2015年06月20日(土)  舞台「残夏-1945」公開稽古を観ました!(続く)

手話を学び始めて3年目。
聴こえない人とつながるための手話は、ご縁をつなげる引き寄せ名人でもある。

瀬戸内国際こども映画祭の立ち上げのときに出会った野崎美子さんから演出する「残夏-1945」のメールが届いたのは、手話講座の帰り。「聴こえない国の俳優と聴こえる国の俳優たちとのバイリンガル上演です」とあり、これは観なくては!と野崎さんに早速連絡。翌週の手話講座で時間をもらって告知をしたところ「これは手話劇ですか?」と受講仲間から質問が。内容をよくわからないままではうまくおすすめできない、と今日の公開稽古を見学させてもらった。

舞台はよく観に行くけれど、稽古場にお邪魔する機会はなかなかなく、ましてや手話通訳付きの舞台稽古を見せていただくのは初めて。演出の野崎さんの言葉を役者さんに伝える通訳さんの手話は、的確で美しいだけでなく稽古場の緊張感に溶け込んでいて、「カッコいい」と見入ってしまった。

タイトルの「残夏」をわたしは最初「ざんか」と読んでしまったけれど、正しくは「ざんげ」。チラシには「聞かせてください。あなたの手に残された夏を」のメッセージが。手に残された夏とは、七十年前の戦争の記憶。長崎で被爆した聾者の母(五十嵐由美子)を持つ主人公の夏実(日野原希美)は、聞こえない母の通訳をさせられることに反発して家を出て、広島で結婚。産まれた娘(貴田みどり)は聾者で、手話を使いたがらない夏実との溝は深まるばかり。聾者の母と娘に挟まれた聴者の夏実の追い込まれぶりは、傍目に見ていてもしんどく、別れた夫(渡辺英雄)のおおらかさがあればと思ってしまう。「取り残された夏実」も略して残夏。

タウン紙の記者として働く夏実がダメ出し連発の後に通した企画が、聾者の原爆被爆体験を取材するというもの。聾者の被爆者役は聾者の砂田アトムさんが演じられるが、稽古の日は手話通訳さんが代役。それでも手話で語られるあの日の広島に、稽古場の空気は一気に重くなり、見学者一同固唾をのんで見守った。

タウン紙の取材を終えた夏実は、母ともう一度向き合うべきだと感じる。「あんたのセラピーのためにお金は出せん」と言い切りつつ、記事になるなら出張させてやるから企画書書けとせっつく編集長(西田夏奈子)が男前!

好きだったのは、ともに聾者だった夏実の母の両親(雫境、大橋ひろえ)とお隣さん(ケガで退役した軍人=宮崎陽介とその妻=西田夏奈子)の関係。聴こえない国と聴こえる国の住人が食べ物をやりとりして心を通わせていくさまに、隣にインド人一家が越してきた幼い頃を思い出した。「お隣さんに持って行き」と母に言われ、お好み焼きや天ぷらをお裾分けに持って行っては、カレーをジャーとかけられた。そのうちに「インドの人たちのカレーは、どんな食べ物にも合うし、そうするのがインド流なんや」とわたしも家族もわかってきた。「うちらはやらへんけど、お隣さんにはあれが正解なんや」と今はやりの「ダイバーシティ」を子どもなりに理解していた。食べ物を分け合って「おいしいね」と笑い合うのは、心の壁を解かす最強の方法かもしれない。

夏実にとっては祖父母にあたる聾者夫妻とお隣さんの、戦時中で物が豊かでないながらも心豊かな日々は原爆投下で破られる。こんないい人たちを、こんなあたたかい暮らしを一瞬で地獄絵に巻き込んでしまった原爆のおそろしさが際立った。

このとき夏実の母はまだ乳飲み子だったから、母の記憶は、後にその母(夏実の祖母)から伝え聞いたものだ。夏実に被爆体験を語る母は、辛い話を聞き出して何の意味があるのかと問う。「地続きになりたい」という夏実の答えが印象に残った。被爆体験、聞こえない世界。そこに身を置くことはできなくても心を置くことはできる。それは、この舞台を上演する「サイン アート プロジェクト.アジアン」(大橋ひろえさんが中心になって設立して十周年!)の心意気にも通じるのではないだろうか。

座・高円寺2(東京)
2015年7月9日〜12日
9(木) 19時開演
10(金) 14時開演/19時開演
11(土) 13時開演
12(日) 13時開演

広島市東区民文化センター大ホール
2015年7月18日(土)13時開演/18時開演 

長崎市チトセピアホール
2015年7月25日(土)13時開演/18時開演 

※長くなったので、一旦アップします。続きはあらためて。稽古の後の懇親会に参加させてもらって出演者の皆さんとお話しできたことなど、ご報告したいことが山盛り!

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