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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
二つの時代、三つの時代

米国コロラド州では、今日と明日「ホーンブロワー(HH)3」の放映があるようです。

Coming about!
デンバー・ポストのこの記事は、HH3とM&Cの人気の秘密を、200年をへだてた2つの時代の比較で論じています。
街角の車が爆発したり、空から突然飛行機が落ちて来たりする2003年、もはや戦争にエチケットも格式もなくなってしまった時代、人々は、「Mr.This」と「Mr.That」の間で「If you please」などというせりふが挟まれながら手順に乗っ取り進められる戦争に、安心感を感じるのだ。


時代の比較と言えば、ここ2〜3日、海洋系の掲示板やNHKの大河ドラマを見ながら、ふと思ったことを書いてみたいと思います。
それは3つの時代の話。つまり、ひと時代前(20世紀前半)の作家が書いた、ふた時代前(19世紀前半)の物語が、現代(21世紀)に映像化されることについて。

今年のNHK大河ドラマは吉川英治原作の「武蔵」でした。この作品は何度か映像化されていますが、今年の「武蔵」は、15年ほど前にやはり同じNHKでドラマ化された役所広司と古手川祐子の「宮本武蔵」とくらべても、かなりヒロインの解釈が変わっています。

吉川英治は1892(明治25)年生まれ、1935(昭和10)年に17世紀の初頭を舞台にした「宮本武蔵」を書きました。吉川英治の描く原作のお通(今NHKで米倉凉子が演じている役)は、ひたすら耐える女性でした。ところが今年の「武蔵」を見て、ビックリ! お通のキャラがずいぶん変わっている。ものすごくたくましく(笑)なってるんです。
やっぱり昔のままのお通像では、現代女性の共感を得られないと思って、多少解釈を変えたのでしょうね。

ところで、ホーンブロワー・シリーズの作者、C.S.フォレスターは1899(明治32)年生まれ、1937(昭和12)年に「パナマの死闘」を書きました。
けれどもこちらのヒロインであるマライアは、NHKのお通さんのように21世紀対応のキャラ変化をしているわけではありません。けれどもTVドラマ化にあたっては、演じる女優さんがそれなりの解釈をしていらして、原作よりはかなり深みのあるキャラクターになっています。
その結果かどうかわかりませんが、ホーンブロワーの妻マライアに冷たいとか、あれではマライアがかわいそう…とかいう感想が出てきているようです。

いやまぁそれを言えばNHKの「武蔵」に出てくる男たちだって、現代から見れば、純粋かもしれないけれども無茶苦茶な生き方をしていて、こんな人が今近くにいたら、きっと引いてしまうと思います。
でもこれは時代劇ですし、江戸時代始めの話ですから、誰も彼らを「非道い」とは非難しないわけで。

結局これには3つの時代の価値観があるのでしょう。物語の舞台となる時代の価値観、作者がこの小説を書いた当時の価値観、そして現代21世紀の価値観。
第二次大戦後、そして日本でも均等法後のここ15年、女性をめぐる価値観は劇的に変化しました。
フォレスターが最初に小説を発表した1935年(第二次大戦以前です)には、英国でもかなり価値観が異なったのではないかと。

まぁこのまま、ヨアン・グリフィス演じるホーンブロワーが女性の総スカンをかうようだと、ちょっと問題かもしれないと思いますが。
でもまぁドラマには定評のある英国の製作ですから、落としどころは心得ているかな?
ホーンブロワーの前に英国で放映していたシャープ・シリーズの、TVドラマでのシャープと妻ジェーンの関係は上手く描かれていたと思うんですよね。二人が何故すれちがっていくかが、見ている人にも良くわかるストーリーになっていたし、ジェーンって原作ではかなり「イヤな女」に描かれている部分がなきにしもあらずなんですが、TVのジェーンは悪役ではなく、彼女の心が夫から離れていく過程が共感できるものになっています。いやこういう話は現代にもよくあるわ…という展開。
夫が仕事にかまけて妻をかまわず、満たされぬ妻は買い物依存症になる。これって現代だったらクレジットカード破産でしょう(笑)。

でも、最初の話に戻って、現代には失われたゆえに昔のものが見直されるという価値観もあるわけで、ゆえに歴書小説や映画は面白いのかもしれません。


2003年12月02日(火)