BERSERK−スケリグ島まで何マイル?-
真面目な文から馬鹿げたモノまでごっちゃになって置いてあります。すみません(--;) 。

2006年01月26日(木) 「青い狐の夢」6




 薄暗がりの石の回廊には、まばらな学生達の姿が
わずかな蝋燭の灯火の下に浮き上がるだけになった。
 セルピコは早足で宿坊へ向かい、話し好きの同輩は
あわてて彼を追いかけてきた。

「君は下の街に行かないのか?」

「ああいう場所はあまり……空気が悪いし、好きじゃないんです」

「ふ〜ん、変わっているね」

 この薄暗がりに、何か、知っている、粘つく様な空気を感じた。

「君は質素に見えるが、素晴らしい絹を着ているな」

「随分細かい所まで見てるんですね。
 僕は肌が弱いんです」

 まったくの嘘ではない。鞭打たれ、剣の切っ先で切り裂かれた
無数の肌の傷のおかげで、分不相応と思われようと極上の絹でも
身にまとわなければやっていられない。
血が流れる生傷よりも、治りかけの痒みは、我慢強いセルピコにして
眠れぬ程の苦しみを与えた。

「黒い僧服の襟や袖口から見える白い肌着で、それとわかるさ」

「………」

「…君の肌も、絹の様に白かろうと、そう思ってた。
 とても平民出身とは思えない、細くて長い綺麗な指をしていたから」

 他人が話かけてきたと思ったら、これか……。

「僕はそっちの趣味は無いんです。無理強いしてくるなら
 多少の暴力は覚悟してください」

 振り向き、冷たく光る灰蒼の瞳に睨みつけられた同輩は
意外な事の様に狼狽し、粘つく気配を隠した。

「……君は見た目より怖い人間らしいな」

「平民あがりの人間は無作法です。
 そう思ってもらわなければ、困ります」

 セルピコは密かにため息をつく。
僧院に、そういう趣味の人々が少なからず居る事は知っていたし
(たぶん、この学生も、そちら目当てで聖職者を志望した節がある)
聖都でも、彼の細く頼りない外見と、金髪のおかげで
寵童にと迫られた事がままあった。
 そんな時、彼はここぞとばかりに、普段注意深く隠している
牙を剥き出した。
 幸か不幸か、極貧に喘いだ幼少の時代に、春を売る経験だけは
した事がなかった。
 
 可愛げがない子供だったからでしょうね……。

 不幸中の幸いと、笑う気も起きない。

「…すまなかった」
 
 消え入る様な謝罪の声が、セルピコの背に投げかけられた。
が、しばらくして

「……君が攻って事で、どうだろう?」

「血を見ないとお分かりにならない様ですね?」

 まったくこの手の輩は性懲りもない……。
怒気さえ感じさせない、底冷えしたセルピコの声音に
ソドムの男はようやく押し黙った。

 




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