2005年12月06日(火)  戸田恵子さんの『歌わせたい男たち』

戸田恵子さんの名前と顔が一致して「すごい女優さんだ!」とびっくりしたのは、99年にパルコ劇場で観た三谷幸喜作・演出『温水夫妻(ぬくみずふさい)』。ひなびた田舎の駅に吹雪で閉じ込められた温水夫妻(角野卓造・戸田恵子)が、夫人の昔の恋人・太宰治(唐沢寿明)と居合わせる。さらに、太宰治と紛らわしい名前の打雷修(梶原善)という名の宿の主人兼駅員も加わった四人が繰り広げるハートフルドタバタコメディで、戸田さんの存在感は際立っていた。その後、舞台『オケピ!』で「あの人だ!」と再発見し、テレビでたびたび見かけるようになり、『ちゅらさん』や『新撰組』でも見つけるとうれしくなってしまう女優さんだった。

ひょんなことから先日、戸田さんとお近づきになる機会があり、私的戸田恵子歴を披露すると、「いまちょうど舞台やってるんですよ」と教えられたのが、『歌わせたい男たち』。作・演出は永井愛さんと聞いて、「わあ観たい!」となる。ベニサンピットでの東京公演は終わり、地方公演がはじまっていたが、今日、亀戸のカメリアホールでつかまえることができた。

戸田さんが演じるのは売れないシャンソン歌手から転向した都立高校の音楽講師。はじめて迎える卒業式で国歌斉唱の伴奏をすることに。だがピアノは苦手。プレッシャーのせいか眩暈がし、コンタクトを落とし、伴奏の危機。楽譜を読むためにはメガネが必要だが、度が合う唯一のメガネの持ち主は、国歌斉唱を拒否する不起立派の社会科教師。来賓や教育委員会の目が怖い校長は「今年こそ不起立を出してはならない」と説得に右往左往。君が代・日の丸に賛成でも反対でもなかった音楽講師は、校長や社会科教師、さらには妙な正義感をふりかざして反対派の押さえ込みに張り切る若い英語教師の主張に翻弄されながら、はじめて「で、わたしはどうしたいんだろう?」に向き合う。

母が小学校の音楽の先生で、父・イマセンが公立高校の教師だったわたしにとっては、とても身近な話であると同時に「家の中に材料が転がっていたのに、レシピをひらめく力と調理する腕がなかった!」ことを思い知らされた。卒業式の国歌斉唱という固くて扱い要注意なテーマをこれだけのエンターテイメントに仕立てたことは快挙。とにかく客席はよく笑った。校長が悲壮感を漂わせるほどにおかしみが増すし、土壇場で思いつくその場しのぎの解決策も笑いを呼ぶ。寝癖で髪が逆立ちしている社会科教師に「髪型も不起立にしたらよろしいんじゃありませんか」と音楽講師が突っ込む台詞には、笑いとともに拍手まで湧き起こった。

気を緩めて笑っていると、突然「えっ」という新事実とともに物語は急カーブを曲がり、油断もすきもない。しっかり笑わせて、最後は戸田さんの歌うシャンソンとともにしみじみとあたたかい気持ちにさせてくれて、お見事。

ちなみに、父イマセンに「起立派か不起立派か」と聞いたところ、国歌・国旗そのものは否定しないが、それを「強制する」ことには抵抗を感じるとのこと。去年の卒業式は国歌斉唱までは列の後ろをうろうろしていて職員席に着いていなかったという。もともと立っていれば「起立」したことにはならないけれど、「不起立」とそしられることもない。自分の立場と学校の立場のバランスを取る、父なりの立ち方だったのだろう。

2003年12月06日(土)  万歩計日和


2005年12月03日(土)  第12回函館港イルミナシオン映画祭 参加2日目

目覚めると、外はうっすら雪景色。過去の映画祭はもっと雪深かった印象があるけれど、今年は雪も少なく、寒さも許容範囲。朝食バイキングでたっぷり食べ(鮭をその場で焼いてくれた)、本広克行監督、ムロツヨシさんと山頂会場へ。

