カウンターのおじちゃんは「アイト ドラーズ($8)」と。
あぁのっけからオーストラリア英語の洗礼だわ。

ホテルに荷物を置いてから、とるものもとりあえず、まずは海!海を見に。そのためにここを選んだのだから。
ケアンズの高級ホテルは海岸沿いにありますが、宿代をケチった私のホテルは海から一ブロック入った通りにあり、海は見えません(でもお値段は日本のビジネスホテル・クラスでシングル1泊7,000円強)。
なので海を見に行くためには、通りを横断し、高級ホテルをぐるーっと回っていかなければなりません。
海岸沿いは公園緑地になっていて、遊歩道では朝のジョギングに精を出す人々が。
もちろん私は一直線に海側の柵に突き進んでいきました。
わくわく。
初めて見る南太平洋。
初めて見る海というのは、やっぱり特別なもの。太平洋岸に育った私には、清水トンネルを抜けて初めて日本海を見たのも感激でしたが(これは中2の時)、海洋小説を知ってから出会った初めての北大西洋、北海、バルト海、地中海、インド洋にも独特の感慨がありました。
小説では良く知っているのだけれど、実際この目で見た時に、あぁこれがあの海なのか…と思う。それに重なる物語を知っていると、単なる海でも感激がまた違うのです。
さぁ! 目の前に広がる紺碧の海! 南太平洋とご対面だっ!
………。
あれれ?
紺碧じゃない。手前に干潟があって、泥の海があって、その先の沖にやっと水色の海が。
そうか、遠浅なのね。くく。紺碧の太平洋は沖までいかないとダメ?

でも干潟には何か大きな鳥がいます。よく見ると、くちばしに袋が下がっていて…、
これってひょっとして、ペリカンって奴?
いやだー!うそー!本当にくちばしに袋がついてるじゃない。
…なんだかボキャブラリーが貧弱で申し訳ありませんが、イイ年をしたオバサンの言うセリフか?と突っ込まれそうですが、でもホンモノのペリカンを生まれて初めて見て…ですね、本当にくちばしに袋がついていたら、やっぱり誰だって最初は「うっそー!」って感想になると思いますよ。だって変なんだもの。あきらかに、ありえないものが、くちばしについてるんですよ。

珍しいものを見たらどうするか? 
マチュリン先生なら捕まえるでしょうけれど、ここは自然保護区ですから現代ではムリです。
先生ならスケッチするでしょうけれど、幸いにも現代にはカメラというありがた〜いものがあります。
惜しむらくは、こういう事態を想定していなかったから、最大でも105mm望遠のズームレンズしかつけてこなかったことだわ。



【ペリカンです】

そしてこのペリカンとのご対面が、今回の旅のテーマを決めてしまったみたいです。
以後私は、なけなしの望遠レンズで鳥を追いかけ回すことになるのでした。
にわか自然観察者ですね。
もっとも、鳥を観察するのは私も初めてですが、高山植物なら昔、学生時代に山に行っていた時の楽しみの一つでした。一眼レフのカメラを買ったのも、最初は高山植物を撮るためだったので。

アウトドアと自然観察というのは、しぜんとペアになるものなのでしょうか?
それともこの二つがペアになるのは、イギリス人だけ?
私が海洋小説を読むそもそものきっかけとなったのは、小学生の時に読んだアーサー・ランサムの児童文学でした。
そこに描かれているのは、夏休みに英国の湖沼地方で小型ヨットを操りアウトドアに親しむ英国の子供たちです。
彼らはごく自然に地図を読み、鳥を観察し、子供なりの探検を実現していきます。
それに憧れた私は地図を抱えて旅行に行き、おかげで「地図の読める女」に成長してしまったんですが…、考えてみればそんな夏休みの宿題の自由研究みたいなことを、遊びでやっているランサムの子供たちってすごいですよね。

ひとしきりペリカンの写真を撮った後は海岸沿いのカフェでゆっくりと朝食。
英連邦諸国を旅していてありがたいのは、何処でもたっぷりのミルクティーを飲めること。
イングリッシュ・ブレックファストはいかが?と言われたけれど、気温30度の真夏の朝から揚げ物、焼き物満載のメニューにげんなりし(これはやっぱり寒い英国の朝のものでしょう)、トーストにベイクド・ビーンズというあたりで落ち着きました。

朝ごはんの後はケアンズの町を見て回って、朝市などをのぞき、
忘れずに映画館もチェック!

ケアンズの町中に映画館は2カ所あります。グラフトン・ストリートのシティ・シネマと、ケアンズ・セントラル・ショッピングセンター内のBCシネマ。
上映作品は異なり、「マスター・アンド・コマンダー」はシティ・シネマで上映されていました。
映画館の正面入り口には、その週の上映作品と上映時間の一覧表が張り出してある…といってもこれがわずかB4の、白黒コピー紙。
だいたい映画館といっても、外見は普通の建物とほとんど変わりがなくて、日本の映画館のように上映中の映画の看板など掲げているわけではありません。
「マスター・アンド・コマンダー」の上映は1日5回、10時の朝一番から、最終は9時のレイトショーまで。

当初の予定ではもう少し観光してから、午後の回を見ようと思っていたのですが、10時をまわって気温はぐんぐん上昇。
熱帯の真夏の太陽は強烈で、冬至間近の日本から来た、夜行フライト睡眠5時間の身にはあまりにも攻撃的。
日本のガイドブックには注意事項として「夜行フライト到着初日は仮眠をとろう」とか「初日は体力を消耗するツァーには参加しないように」とか書かれていますが、いや確かにこの天候の激変はキツイわ。
この炎天下、あまりあちこち歩き回るのは得策ではないかもしれない…と思い、予定を変更して、午後一番の回を見る、つまり一日で一番気温の高い時間は映画館の冷房の中に避難することにしました。

