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2012年08月25日(土)
『トロイラスとクレシダ』

『トロイラスとクレシダ』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

彩の国シェイクスピア・シリーズ第26弾と言うことで、そろそろこのシリーズも佳境に入りつつあります。全作品を上演となると、いくらシェイクスピアと言えどもピンキリで、『トロイラスとクレシダ』はんん〜なんと言うか〜珍作の部類に入ると思われます(バッサリ)。悲劇であり乍ら当事者はふたりとも生き続け、トロイ戦争の途中から途中迄と言う中途半端な時期を描くと言うなんとももや〜とした幕開き、幕切れです。とは言ってもトロイ戦争は歴史的にも有名な戦争、最後どうなるかの知識は観る側にある。何故この物語はこの部分に焦点を合わせて書かれたのか、それを演出家と役者がどう見せるか、が見どころになります。

蜷川さんの交通整理は流石の熟練。シェイクスピア作品って、初見が蜷川さんだと単純に「これはこういう話なんだ」と言うのがハッキリ理解出来ます。古典劇って他の演出だと、結局どういう話だったんだこれ、となることが多いんですね。今回はたかお鷹さん演じる序詞と、小野武彦さん演じるパンダロスが幕開きと幕切れのモノローグを司り、時代背景、人間関係を解りやすく提示してくれました。で、どういう話か解るからこそ、ホンがえらい中途半端だなあと言うことも解る(苦笑)。

気になるところは多々ある。今回公演前に出ていた記事では、オールメールシリーズ初の悲劇、と言うことを前面に押し出したものが多かったんですね。しかし実際観てみると、結構笑えるところが多くて。特に後半。正直登場人物がバカと卑怯者ばっかりなので「ひとって、愚か…」と言う意味でかなり笑えるのですが、それは結果としてそう見えてしまう人間の悲しさ、と言う提示ではなかったように思いました。笑わせる意図が明確にあった感じ。そこがひっかかる。そしてそれが、役者によって違うと言うか……。

例えば口語体ではない台詞で話しても、ある役者が発するそれは言葉のなかから意味を見出せるのだけど、他のある役者だと意味が頭になかなか入ってこない。ある役者が狂乱の演技をするとき、その容姿や様子はかなり滑稽であるにも関わらず語る台詞の内容に震撼し、だからこそその狂乱を恐ろしいものとして受け取れるが、他のある役者の愚行にはそれが感じられない。その差がかなりハッキリしていたのです。

そうなると、うーん、結果的にコメディ的な部分が増えたのは、真正面からの悲劇は無理かと演出家が判断してしまったのだろうか…と邪推してしまう……。個人的には悲劇は悲劇として観たかった。しかしそもそもこの作品は悲劇なんだろうか、と言う疑問も残ります。違う視点からのものも観てみたい。渡りに船で10月に山の手事情社が上演するとのことなので、こちらも観ようと思っています。思えば安田さんも、独特なサウンド+ヴィジュアル感覚の演出をする方だが、ホンの内容をクッキリ伝える腕を持つ演出家。楽しみです。

本日のカフェペペロネでは夏メニューで冷製トマトのスープパスタをいただきました、おいしかったー。



2012年08月19日(日)
面影ラッキーホール誕生20年記念『ハタチの値打ちもない・成人式ツアー』

面影ラッキーホール誕生20年記念『ハタチの値打ちもない・成人式ツアー』@Shibuya WWW

『ふくすけ』の三日後に面影を観るって、なんというか、その……(黙)。まあ、ある意味いいコースです。

OAはもはや毎度のLASTORDERZ。しかしLASTORDERZでトモロヲさんが出てしまうと、面影本編に登場出来なくなっていませんか……(前は客席から飛び入りとかしてたそうで)。もはやレギュラーのOAですみたいなことを言っていたが、年内にもう一本くらいライヴをするとのことで、それじゃあそのときは面影がOAやればいいじゃんと話しました。また鹿殺しとも対バンしてほしいものです。

