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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
Honour This Day――トラファルガー海戦記念日

10月21日は、英国ではトラファルガー戦勝記念日。
ロンドンにいっらしゃる方は、今日トラファルガー広場に行かれるとパレードがご覧になれます。
ネルソン提督がスペインのトラファルガー沖でフランス・スペイン連合艦隊に大勝利をおさめたのは、1805年10月21日のことでした。

トラファルガー海戦の意義とか詳細については、専門に解説してくださっているサイトさんが幾つもあると思いますので、ここでは趣向を変えて「この日、海洋小説の主人公たちは何処にいたか?」を、明らかにしてみようかと思います。

2〜3年前のこと、海外の海洋小説ページを探していて面白いものを見つけました。
M.S.氏なる方の作成された「ナポレオン時代の海洋小説主人公たちの経歴一覧(Careers of Fictional Napoleonic Sailors)」というHP。
左端に年号(1756-1815)、右には生まれの古い順にボライソー、ドリンクウォーター、ホーンブロワー、オーブリー、ラミジー、デランシー…と海洋小説の主人公たちの名が並びます。誰がいつ何処にいたか?はっきりすっきり一目瞭然の一覧対照表になっているのです。
もっともこの一覧表、日本では未翻訳の小説も含まれていますので、完全にねたバレではあるのですが。

あまりに便利なので、そのときはページごと保存させていただきました。
ところが今回、これをupするに当たって、みなさんにもこのアドレスをご紹介しようと思いましたら…HPが消えていたのです。
あぁなんてこと。
M.S.氏ご自身は別に活動停止されたわけではなく、海の向こうの掲示板には時々書き込みをされているようなのですが。
早くまたHPも復活していただきたいと切に願うものでした。

ともあれこのM.S.氏の力作一覧表から、1805年を見てみたいと思います。

まずはこのHPの主役であるジャック・オーブリー艦長。
1805年10月は、原作では3巻に当たります。ジャックはサープライズ号で遙かかなたのインド洋に遠征中でして、トラファルガー海戦の一大事などつゆ知らず、東インド会社の船団護衛にいそしんでおります。((3巻「特命航海 嵐のインド洋」ハヤカワ文庫)

やはり航海途中にあったのが、C.N.パーキンソンの主人公リチャード・デランシー艦長、彼は10月に英国を出航しローラ号でインドに向かうので、ジャックとはちょうど入れ違いですね。(5巻「南海の秘密基地」至誠堂)
この二人は全くトラファルガーに関わっていないのですが、これはむしろ例外で、他の主人公たちの多くは、多かれ少なかれこの海戦の影響を受けることになります。

アレクサンダー・ケントの主人公リチャード・ボライソーは中将。旗艦ハイペリオン号でトラファルガーより手前の地中海にいました。ツーロンとカディスの中間あたりのようです。 フランス艦隊に合流するスペイン艦を少しでも抑えようと、こちらも小規模ながら海戦を展開しています。
その後ジプラルタルに入港し、初めてトラファルガーの勝利とネルソンの悲報を知るのでした。(17巻「栄光の艦隊決戦」ハヤカワ文庫)

ダドリ・ポープの主人公ニコラス・ラミジ艦長はトラファルガーの現場にいました。が、実際に戦闘に参加したわけではなく(一応そういことにしておきましょう。戦列艦ではないのだし)、フリゲート艦カリプソ号で偵察や信号中継などの任務に当たっていました。無線通信の無い時代のこと、現場で海戦を目撃しながら状況を推察するしかなく、ネルソン提督の旗が降りてからも、最悪の事態を徐々に理解していくまでのタイムラグに、読んでいる私たちも事の重さを実感するのでした。(21巻「トラファルガー残照」至誠堂)

海洋小説の主人公で、いちばん現場に近いところにいたのは、M.S.氏によれば、リチャード・ウッドマンの主人公ナサニエル・ドリンクウォーター艦長のようです。ドリンクウォーターのシリーズは、日本では4巻(1800年)まで二見書房から翻訳出版されていましたが、その後続きが出ず立ち消えになってしまいました。けれども本国では先が出版されており、トラファルガー海戦絡みの物語はそのものずばり「1805」というタイトルの6巻目となります。
ドリンクウォーターはスペインで捕虜となり、なんと敵の旗艦(ヴィルヌーブ提督のヴュサンチュール号らしい)から海戦を体験するとのこと。ヴィルヌーブ提督の降伏後は護送任務にあたるようです。(6巻「1805」Sheridan House Publishers)