ケアンズ・シティ・シネマは、8本程度の映画を平行上映するシネマ・コンプレックス館。「マスター・アンド・コマンダー」はシネマ1という一番大きい上映室にかかっており、ここは約500席。スクリーンも音響も充実していて迫力満点でした。
シネコンというのは何処の国でも同じようなスタイルなのか、このシティ・シネマも雰囲気は日本のワーナー・マイカルに似ていますが、チケットを買おうとして困った…チケット・ブースがありません。
見回すと奥の売店(ポップコーンやジュースを売ってるところ)に長い列が出来ています。他に列は無いし、映画館のスタッフはこの売店にしかいません。
暑熱と強烈な太陽ですっかり日干しにもなっていたので、じゃぁとりあえず冷たい飲み物を購入かたがたチケットの販売所を尋ねるべ…と思って列にならんで(海外では忍耐強く気が長くなる私)、オレンジジュースのオーダーとともに「チケットは何処で買うのですか?」と尋ねたら、「ここです!」との返事。
なんとまぁびっくり。
ふつうはチケット・ブースが別にあって、上映時間とか上映館とか料金とかが出ているものでしょう? ひょっとして、このシネコンの場合は正面入り口に貼ってあったB4の紙がその全てだったわけ?
いやまぁコスト削減と効率化にはこれが一番かもしれないけど(スタッフ数が半分ですむし、売店兼用だとチケットと一緒についポップコーンを買ってしまう人も増えるだろうし)、なんとも素朴なシネコンだと感心したのでした。
「マスター・アンド・コマンダー」のチケット代は13.5豪ドル(1,080円)、これは休日料金で、この他に11ドル(880円)の日と6ドル(480円)の日があるらしいのですが、どのような制度になっているのかはわかりません。
オーストラリアの映画専門誌などを読むと、ランキングがこの3種類で評価されていて、この映画は13.5ドルの価値がある、この映画は6ドルで十分…などと書かれています。日本で私たちが「これはレディースデーで十分」などと言うようなものですね。

映画そのものについては、12月14日と23日の日記にありますので、そちらをご参照ください。
ここで特筆すべきは、やっぱり観客でしょうか? アメリカのサイトで「M&Cは観客の年齢が高い」とか「若い人はほとんど来ていない」とか言われていましたが、オーストラリアでも状況は同じ。
午後一番の回では、少なくとも20代の人はいませんでした(!)。30代以上のご夫妻、単独の男性客、お友達同士でいらしたおばさま…でトータル100名超といったところでしょうか、目につくのは年配のご夫婦。男女比はほぼ同数で、男性は単独ですが、女性はお友達同士というのが多かったようです。
そうですね、去年私が日本で見た映画で、これと同じような客席と言えば、「永遠のマリア・カラス」でしょうか。
でも、日本で「マスター・アンド・コマンダー」を上映して、この客層ということは無いでしょうから、どうなるのでしょう?
ちなみに2回目を見に行った夕方の回では、300名近く入っていて、10代の子供さんを連れて見に来たご一家というの何組かありましたから、もう少し年齢層は下がるかもしれません。

映画を見終わった後、しばらくその世界から戻って来られずぼーっとしていて、汐の香りが恋しくなったので再び海岸ぎわの公園に。
さらには船が見たくなって、埠頭(リーフ・フリート・ターミナル:ただしフリート(艦隊)というほどのものはない。観光船と個人ヨットのみ)へ。
映画の余韻を楽しむには最適の地、ケアンズでした。

その後は遅い昼食、明日の1日クルーズを予約してから、軽〜いショッピング。
翌朝は7時50分ピックアップ、18時すぎに帰港の遠距離クルーズを予約してしまったので、明日はあまり時間がとれないであろう。
もう一度映画を見るのなら今日のうち…ということで、夕方の回にもう一度行ってきました。
夕食は中華のテイクアウト、ビールを探しましたが、オーストラリアはパブか酒屋以外ではお酒が手に入らないらしく、ホテル近辺には酒屋が無かったので、代わりにジンジャー・ビア。
ランサマイト(アーサー・ランサムのファン)ならジンジャー・ビアでしょう、というのもありますが、私にとっては今や、ボライソー・シリーズに登場するトマス・ヘリックの飲み物…というイメージが強くなっています。
P&N Beverages社のTraditional style ginger beerというのを選びましたが、生姜が利いていて美味でした。

明日は早いし昨日は寝不足なので、ホテルにかえって早めに寝ることにします。


付録:ショッピングの収穫
本屋さんでこんな本を見かけました。他にいろいろと購入したのでここまで手がまわりませんでしたが、ご参考まで。
Amazon.ukで入手可能だと思います。

◆ Evolution's Captain
著者:Peter Nichols, 出版社:Harper Collins
ダーウィンのビーグル号で艦長をつとめたRobert FitzRoyの知られざる運命。

◆Rifles
著者:Mark Urban, 出版社:すみませんメモとり忘れました
 この紹介は英語の方がズバリでしょう「Wellington's Legendary Sharpshooters」。
ライフル銃兵に興味をお持ちの方、およびシャープ・ファンは必読かもしれません。まじめな研究書です。
 著者のUrban氏は「Faber and Faber」というナポレオンの暗号解読をめぐる本も記しているそうですが、
 マチュリン先生関連ではこちらの本の方が参考になるかもしれません。


2003年12月07日(日)