安斎さんはまあ遅刻と言うことで。打ち上げには来られたんでしょうか。今回いちばん場内がどよめいたのは、トモロヲさんが野田総理とおない歳だとMCで明かされたときでした…ヒー!しかしどっちかと言うとトモロヲさん若い!と言うより(これはもうずっと思い知らされておる……)野田総理が(以下自粛)と言うどよめき?…いや待て、世間一般の1957年生まれってどうなんだ……やっぱどっちかって言うとトモロヲさんが人魚の肉喰った族で珍種か……。見掛けは若いが体力は落ちてる、お約束の休憩を入れつつ、それでもトモロヲさんのシャウトにはクるもんがありました。「死なないで!」(@森若さん)と言う気持ちとともにな…いやもうホント真剣にちゃらんぽらんをやる大人としての目標です。ちなみに「ジジイ!」「クソジジイ!」と言う罵声が大好物だそうです(微笑)。

余談だが先月フジの帰りに越後湯沢の駅前でトモロヲさんに遭いましたよ、いらしてたんですねー。何が目当てだったのかな、やっぱMetal Box in Dub辺りか。近くで見てもお肌綺麗でした。こういうところも見習いたい。って、どうやって見習えばいいの!スキンケアは何使ってんの!

さて面影、二十周年。ミスチルと同期だそうです。このへん怒髪天とかもそうですが、長くやってはいても間にちょくちょくお休みが入っているのであまり実感がない様子。天才マタバくんもP-VINEを去り、今ではマネジャーもHPの管理人もおりません。「ただでさえ大所帯のバンドだから皆のスケジュール管理してライヴの日程決めるのとか大変なのよ!誰かいませんか?スタッフやってくれるひと」とアッキーがボヤいておりました。そうは言いつつ一時期よりはコンスタントにライヴやってくれるし、新譜もちゃんと出てるし、新曲の演奏もバッチリだったのでリハとかキチンとやってそうだし、やっぱりこのひとたちってちょー真面目だよなあと思ったりもした。不謹慎なことこそちゃんとやる、これ大事!そういえば「今夜、巣鴨で」の“山手線の左の方で♪”のときアッキーがちゃんとフロア側の左になるような振り付けにしてて(自分からすれば右の方ですな)、こんな細やかな気配りにも「真面目…」と思いました。

あ、あと「前売りを買ってくれ」と言ってました(苦笑)。当日満杯だったんですが、前売りが売れとかないといろいろ不都合があるらしい。まあ判るが、先の都合がつけづらい大人の客が多いんじゃないでしょうかね。結果オーライですが、バンド側としては直前迄気が休まらないでしょうね……。

そしてこの日のアッキーはひと味違った。MCが優しかった…普段は「気やすく話し掛けんじゃねえ!」とか言うくせにー(そしてそう言われるとますます喜んで話し掛ける面影ファンと言う光景が楽しい)。二十周年への感謝やら何やら、なんだかこっちが気味悪くなるくらいの優しさだったわ。衣裳もいつものどピンクではなく、うっすら淡いピンク(もはやほぼ白)サテン生地の王子様タキシードみたいなので、出て来た途端どよめかれてた。で、帽子被っててもみあげ周辺がすごい刈り上がってたので「ライヴに向けて散髪に行ったのね」と思っていたら、アンコールでは純白のプレスリーみたいなツナギ+オールバックで登場、ちょ、ツーブロック!やだかっこいい!と一瞬でも思った自分はどうなのか。しかし終演後サさんもポンチさんも「やだイケてるとか思っちゃった!」「なんでかっこいいと思ったのか、でもかっこよかった…」と言っていた。恐ろしいマジック…アッキーは魔法使いやね……。ちなみにそのツナギで出て来たときの第一声は「くろやなぎさーーーん!!!」@ダイノジ大地であった。しかも似てた。そのまま「ベジタブルぶる〜す」へなだれ込む素晴らしい展開でした。ちゃんと考えてる…こういうところも真面目!

