2005年12月20日(火) |
「青い狐の夢」1:いたばさんありがとうございますm(_ _)m |
O Fortuna velut luna statu variabilis……
おお!運命の女神フォルトゥナ! 貴女はまるで月の様に 満ち欠ける……
今日一日の授業の終わりを知らせる鐘が鳴り、教室はざわつきはじめ、教授は帰り支度をしている。 「………」 セルピコは、目を落としていたスコラ哲学の教本から顔を上げる。遠くに尼僧院の高い塔が見える。背景の空は、早くも夕暮れの黄金に染まり、周囲の学友達は今夜どの酒場に行くか楽しげに語り合っていた。 「…平民出身の……」 「?」 一瞬、我が耳を疑った。彼に話かける同輩は、セルピコの難しい背景もあって滅多にいない。 今の言葉は、どうもセルピコに向かって投げかけられた言葉らしい。彼はその声が聞こえた方向を向く。そこには当たり前の様に、貴族出身と思われる学生の一群がいた。 「僕の事ですか?」 「おお、そうとも」 「雪の中に行き倒れていた平民出身の学生は、この学院一のずば抜けた優等生でいらっしゃる」 揶揄の笑い、蔑み。セルピコはため息をつく。こんな事は日常茶飯事だった。神学校に入る前からも、ずっと。適当にその場をはぐらかして、彼はその場から立ち去ろうとした。 「そういう君たちは、生まれの貴さに似合わぬ卑しい精神の持ち主だな」 その場の学生がはっとして振り返る。枢機卿の座をけって、その知並ぶ者無しと囁かれる博学の教授だったのだ。 「俗世の理がいかにあろうとも、知の前では平等だ。この者に謝罪したま……」 「教授、かばい立てには及びません。本当の事ですから」 セルピコのその一言で、助けに入った形の教授、誹った者達共に呆気にとられた。 彼らを尻目に、セルピコは教本をまとめて、その場を後にした。
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