初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2013年06月30日(日)
『さよなら渓谷』『攻殻機動隊 ARISE border:1「Ghost Pain」』

『さよなら渓谷』@新宿武蔵野館 1

目は口程にものを言う。真木さんも大西さんも目ぢからすごいうえに艶のある黒目が綺麗。黒目がすごい大きいと言うか、目全体における黒目の割合がすごい多いですよね。言葉を交わさないときのふたりの表情に始まり、渓谷の涼やかな風景、それとは裏腹に汗ばむ登場人物たちの肌、強い日差しと厚い雲…台詞のないシーンの饒舌な、芳醇なこと。

ふたりの関係性が明らかになって行く過程の説明は、取材をしている記者渡辺(とその部下小林)の口から語らせ、その状況=当事者しか知らない光景は最低限のものを断片的に見せる。謎を解いても彼らの心情をどこ迄理解出来るのか。観客は記者と同じ視点に立たされる。当事者にしか判らないことは多い、しかしその判らないことを想像することだけは出来る、想像することしか出来ない。四人の男たち、夜中にフェンスを越えた無邪気な自分、自分をおいて先に帰ったかなこ。夏美が許せないのはその全てなのだろう。レイプは心の殺人だと言ったひとがいたが、そのとおりだと思う。身体だけが生き残り、その後の人生には理不尽極まりない悪意や差別がついてまわる。そして自責の念はその範囲を超える。傷は癒えることがない。

その傷を一瞬でも忘れさせてくれるのが、加害者と深く関わることだとしたら?幸せになるために一緒にいるのではないと言うふたりが見せる、ほっとする光景。ラーメンを食べてむせる尾崎に夏美がかける言葉、スーパーにふたりで出掛けて行った帰り道。そして没頭するセックス。静かな時間が過ぎる。

鏡のような存在の登場人物たち。尾崎と渡辺は、将来を嘱望されたスポーツ選手の成れの果てとして。夏美と小林は、男中心の社会で生きる女性として。尾崎と夏美について取材するうち、渡辺は妻との間に出来た溝を少しだけ埋めることが出来る。記者の激務をこなす小林は、男に囲まれた環境で溌剌と仕事が出来る自分を振り返る。彼らの心が少しずつ変化していく様子に、具体的な説明がある訳ではない。そこがいい。タイトルにある「さよなら」の扱い方もよかったな、ラストにふっと。このまま一緒にいると不幸にはなれない。でも幸せになってしまうわけにはいかない。夏美が別れを告げたのは、尾崎ではなく「不幸になること」であってほしい。

あとはーなんだーおーもりさんのわがままBODYが堪能出来ます。個人的には元ラガーマンって設定が嬉しかったわ!そして新井くんのクズっぷりが最高でした。KU・ZU!クズもいいとこ!こういうクズがいちばんタチ悪い!あー憤る!新井くんが嫌いになりそうなくらいよー!それにしても新井くんも井浦さんも、少ない出番でものすごい印象、存在感。そうそう、木野花さんもワンシーンだったけどすごく印象に残った。原作も読んでみよう。

・このインタヴューよかった→『INTRO | 大西信満インタビュー』

****************

『攻殻機動隊 ARISE border:1「Ghost Pain」』@新宿バルト9 シアター3

スタッフキャスト一新と言うことでどうかな〜と思ったものの、そもそも原作は読んでいないし押井監督の二作が基本で神山監督の『S.A.C.』シリーズも楽しく観ていたので大丈夫だろうと。で、全然大丈夫ってかすごく面白かった!私はすごく楽しんだ!

公安9課設立前夜、皆若〜いので声優変更もそれ程気にならず。草薙も若い…と言うか幼さの残る、十代と言ってもいいくらいの見てくれ(擬体)なので、声もこれくらいでいいんではないかと言う感じ。ちょっとやんちゃと言うか、感情が比較的表に出ているし。こんな青い草薙が見られた!てとこもなんか嬉しかったわー。で、その草薙のルックスがフィンチャー監督版『ドラゴン・タトゥーの女』のリスベットとすごく通じるところがあったんですね、デザインの際参考にしたのかなーってくらい。そして後見人なしでは自分の財布もあけられない立場にいたが、最終的に独立を勝ち取ると言う設定。うわっと思った。気になっていろいろ検索してみたら、逆に『ドラゴン〜』公開時にop映像が『GHOST IN THE SHELL』のop思い出す、リスベットと素子が似てるって指摘が結構あったんですね。こうやってお互いに影響を及ぼしているのかも知れないな。

と言う訳でキャラクターデザインがちょー好みだったんですよ…ほんとよかった…『S.A.C.』のばらっばらだった絵をこれに統一してほしい程に……『S.A.C.』は〆切りに追われてどんどん作っていかなければならないためか演出や作画チームが複数あったんですよね。ってこれテレビシリーズ(=連ドラ)の常か。回によって絵が全然違って、それこそ各キャラクターの顔も別人かってくらい。いいのとえーっていうくらいイケてないのとの差がすごかったんですよね……。

肉弾格闘シーンの重い感じがまたよかったー、ちゃんと殴られてる!痛そう!て感じが。腕をひきちぎられるとこの草薙のブッサイクな顔があんだけ遠慮なく描かれてたとこにもガッツポーズ。その前の頭割られそうになるとこは押井さん版のあのシーン思い出したな……と言えばここらへんの草薙のアクションは『ブレードランナー』のプリスぽかったです。と言えば(再)『S.A.C. 2nd GIG』には折り鶴のエピソードがあったものなあ。で、電脳戦のスピーディな演出も格好よかった!ハッキングのシーンを乗っ取られる側からの視点で、そのえっ?ってな困惑も一緒に見せるという。バトーが草薙に乗っ取られる瞬間とかちょうよかった……。

話は前述のように時間を遡っているので、いろいろな謎が明かされる的な部分もあります。それに伴って他シリーズとは違う設定が出てきていたり。草薙が何故生まれたときから擬体なのか、前のシリーズでは飛行機事故かなんかで…だったけど、今回薬物テロによって母親の胎内で被害に遭って、脳だけを救出出来たからってことになってた。……とここ迄書いていや待てよどっちかが偽の記憶かもしれんと思い始めて訳が分からなくなっている。こういうとこが攻殻シリーズの面白いところ!

音楽は好みもあるかな…一緒に観たささんとopが『デザインあ』まんまじゃねと言う話はした(苦笑)。や、コーネリアスの他の仕事では好きなものも多いですよー。

タチコマのプロトタイプ?ロジコマもちょーかわいかったなーまだちょっとアホの子ぽくて。あと荒巻さんが白髪じゃないとこにほろっときそうになりました。これから草薙が9課のメンバーをスカウトしていくよー、まだあと三人出てきてない!彼らはどうやって出会うのか!四話完結で次回は11月だそうです、待ち遠しい!



2013年06月29日(土)
『はぐれさらばが“じゃあね”といった 〜老ハイデルベルヒと7つの太宰作品〜』

福原充則(ピチチ5)+三鷹市芸術文化センターPresents『はぐれさらばが“じゃあね”といった 〜老ハイデルベルヒと7つの太宰作品〜』@三鷹市芸術文化センター 星のホール

作家前夜に短期間滞在した三島を、太宰治として成功した津島修治が再び訪れる。彼は記憶の風景を、当時一緒にいた友人たちの思い出とともに探して歩く。いや、彼らは友人と言う言葉を使わなかった。照れくさくてそんなふうには呼べやしない。作家になる、作家として生きる、その夢へと走るライバルでもあり、同胞でもあった。文学をいちばん愛しているのは俺だ、文学にいちばん愛されているのは俺だ。人間ではなく作家という生きものとして本音を、虚勢をぶつけあった、彼らの出会いの挨拶は「はじめまして」ではなかった。以下ネタバレあります。

その友人たちは「宮さん」「薬屋」「ネズミ」と呼ばれる。物語が進むにつれ、宮さんは宮沢賢治、ネズミは中原中也だと言うのが判る。史実のなかに虚構を組み込ませる構成が絶妙で、彼らが文学論を戦わせている風景なんて夢のよう。そう、夢のようで、実際夢なのだ。未来を知らない若者たちが理想を語り、夢を語る。宮さんとネズミが生前評価されなかったことを知っている現代の観客は、彼らが語るその夢をせつない気持ちで眺めることになる。この眺めは、三島を再訪した修治のそれと重なる。岩手で農業に勤しみ、教師として地域に馴染んでいった宮さん。太宰に「悔しい程売れると思っていた」と言わしめた第一詩集が世間から無視されたネズミ。彼らは修治が見る眺めのなかで、「出版してくれよ、出版してくれよ……」と遺品整理に来て原稿を発見したかつての教え子についてまわり、衰弱した姿で病院の面会室にいる。彼らは修治に「はじめまして」と言って去って行く。

登場する作家のなかでいちばん熱心に読んでいるのが中原だったので、ネズミの辿る道を追うのはむちゃせつなかった。演じる三土さんがまたよくてねー。生意気で癇に障る物言い、そりゃ周囲から敬遠されるよね。でも自分の才能と作品を一点の曇りもなく信じている素直さが眩しい。宮ちゃんを演じた今野さんもよかった、教え子から慕われると同時になめられてる感じ(笑)。自分の作品を世に出すことに意欲的ではあるが、どうにも世渡りが上手くない。そしてこの教え子三人、藤子不二雄と(どう見ても)ジャイ子なのです。

そして三島の造り酒屋、貫兄さん。『老ハイデルベルヒ』(青空文庫)に「佐吉さんの兄さん」で「沼津で大きい造酒屋を営み」「なかなか太っ腹の佳い方」とだけ書かれている人物が、久ヶ沢さんと言う役者を得て大きな魅力を持ちました。いやもうさ、久ヶ沢さんは妖精枠だよね…ずるい!ずるいわ!あんなに奇妙であんなに素敵であんなに格好よくてあんなに変人!最高ですよ。ふんどし祭(正式名称あったかも知れんが忘れた、何を祀るんだったかも忘れた。ふんどししか頭に残ってない)の発案者にしてまずい酒を造り、修治に雄っぱいを揉まれ、雄っぱいに顔を埋められる。なんだこのサービス……。美しい裸体(いやふんどしは身につけてます)を衆目に晒してくれたので遠慮なくガン見ですよ。齢五十にしてピチピチの身体!さらさらヘアー(下のではなく)!ガラス玉のような黒目!Half Century Boyと名乗るだけはあるぜ。あとこれもはや萌えですが、久ヶ沢さんて左肩に大きな傷跡ありますよね。これがまた謎めいた男っぷりに拍車をかける!素敵!いやしかし実際のとこあれはどうしたの…スポーツ肩かな。あーもー素敵ー!