ムロさんは去年『Kyo-Iku?』というお芝居を観た後に挨拶したのだけど、覚えられてなかった。でも、「脚本家の川上徹也さんの知り合いで」と話しているうちに、「ぼくのサイトにも書き込んでくれましたよね?」とようやく記憶がつながった。川上さんは本広監督の知り合いでもあるらしく、世の中狭い狭い。同業者ならなお近いということで、「(『釣りバカ日誌』や『ドラッグストア・ガール』の)本木克英監督と名前似てますよね?」と言うと、「よく間違えられるよー。踊る大捜査線と釣りバカ撮ってるんですよねって」。本広克行と本木克英。両監督は秋田コメディー映画祭で会って意気投合し、飲み屋の壁に自分たちの名前を並べて書いたら筆跡も似ていたとのこと。
(日記を書いているわたし本人も混乱して、「本木」と「本広」がごっちゃになっていましたので訂正しました。)

今日の上映は四本。もう一度観たかった『運命じゃない人』、わたしのトークつき上映の『ジェニファ 涙石の恋』、そして見逃していた『ニライカナイからの手紙』と『サマータイムマシン・ブルース』というラインナップで、朝登ったきり夜まで山頂で過ごす。

『運命じゃない人』は、あらためて、よくできた作品。一度目の鑑賞では気づかなかった伏線にも目が届いて、より楽しめた。DVD(内田監督がPFFアワードに入選した『WEEKEND BLUES』とツインパック)は1/27発売。

会話や美術のディテールが楽しく伏線に要注意の『サマータイムマシン・ブルース』も、噛むたびにおいしさを発見できそうな作品。タイムスリップものといえば一本の作品の中で「行って帰って」の一往復を描くものという先入観を覆し、近所に買い物へ出かける感覚で昨日と今日を行ったり来たりする発想が面白い。DVD(コレクターズエディション)は2/24発売。本広監督のDVDはオマケ(特典映像)も期待できそう。

『ニライカナイからの手紙』は手紙、ポスト、カメラといったわたし好みのモチーフが物語を引っ張っていて、とても好きな世界。主演の蒼井優さんがとてもいいし、にんにく漬けで時間経過を見せる手法も新しい。途中でタイトルの意味がわかり、しみじみと感服。オリジナルでコンペで獲得した作品だそうだけど、着想がすばらしい。ロケ地の竹富島の方の生活に配慮して撮ったという裏話にもほのぼのした。DVDは1/24発売。

『ジェニファ』上映とトークについては自分のことなので冷静には語れないけれど、トークで何も質問が出なかったので、受けなかったかーと思っていたら、終わった後に何人もの人が感想を話しかけてきてくれて、ほっとした。函館刑務所の方は「刑務所の上映会でぜひ見せたい」と熱っぽく語り、映画祭スタッフの女性は「ラストの赤ちゃんにもジェニファの精神は受け継がれてましたね」とうれしそうに発見を話してくれた。この作品は観る人によって受け止め方がまったく違うところが面白い。

夜は本広監督、ムロさん、ムロさんをマネージメントしている須賀さんがお寿司を食べに行くところにまぜてもらい、『美な味(みなみ)』というお店でごちそうになってから牛頭バーへ。ジェニファの感想を言われたり、会社の元上司の元同僚というカメラマン氏に会ったり、あがた森魚さんやあおもり映画祭の方とお話ししたり。映画祭、大好きなんで呼んでくださいねーと話す。そのためにも作品を書かなくちゃ。


2005年12月02日(金)  第12回函館港イルミナシオン映画祭 参加1日目

函館港イルミナシオン映画祭をはじめて訪ねたのは、平成9年。「函館山ロープウェイ映画祭」と呼ばれていた最後の年だった。映画祭主催のシナリオ大賞で『昭和七十三年七月三日』が準グランプリを取り、授賞式に招かれての参加。シナリオを書き始めて初めての受賞だったが、映画をほとんど見たことがなかったわたしは、函館の山頂で映画そして邦画の面白さに目覚め、「来年もこの映画祭に来たい!」という思いで書いた『ぱこだて人』が翌年の準グランプリを取り、「函館港イルミナシオン映画祭」となった映画祭を「ただいま」と再訪した。

