BERSERK−スケリグ島まで何マイル?-
真面目な文から馬鹿げたモノまでごっちゃになって置いてあります。すみません(--;) 。

2006年01月29日(日) 「青い狐の夢」7

青い狐の夢6

 今日も、ファルネーゼが幽閉されている尼僧院の、尖塔が見える小高い丘に来る。
ほとんど習慣化しているので、神学校であんな噂を流されるのも
自業自得というものかもしれない。
 木化した立麝香のそばに手頃な岩があるのを見つけ、腰をおろした。
今日は立麝香の小枝を折りとって弄びながら、いつもの様に尼僧院の方向を
ぼんやりと見ていた。
 
讃えよ、この上なく美しき女、高貴なる宝石
讃えよ、処女らの壮厳、栄光の乙女
讃えよ、この世の灯火、この世の薔薇
白い花、ヘレナ
高貴なる美の女神よ……

 酒場で神学生が歌う戯れ歌を、ひっそり口ずさむ。
自分が歌うと辛気くさい賛美歌の様だと思いながら。
これは酒場で陽気に酒を酌み交わし、人々の熱気と歓声の中で歌われるべき歌なのに。
 これから自分はどうするのか……。
セルピコは思う。尼寺に入ってしまった貴族の婦人が
外に出られる事はそうそう無い。
規範の緩い僧院なら、そんな事もあろうがファルネーゼの幽閉されている
尼僧院は厳しい戒律で有名なのだ。
だからこそのヴァンディミオン当主の選択であり
自分はもう、ファルネーゼの素行に対して気をもむ事もないのかもしれない。
それに自分がファルネーゼの側に居ない方が、かえっていいのではとセルピコは思う。

『お前は私に合わせて、歪んでいるから………』

 でもファルネーゼ様、それ貴女が本当に求めているものとは違うのです……。

 僕を構成するすべては紛い物。あの寒さと飢えの煉獄の泡の一つ。
居るはずのなかった子供、育たなかったはずの赤子が
今は大ヴァンディミオン家令嬢警護役にしてVisconte(子爵)
紋章官にして騎士。
 話す言葉も大層な肩書きも、どれ一つとして己の望んだものですらない。
 そんな自分が唯一示した”本当の事”が、結果ヴァンディミオン家の館
一つを炎上させ、王家との婚礼を壊した。
 弄ぶ立麝香の葉が香る。
 神学校の教授や放浪学者というのも面白いかもしれない。
自分は成し遂げられるだろう。
時期をみて、ヴァンディミオンのフェディリコにお伺いをたてる必要があるが
ファルネーゼが尼僧院で落ち着いているなら
愛人の子など目につかない所へでも行けばいいというのが
”父”であるヴァンディミオン家当主フェディリコの本当の処だろう。

 だが物思いにふけるセルピコも、予想だにしなかった。
彼が丘で尼僧院の方向を眺めている時間、ファルネーゼもまた
彼を、正しくは神学校の方向を、煮えたぎる屈辱の思い出と共に見ている事を。
 



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