BERSERK−スケリグ島まで何マイル?-
真面目な文から馬鹿げたモノまでごっちゃになって置いてあります。すみません(--;) 。

2006年01月24日(火) 「青い狐の夢」4



 冷たく乾いた空気の中、高い天井に食前の祈りの言葉が吸い込まれていく。
食堂はロマネスク様式で、以前は違う目的で使われた建物なのだろう。
主に神へ祈りを捧げる、大聖堂はゴシック様式でなおの事天は高く、その空間は人の為のものではない。神、もしくはその御使いの降臨を待つ空間なので、人の生活に向いている訳がなかった。
 どこで祈りを捧げる時も、あまりに高い石造りの建物ゆえ、人の祈りの言葉はいつも天にのぼる途中で消えてしまう。そんな印象をセルピコはもっていた。  
 やっと食前の祈りの時間が終わり、食事へとありつけるのだが、贅沢に慣れた口には待ち望んだという程の献立では無い。
 それでも神学校は修道院の真横にあるので、ヴァンディミオン家で口にしていた物ではないにしろ、それ相応の白いパンが食べられた。今日の汁物は簡単な豆とベーコンのポトフで質素な物だった。堅いパンだったが、それでも噛み締めれば美味であり、水がいい場所なのでエールが思いがけない程よい味で気に入っていた。
 セルピコとしてはそう不満のある食生活ではなかったが、夜に神学生が街へ繰り出すのは、肉ともっと酔える葡萄酒と女の為だった。
 思い出したくなくも、彼の底に沈む原風景。あの建物ともいえない部屋の、心から凍える飢えと寒さ。幽鬼の様に痩せさらばえた気の触れた母……。
 女性は、苦手だ……。
 あの生活を思えば、追いやられた修道院とはいえ、十分だった。

「君、さっきの事、同郷の者としてお詫びする」
「?」

 食事をする神学生の気配のみで静まり返ったこの場に、セルピコへひっそりと声をかける者があった。

「貴方は?」
「酷いな、一緒の宿坊の者だよ」
「ああ、これは失礼を」

 傍らに座る人物は、寝起きを共にする部屋の人間だった。
聞けば、昼間にセルピコへ挑発的な侮蔑を行った神学生達の同郷だという。
神学校へ部屋を取れるのだから、貴族か裕福な商人の家の子息でもあろうが、小柄でしょうしょう落ち着きの無い人物と感じていた。
 豪商はともかく、貴族の長男以下はなかなか大変で、聖職者になるか傭兵になるか、そんな処なのだ。

「あんな事は聖都に居た時も日常茶飯事です。気にしていませんよ」
「皆、君に興味があるのだ。良くも悪くも。だからあんな風に粉をかける」

 そんなモノだろうとセルピコは思う。新参者、しかもどこの馬の骨ともわからない平民出身の自分は、うわさ話その他の格好の標的なのだ。
 彼の後ろに控える大ヴァンディミオンの名と、唐突とも言える貴族への引き上げに、与えられた爵位。どこでもいい噂の種になった。
 舞踏会で、貴婦人達の蔑みと好奇の入り交じった視線を思い出す。そして紳士達からは、嫉妬と羨望の目を向けられた。



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