前田哲監督に見出されて映画化された『パコダテ人』プレミア上映のときはゲストの監督、宮崎あおいちゃん、木下ほうかさんを追っかけて参加。4度目の参加となる今回、はじめて脚本家としてゲスト招待された。デビュー以来、映画祭に招待されること自体、はじめて。切符も宿も自分で取らなくていいって、ラクだー。

空港からの車でご一緒したのは須賀泉水さんというすてきな女性。「ムロツヨシのマネージメントをしています」と自己紹介されて、「え? ムロさん来るんですか」とびっくり。明日上映の『サマータイムマシン・ブルース』(監督:本広克行)に出演しているとのこと。ヤニーズ時代から舞台を観ているファンなのに、映画にも出ているとは知らなかった。須賀さんはもう一人、香港人俳優のマネージメントをされているとか。「ひょっとしてエディソン・チャンですか?」と希望を込めて聞くと、「そうです」。ムロツヨシとエディソン・チャン、わたしにとっては双璧を成す二人。「え? 落差ありすぎません?」と函館山の山頂ではじめましての本広監督。この方、大監督なのに素顔はとても気さく。「あ、『子ぎつねヘレン』の人ですか? あれ、泣きそうですよね。ぼく、一人で観に行こうと思ってるんですよ」と言ってくださる。シナリオ大賞の受賞者にも自分からどんどん話しかけられていた。

『運命じゃない人』の内田けんじ監督には、ロープウェイのふもとで声をかけてみた。「わたしのサイトですっごく話題になってて、観ました。面白かったです」。うーん月並み。内田監督、最初はシャイな人という印象だったけど、後から、実はけっこうしゃべる人だとわかる。

オープニング上映の『秋聲旅日記』(監督:青山真治)と『田んぼdeミュージカル』(総合指導:崔洋一)を続けて観る。前者は金沢の商店街と映画館が共同企画した映画製作ワークショップから生まれ、後者は舞台となった北海道穂別町を崔洋一監督が講演で訪れた際、お年寄りたちが「わしらにも映画を作れるべか?」と言ったのがきっかけで制作された。どちらもその土地の味が生きた作品。偶然だが、『田んぼ〜』の脚本を書かれ、プロデュースも手がけた斎藤征義さんは、義父の友人。いつも「穂別の斉藤君」の噂を聞いていたが、映画祭のゲスト同士で対面を果たせるとは、びっくり。

崔洋一監督、斎藤征義さん、青山真治監督、あがた森魚さんによるシンポジウム「映画を創る映画祭とは」の後、オープニング・パーティー。時間がおしていたので1時間ちょっとで終わり、2次会の『牛頭(GOZU)バー』へ移動。はこだて写真図書館の中に映画祭期間限定のバーが出現。明日上映の『ニライカナイからの手紙』(『ジェニファ』と同じくウィルコ制作)の熊澤尚人監督と脚本のまなべゆきこさん(シナリオ大賞出身者)と話がはずむ。映画祭スタッフの皆さんともたくさん話す。わたしの仕事が順調な様子を自分のことのように喜んでくださる。お父さんがいっぱい、という感じ。

2001年12月02日(日)  函館映画祭3 キーワード:Enjoy


2005年12月01日(木)  Annettからのクリスマスプレゼント2005

街にクリスマスツリーがお目見えし始める頃、毎年恒例の国際小包が届く。今年はカレンダーをめくって12月になった本日到着。「ドイツからですよ」と玄関まで届けてくれた郵便局員さんが、ひと足早いサンタクロースに見える。