そして、修治に物語を信じるひとことを授けるのも彼なのです。このひとことで、修治は太宰治と言う作家を自分のなかに収めることが出来たのではないだろうか。格好いいにも程がある……。

史実とフィクション、実在の人物と虚構のキャラクターが、修治の前を通り過ぎて行く。再訪した三島で彼が見る風景は時間を遡り、そこにいるひとびとは当時のままだ。しかし実際の彼らは、修治と同じだけの時間を過ごしており、新しい生活を始めている。逃げてばかりの修治は彼らを通し、自分と向き合うことになる。現在だと思っていた風景に過去の人物が顔を出す、その逆も然り。自在に行き来する場所と時間は舞台の醍醐味でもありました。終始思案顔の菅原さんは、他人の言動を聴いている、見ているその姿で修治という人物を物語る。静かな青白い炎を発光しているかのような太宰像でした。

最後迄誰だか判らなかった「薬屋」。薬学を学び、編集者として働き乍ら作家デビューを窺っていた「どうやってひとを殺すか考えてる」彼は横溝正史でした。常に謙虚で柔和、社会的でもある。野間口さんが抑制の利いた演技ではしばしにおかしなことをしていました(笑)。身体が綺麗とほめられて、まんざらでもない表情でふんどし姿を見せつけるシーンもよかったわー。実際綺麗なお肌!おしりもきゅっとしてて美しかったですヨ!その薬屋が三人と初めて会う場面が幕切れ。初対面のあいさつは「はじめまして」。それは違う、はじめましては人間として僕らが出会ったときの挨拶だ。作家としての我々にはどんな挨拶がふさわしい?未来を知らぬ若者たちが、その挨拶を笑顔で叫ぶ。彼らの姿は暗転とともに暗闇に消える。

もうすっごいせつない舞台で大好きでしたが、前述したようにそこにはふんどし祭や乳もみやゲロや失禁が同時に載っているのです。ここだいじ!それにしても和装の菅原さんと久ヶ沢さんは眼福でした、おふたりとも堂に入った着こなしっぷり。菅原さんだけふんどし姿を見られなくて残念です、ええ残念です。

-----

桜桃忌前後に三鷹市芸術文化センターが開催しているシリーズ『太宰治作品をモチーフにした演劇』。今年で第10回になるそうで、すっかり名物企画ですね。「太宰が生きたまち・三鷹」として周辺店舗とも協力、劇場で配布された太宰クーポンを提示すれば特典付きのお買い物も出来ちゃいます。



2013年06月27日(木)
[monologue]

山田稔明、高橋徹也、小林建樹[monologue]@Star Pine's Cafe

強者SSWスリーマン。小林さんは九年振り!のトリオ編成(都内ではこれ以来?)、いやはやすごかった……。小林さんのことを中心に書きます、長いよー。出演順は山田さん、高橋さん、小林さん。最後に合同セッション。

-----
Pf、Vo:小林建樹、B:千ヶ崎学、Drs:宮川剛

セットリスト
---
01. ヘキサムーン
02. B.B.B
--- mc ---
03. few(インスト)
04. あおいだ空(Pf+Vo)
05. 祈り
--- mc ---
06. 花
07. Spider
08. 禁園
--- encore(Pf、Vo:小林建樹、B:千ヶ崎学、Drs:宮川剛、G、Vo:高橋徹也、Vo、Tamb、Bh:山田稔明)---
Ride On Time(山下達郎カヴァー)
-----

小林さんのライヴはイリオモテヤマネコ並に貴重なのですが、昨年辺りから少しずつ本数が増えてきました。今年は四本目かな?三月から月に一度はライヴをやってる…これって結構すごいことですよ小林さん的には!しかし三月は『マシーン日記』と被り四月は大阪、先月は仕事が終わらず行くことが出来なかった…そもそもはわたくしの心の師匠・窪田晴男が面倒見てるってとこから小林さんを聴き始めたので、五月のライヴ&トーク(窪田さんホストのUST)は行きたかった……。しかしこちらはアーカイヴ映像のおかげでその後観ることが出来ました。

・SEEDSHIP: 下北沢音問屋珈琲店 vol.5(カネコアヤノ,永山夏希,オトザイサトコ,小林建樹), Recorded on 13/05/27


Video streaming by Ustream
(小林さんはopと、01:25:00くらいから)

ここ数年ピアノソロで聴くことの出来た楽曲たちは、毎回のように演奏が変わっていた。構成が違う、リズムが違う。過去をなぞるような演奏は一度たりともなかった。さまざまな演奏手法によって楽曲の新たな面に光があたり、何度聴いても発見がある。そしてどうアレンジされても揺らがぬメロディの強度に唸る。クラシックやジャズのスタンダードのように、繰り返し演奏されても魅力が薄れない。

特に聴く度リズムが複雑になっており、日記にときどき菊地成孔の著書の感想が書かれていることから、アフリカや南米のリズムに関心が向かっているのかなと思うことがありました。前述のライヴ&トークでも窪田さんに「相当ブラジルに行って帰ってきたって感じだね」と指摘されていた。そしてそのトークでご本人が「同じ曲をいろんな作曲家風にアレンジするのにハマっている」と話していたことから、ひとつの曲からあらゆる可能性を見出だすのが楽しくて仕方ないのかなと思ったり。今のこのモードの演奏に他のプレイヤーが加わるとどうなるのだろう…と言う興味もありました。だから今回のバンド編成は楽しみで仕方がなかった。しかもStar Pine'sはグランドピアノが使える!

九年振りに顔を合わせた三人。果たしてそのやりとりのスリリングなこと!冒頭「ヘキサムーン」のイントロからインプロ、各楽曲のブリッジもインプロでしょう。当時の演奏もすごかったけど、それにも増してリズムのやりとりがむちゃくちゃ複雑になっていた。スウィングからラテンへ、そしてポリリズムへ。ピアノソロでは見えづらかった(聴いてる方からするとどうなってるんだ?と思う箇所が多かった)符割が複数のプレイヤーによって演奏されることで、あっこれポリリズムか!とやっと気付いたよ…これでリハ二回だったと言うのだから恐れ入る。複合リズムの妙をこれだけポップスの中にさらりと入れられるともう…すごかったとしか……。耳からうろこがぼろぼろ落ちる、同じ曲からいくらでも違う宝がざくざく出てくるさまを見せられたかのよう。ピアノソロで少しずつ披露されていた新曲をバンド編成で聴けたのも嬉しかったです。二曲、三曲、三曲と言う構成も見事でした。中盤三曲は「言葉のない曲、言葉の少しある曲、言葉のある曲」をノンストップで。そして終盤三曲、「花」アウトロから「Spider」イントロ、そのアウトロから「禁園」イントロの流れなんて息つく暇もなかった。楽しそうに演奏する小林さんの顎から、汗の雫がぱたぱたと落ちる。そうそう、左手が際立つ演奏でした。あー左利きだわーと改めて…「Spider」の低音、すごいややこしい運指で弾いてるとこがあったなあ。キュー出しも左手でしていたし(ここでまた菊地成孔を連想する病)。

再び五月のトークから引用しますが、「どの音か、どう弾くかは判ってるけど、実際に演奏するのがすごく難しい」「言葉より先に行きたい」と話していたなあ。彼には再現不可能な音が鮮やかに聴こえているのでしょう。それにどれだけ手が、声が、楽器の機能が追いつくか。全身音楽家は日々それを表に出そうと探求し、腕を磨いている。天才の頭の中の音楽をお裾分けしてもらえる、感謝するばかりです。そして嬉しいのはこのトリオでの次回のライヴが決まっていること。10月5日だそうです、しかもワンマン!予定空けて待ってる!