結局最後は脱いでショッキングピンクのパンいちになりキレのいい踊りを披露するアッキーですが、デブ+汗だくなのでツナギがなかなか脱げず、コーラスの姐さんに袖を引っ張って脱がしてもらってました。そういうとこも素敵だね(マジで言ってます)。

いんやーそれにしても新譜からの曲がいちいちよかったな。ここ!てなときに絶妙なリフやフレーズ、メロディーがズバン!と入ってくるツボ押しまくり、痒いところに手を届かせて掻いて掻いて掻きまくった後に辛子を塗り込んでくれるかのごとく。痛い!イイ!痛い!ファンクと歌謡曲の親和性全部ブチ込みましたってところがまた勉強熱心探究心溢れるやっぱ真面目!今回真面目ばっかり言う!歌詞も厳しく素晴らしく「どーしてもこの一線は……」へ果敢に挑み続ける。どこ迄行けるか、描けるか。「ゴムまり」も相当キツかったが「おかあさんといっしょう」はなあ…偏執的とも言える情景描写があまりにも見事で頭が下がる。そういえば「好きな男の名前腕にコンパスの針でかいた」でのアッキーは、唄い終わったあと手を組んで頭を下げる動作が定番だけど、これが彼らの作品世界への真摯な礼に見えることがある。エロ描写も素晴らしい、「四つん這いスイーツ」とかホントすごいわー。アッキーの歌の旨味にも感じ入りました。

ああっ思わず真面目に書いてしまった。でもホント真面目、真摯なバンドだと思います。て言うかこういうことに手を出すならこんくらい真面目に真摯にやらなと言う話ですね…好き好き大好き。

ちなみに今回の仮想敵はサマソニとブランキージェットシティでした。サマソニは同日だったからにしても何故今ブランキー。「君たちサマソニれなかったからここに来てんでしょ?」ええそうですね。「ニューオーダーは見られなかったけどラストオーダーズは見られたね」誰がうまいこと言えと。そして「パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた…夏」のシャウトは「ジッペーーーイ!!!」でした(呆然)。ヨタロウさんが言ったとおり、パチンコ屋ではこの曲をヘヴィロテで流せばいいよ真面目な話!ジッペイの飼い主はパチンコには行ってなかろうがね……。



2012年08月16日(木)
『ふくすけ』

シアターコクーン・オンレパートリー+大人計画2012『ふくすけ』@シアターコクーン

再演から観ています。初演は悪人会議、再演はニッソーヒで、今回はコクーンと大人計画名義になっていますが、んんーと、大人計画が制作にしっかり絡んだと言うこととして名義があったとしても、やはりコクーンならではと言う感じがした公演でした。作品そのもののパワーは流石なもの。終演後胃が重い重い。

ラスト、古田さんがテーブルをダン!と飛び越える姿に「きたぁ!」とシビレたのですが、それは舞台における古田さんの格好よさにであってヒデイチのそれとは違う感触。パンフレットで古田さんが「自分の色を出さずにやれれば成功」みたいなことを仰っていて、確かにそれは終盤のこのシーン迄保たれていたと思うのです。吃りからくる引っ込み思案な性格、それによっていじめを受けた過去、そんな自分を愛してくれたマスへの思い…抑制した小さな声で、ヒデイチの輪郭を確かに伝えていく古田さんはやはり巧い方だなと感心するばかりだった。しかし最後の最後でその抑制が解かれた。そしてそのシーンこそが、「見たい古田さんの姿」だったと思ってしまった。嬉しい反面困惑する自分もいる訳です。今回の感想はここに集約されるかな。自分にとって、初見(再演)のインパクトが凄過ぎたのだ。

再演された時期ってのがまたオウムの一連の事件の後だったと言うことにも、現在(未来)を見通し、そこに居合わせる松尾さんの“天才”を感じたのだった。震撼する高揚感の中流れる第九「歓喜の歌」も、再演の時期は年末でドンピシャだった。キャスティングも絶妙だったんだよね……。いやいやいや、こういうことはきっと初演から観ているひとは再演に対して思っているだろうし、キリがないことなので延々書くのはやめておこう。

華やかなキャストで華やかにコクーン用に仕上げられた印象の今回の上演では、それらインパクトは勿論薄れる。しかし、多層的なこの作品の、違う顔に気付くことが出来る。フタバら若者たちの「純愛に代表される美しいものを信じたい気持ち」はいつしか諦観に変わり、考えてもどうにもならない人生の理不尽さに、それでも抗いたいと言う衝動を抑えきれない。二十代でこれを書いた松尾さんが、ヒデイチらの年齢に近付いた今この作品を演出すると、インパクトだけではない哀切さが加味されたように感じました。そしてそれを心に留められるくらい自分も歳をとった。ふくすけの長ゼリにも余裕が感じられ、これも初見のときとは違う「世の中への醒めた視線」として印象に残りました。