クリスマス仕様のラッピングペーパーをひとつひとつ開けていくと、チョコレートやらクッキーやら石鹸やらキャンドルやらが現れる。かごに盛られた「ドライフルーツティー」。味の想像がつかないレトルトスープ。毎年贈られるがいまだに味になじめないマジパン……。ダンボールひと箱にぎっしり詰まったプレゼントを並べてみると、ミニミニドイツ物産展状態。いちばん気に入ったのは、吸盤つきのプラスチック製一輪挿し。早速冷蔵庫の壁にくっつけて、ベランダ栽培のアイビーを挿してみた。

2004年12月01日(水)  小原孝・佐山雅弘 Piano de Duo - 4
2001年12月01日(土)  函館映画祭2 キーワード:これが有名な


2005年11月30日(水)  保湿ティッシュは甘かった

いつ頃からかわたしを不安にさせていたのが「ティッシュが甘く感じる」という事実。甘みをすごく感じるときとまったく感じないときがあるので、これは体調に左右されるのではと勝手に憶測し、ティッシュが甘いかどうかを健康のバロメータにして、「ティッシュが甘い日」はデザートを控えたり、睡眠を取るように心がけたりした。

今日も鼻を噛もうとしたら、ティッシュが甘い。これってやはり何かの病気の症状なのだろうか、と以前から漠然と抱いていた不安が膨らみ、「ティッシュが甘い」をgoogleで引いてみたら、50件ヒット。わたしと同じ症状を訴えていた仲間が他にもいた!でも意外と少ない(「ぎっくり背中」は800件ほどヒットした)。先輩方のリサーチによると「保湿系のティッシュは保湿成分のアミノ酸のせいで甘くなっている」とのこと。早速、箱を確かめてみたら「保湿成分(グリセリン・ソルビット)は食品添加物の規格に合致しています」とあった。ソルビットって甘味料として使われているのをよく見る名前。甘みの元は、この成分だったよう。ティッシュの甘みは、わたしの体調ではなくティッシュの値段(保湿ティッシュはちょっと割高)で変動するとわかり、ひと安心。

2003年11月30日(日)  小津安二郎生誕百年
2002年11月30日(土)  大阪のおっちゃんはようしゃべる
2001年11月30日(金)  函館映画祭1 キーワード:ふたたび


2005年11月28日(月)  『ブレスト〜女子高生、10億円の賭け!』制作会見

渋谷の東武ホテルにて『ブレスト〜女子高生、10億円の賭け!』の制作会見。ドラマも映画もいくつかやったけど、制作発表(発表と会見はどう違うのでしょう?)に呼ばれたのは、はじめて。といっても連絡が来たのはぎりぎりで、わたしが着いたときには始まっていて、会見席の佐藤藍子さん、益岡徹さん、山田純大さん、多部未華子さん、小林涼子ちゃん、佐津川愛美さんが意気込みを語り終えたところに滑り込んだ。

Mエージェンシー戦略企画室の6人が居並ぶのを見られて感激……と浸る間もなく、「原作と脚本の今井雅子さんから一言」とマイクを渡され、「原作があったほうが映像化しやすいと知り合いのプロデューサーに言われて原作を出したんですけど、出せばいいってもんじゃなくて、ベストセラーにならないと映像化の道は険しかったんですが、このような形で映像にできてうれしいです」。アドリブがきかず、これでは作者の意気込みではなく経緯の報告。このドラマがきっかけになってブレストがあちこちの職場や学校で流行って、人と人との化学変化から思いがけないアイデアが生まれる醍醐味を味わえるようになったら、毎日がちょっと楽しくなる人が増えるかもしれない……そういう話をできればよかったのだけど、スピーチって、終わってから言うべきことを思いつく。

でも、質疑応答で「ブレスト(ブレーン・ストーミング)という言葉を知っていましたか」という質問が記者さんから飛んで、出演者6人の答えがブレストの面白さをそれぞれの言葉で伝えてくれた。『子ぎつねヘレン』にも出演している小林涼子ちゃんは「私はラブサイン(LOVE SIGN)というブランドを企画していて、企業の方とアイデア出しをしたりするんですが、あーあれがブレストだったんだってわかりました」、佐津川愛美さんは「高校生を集めてお菓子食べながらしゃべってお礼もらえるってのがあるって友だちから聞いてアヤシイと思ってたけど(←これはグルイン=グループ・インタビューのことかも)、人の意見を聞いて新しいアイデアを思いつく方法は面白いと思いました」。