ちなみにこのトリオの「B.B.B」は小林さんがギター弾いてるver.も凄まじいんですよね…九年前のStar Pine'sでのライヴ音源が、昨年リリースされた『Rope』に収録されています。CD通販はこちらから。

『Rope』ダイジェストはこちら。


天才(天然)ならではのMCも相変わらず面白かったです。彼の中ではそれらの話と演奏は繋がっているんだろうな。以下おぼえがき。あまりにも支離滅裂なのでちゃんと再現出来ません……。

・インストから言葉が増えていく「few」「あおいだ空」「祈り」の流れを「人間が進化してる感じでしょ〜」
・住んでた家が壊されたんですけど、それを向かいから見てたんだけど…そう向かいに引っ越したの(笑)あ〜壊されてく〜、日々なくなっていく〜、でもその家がなくなって、そこからそれ迄見えなかった空が見えたりして…その感じがなんかいいなーって

・カラーコーディネーターのひとに診てもらったんですよ、黄色系とピンク系の肌があるんですって。で、僕今顎髭あるんですけど、似合う色を合わせると顎髭が目立たなく見えるんですよ〜。個人的には黒とか白とかが好きで…後ろの方へ後ろの方へ行きたがる性分なんで、あんまり目立たない色がいいなって……でも黄色が似合うって言われて。診てもらったとき僕は似合わない色を着ていってたの。後日手紙で診断を貰ったんですけど、「似合わないと思ってました」って(笑)そういうのって言うタイミング難しいですよね。で、黄色を着るようにしてるんだけど、41にもなって黄色って恥ずかしいね!周りからも避けられてるような気がする

・山田くんと久々に再会して呑んだとき、「なんでそんなにライヴするの」って訊いたの。そしたら「なんでそんなにライヴやらないの」って返された(笑)
・山田くんは話が面白くないとiPhoneいじりだす(山田さん平謝り)

さて山田さんと高橋さんが加わってのアンコール。「こういうときはビートルズかねって話してたら、高橋さんが『僕はストーンズ派なんで』って…」「そう言われちゃあねえ!」と山田さん。ちなみに高橋さん、小林さんと同じ1972年生まれというところから「1972年は名盤が沢山出てるんですよ」と話しだし、たとえば?と問われて「僕は好きじゃないんだけど『ジギー(・スターダスト)』とか…」と言い出してふたりに「またそういうことを!」とかツッコまれ、「ボウイの他のは大好きなんですよ!でもジギーは……」とブツブツ言ってましたうはははは。三人のなかでいちばん歳下の山田さんがいちばんしっかりしてた(笑)、場を仕切ってくれて有難し。

と言う訳ですったもんだの末選ばれたのは、小林さんが「以前カヴァーしてて」山田さんが「日本語に拘る、日本語で唄う、と言う三人の共通項もある」と山下達郎の「Ride On Time」。山田→高橋→小林のヴォーカル順で。い〜や〜よかった〜。皆さんオリジナルと同じキーで唄える上に各々確固たる世界観があるので素晴らしかったよ!高橋さんの「何という朝〜♪」の唄いまわしにはおわあとなった。

山田さんはバンド編成で最新作『新しい青の時代』からのみの選曲。常にライヴをやってるならではのセットですねー。高橋さんはギター、佐藤友亮さんのピアノとのデュオ編成。佐藤さんは途中カホンも演奏。いい楽曲、いい演奏。そしていい歌!贅沢な夜でした。



2013年06月23日(日)
『断色』

『断色』@青山円形劇場

おにぎりの『斷食』は逃しています。思えば『斷食』のチラシを初めて観たとき、「いのうえさんが座・高円寺!?」と驚いたものでした。いのうえさんと言うと、大劇場でのダイナミックな演出を手掛けるイメージがすっかりついていたもので。そして『断色』、青山円形劇場でいのうえさんの演出作品を観るのは1994年の『スサノオ〜武流転生』以来…て今書いてヒーとなった。

どのくらい改訂されたのかは判りませんが、「おでぶちゃんたちが断食道場に行く」と言う設定はなくなっており、ハードな舞台に仕上がっていました。90年代前半の小劇場の作品は、世界の終末を扱ったSFが多かったと記憶しています。先日観たイキウメの『獣の柱』といい今作といい、そういう作品がまた増えているように感じます。これは昨今の時代背景、社会情勢によるものだろうか。イキウメはもともとSF世界を描く作品が多いところだし、自分が観てきているものがたまたまそうなのかも知れません。なんとなく懐かしい気持ちになると同時に、見終わったあとの実感と言うか、手応えは当時よりも重いものになりました。

緊張感溢れる110分。性的描写も含めエグい内容です。肉体を、命を人間が扱うことについて、母と子の関係、男と女の関係。人間の深部に巣食う欲求は本能なのか、それとも環境によるものか。それらはどういった形で芽吹くのか。役者にとって視線から逃れる場所がない円形劇場に、三人きりの出演者。壁面にぐるりと映像を配し、登場人物が置かれている状況と心理描写を反映させる。音響も万全。観客の理解に死角を作らぬよう、細部迄丁寧につくられた舞台です。

麻生久美子さんが素晴らしかった!主人公・保の母であり、そのクローンであり、女であり。透けるような白い肌、鈴を転がすような声。いやもう保じゃなくてもぽわーとなりますね。彼女の生活感のなさがクローン役にドンピシャ。そんな美しい女性があんなことされてこんなことされてあんなこと言わされてこんなこと言わされる訳ですよ、いやーエグいわー。ここらへんちょっと「女性(しかも美人)にこんなこと言わせてみたい、やらせてみたい」的な男の欲望も感じましたね。しかしそこは女優です。映像でもかなりエグい役を涼しい顔で演じてらっしゃる麻生さんですからね…やっぱりすごい。女の欲望を抱えた母親、そしてクローン。感情の幅が拡がり、それを表現する術を獲得していき、保に恋心を抱いたクローンの行く末はとても悲しいものでした。

明るく無邪気なようでいて、端々にひっかかる言動が顔を出す。フラジャイルな保を演じたのは堤さん。その危うさは何なのか、徐々に明らかにしていく見せ方が巧い…そしてまた悲しい。彼を「壊れている」「劣化している」と判断することも悲しいな。前回舞台で観たのがくすりとも笑わない『今ひとたびの修羅』の侠客役だったので、そのギャップにもビビる。背景が見えない不思議な役者さんでもあるので、ハマリ役でした。そして哲司さん。きたー黒哲司!よかった…いや役柄じゃなくて、こういう役を体現する実力が素晴らしいと言うことですよ。ってわざわざ言い訳したくなるくらい人非人。やだわー。素敵だわー。いやだから役がでなく(くりかえし)。そしてシンプルなことですが、出演者三人とも台詞が明瞭でよく通る。生物学的な用語をはじめとするちょっと聞き慣れない言葉が、日常生活で使われている言葉のように自然な会話として聞き取れたこともよかったです。

青木さんのホンらしく、これといった解決策を提示せずに舞台は終わります。観客は問題を持ち帰り、考え続ける。それだけ刺さるものを役者たちは見せてくれました。ラストシーンの保の叫びは、今も耳の奥に残っているかのよう。青木さん、文化庁の芸術家派遣制度でロンドンに留学中なんですよね。この舞台生で観られないのか…勿体ない!

-----

最初に「懐かしい気持ちになりつつ重い手応え」と書いたのは、開演前、当日パンフレットに掲載されていた、今作のエグゼクティブプロデューサーである細川展裕さんのごあいさつを読んだことも関係しています。『三年目の初夏に、亡き母に捧げる舞台を』。

細川展裕さん。第三舞台を観ていたひとの間では「ねちねち細川」の名でよく知られていた(笑・鴻上さんのエッセイで、そう呼ばれていたのです)プロデューサー。その後ヴィレッヂの代表取締役に就任し、劇団☆新感線の大規模公演を次々と仕掛け、舞台中継の発展形としてE!oshibaiとゲキ×シネを生み出しました。演劇制作のひとつのスタイルを築いたとも言える人物です。自身が手掛けた作品が上演されている劇場のロビーに、必ずと言っていい程立っている。この日も開演前はこどもの城入口、終演後は円形劇場ロビーに、いつもと同じようにスーツ姿で立っていました。白髪が随分増えた。観客の見えるところにほぼ毎回いらっしゃるところ、鴻上さんと同じ「観客の声を直接聞く。それが絶賛であっても、苦言であっても」との姿勢だったのだろうと勝手に思っています。

ごあいさつには、この作品への思い入れと、ご両親のことが書かれていました。そして今作を最後に演劇から距離を置くと言うことも。『断色』は個人の物語でもありました。細川さんがこれだけ個人的なことを作品に持ち込むのは、最初で最後になるのでしょう。ご自身も黒子として舞台に立ち、転換作業もしているそうです。

倍々で増える動員と、芝居が伝わる劇場の規模との間で悩み続けた第三舞台、同じように膨らむ一方の観客を大劇場に呼び込んだ新感線。同じ時代に生まれ、全く違う方向へ進んだふたつの劇団の裏方であり、顔の見えるプロデューサーでもありました。数々の試行錯誤があったと思います。彼が手掛けた作品にどれだけ笑い、泣き、楽しませてもらったか。たくさんの名作を有難うございました。淋しいです。さびしーので茶化しておくと、普段はさびしいを寂しいかひらがなで書きますが、劇中淋病って台詞が出てきたので淋しいにしました。

-----

おまけ。

・それにしてもたもつと言うと、どーしてもこれを思い出してしまう→『ヤマアラシとその他の変種』



2013年06月21日(金)
『オセロ』

『オセロ』@世田谷パブリックシアター

いやー面白かった。某公演の「スタンディングオベーションをしてください」話にはドンびきしましたが(しかもこれ複数の公演であったとのこと。ひくわー)、こういう形で観客を参加させる手法は大好きです。逃してしまった『4 four』でもこのような仕掛けがあったとのこと、白井さんの興味は今「観客が観客でいられなくなる空間」に向かっているのでしょうか。以下ネタバレあります。

観客席に設置されている「演出席」。座席に配布されていた、“客席内を俳優が移動したり走り回ったり”“金属缶を大きな音で叩いたり”する、“場面参加の意味から、ご起立のお願いをすることが”ある等と書かれた「ご注意とお願い」。そしてキャスト表には“ヴェニスの議員/サイプラス島の島民……観客の皆様”。劇中劇としての『オセロ』としても観られるので、福田恆存による訳も自然に聴けます。日本語訳としてはかなり古い福田訳をこれだけ滑らかに耳に入れることが出来たのは、出演者たちの台詞まわしが素晴らしかったとも言えます。

