修道院の傍らに造られた神学校は、荒野の中だった。 それでも町の酒場には近く、神学生のおかげか、または神学生を見込んでか、酒場のおかげで町は潤っている。客の大方は、金に不自由しない貴族の子弟達だった。 「…………」 黄金色に染まった荒野を学寮まで歩きながら、セルピコは珍しく自分に因縁をつけてきた学生達の事を漠然と思い出す。彼らは、貿易でヴァンディミオン家と対立している、聖都より南の都市国家出身の学生達だった。 ヴァンディミオンの名は、自分に損得とどちらを多くもたらしたか? 飢えず凍えないだけましか……。 ”あのまま”であったら、とっくの昔に凍え死ぬか、学問も礼儀も知らぬその日限りを生き延びる存在に成り果てていただろう。母は……。 セルピコの心に重く冷たく凝るもの、母とそして……。 彼は、教室から眺めた尼僧院の尖塔を再び仰ぎ見る。荒野の枯れ草は黄金色に染まり、尖塔の背景は燃える様な茜色の夕日が背景となっている。 あそこにはファルネーゼ様が幽閉同然に神の教えを学んでいる。一尼僧としては破格の扱いで、尼僧院長直々の教えを受けている。いや、監視か。 セルピコは月に一、二回程度、主家ヴァンディミオンの当主フェディリコの書を受けて、尼僧院長立ち会いのもとファルネーゼに会いに行く。
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