傑作だったのは山田純大さん。「今度ブレストのドラマやる」と友人に話したら、「水泳の話?」と聞かれたそう。水泳をやる人にとっては「ブレスト(ブレスト・ストロークの略)=平泳ぎ」らしい。わたしはそっちの意味を知らなかったけど、最初原作のタイトルを「ブレスト」にしようと思ってたのを「胸肉の話?」と突っ込まれて、長いタイトルにしてしまった。その『ブレーン・ストーミング・ティーン』は増刷(四刷)決定。「ドラマ化」の帯つき本もそろそろ出回る様子。

第5回文芸社ドラマスペシャル『ブレスト〜女子高生、10億円の賭け!』
2006年1月8日(日)14:00〜15:25 テレビ朝日系全国24局ネットで放送


【キャスト】
三原和美(佐藤藍子)……Mエージェンシー社員
山口摩湖(多部未華子)……Mエージェンシー高校生ブレーン
佐々木操(小林涼子)……Mエージェンシー高校生ブレーン
小林雛子(佐津川愛美)……Mエージェンシー高校生ブレーン
三国慶一(益岡徹)……Mエージェンシー戦略企画室長
高倉健介(山田純大)……Mエージェンシー社員

山下巌(萩原流行)……チキン・ザ・チキン宣伝部長
藤野礼子(遠山景織子)…世界物産宣伝部ジェネラルマネージャー

山口真由美(山下容莉枝)……摩湖の母
山口稔(渡辺直樹)……摩湖の弟

冴子(矢野未希子)……摩湖の同級生
南海子(川北志保)……操の同級生
環(依知川絵美)……雛子の同級生

【スタッフ】
提供:文芸社ほか
脚本:今井雅子 文芸社刊 いまいまさこ著『ブレーン・ストーミング・ティーン』より
プロデューサー:井上千尋(テレビ朝日) 菅原章(電通) 小林由紀子
演出:猪原達三
制作:テレビ朝日 電通

2003年11月28日(金)  雪菓(ソルガ)
2000年11月28日(火)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/29)


2005年11月20日(日)  G-up side,B;session『ゼロ番区』

脚本家の川上徹也さんに紹介してもらった赤沼かがみさんが代表を務めるG-upは、演劇プロデュースユニットとでもいうのだろうか、新進作家や劇団と組んで、コンスタントに精力的に公演をプロデュースしている。わたし好みの作品が多く(これまでにハズレ!と思ったことがばい)、知らない劇団や俳優さんに出会えるきっかけにもなるので、毎回案内が届くのを楽しみにしている。

今回案内をいただいた『ゼロ番区』は、知人である岡安泰樹(おかやす・たいじゅ)さん出演ということで、さらに楽しみが加わった。7月の舞台『The Winds of God〜零のかなたへ〜』では特攻隊員役で坊主頭だった岡安さん、今回は死刑確定囚役で、坊主がちょっと伸びた感じの短髪。なんだか、見るたびに若返っている気がする。この人のお芝居は内側から迸るものが感じられて、見ていてすがすがしい気持ちにさせられる。本当に芝居が好きで、芝居を通して何かを伝えたい人なのだと思う。

タイトルになっている『ゼロ番区』は実際に使われている用語のようで、死刑または無期の刑を受けた、あるいは上訴中の収容番号の末尾がゼロの「ゼロ番囚」が収監される区画を差すのだとか。場所は東京拘置所の通称「ゼロ番区」。登場するのは死刑執行を待つ男四人と、彼らを見守る看守の男三人。死刑確定囚は独居房が基本だが、四人は一時的に同房に収容されていて、彼らが寝起きする雑居房と看守たちの詰め所を行き来する形で物語は進む。