この手の観客を巻き込む演出、二度は出来ないと言うか諸刃の剣と言うか、戯曲に対しての必要性がかなり確固としたものになっていないと単なるハッタリに終わる場合があります。しかし今回、観客が目撃者あるいは傍観者として物語中に存在することは、さまざまな効果を生んでいました。何故オセロはいとも簡単にイアーゴの策略にかかってしまうのか?善良に見えるエミリアは何故ああもオセロを口汚く罵ることが出来たのか?そもそも彼女は何故あの悪人イアーゴの妻なのか。そしてこの流れで観て行くと、オセロと娼婦ビアンカの近似性が見えてきます。数週間前、大阪市長の例の問題発言を巡り、twitterで『五木寛之氏の引揚体験』が話題になりました。羨望や嫉妬から生まれるさまざまな感情、無意識の差別意識。物語の登場人物中、これらと全く無縁の人物はデズデモーナただひとりです。そして前述したように、観客はこの物語のただなかに存在し、登場人物として扱われています。白井さん厳しい……。

しかしこうやって、自分のなかにある怪物を再確認し律する機会は定期的にあっていいように思いました。ぐうたらでなまけもので御されやすいからねー自分。逆に、観客のなかに幾人かはいるであろう(そう思いたい)デズデモーナのような心を持った人物が、この演出をどう感じたか知りたいです。

オセロとイアーゴの関係性を主演俳優と演出家の確執として描こうという仕掛けは若干弱かったように思います。それがいちばん強調された、一幕終了後の休憩時間にあった出来事をどのくらいのひとが目撃していたか…仲村さんが演出席にいる赤堀さんのところへ向かってきて少し話をしたあと、机を激しく叩きます。憮然とした表情でふたりは客席から出て行きます。既にトイレや物販コーナーに向かっていたひとも多く、二、三階席のひとにどれだけ伝わっていたかは少し疑問です。ここ以外に主演俳優と演出家の目立つやりとりはないので、最後の最後、演出家が主演俳優を射殺する場面が唐突に思えてしまいました。演出家を演じているときの赤堀さんが、どういった態度で仲村さんを見ていたかをもうすこし見たかった気もします。「演出席」が自分の席の二列後ろだったのでなー、そんな頻繁に振り返れなくて…それでも結構振り返ってましたが(笑)。

そーれーにーしーてーもー水橋くん演じるロダリーゴの愛らしいこと!最後生きててよかったとこんなに嬉しく思ったロダリーゴって初めてよ!パンフでご本人仰ってましたが、確かに「詐欺に真っ先に引っかかるタイプ」ですよ……なんてかわいいの、そしてかわいそうなの…かわいいそうの極みだわ!いやもうよかった。この役にこんなに持ってかれるとは水橋くんマジックおそるべし。いい役だったな……。そして客席内の照明が基本明るい+SePTは客席が見渡しやすいので、イアーゴが「誰がこんなことを!」て言う度「おめーだよ!」と赤堀さんを憎々しげに見詰めるたっくさんのお客さんが見えて胸が苦しかったです…もうねSePTの上空に「お ま え だ よ」「オセロだまされちゃダメ!」って大きな吹き出しが浮かんで見えるようだったよ……もーホント憎らしいよねあかほり(さんの役)!客席から膨大な憎しみを受け取ったであろう赤堀さんの体調がわるくなったりしませんように(涙)。と言いつつ衣裳がロシアの軍服みたいでかわいいわお腹出ててプーさんみたいだわパンフより髪が伸びてるわとかひっそり思っていましたごめんなさい。

それを言ったら仲村さんが格好よすぎてたいへん。なんてえの何やっても「どうしてそんな簡単に騙されちゃうの(格好いいのに)!」「なんでそんな酷いことするの(格好いいのに)!」「なんでそんな愚かなの(格好いいのに)!」てなりますね……下手すると「(こんなに格好いいのに)どうして皆オセロのことあんなふうに言うの……」と思っちゃいそうです。いやいやいや。しかし「これ迄愛することばかりだったので愛されることに慣れていない」って台詞は効いたな……ほろり。白井さんの演出する仲村さんはほんっとに格好いい。と言えば白井さんは一幕ブラバンショ、二幕グランシャーノの二役を演じましたが佇まいからなんからきっちり変化つけてて流石でした。

白井さんの演出には、一時期舞台上にいる役者の立ち位置も動きも徹底的に決められているような圧力を感じていたことがありました。舞台上に存在する美しきものたちを鑑賞することは眼福でしたし、それらの光景をとても愛していましたが、同時に恐怖も感じていました。今回の演出はそこから一歩出たような印象を受けました。井手茂太さんによる振付・ステージングは随所に効果を示し、リズム慣習として栗原務さんがクレジットされているのも興味深く、整理された美しさには磨きがかかっている。しかし、今回は制御と同時に演者たちの自由も感じました。mama!milk(vc、cb、acc)による生演奏も素晴らしかったです。低音メインの弦の響きは安らぎと迷いを同時に感じさせてくれました。

その他。

・オセロに絞め殺されるときドレスの裾がめくれて露になった、山田優さんの脚の細さに目を見張る。ほ、ほっそ!ちょっと我に返った(笑)

有川さんのパンツ事件を思い出したときもちょっと我に返った(再)

・作品世界に没頭しているのに「我に返る」。結構気持ちのよいもので、集中すればする程起こるものです



2013年06月15日(土)
『不道徳教室』

M&Oplays『不道徳教室』@シアタートラム

おーもりくんが久々にヘンタイ役をやると聞いたときはイヤッハーと快哉を叫びましたね(え)。しかし『効率の優先』を観た翌日にこれを観たもんだから、やっ、おーもりくん大丈夫よ全然ヘンタイじゃないわよ!と逆に応援したくなりましたね…パンフレット掲載の岩松了×高橋源一郎対談にも「そーよねー美しいわよねー」なんて言いたくなるくらいです。『効率の優先』のトークゲストのひとりが岩松さんと知り、やっぱここらへんって繋がっているのねなんて妙に納得してしまったり。ファムファタルと言えば聞こえがいいか?魔性の女に出会ってしまった男たちの道行きはさてどうなる。

開幕、暗闇から浮かび上がったおーもりくんはハゲタカメガネっぽいのかけてる。なんかイケメンよ?イケメンよ?だいじなことなので二度言います。でも女に脚マッサージとかしてもらっててここどういうマッサージ?しかもあれよー店員に横柄な男よーやだわー。そんな男が女子校(おそらく)で国語の教師とか、女生徒にモテモテとか、やだわー(再)。しかしそれよりも気になるのはこの学校の教頭が岩松さんと言うところだ。なんて危険な学校なのか。リップクリームや手鏡と言った小道具もいちいち巧い!ニクい!

それにしても、数日前「傷病帰還兵を見掛けなくなったのっていつくらいからだっけ」と言う話をしていたのだった。小さい頃はよく見掛けたのです。片脚、片腕がないひとが「戦争で怪我をして働けません」と書いた札と空き缶を前に座っている光景。防空壕も残っていて、入ってみようってオリエンテーリングもあった(勿論崩落しないものを選んで、監督付きで、そんなに奥には入らなくて)。ちなみに遠足で陸軍墓地にも行ってます。地方にもよるのかな。戦争がまだ身近にあった。じゃれあうあかねたちは高校生と言うより中学生くらいの幼さに見えた。同時に大人の片鱗も見せる。これは個人的にはポイント高かった。現代の高校生は、数十年前の中学生くらいのメンタリティなのではないだろうか。そして印象としては、高校生よりも中学生に手を出す教師の方がヤバさが増す。ローティーンのような無邪気さと残酷さを持ち合わせる女学生たちが、傷病兵をまるで捨て猫のように隠れて飼う。川端康成の『みずうみ』をベースに書かれたという本作、時代設定は昭和なのか?と一瞬混乱。しかし携帯が出てくるのでやはり現代かと思いなおす。ここ数年、戦争について書くことが増えた岩松さんの無意識が働いたのだろうか。その奥にあるものとは何だろう?

岩松さんの作品には、いい大人の男たちが周囲が気味悪いと退くくらいじゃれあう場面がよく登場する(『市ヶ尾の坂』とかが顕著)。今回その図式が女学生たちに当てはめられていたのも見どころでした。その光景の楽しいこと!意味があるようでないようで、言葉のやりとりから仕草のやりとり、それがシンクロしグルーヴを生む。最初「???」となった観客たちも、次第にその場を楽しみ始める。そして三人の女学生の輝きと言ったら!三人がそれぞれ自分の得意分野であろう動きを見せる場面があるのだが、趣里さんのバレエ、大西さん、二階堂さんの格闘技的な動きにははっとさせられた。舞台で見せる型を心得ているキレがあった。うわあ、たまらん。

あのーぼそっと言いますが、昨今若手ちゃんが舞台に出てがんばってる様子を観る楽しみってのもあるけど、やっぱり舞台で自分の動きがどう見えるかってのを心得てないひとは観ていてだらりとしてしまうのですね…こういうとこって本人だけの問題ではなく、演出家がちゃんと見てアドバイスしてあげないといけないと思うのです。こう動け!って振り付けるのとはまた違うことで。今回その部分の岩松さんの力量を思い知らされた。岩松さんが若手役者と組んだの久々に観た…2005年の『岩松了3本連続公演』以来かも……ので、そうだーこのひと役者をちゃんと育てるひとだったーと改めて思いました。

そんな彼女たちと、彼女たちにグレイと名付けられ舞台にその姿を現さない傷病兵。生と死の谷間を森の奥で見付けてしまったかのように、三人は秘密を共有する。その森に迷い込んだ山城の人生はその後どんなものになるのか。社会との接点を失い、多分あかねをも失う。ラストシーン、ゼラニウムをはじめとする鮮やかな赤い花に囲まれて立ち尽くすあかねは山城が見た幻か、それとも。ふとあかねの姿に『シブヤから遠く離れて』の娼婦マリーを思い出しました。また会えたような気がして嬉しかった。使用曲のカエターノ・ヴェローゾ「Cucurrucucu Paloma」(ペドロ・アルモドヴァル監督作品『トーク・トゥ・ハー』のあれです!)も印象的でした。