あ、今回インパクトあったところって、小松さんがコズマ三姉妹のエツだったことだよ!(笑)キャスト発表になったとき小松さん何の役やるんだろうと思ったけど女性役かい!いやあ、これはよかったな…そうそう、今回キャスティング発表になったときいろいろこんがらがったんだ。イメージとしては古田さんってコオロギなんだけどポジション的にはヒデイチぽいな、松尾さん今回も出るしコオロギ続投かと思ってたらその後コオロギはオクイさんって聞いて、えっじゃあ松尾さん誰やるの?と思ってたら男爵だったんだ。

いやー、オクイさんのコオロギよかったな…あの「そりゃ俺じゃねえか」の台詞が似合うひとって限られた(選ばれた)ひとだよね(ほめてる…?)。いやそれはともかく、翻弄されるコオロギの疾走が観られてよかった。あと蝉之介さんて脱いだら意外とすごい、そして猿時くんは再演時とあまりにも姿形が変わっていた(笑)。

あと生ムカデ人間が観られて嬉しかったです(笑)。

それにしても場面転換や段取りの多いこと。松尾さんも言ってたけどホントこれどうやってスズナリでやったんだろうか……。

メモ:opのダンス曲はVoodoo Glow Skulls「Brodie Johnson Weekend」。



2012年08月15日(水)
『セブン・デイズ・イン・ハバナ』

『セブン・デイズ・イン・ハバナ』@ヒューマントラストシネマ渋谷 シアター2

夏が苦手なのは暑さに弱いうえ、ひととお別れすることが多いからなのねー(生き死に含め。まあお盆もありますし)と自分の日記読み返して納得している今日この頃野口五郎、そんなこと悶々考えたからって気温が下がる訳でもありませんし、それじゃーもっと暑いところの映画でも観に行くか。いやホントのところはベニシオ・デル・トロの商業映画初監督作品を観るためです。

ベニーの初監督作品は『Submission』と言う短編で、公開を目的として撮られたものではなく、勿論日本公開もされませんでした。しかし当時彼の公式サイトでこの作品のビデオを通販していたのです。ここ今はどうなのか判らないけど、当時は有志が無償で運営している所謂公認サイトでした。日本のファンサイトの方に御指南頂き(有難い…)拙い英文で問い合わせを送ったところ、通販は中断してしまったのごめんね、でも再開するときには連絡します、と言う丁寧なお返事を頂いたのでした…(そのときの経緯。ログが残ってるっていいねー)いやあ、懐かしい。

前置きが長い。と言う訳で、ベニーの監督作品としては二本目、商業映画としては初めての監督作品が今作『セブン・デイズ・イン・ハバナ』中の一編「月曜日:ユマ」なのです。

タイトルからも判る通り、キューバの首都ハバナの七日間…月〜日曜日を描いた七編によるオムニバス。ベニー監督作品(月曜)以外の情報を全く入れず観に行ったのですが、ギャスパー・ノエも参加していてビックリ(金曜)。そして木曜のこの主演のひと…な、なんか知ってるこの顔…すごく顔力があるこのひと……と思ってて、パンフ見たら『D.I.』の監督+主演=“ES(エリア・スレイマン)”だった!読んでの通り当時の感想にも内容は「???」だったのに「ツラ構えも魅力的」とか書いてる(ログが残ってるっていいねー・二度目)。パレスチナ問題に関しての知識も多少増えていた当方、アラファト議長の肖像が映るシーンになんとも言えない気持ちに。当時はアラファトも生きていたものね……カストロの演説に彼は何を感じていたのだろう。