看守が囚人たちに「ゼロ番区のゼロはお前たちが無意味だってことだ」といったような言葉を吐くが、たとえ死刑に値する罪を犯し、執行までのわずかな時間を塗りつぶすように生きる身であっても、彼らには感情があり、絶望もすれば希望も持つ。最後の瞬間まで人間なのだ、ということをこの舞台は訴えかけているように思えた。

死刑という運命と向き合う囚人たちが四人四様であるように、囚人と向き合うという看守も三人三様。囚人と看守、見張られる側と見張る側という対極の立場にある彼らだが、それぞれに苦悩があり、葛藤があり、双方の抱えるそれらが重なることも、わかりあえる瞬間もある。鍵の内側と外側は大違いだが、それでも同じ人間。そんな風に思えたら、ゼロという響きにあたたかみや重みが加わる気がする。実際のゼロ番区を知る人にとっては、ファンタジーなのかもしれないけれど。

G-up side,B;session『ゼロ番区』
新宿スペース107

【出演】
関 秀人
大内厚雄(演劇集団キャラメルボックス)
岡安泰樹(エル・カンパニー)
入山宏一(絶対王様)
日高勝郎(InnocentSphere)
濱本暢博(劇団OUTLAWS)
松本 匠(エル・カンパニー)

【スタッフ】
作・演出 松本匠(エル・カンパニー)
音響 平田忠範(GENG27)
照明 廣井 実
舞台監督 長谷川裕
制作 伊藤恭子
企画 RISU PRODUCE
製作 G-up
プロデューサー 赤沼かがみ

2004年11月20日(土)  高倉台・三原台同窓会
2002年11月20日(水)  カタカナ語


2005年11月17日(木)  『天使の卵』ロケ見学4日目 電車でGO!

今日は春妃と歩太が出会う印象的なシーンの撮影。嵐山電鉄、通称嵐電(らんでん)の貸切車両に乗りっぱなしで終着駅の嵐山までひたすら往復し、テイクを重ねる。鉄道ファンのご近所仲間・T氏が聞いたら羨ましがりそう。定員があるのでわたしは乗り込めないかもと事前に言われていたが、無事乗せてもらい、運転席のすぐ後ろのすみっこの席へ。カメラには写らない位置で、撮影の模様も見えないが、「はいっ、テスト」「はいっ、よーい、本番!」「はいっ、カット」「はいっ、ボールド」といった冨樫森監督の声や「あと二分です!」「ガバチョください」といった助監督の声がしっかり届き、現場の緊張感は共有できる。ちなみに「ガバチョ」はガムテープ(ガバッと引っ張っるから?)、「カット」はそこでフォルムを回すのを止めること、「ボールド」はシーンの最後にカチンコを映してからフィルムを止めること。

この日集まった乗客役のエキストラさんたちは役者の卵中心だそうで、礼儀正しく挨拶も威勢がいい。撮影待ちの間に繰り広げられる会話は関西弁のせいか漫才を聞いているよう。「鴨川べりに、よくアベック座ってるやんかー」「あー俺、その中におるわ」「あ、そう。僕、その外におるほう」といったとぼけたやりとりが面白い。「ところでこの『天使の卵』ってどんな話?」「俺、原作読んだで」「あらすじ教えて。一分以内で簡潔に」と言われた若い男性は、「歩太っていう美大落ちた浪人生がおってな……」と話し始め、一分ぐらいと思われる時間よどみなく話したが、無駄な言葉も説明不足もなく、見事に要約したストーリーを伝え、「そういう切ないラブストーリーよ」と締めくくると、聞いていた人々から「ほうー」と感心のため息がもれた。同じ課題を彼よりうまくこなせた自信はない。国語力が問われるオーディションがあれば、役をものにできそう。「そうか、悲しい話なんやなー」「悲劇の恋の二人の出会いのシーンなわけやな」とあらすじを知ったエキストラたちはうなずきあっていた。

天気もよく、ガラス窓からのぽかぽか陽気が心地よい。運転手さんは指示通りに電車を発進し、スピードを守って進行させ、ドアを開け、発車ベルを鳴らし、ドアを閉め、また発進することに集中。真面目な横顔に誇りがうかがえる。プライドを持って仕事に打ち込むとき、人はとてもいい顔をする。