戯曲は『悲劇喜劇』2013年7月号に掲載。この岩松了特集号、充実の内容です。まさに永久保存版。岩松さんが気になる方、是非。



2013年06月14日(金)
城山羊の会『効率の優先』

城山羊の会『効率の優先』@東京芸術劇場 シアターイースト

旗揚げ時からDM頂いていたのにタイミングが合わずずっと行けなかった。そのうち深浦加奈子さんが亡くなった。こういう後悔は増える一方だろう。

と言う訳でやっと観に行けました。いやはやこれは…伝え聞いていた通りのエグさ、面白さ。クセになるわー。こんな職場じゃなくてよかった、でもちょっとこの職場知ってる(ええ?)。段差がない舞台は客席に地続き。目の前で起こるとっくみあいの臨場感も素晴らしかったわ…で、昔の職場で同じようなことがあったことを思い出したわ……。色恋はともかくとっくみあいはよくあったなあ、あの職場(遠い目)。で、そういうときの周囲の反応とか、ホントこれこれ!って感じだった。ヒー。以下ネタバレあります。

某広告代理店子会社。大きなプロジェクトを抱えるその部署の男女は色恋でどろどろりん、女性同士の水面下での闘いもどろどろりん。部長はその「濁った芽」を早急に摘み、業務に専念してほしいと部下たちにそれとなく伝えるが、それとなくではもうどうにもなりません。疑心が疑心を呼び、繕おうとした綻びは大きくなる一方。そのうち転がるふたつの死体。スケジュールを遅らせまいと部長は部下たちに死体を隠すよう命じ、それを知った専務は……。

部長以外の女性社員が醸し出すうわあやべえこの女って様相が半端ないんですよ。松本まりかさんてあんなに細かったっけ?吉田彩乃さんの細さも異様な程。クールな部長(石橋けいさん)がどっしり構える大地の女に見えてしまう程です。石橋さんだってスレンダー美人なのに…そしてふたりとも表情(つうかもはや顔筋)がやばい。松本さんのマジでキレる5秒前の顔とかちょ、皆逃げて!てな恐ろしさ。吉田さんはメイクであろう痣も、肌の荒れ具合や目の下の皺のより具合もちょうリアルで、マジじゃねえのと思えてしまう程。今でもあの顔思い出せる…夢に出そう……うわーやべえーこの女には関わっちゃいかんと脳内サイレンが鳴りっぱなし。病的に細い女優と言えばネクストシアターの茂手木桜子さんがいますが、彼女の場合逆にそういう役柄をやったのを観たことがないなそう言えば。『たいこどんどん』とかちょうかわいかったもんね。身体と言う見た目(まあ見た目も相当だったが)だけでない「やばさ」を醸し出していた女優陣、見事でした。そして彼女たちの衣裳(加藤和恵さん、平野里子さん)がまた素晴らしい。這いつくばったり暴れたりするのでシャツがめくれて腰や背中が丸見えになるシーンも多いのですが、絶妙にパンツが見えない!おしりの割れ目も見えそうで見えない!このあたりしっかりサイズあわせてチェックしたんだろうなーってくらい見えない!いやーなんか感心してしまいました。

反面、男性社員はそのヤバさが一見しただけでは判らない。だから本性を表したときのきもちわるさが半端ない。気の弱そうな松澤匠さんや気軽に相談出来そうないい同僚ふうの金子岳憲さんが本性を現したときの虫酸の走りっぷりったらなかったですね(笑顔で)。で、その本性見たりの台詞がまた最高にきもちわるいのよー!課長のニブチンっぷりも絶妙だったわー、そんなだから不倫相手が発狂するんだよー(笑)。この課長を演じた鈴木浩介さんや、専務を演じた岩谷健司さんの「理解があり、常識人の振りをして実は逃げ道を沢山用意してる」っぷりも素晴らしかったわあ。

そして部長ですよ。色恋どうでもいい業務ちゃんとやれってなクールな上司なんですが、しかし連発される「どうでもいいけど」の前には、妙に詳しく男女関係を把握した語句が付く。全然どうでもよくないってのが丸見えです。これは隠してる何かがあるな、過去か、それとも進行形か…最後にそれが露になる。と同時に濡れ場になだれ込む。一触即発のテンションが解放される爽快さすらありました。「いくううううう」で幕ってとこも最高です。

客席は演技エリアをコの字型に囲むように配置されており、席によって登場人物の表情は見えたり見えなかったりする。あのとき彼は、彼女はあの言葉をどう受け取っていたかを想像し乍ら観る面白さもありました。まともなひとがひとりもいねえ。でもまともって何かしら?常識の位相がジワジワズレていくさまが怖いやらおかしいやら。人間のグロテスクな感情をこうもおかしく悲哀を持って描かれてはもう笑うしかないわー。皆やるなら徹底的に隠して!隠し通して!バレても知ったこっちゃないけど!一日の三分の一から半分を過ごす職場、そこが人間関係でこじれまくってるストレスたるや。そんなところにどーして在籍し続けるのって言えれば楽ですねえ。

細やかな言葉のひとつひとつが「濁った芽」になる。この「濁った芽」って言葉自体も面白かったな。目じゃなくて芽。わざわざ「芽の方ですか」って台詞で確認する念の入れよう。全員が張らなくても通る声で、そのむずむずする会話が展開される。いかにもありそうだわーと思えてしまうところがまた怖いですね(笑)。ある意味ブラック企業、業務と直接関係ないからタチがわるい。広告代理店勤務だった山内ケンジさん、職場で何を見てきたの…虚と実の境目はどこですか……。そうそう、あの当日パンフのごあいさつをどこ迄信じていいか判らずオロオロしました。上演観た直後なんか「ああこういう人間のどろどろを深いとこ迄探ってたらおかしくもなるわねー」なんて納得してしまったくらいです。後に知ったところによると、「ごあいさつを書いたのが奥さまってのは本当」「入院云々の内容は嘘」「ハイバイが大好きってのは本当」だそうで、ちょっとホッとしました。おっかない作家さんだわー。

次作も観たいなー、優先順位がグッとあがった。そうなんだよなあ、観たいものの優先順位をどう決めていくかと言うところもやっかいだ。今回のタイトルじゃないけど『効率の優先』で決められればどんなにいいか。でも、効率を優先させるとああいうことになる訳です(笑)。ままにならぬは浮世のならい。



2013年06月09日(日)
『猫背シュージ vol.5』『杮葺落六月大歌舞伎』

この日は『ゼロ・アワー』のプレレクチャーやら『私の個人主義』やら被りまくりやん!と言う日でうがーとなりましたが、結局知った順と言うかチケットとった順に行きましたよ…どれも観たかったし聴きたかったよ……あの、すずかつさん、告知もっと早く出してくださいよとひっそりつぶやく。

****************

『猫背シュージ vol.5』@下北沢SHELTER

約一年振り!猫背椿×オクイシュージのミニトークライブ&猫背椿の美味しい料理をいただく会=『猫背シュージ』第五回。「構成とか雑務とかトークお手伝いとか」はプロペラ犬の座付作家、楠野一郎さん。ゲストは少路勇介さんと、オクイさんが面倒見てる劇団SNATCHから三人。今回は変則メニューで猫背さんの料理コーナーはお休み、『マシーン日記』パリ公演報告会とSNATCHの新作についてが中心でした。ひとみしりと自称する出演者ばかりが久々に集ったこともあってか、なんだか皆挙動不審(オクイさんの挙動が怪しいのはいつもだが)。段取り盛り沢山だった進行楠野さんはペース配分が判らなくなったか、途中電池切れして素で「つかれちゃった…」とつぶやく始末(笑)。

それにしても、大人計画ってひとみしり多そうですよね。あんだけハジけた芝居をやるひとらとは…ホント特殊な集団だよなあと改めて思ったりしました。いや、普段からあんだけハジけてたらそれはそれで怖いですけど。猫背さんはお休みしてる間の話とかもしてくれたんですが、ご本人がtwitter等にそのへん書かないようにしているのが窺えるのでオフレコにしておこうかと思います。お元気そうでよかった!まずはドラマで復帰だそうです。以下おぼえがき。

・オクイさんを愛でる会でした
・猫背さんや少路くんのお子さんと会ったときの話とかもうね…「いつもこうなら職質されないのにね」と猫背さん(笑)
・いやほんと難しいわオクイさんて…複雑も複雑だわ……
・フラジャイルなひとですよね……

・少路くんが呼び込まれ『マシーン日記』いろいろ。パリでの自由時間は皆単独行動なんだけど、観光で行くところって大概被るのでバラバラに出掛けても結局会っちゃう
・エッフェル塔とか。シャンゼリゼとか。ルーブル美術館とか。フランス語が判らなくて電車の切符買えなさそうだから皆歩く。バッタリ会ったオクイさんに少路くんが「ルーブル美術館、あっちですよ」とニヤニヤし乍ら教えるが、全く違う方向を指していた
・楽屋で全くと言っていい程会話がない、と少路くん。本番に向けて集中してるんだとオクイさん
・ドラえもんとか欽ちゃんの仮装大賞とか、日本でしか通じなさそうなものは松尾さんが前説で説明した。フランス語で。これが長い、しかもウケてる
・パリでの本番は下ネタが大ウケ。クリ○リスとかキン○マとかでどっかんどっかん笑う。アッハッハッハ〜オウ〜とか言って、反応がフランス人(あたりまえ)

・鈴木杏ちゃんと峯村リエさんが撮ったオフステージ画像をプロジェクターで大写しにして皆でやんや言う会
・カッコつけオクイさん、寝起きオクイさん等オモロいオモロい
・本人曰く「カッコつけてんじゃないんだよ、元からカッコいいんだよ」ええそうですね(真顔)
・公演全部終わって安心した少路くん、部屋呑みにオクイさんを誘う。泥酔画像がまたいかにも酔ってるひとって感じでウケる
・ベッドにふたり座って呑んでるんで距離がやたら近い
・「もう帰っちゃうの?」とオクイさんにぶらさがる少路くん。甘えたくん
・少路くん角度によってトモロヲさんに似てる〜
・呑めないけど飲み屋にいるのが苦ではないと言うか大丈夫と言うオクイさんに「ギャル酒ばっか呑んでるんよね」と猫背さん。ギャル酒って言葉初めて聴いた!ひとつ若者言葉を憶えた!