もう一人、この戦いに巻き込まれた小説の主人公がいます…が、海軍さんではありません。
バーナード・コーンウェルの主人公リチャード・シャープ。英国ITVでドラマ化され、ショーン・ビーンが主人公を演じたことで最近では日本でも一部では有名(?)。彼は陸軍のライフル銃兵です。
いったいどうして陸軍さんがトラファルガー海戦に巻き込まれたかというと、なんでもインドからの帰国船が海賊に拿捕され、捕虜として北アフリカに連れていかれそうになったところを戦列艦に助けられたが、その艦が海戦に参加することになった…といういきさつのようです。シャープはまぁあの通りの性格ですから、いったいどういう話しになるのか、とっても不安。どなたか読まれた方がありましたら、詳細をお聞かせください。(17巻「Sharpe's Trafalgar」 Harper Collins )

最後にご紹介するのは、やはり最近英国でTVドラマ化されているC.S.フォレスターの主人公ホレイショ・ホーンブロワー。
彼は勅任艦長になったばかりで、海戦当時には英本国で待機中でしたが、連絡を受けロンドンに出頭してみると、仰せつかったのはなんと、テムズ川をさかのぼるネルソン提督の葬列指揮だったのでした。(4巻「トルコ沖の砲煙」ハヤカワ文庫)

さて、再来年2005年はトラファルガー海戦から200年目の記念の年に当たります。ロンドン・グリニッチの英国立海事博物館などはこれに合わせて企画展などを予定しているようですが、…果たしてテレビはどうするのでしょう? ITVのドラマ「ホーンブロワー」はいまちょうどこの前の巻の途中まで来ているようですが。やはり2005年に合わせて4巻のドラマ化があるのか…? でもこの4巻…お読みになった方はおわかりだと思いますが、200年記念TVドラマにふさわしいのかどうかは…、ちょっと悩むところなのでした。
実を言うと、ホーンブロワー自身は上記のような状況なのですが、彼の副長をつとめたブッシュ海尉の方はトラファルガー海戦でテレメア号に乗り組み、なかなか活躍しているようなのです(「パナマの死闘」の中で語られています)。この際、ブッシュ(ポール・マッガン)主演…というわけには、やはりいかないでしょうねぇ。

というわけで、ずばり海戦そのものを描いた作品は、英国にはなかなか無いのですね。やはりトラファルガーについては史実があまりにも詳しく残されているので、フィクションで書きにくい部分もあるのでしょう。
こういうものはかえって外国人の方が書きやすいのかもしれません。
実は私の年代には女性の海洋小説ファンが意外と多いのですが、その原因となっているのが、1979年に発表された青池保子さんの「トラファルガー」。現在は秋田書店の漫画文庫に収録されていると思います。
たかが漫画とあなどるなかれ。本当によく資料を調べて描かれています。英国ポーツマスの海軍博物館にトラファルガー海戦時のジオラマ模型が展示されていますが、これを見た時に私が驚いたのは、それがかつて「トラファルガー」の漫画に描かれていたのと全く同じ光景だったことでした(リチャードが「鳥のように綺麗だ」といったあれです)。

2005年記念ということであれば、私はひとつお願いがしたいと思っています。ラミジ艦長シリーズのダドリ・ポープが書いたノンフィクション「England Expects -- Nelson and the Trafalgar Campaign」(Chatam Publishing)、これを是非、日本でも2005年に出版していただきたい…と。
この本は基本的にはノンフィクションですが、ネルソン提督とハーディ艦長のやりとりなど、途中一部フィクション風のところも挿入され、なかなか読ませる1冊です。
どこかの出版社でこの願いを叶えていただけないでしょうか?

本日の書き込みにあたっては、TさんとFさんのご助力をいただきました。本当にありがとうございました。
また、ここに登場する本について詳しいことをお知りになりたい方は、下層甲板の住人さんのホームページ「Lowerdeck」の海洋小説リストに全て網羅されていますので、こちらが便利です。
Lowerdeck
HOMEの「Hammock」をクリックすると海洋小説リストにたどりつけます。


2003年10月21日(火)