嵐山駅に電車を停め、車内でお弁当を食べて休憩。小西真奈美さんとカフェめぐりの話をする。この人にカフェという言葉はよく似合う。京都の趣のあるカフェで、ページにかかる髪をときどきかき上げながら本を読む姿が想像できる。

撮影後、スタッフルームに立ち寄り、監督と本直し。現場の状況によって書き換える必要のある箇所がいくつか出てきた。「いい時期に来てくれました」と言われ、やっと居場所が少しできた気がする。部屋の壁にはシーンナンバーとシーンを手書きした模造紙が貼られている。「撮影が終わったところを塗っていこう」と監督が朱色の墨汁を浸した筆を入れていく。半分ほどが赤く染まる。「ずいぶん撮った気がしたけど、あと半分残っているのか」と監督。

おいしいと評判のお好み焼き屋で監督、助監督さんたちと夕食。和気藹々と楽しそうな雰囲気にまぜてもらえて、また少し転校生を脱出。

2002年11月17日(日)  学園祭


2005年11月16日(水)  『天使の卵』ロケ見学3日目 ミラクル

今日は7:30ロケバス出発。午前中は歩太が父の飛び降りたビルの屋上で花を手向けるシーン。ビルのふもとには大量の機材が出現。大掛かりな撮影隊に、ビルの管理人らしきおばさんは「映画は大変ですなあ」と感心したように言う。リハーサルを重ね、犬のフクスケを入れた形でさらにテストをし、いざ本番。現場では皆、市原隼人さんを「歩太」と呼び、彼も自然に返事している。19才の歩太がそこにいる。

午後は春妃のマンションのシーン。メンチカツのせシチューとサラダの昼食を取っていて、ふと隣を見るとマギー司郎さんがいる。マンションの管理人役で出演。一緒にいる男の子は親戚の中学生さんかと思ったら、二十歳のお弟子さん。しかも、美術助手のアルバイトの女の子の高校時代の同級生だそうで、お互い再会にびっくり。

マジック好きなわたしはマギーさんに興味津々。その場でいくつか披露してもらう。ちょうど少し前にNHK「ようこそ先輩」のマギーさんの回を見て感動したばかり。生徒に自分の欠点を話させてからマジックを披露させるという授業で、生徒を見守るマギーさんが涙ぐんでいるのを見て、もらい泣きしてしまった。「自信のない楽天家」だと自分を分析するマギーさん。17才で家出し、15年後に出演しているテレビ番組のスタジオに母親から電話がかかってくるまで連絡を取っていなかったとか。時間と苦労を重ねて味が染み出しているような人なのだった。マギーさんは鼻歌を歌いステップを踏みながらモップをかける陽気な管理人という役どころなのだが、「どうもダンスは苦手で」と本番ぎりぎりまで練習に励んでいた。

春妃役の小西真奈美さんともこの日初対面。みずみずしい透明感はこの人の宝だと思う。春妃役が決まったと聞いたとき、原作を読んで受けたイメージと見事に重なった。映画化のタイミングで春妃と同じ28才になったのが必然のようでうれしい。原作も脚本をかなり深く読み込まれていて、とても聡明な人という印象を受ける。

歩太と春妃が待ち合わせたカフェはclosedで外は大雨、やむを得ず近くの春妃のマンションに駆け込む二人……という流れ。「雨降らし」の撮影というものをはじめて見たが、そこら中水浸しになるので準備も後片付けも大変そう。ト書きで「雨」と指定すると、「晴れにできませんか」とプロデューサーに相談されることが多いが、よっぽどの理由がない限り避けたいと考えるのが理解できた。でも今回の雨は必然。

夜は単独行動。いつからなのか、三条烏丸の角が新風館というエリアに生まれ変わっている。メリーゴーランドがあり、イルミネーションが灯り、気の早いクリスマスが来たようなにぎやかさ。その一角にあるask a giraffeで夕食。カレーはなかなかいける。インテリアショップGeorge'sのカフェらしい。隣接するショップは閉まっていたけれど、カフェはにぎわっていて、関西弁で恋や夢を語っている。