・SNATCHの新作は楠野さん脚本、オクイさん演出。メインとなるであろう三人を呼んだ、主役はこの子(ぼかしつつ)
・呼ばれた三人、そのことを今知る
・ひとり一芸的なことをやらされる。皆さんテンパリ気味。しかしやるときはやるで
・先日TV Bros.の松尾さんのコラムに書かれてた「オクイさんのDJではじけまくってた劇団員」もいらっしゃいました(笑)
・その新作『プロジェクトB』って何よ?ジャッキー・チェンの『プロジェクトA』からよって話からこれ観たことあるひと〜と挙手を求めたらまあ少ない。SNATCHのメンバーも殆ど観てなかった、四十代くらいじゃないと通じないよねと世代の話に

・SNATCHメンバー紹介と、そのメンバーから集めたオクイさんについてのアンケート(本人には内緒だった様子)を猫背さんが朗読
・印象は「こわい」がダントツ。「スターなので」とか「でもやさしい」とかフォローしつつ結局はいじられている
・かわいいところ、はいろいろ出たで〜(笑)「『おうちで出来るでしょ!』とか“お”をつける」「タクシーがつかまらなくてとぼとぼ歩いて行く」「服を貰ったので喜んだら気を良くして翌日また持ってきてくれた」
・いじられまくったオクイさん、あの大きな目をしろくろさせていた(笑)照れを通り越してますます挙動不審に。それがかわいいと言われますますおかしなことに

・最後に恒例のヘンな動画会。サッカーゲームのバグ集等

笑いすぎてへとへとですよ…面白かった〜。次は未定だそうですが楽しみにしております!

****************

歌舞伎座新開場『杮葺落六月大歌舞伎』第三部@歌舞伎座

『御存 鈴ヶ森』『十二世市川團十郎に捧ぐ 歌舞伎十八番の内 助六由縁江戸桜 河東節十寸見会御連中』。

『鈴ヶ森』昔観たような記憶があるようなないような…どっちだよ。歌舞伎を見始めたばかりのころ、あの演出…スパッと顔が!スパッとおしりが!腕がポロリ!脚がポロリ!にうひーってなって、うへえ歌舞伎ってエグいと思った憶えがあるんですが、この描写は他の歌舞伎作品にもあるよなあ。思い出せない!と言う訳で白井権八役は梅玉さん、優雅にバサバサ斬って斬ってはらりはらりですよ。ゆったりやるからまた怖いのよね。そこへやってきた幸四郎さん演じる幡随院長兵衛。あの殺戮を見てこやつやるなとふむふむ思う、そこがもう怖いよねー。と言う訳でヒー怖い面白いーと小学生のような感想を抱く。

『助六由縁江戸桜 河東節十寸見会御連中』はまず幸四郎さんの口上から。團十郎さんが助六を演じた前期歌舞伎座さよなら公演の思い出、今回助六を演じることになった海老蔵さんの紹介、そして「何卒鷹揚の御見物を」。拍手で送り、拍手で迎える。

カシャーン、ダン、ダン。金棒引きの音が好き!花魁道中が好き!新悟くんは浮橋、やっぱ頭ひとつ出てる…好き!(笑)そして〜揚巻は福助さ〜ん、キャー!あとね個人的には白玉が大好きなのですよ…衣裳からなんから……妹分ってとこもなんかいい……七之助くんです、キャー(きりがない)。ああ助六って本当に粋で華やかで格好いい。

ここ数年でかなり痩せた海老蔵さんの助六は華奢な伊達男。團十郎さんが演じた助六は恰幅のよさ(芝居のおおらかさも含め)が見所だったので、結構違う印象でした。クセのある台詞まわしも随分聴きやすくなったように感じた。独白だとあの言い回しでもいいのですが、会話部分はやっぱり相手とのテンポがあるし。そういうところがちゃんと流れている感じ。そんでやっぱちょう美形。出端のとことか、美形だなあとまじまじと見てしまった。あと満江が出てきて菊五郎さん演じる新兵衛とともにひい〜っとなる場面はなんと言うかどハマリでした…あのーピーターラビットとベンジャミンバニーがベンジャミンバニー氏におしおきされるときのあれっぽい(わかりづらいたとえ)!シュンと立ってる姿がもうおかしくておかしくて。隈取りでビシッと決まった顔の筈なのに眉が八の字になって見える……これは逆にベテランには出せない味ではないでしょうか(ひどい)。

さて股くぐり。通人里暁の三津五郎さんはじぇじぇじぇや今でしょ!オッケー(ローラ)を引用、やんややんやと沸き返る客席。勘三郎さんのことを思い出し、楽しい場面なのにほろり。なんて言うか、この場面の通人里暁は傍若無人っぷりで笑いを誘う勘三郎さんの印象が強く残っていて、三津五郎さんもその辺りちょっと考えたのかななんて思ってしまいました。

今回奮発して二等席、初めて一階で観た。一等席と二等席の境目にあった柱がなくなって視界のヌケがいい!三津五郎さんも「柱がなくなりましてねえ」と仰ってました。あと客席の傾斜もよりついて見やすくなったような。それでいて以前より舞台が近く感じる。そしてここ、花道がほぼ客席フロアと同じ高さなのには驚いた。前もこうだったっけ?助六のときはもう一枚板載せてたけど、最初は花道と客席フロアの境目が絨毯敷いてるだけくらいの地続きで……縁がないんだもの。むちゃ近く感じた。次に一階に降りられるのはいつだろう(遠い目)。いやはや眼福でした。



2013年06月08日(土)
『つく、きえる』

『つく、きえる』@新国立劇場 小劇場

ドイツの劇作家ローラント・シンメルプフェニヒが、東日本大震災後の現代日本を描いた新作、初演。演出は宮田慶子さん。新国立劇場では四年前にシンメルプフェニヒ作品『昔の女』を倉持裕さんの演出で上演しています。日本の震災を受け脱原子力に踏み切ったドイツに住む作家は、福島へ取材に出向き今作を書き上げたとのこと。

タイトルにもなっている「つく、きえる」。停電を表し、そして命の灯火を表しているようです。震災により露になる、電気と命の儚さ。亡くなった者と生き残った者、両者の間には膨大な時間が横たわる。まだ二年しか経っていない?もう二年も経ってしまった?物量では測れない隔たりがそこにはあります。上演時間は105分程でしたが、体感時間はとても長かった。特に二幕。絶望的な状況がこれからずっと、長く長く続くこと。それはあまりにも重い。作家は「コメディをやろう。恐怖には笑いをもって立ち向かおう」と思ったとプログラムに書いていましたが、それはとてつもなく困難なことでもあると感じました。今回笑いとともに観たのは一幕のみ。まさしく震災が起こる前、の情景だけだったのです。

四組の男女。夫婦が三組、これからつきあうかも、つきあっているかも?と言う若いカップルが一組。若いカップルの男の子「眼鏡をかけた若者」はホテルで働いている。ホテルには三組の夫婦がシャッフルされてやってくる、つまり三組とも不倫をしている。彼らをフロントで受け付け、合間に若者は高台で仕事をしている恋人「自転車を持っている娘」にメールを送る。いかにふたりのイメージが合わないか、ふたりの様子が違うものか。それでもどれだけ彼は彼女のことを愛しているか。ホテルの三部屋ではそれぞれの男女がお互いの心境を探り合い、それぞれの夫や妻のことを思い起こす。会話とともに、彼らの姿は変容していく。頭を二つ持つ女、口のない男、石になった女、燃える心臓を持つ男、蛾、死んだ魚。やがて大きな揺れと、大きな波。三組の夫婦は向かい合ったり触れ合うことが出来るが、眼鏡をかけた若者と自転車を持っている娘は物理的にも立ち位置が違う。二層になった舞台の同じ階層にいることがない。若者は叫ぶが、娘の耳にそれは届かない。

アナウンス(あるいはテロップ)とともに場面が変わる、時間がスキップ、ジャンプすると言う構成は『昔の女』でも使われていたので、演出によるフックではないと思いますがどうなのでしょう。ドイツから見た日本、ドイツ語で書かれたテキスト、それを日本語に訳した台詞。当然のように言葉遣いが翻訳調になる不思議、そしてダイアログがモノローグに聴こえる不思議。思いのすれ違いにも感じる。二幕の登場人物たちは生きているのか、死んでいるのか定かではありません。暗闇のなか、会えない相手を捜して歩く。最後のメールを何度も読む。電気が途絶えると灯りは消える。充電が切れれば、やがてメールも読めなくなるだろう。

役者陣の試行錯誤、登場人物を演じることへの苦しみが透けて見えるよう。痛切に溢れた二幕がやはり強烈だった。ただただ鎮魂を祈るばかり。始まったばかりなので上演を重ねるにつれ変化があるかも知れない。それはブレと捉えられるかも知れないが、この作品に関しては演者の「揺れ」がさまざまな解釈、発見を照らし出すと言う意味で重要にも思えます。気になるところ。

ホテルのロビーに飾られている、北斎の『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』を模した大波の映像が自転車を持っている娘に向かってくる。背景にもなり、心象風景にもなるさまざまな映像には目を見張りました。閉塞感に満ちたキューブ型のホテルの部屋も素晴らしい。誰だとチェックしたら『負傷者16人』のコンビ、土岐研一さんの美術と冨田中理さんの映像でした。

---

よだん。

・二幕終盤で座席が揺れだして、上演途中の地震には正直慣れてしまっているのでさほど気にせず、しかし芝居の内容が内容だったこともあり若干緊張しつつ、どこ迄揺れたら芝居が止まるかななんて思っていたら、隣席のひとの貧乏ゆすりだった。おまえ…すーごい揺れたで……

・それにしてもこの「慣れ」。自分でもどうかと思う。ただなんと言うのか、これは地震が日常になっていると言う「慣れ」以外に、「非常口はどこだ」「水は持っていたっけ」と言ったことを瞬時に思い起こす「慣れ」でもある



2013年06月07日(金)
千葉雅子×土田英生 舞台製作事業『姐さん女房の裏切り』

千葉雅子×土田英生 舞台製作事業『姐さん女房の裏切り』@サイスタジオ コモネA

原案千葉さん、作・演出土田さん。チラシの紹介文によると「長く上演されるレパートリーを創作する試み」で、「来年以降はリ・クリエイションを行いながら各地方での上演を行うことを目指して」いるとのことなので、この作品が今後改訂を繰り返され上演されていくと言うことかな?それにしてもなんてえの、宣美からもうキてた。まさこの姐さん!ひでおの鉄砲玉!撮影のロケーション(工業地帯!)、シチュエーション(うどん!)、ふたりのメイクから衣裳から、うわわわわ観たい観たいですってなものです。まずここで分かれそうですね好みが…私はすごく観たいと思った!思った!(力説)ビバ榎本太郎さんの宣美!写真は引地信彦さん!