月〜木曜は国外から来たひとたちとキューバのひとたちの束の間の交流を描き、週末の金〜日曜はキューバの土地に根ざしたひとびとの生活を描く。それぞれの曜日のエピソードがその後の曜日に繋がっていたりもします。いちばんじわっときたのは土曜日。水曜日に登場する人物の家族の一日が描かれます。テレビ出演もする高学歴の専門職であり乍ら、お菓子作りの内職もしているキューバの生活者の実情。玉子を近所から借りてきて(この描写は月曜日にもあった。キューバでは日常のことらしい)、停電すればひたすら手作業でメレンゲをかきまわす。それでもお菓子は立派な出来で、笑顔でお客がひきとっていく。監督のフアン・カルロス・タビオは七作品中唯一のキューバ人監督とのことで成程と思った次第。

さてベニーの作品は、自身もプエルトリカンであり、ゲバラへの縁もある彼の、ラティーノへの敬愛溢れる一編でした。パッセンジャーへの優しい視線、マイノリティとしての自他。そういえばベニーさんって『トラフィック』のときそのお色気?で男をオトしてたなーてなことも思い出したわー(笑)そしてメキシコが舞台だった『トラフィック』でも、野球に関するエピソードにじわりとさせられたんだったと思い出しました。主人公テディがとった行動、それを受けた“彼女”の対応。ラスト数分間の緊迫感とその後の安堵、カラッとしたほろ苦さとほの甘さ。印象に残るオープニングでした。

キューバと言うとレイナルド・アレナスの『夜になるまえに』が原作も映画も映画のサントラも大好きなんですが、そのこともいろいろ思い出したなー。と言う訳で、夏の夜に聴く『BEFORE NIGHT FALLS』OSTは格別。うん、こういうのがあると夏もいいなと思える。



2012年08月11日(土)
『佐渡×シエナ』『To Milkyway Planet』

『佐渡×シエナ』@文京シビックホール 大ホール

佐渡裕さん指揮によるシエナ・ウインド・オーケストラ定期演奏会、今回のテーマは「花」とのことで、入場時花の種を頂きました。私がもらったのは金魚草だったけど皆そうだったのかなー。

序曲『バラの謝肉祭』(J. オリヴァドゥティ)、『リンカーンシャーの花束』(P. グレインジャー)、「音楽のおもちゃ箱」、休憩をはさんで『さくらのうた』(福田洋介/本年度吹奏楽コンクール課題曲)、歌劇『ばらの騎士』組曲(R. シュトラウス)。

いちばん印象に残ったのは『リンカーンシャーの花束』。むっちゃ面白かった!6つの小曲から成り、そのひとつひとつの曲がこれまたユニーク。ちょっと一聴しただけじゃなんとも説明し難い…それぞれの曲調から音階から拍子から不思議な成り立ちだし、それらが曲間もそんなに置かずどんどん演奏されていくので「えっえっどうなってんの?」と思ってる間に終わってしまった……しかしとても人なつこいポップさなのです。うわーまた聴きたい!なんでもイングランド東部リンカーンシャー州の民謡を吹奏楽曲に構成したもの、とのことで、しかも解説によるとこのグレインジャーと言う作曲家は相当な変人だった様子…理論とかが通用し無さげな、天才がそのままの感性で書いたかのような印象でした。民謡によるこぶしやなまり、律動のパターンを全てそのまま楽器に置き換えた、と言う感じ。

絶対音感含めこれらは非常に肉体に沿ったもので、要は能楽や狂言、歌舞伎等の伝統芸能の節回しを楽譜に起こし、管楽器で演奏するようなものですね。伝統芸能の場合はこどもの頃から師匠に台詞や謡をそのピッチやリズム込みで徹底的に身体に叩き込んでいく作業を経て体得していく部分も多いところ、これはそれらある種の“クセ”を、制限のある音階で全て再現する訳で、そりゃむしろ譜面を見て憶えて演奏する方が難しかろうと言う…しかしそこはプロ集団、なんなくこなしているように聴こえてしまう。いやはやすごかった。譜面通りと言ってもそこにはプレイヤーの息遣い、コンダクターのグルーヴを介す訳ですからこれはバンドによって違う印象になりそうだなあ、他の演奏も聴いてみたくなりました。