ロケ現場の脚本家は転校生のようだと思う。しかも文化祭直前の。すでに人間関係は出来上がっていて、皆はそれぞれの役割に忙しい。自分抜きで完結している世界に割り込むのはなかなか大変で、せめて皆の足を引っ張らないように遠慮がちに見学させてもらうのだが、何かを一緒にしない状態で距離を詰めていくのは難しい。滞在期間が長いと、少しずつ打ち解けて居場所もできてくるのだけど、今回は駆け足なので、転校生のままで終わりそう。作品を重ねていけば、『パコダテ人』のスタッフに『子ぎつねヘレン』で再会したように、現場に顔見知りが増えて、お邪魔感は薄まっていくのだろう。


2005年11月15日(火)  『天使の卵』ロケ見学2日目 旅人気分

ロケの朝は早い。『パコダテ人』も『風の絨毯』も『子ぎつねヘレン』も早起きが辛かったけど、今回はとくに早い。6:15にロケバス出発から逆算して間に合うぎりぎりの5:40まで布団の中で粘る。ヘアメイクが必要な役者さんはさらに早起き。

寺へ向かう電車内のシーン。福知山の駅から京都方面行きの電車に乗り込んでの撮影。電車出発間際まで、ロケバスの中でお弁当を食べて待機。とても寒い。駅構内に入ると、通学の高校生たちが市原さんと沢尻さんを見つけて「え!」と信じられないものを見たように目を見開き、一緒にいる友人をつつき、「マジ!」「すごくない?」を連発。テレビで見ている平面の人がいつもの通学路に3Dで現れたら、そりゃあびっくりだ。

貸切ではなく、一般の乗客が乗っている車両を間借りしての撮影。ラッシュ時間を過ぎ、車内は空いている。窓の外は秋色ののどかな風景が続き、ボックスシートに揺られて本を読む人が絵になる。気分はローカル線の旅。

夏姫が車内で目を落とす歩太のデッサン帳を見せてもらう。ページの最後まで、さまざまな表情の春妃が描きこまれている。白地にペンシルで描きこんでいくのではなく、白地をペンシルで塗りつぶしてから練り消しゴムで黒を削り、濃淡を作る手法。作品に合った衣裳やロケ場所を決めるように、美大浪人生が愛する人を描くならどんなタッチになるか、吟味を重ねた上で選ばれたのだろう。奥行きと力強さがある絵には歩太の感情が宿っているようで、引き込まれる。

午後は撮影隊を離れ、京都を探索。「キンシ正宗」の看板を掲げた町屋を改造した堺筋三条のイタリアン『あるとれたんと』で遅めの昼食。向かいの『タントタント』の姉妹店のよう。窓に面したカウンター席が気持ちいい。

町屋の並ぶ三条通りを散策しながら東へ向かい、ビーズの卸屋でパーツを買ってハートのピアスを作り、モザイク画のような外観に惹かれた『ラジオカフェ』にふらっと入る。店内にはミニFM局(NPO京都コミュニティ放送が運営するFM79.7MHZ京都三条ラジオカフェ)があり、店の真ん中のブースから発信中。天井が高くてくつろげる。パンプキンケーキもおいしかった。
夜は、『京町屋 繭』の一角にあるCafe Rumble Fish(カフェランブルフィッシュ)へ。飛び石の路地を進んだ奥に、雰囲気のあるお店が佇んでいる。プロデューサーの清水さんと合流し、『たかはし』というこれまた隠れ家っぽいカウンターのお店に連れて行っていただく。おいしい日本酒と、それをさらにおいしくする肴が出る。お酒が進むにつれ、清水さんが映画を語る口調は熱くなり、ほんとに映画に惚れているんだなあと思う。

2004年11月15日(月)  「トロフィーワイフ」と「破れ鍋に綴じ蓋」
2002年11月15日(金)  ストレス食べたる!

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