と言う訳で小竹向原迄出掛けて行った訳ですが、ここすごい独特な雰囲気の街なんですよね。地下鉄から地上にあがりまず視界に入るのがトンネル。振り返るとまたトンネル。えっ、あれっあれっ?一瞬どっちがどっちか判らなくなる。まずここで方向感覚が狂わされます。小竹トンネルと向原トンネルだそうで、やはり名物?なのかご当地ケーキ迄あるんだぜ…(小竹向原トンネルロール)。再び振り返れば団地。公園。近距離に図書館がふたつある。ひとは沢山いる筈なのになんだかひっそりした感じ。開場より随分早めに着いたので駅周辺をぐるりと散歩、図書館で本を読み、スーパーで買いもの迄してしまったんですが(いやしかしホント店舗、地域によってスーパーって品揃え違うよねー)、だんだん「ここが、あのふたりが暮らしている街か〜…」なんて気持ちになってくる。チラシで紹介されていたストーリー、「警察と組に追われる姐さんと鉄砲玉が隠れて暮らしている街」にイメージを重ねてしまいました。ここで再び思い出す、「来年以降はリ・クリエイションを行いながら各地方での上演を」。地方都市を転々とする、姐さんと鉄砲玉の逃避行。

果たして観たいと期待したものが観られました。最高じゃないの……。

タイトルからして姐さんが裏切るのは判っているので、そうなる経緯、登場人物の感情の変化を窺い乍ら観て行くことになります。姐さんは鉄砲玉を警察に売るのか、あるいは組に売るのか?と言うところから、そもそもなんで裏切るのか?とドキドキし乍ら見守って行く訳ですが、その経緯ってのがまー長閑やら間が抜けているやら情けないやら。逃避行の果てのぐだぐだです。追われている鉄砲玉は仕事が出来ない、出歩けない。なのでぶっちゃけ家でごろごろしてるヒモなんですが、その後ろめたさやら、一緒に逃げた姐さんの真意を探りたいやらでもー感情が捩じれまくってひねくれまくって大変。もはやかわええなおい。そして面倒くせえな(笑)。対する姐さん、それを受け流したり突然「姐さん」に戻って恫喝したり甘えさせたり突き放したり。なんだかんだで鉄砲玉、姐さんの掌でいいように転がされてます。そしてスパッと潔い幕切れ。約70分と言う上演時間の短さといい、キレのいい短編小説を読んだあとのような気持ちよさでした。

部屋の小道具がまたいいの。古びた鏡台、敷きっぱなしの布団、鉄砲玉が発売日を楽しみにしているクロスワードパズルの雑誌。そして多分部屋にはテレビがない。板張りの床が暗闇へと伸びていく、パースペクティヴな八百屋舞台。客席からだと舞台そのものが空中に浮いているようにも見え、登場人物がで過ごしてきた不安定な時間を思う。まるで世界でふたりきりだったようなあの頃、倦怠が澱んだ夜に沈んでいく今。舞台つきあたりには工業地帯の画像。ああ、こういう街にいるんだなと言うイメージか、と思うも、部屋のカーテンを閉める動作とともに画像が消える。部屋の窓から見える風景でもあったのだなと気付く。奥村泰彦さんによる美術、すごくよかったです。

頼りたい自分、甘えたい自分をぶっきらぼうな口調(なのに丁寧語)でしか表現出来ない姐さんの不器用さ。千葉さんのそういうとこ好き!あれをかわいいと気付けよ男どもよ〜ホントによお〜(笑)。「姐さん」が胸に秘めている激情を探る作業、楽しかったです。そして思えば役者の土田さん観るのは初めて…おおお、素敵やん!あのギリギリデブじゃないむっちりした体型、イイ!ヒモっぽい!(ひどい)そしてむちっとしてるのにお腹が出てないんですよ。着やせするのか?腹筋は鍛えてるのか?立ち姿も綺麗。部屋でぐだぐだしてる男ですが、かつて組にいたときの、意気盛んな様子がちょーっとだけ垣間見えるところがまた愛らしいです。ご本人のブログ読んだら相当ヒーってなってるようですが(笑・初日はしょっぱなから台詞間違えたとか)、これからも役者の土田さん観てみたいわー。

一見呑気なふたりのやりとりに潜む切迫感。携帯の着信履歴、玄関のブザー、姐さんが出勤時に着る服。そしてちょうちょのついてる下着。見えない部分、語られない部分に想像が拡がるホンになっている。言葉ひとつひとつのちょっとしたニュアンスの違いで受け取り方が変わる、短いやりとりで優位がめまぐるしく入れ替わる。姐さんと鉄砲玉の関係性に、幾通りものエピソードを加えられる余白がある構成になっているので、「リ・クリエイション」にも期待が持てます。あなたの住む街に、ワケありな男女がやってくるかも。



2013年06月02日(日)
『大友良英 サウンドトラックス』

『大友良英 サウンドトラックス』@Shinjuku PIT INN

盛況でございますー。入場前ちょっと入り口の扉が開いたとき「潮騒のメモリー」が女声ヴォーカルで聴こえてきてどよめきが起こる。キョンキョンの声じゃなかったと思うけど誰だ!?アンコールで判明します。この日のメンバーは、G:大友良英、Tp:佐藤秀徳、Tb:今込治、Acc:大口俊輔、Key、Har、Cl:近藤達郎、Pf:江藤直子、B:かわいしのぶ、Drs:芳垣安洋。

『あまちゃん』サントラ中心のライヴ、と告知されていたためか、普段とちょっと違う雰囲気です。メンバーが入場してきたら黄色い声がとび、大友さんが芳垣さんと顔を見合わせる(笑)早速一曲目に「あまちゃん オープニングテーマ」。「キャーーー!!!」ジャンプして踊りだすお嬢さん、フロアがあっと言う間にノリノリです。演奏終わるとキャーとかヒューヒューとか、「よしひでー!」とか声が飛ぶ。大友さん「なんか…ピットインとは思えない……」「いつもと違う……」。その後はなんて言うか、大友さんのそういう反応を面白がって、敢えての声がポンポン飛んでました(笑)。2ndセットも歓声で迎えられた大友さん、「よしひでって呼んでいいのは両親だけ!」「よっちゃんって呼んでいいのはおばあちゃんだけ!」なんて応えてた(笑)。

『あまちゃん』サントラ中心、大友さんのツイートによると全18曲。ここで告白するとわたくし『あまちゃん』を九割方観ていません。土曜に家にいたら観るくらい…あのーいちばん悪い例ですが、twitterでの実況TL読んだ時点でもう観た気になっているアレですよ。あらすじに加えあまちゃんファンの方々の愛溢れる解釈やらツッコミ込みで読めちゃうので、それを楽しく辿ってあーあまちゃん面白かった(んだね)!とそのまま日々が過ぎていく…あかんわー。でもまあいいや(いいのか)。

と言う訳で大友さんはサントラ仕事いっぱいしてるんですが、ご本人の普段の活動同様それらはギターソロからビッグバンド迄編成も参加メンバーも多種多様。レコーディングメンバーが全員揃い、完全再現の演奏をすることはなかなかありません(人数多い+ジャズのひとだと毎日のようにどっかに演奏しに行ってるのでスケジュールを合わせるのが難しい)。なのでサントラのライヴ、となると「どんな編成であの楽曲を演奏するのかな?」と言う点も楽しみのひとつになります。今回のTp、Tb、Cl三管のアンサンブル、すごくよかった!かわいい!当然ソロはおまかせで、二度と聴けないインプロ的な展開も多くとても楽しかったです。

明け方迄この日用の譜面起こし(アレンジあるしね)をしていたと言う大友さん、憶えのない注意書きを見つけて狼狽えていたのも面白かった。「“予感”て書いてあるけどこれ何だ?…まあいいや、予感って感じでやってくださーい」だって(笑)。そうそうアレンジと言えば、宮沢賢治の「星めぐりの歌」がすごくよかったなあ。チェリストだった賢治が書いた曲、と言われてもピンとこなかったんだけど、演奏が始まって即気付く、これ細野晴臣の『銀河鉄道の夜』にも入ってた!賢治の作曲だったんだー。「当時の作曲手法がこうだったのか、賢治自身の感性によるものか判らないけど、譜割がすごく変わってるの。現代用に書き換えました」とのこと。

