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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
19世紀の「音」――音響製作者インタビュー

もしあなたが、嵐の只中の19世紀にフリゲート艦の「音」を耳にしたいと思うのであれば、トラックの荷台に木材、毛布、300メートル超のロープを積み込み、カリフォルニア州南部のモハベ砂漠を目指すと良い。
砂漠についたら、木枠を組み立て、そこに300メートルのロープを全てぴんと張る。張り終わったらトラックを風速13メートルの強風に立て、アクセルペダルを一杯に踏み込むのだ。
トラックが時速113kmに達した時、そこに再現されるのは、パトリック・オブライアンが「荒れ模様の夜、全ての自然の絆を散り散りに吹き飛ばす天変地異の黙示」と評した、嵐の前触れとなるフリゲート艦の索具の音なのである。

映画「マスター&コマンダー」の音響製作担当(sound designer)であるリチャード・キング氏は、このようにして嵐のフリゲート艦の音を手にいれた。
彼には船員として49年間も海上生活を送った経験がある。
「本当に嵐の夜に自分の船を出そうなんて奴はいない」
だから代わりにこの方法をとったのだとキング氏は言う。

モハベ砂漠は、風が常に南西から吹き安定しているので、録音には都合が良い。
キング氏は砂漠の只中に巨大な足場を組み立て、巨大な横帆をとりつけた。そう、マストの代わりだ。この方法で、氏はさまざまな強さの風での帆がばたつく音を録音することができた。

ハリウッドにはもちろん、沢山の効果音のストックがある。
だがオブライアンの小説によく言及される「うなりを上げながら頭上を飛び越えて行く砲弾の音」はなかった。
そこでキング氏は、ミシガン北部に住む大砲コレクターを探し出し、州兵の演習場を借りて、実際に年代ものの大砲に様々な砲弾を装填して発射した。
丸弾(round shot)、鎖付き弾(chain shot)、葡萄弾(grape shot)。
録音チームは約80発の砲弾を発射し、発射音だけではなく空中を飛んでいく砲弾の風切り音をも録音した。
キング氏によると、風切り音は発射音と同じくらい凄まじい音なのだとか。

これは「The New Yorker - The Hollywood Issue 10/20」に掲載された音響製作担当者へのインタビュー記事の要約です。原文はこちら。
SOUND DESIGNER--Widked Wind

索具が風に鳴る音、これは楽しみです。
艦の肋材がきしむ音も再現してもらえるのでしょうか? 復元船のローズ号とエンデバー号で撮影しているのだから、これもホンモノ。安心して待っていて良いですね。

私は船の肋材がきしみ、船体に波が当たる音が好きです。聴いていると自分も船に乗っているような気分になることが出来て、私にとってはこれ、癒しのサウンドなのですよね。

どうしてそんな音を持っているかって? 答えは「ホーンブロワー2」(エピソード5)のDVDです。
このDVD、発売直後の2001年6月にAmazon.comで入手したのですが、英語字幕が無いもので(NHK放映前でしたから、もちろん吹き替えもなし)何とかヒアリングする以外に話を知る手段が無く、でも画面があるとどうしても見てしまうので、耳がお留守になってしまいます。
そこでヒアリングのため音だけをウォークマンに落としてじっくり聴く…というのを実行しました。
そのときに初めて肋材のきしむ音…というのを聴いて、あぁこれが船乗りたちが常に聞いている音なのかと感動したのでした(陸に上がるとこれが無いので、静かすぎて落ち着かない人もいるという)。

就寝前のひと時、部屋の灯りを消した後、ウォークマンを耳にこの音を聴いていると、不思議に心が落ち着きます。皆様もぜひお試しあれ。
といっても、それは何処のシーンかいうと、気の狂った艦長に悩む海尉たちが、船倉で謀議をはかっているところだったりするのですけれどもね。
こんなものを寝る前に聴いてって? とりあえず今のところ、幸いにも私はソーヤー艦長の登場するこわい夢は見ておりません。


★訂正のおしらせ
10月16日(木)の日記について、わかりにくい表現があったため、同日午後11時半頃に追加訂正をアップしてます。木曜日の早い時間にこの日記をご覧になった方は、お手数ながら前日に戻り、追加訂正にお目をお通しいただきますようお願い申し上げます。


2003年10月18日(土)