「昨日渋さ知らズが『あまちゃん オープニングテーマ』やったんだって?」と大友さん。三回も!とフロアから声がかかりまたもや芳垣さんと顔を見合わせる。「渋さの曲ってことになったりして」「そのうち『音楽:渋さ知らズ』ってテロップになるんじゃない?」なんて言って自分たちでウケていた。しかしやりよるな渋さ(笑)。曲間におおともっちの楽しいトーク+楽曲解説。『あまちゃん』関連は撮影裏話も聞けました。オフレコの話もかなりあり…書いていいかなってとこだけ以下おぼえがき。

-----

・『あまちゃん』以外にやったのは「胡桃の部屋」「その街のこども」「blue」「スタントウーマン」
・一曲入魂「blue」が素晴らしかったよ!感涙!カーヴを曲がるとぱあっと光る海が眼前に拡がるかのような!
・芳垣さんのドラムで瞬時に表情が変わるなあ、急にテンポ上げたりするときの
・「胡桃の部屋」は大友さん曰く「ダメなお父さんと背の高い娘の話」。今回ガムラン楽器はないのでアレンジ変えて
・『あまちゃん』のチーフ演出家は『クライマーズ・ハイ』のときの演出家、井上さん(『ハゲタカ』もやってましたね)。アツいひとで、「イメージが湧くと思うので御巣鷹山にのぼりましょう!」と言われのぼりに行った。へとへとになり一週間筋肉痛
・その井上さんと『その街のこども』をやることになって、東日本大震災もまだ起こってない頃で、ものすごくいろんなことを話し合った
・「その街のこども」はインストヴァージョン。阿部芙蓉美さんが唄っていたヴォーカルパートはTbで。今込さんのTbは表情豊かで物語るような音色でした。ほろり
・「スタントウーマン」でサモ・ハン・キンポーとカンフー映画への熱い思いを語るおおともっち。「夢が叶った!でも(以下この映画の末路を語る。悲哀)」

・今日『あまちゃん』中心って知らないでインプロ聴きにきたお客さんいたら面食らうよね
・自分でも訳わからなくなる。インプロのツアーでヨーロッパから帰ってきたばかりだし、何がなんだか……分裂してる感じ

・脚本クドカン、音楽大友で朝ドラを、と言うのは二年前に決まっていた。そう震災の年
・去年の八月『プロジェクトFUKUSHIMA!』後、取材で久慈市に。八月末なのにもう寒い
・海女さんがウニ獲ってくれて、その場で喰えるの!それがもううまくてうまくて…15個も食べちゃった
・その後オンエア見て、「1個500円」って……ななせんごひゃくえん……

・スナックがすごく多い。居酒屋がない。夜に呑みに行くってなったらスナックしかない。生まれて初めてスナック行きました
・人口一人当たりのスナック数全国一ではないかと
・ママさんがいて、俺(今年54歳になる)よりはまあ下かなってくらいのママさんなんだけどいくつ?って聞いたら27歳って(爆笑)
・で、旦那さんは?って聞くと遠洋漁業とか出稼ぎに行ってて、一年のうち一ヶ月くらいしか帰ってこないって
・離婚率全国一ってのは本当
・独特な過疎の雰囲気と言うか、クドカンさんが選んだだけあるなあと思わせられる土地でした
・でもねなんか通りに若いイマドキの格好したひとがいるの。東京とそんなに変わらないじゃんと思ってよく見たら美術さんだった。NHKのドラマスタッフがロケハンでたっくさん来てたの(笑)
・すっかり有名になっちゃったんで観光客が増えて、撮影はまだ続いているのでちょっと困ってるらしい

・『あまちゃん』サントラは出る予定じゃなかった。あのねここのスタッフさんたちそういうところにとても潔癖なの
・でも評判いいんで出しましょうってことになって、急に選曲してくださいって言われて
・あのねtwitter見てると「南部ダイバー」入ってない!とか「潮騒のメモリー」入ってない!って怒ってるひといるけど、評判よかったらサントラの2とか3とか出るかも知れないから、それに入るかも知れないから……
・そもそも「南部ダイバー」は劇中歌だし。俺の曲じゃないし(笑)
・今回のサントラは、レコーディングに参加したメンバーが全員入るようにって観点から選曲しました
・ナスノミツルなんか岩手出身なのに入れられないところだったよ!

・『あまちゃん』ビッグバンドのライヴも何本か決まってるし、これからも増えるかも知れないけどホントわかんないの。PARCO劇場のも、劇場なんて一年前からおさえてたんでしょ〜って言われるけどホントに急遽決まったの
・浅草のやつもパルコも、なんかすごい応募来てて、5倍とか?(お客のひとりが「浅草のは一応募につきふたり迄だからもっと倍率高いです!」とか訴える)ええ〜すごいね〜
・パルコは芳垣さんスケジュール合わず不参加(となるとDrsは小林さん、坂田さん、植村さん辺りか)
・でもまあお祭りみたいなものだから。来年の今頃は、ピットインで30人の客を相手に…(ブツブツ……)
・八月のプロジェクトFUKUSHIMA!でもやります。聴きたければ福島迄…線量東京の5倍だけどね(こういうところをさりげなくもしっかり言う辺り、大友さんらしい)
・あと名古屋でもやります(あいちトリエンナーレのことだと思われる)

・おおともっちの「じぇじぇじぇ」や「ちゃんとしないとダメなんだ!(ユイのまね)」も聞けました
・江藤さん見てるとユイちゃん思い出すの。「アレンジは時間がかかるんだ!」「〆切り守ってくれないと困るんだ!」って言われてるみたいで……(笑)

-----

で、アンコール「潮騒のメモリー」。「キョンキョンは来ません!で、作曲者に…」(ざわざわ)「初めてメロディを書いた…」(ざわざわ)「で、唄ってもいいってことで……」どよめくフロア。なあんとSachiko Mがヴォーカル!!!ハンドマイクを持って現われたSachikoさん、ビタミンカラーのイエローの衣裳!いやもうどよめきまくりです。大友さんも「ステージでは氷の女と言われているSachiko Mが!」なんて言ってて(笑)。手拍子が起こる!サビでSachikoさんがマイクをフロアに向ける!ま〜あめ〜いど〜♪の大合唱!カオス、カオスやで……。

いんやびっくりした…そもそもSachikoさんがメロディ書いたってことがサプライズですし。シンプルに説明するとSachikoさんてサインウェイヴの方なんですよ。オタマジャクシで再現出来ない音をちょークールに奏でるひとなんですよ。それが…しかもヴォーカル……。やんややんやで日曜日の夜は更けていきました。うはー面白かった。

セットリストはこちら。『JAZZ WORLD.INFO』



2013年06月01日(土)
カンパニー・フィリップ・ジャンティ『動かぬ旅人』

カンパニー・フィリップ・ジャンティ『動かぬ旅人』@PARCO劇場

些細なことですが、日本での呼称がフィリップ・ジャンティ・カンパニーからカンパニー・フィリップ・ジャンティになったんですね。2007年の『世界の涯て ―LANDS END』以来、六年振りの来日公演です。カンパニー、PARCO劇場ともに四十周年とのこと。めでたい。

『動かぬ旅人』は1996年にも来日公演があり観に行ったのですが、記憶も随分彼方です。どんなんだったっけ…と思いつつ席に着く。目の前に拡がるひとつひとつのシーンが、初めて観たときの光景を瑞々しく甦らせてくれました。ストーリーを追っているようで追っていないので、順序立ててシーンを思い出せないだけなのだ。普段「ストーリー」をガイドにして観ているってことだなあ、と気付かされる。忘れているのではなく、記憶の奥の抽斗に入ったそれを、ガイドが行方不明になったときどう思い出すか。探し下手と言うか、整理下手と言うか、自分の要領下手を改めて思い知る(笑)。

この光景にまた会えて嬉しい。

目の前に差し出されるイメージにひたすら酔い、夢中になり、魔法にかかる。まず出演者が何人いるのか?ってところからおろおろしますね(笑)。男性三人、女性四人と確認出来たのは舞台が始まって結構経ってからでした。トリッキーな仕掛けも楽しい。命を吹き込まれた人形たち。もののように投げられていく赤ん坊たち、人間と人形のキメラたち。経済を動かして、文明と共存して、砂漠に、海に還っていく。劇場という場所から動かぬ旅人が観客に見せてくれる世界。

今回Y列(実質二列目)だったのでひきで観たかったなーと思ってはいたものの、いざ始まってみれば死角がなかったようにも思えました。あるとしてもそれは意図的に作られた、このカンパニーならではのマジックになっている。これってなにげにすごい。長年の連携、再演を重ね、上演劇場の機構を知り尽くしているようにも思えました。継続の力。段ボール、シャカシャカビニール(これホントはなんて名前なんだろう…と今更気になって検索したら「低圧法高密度ポリエチレン (HDPE)」だと判明。「シャカシャカビニール 正式名称」でヒット。インターネットって便利だなあ)と言った身近なものが、想像力によって舟にも波にも服にもなる。おもちゃ箱のような楽しさ。そして演者たちの笑顔。

あっけらかんとしたエロとグロとエグみがあるのも大好きなところです。青と桃色の、夜明けとも夜更けともつかない照明も美しい。官能的であり、ヘルシーでもある。ヘルシーの基には死がある。

ワークショップを経て作品毎に出演メンバーを集めるこのカンパニー、『動かぬ旅人』』には日本人キャスト沖埜楽子さん(ex. 上海太郎舞踏公司)が加わっているとの情報が伝わってきておりましたが、今回の来日公演に彼女は不参加。パンフレットの舞台写真には姿がありました。

カーテンコールでは裏方さん三人が登場、これも恒例。裏方さんも出演者と言っていいものですしね。後ろの席のひとがひとこと、「はあ〜、終わっちゃった」。ああ名残惜しい、あっと言う間に終わってしまった、でもとても豊かな時間を過ごせた。

「魔法にかかりに、いらっしゃい。」また会えるのを楽しみにしています。