「音楽のおもちゃ箱」は佐渡さん曰く「ここは僕の好きなもんばっかやるんで」ってことでまずは「サンダーバードのテーマ」。タイトルコール後「Five!」とカウントダウンを自らオフマイクで入れ、「Zero!」とともにあの聞き慣れたテーマに滑り込んだときの格好よさと言ったら。もー鳥肌たちました。ブラスアレンジのこれが格好よくない筈がなかろうもーん!その後サンダーバードのフィギュアやプラモが好きで集めててー、快獣ブースカも好きでー。てな和むお話に続き来ました「タルカス」!このコーナー、事前に演奏曲目が発表されないのですが、「タルカス」に限っては前日シエナのtwitterその他で発表されていました。これは二月公演の反響が結構あったのではないかな…いやーこれ二月のとこにも書いてますがホント格好いいのよ、吹奏楽版!今回はノンストップで十数分間に抜粋構成されたものでしたがエッセンス濃縮!と言う感じでこれまたシビレた。二月の演奏はCDリリースされていたので会場で早速購入。当日ロビーで聴く羽目になった(…)『二つの交響的断章』も収録されてて嬉しい。

ところで半年振りに見た佐渡さん、激ヤセしてて驚愕した。途中ご本人が「痩せたしね…」と言ったとき会場がざわざわ…となったので皆気になっていたと思われる。と言うか最初出てきたときにもちょっとざわっとなったもの。心配になって帰宅後検索してしてみたら「ダイエット」とのことでホッとしましたが、それにしてもな痩せっぷりでした。スーツとかぶかぶかになってたよ。松重さんが激ヤセしたときのこと思い出したわー、長身でガッチリしたひとが急に痩せるとホントビビる…お元気でいてくださいよ……。

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『To Milkyway Planet for faraway girl EP release DE DE MOUSE in Planetarium』@北とぴあ プラネタリウム

シエナ終演後後楽園から王子へ移動、本日南北線の旅でした。偶然とは言えいいコース組めた、丁度開場直前。

暑さでぐってりだったので、プラネタリウムを見乍らデデくんの音楽を聴くとなれば気持ちよ過ぎて寝てしまうのではないかと言う懸念もありましたが、終始目も耳も頭もクリアでした。星のプログラムは会場によって違ったのかな?その施設にあるものを一時間に編集したのではないかと思われます。なので従来だと星座表や数値のアナウンスが入るのであろう線画や座標軸が映し出されても、それに関する説明はありません。聴こえてくるのはデデくんの奏でる音だけ。そこにはシンセの音だけでなく自然物の音がチョップ&エディットされ、夏の夜の暗闇が瞼の裏に入り込む。目に映るのはその暗闇と、プラネタリウムから放たれた星たち。

真っ暗で、でも明るい。星の光と、それを反射する水面や地面、草原が灯りとなって、歩いていくことが出来る。そこには目に見えるものと、見えないものと、かつていたもの、今はどこかへ行ってしまったものがある。集中して観て聴いているのに、頭のなかにはめまぐるしくいろんなことが浮かぶ。それは郷愁であったり、個人への思いであったり。それらは季節の思い出とともに、置いていかなければならないものであったりする。

ここ数年でアベくんやハラカミくんが夏にいなくなってしまったことや、先日の松永さんのことを思い出したりもする。そして個人的にも、夏には別れが多いな、とふと思う。あたりまえだが「次の夏」は「今の夏」とは違って、どの夏もが「前の夏」になっていくのだ。あー、何故か「ENDLESS SUMMER NUDE」聴きたくなった。

投影機が回転すると、天空から退場した星が客席に落ちてくる。自分のところにも星が降ってきた、嬉しかった。

七月スタートのツアーだったこともあり、七夕にちなんでロビーには短冊を飾れるようになっていました。受付嬢は浴衣姿だったし、手づくりのあたたかさもある素敵なイヴェント。それとは裏腹に、デデくんのMCがドクトク毒々くんで面白かった…イイネ!ちなみに帰宅後前述の『タルカス』CD開けてみたらavexからのリリースでウケた(笑)。あとこの施設の職員さんなんだろうなと思われる方と、マネジャーさんの前説が面白かったです。

・セットリストはこちら

・BGMリストはこちら(これがまたよかった。なつやすみの風景)



2012年08月04日(土)
『暗いところからやってくる』『奈良美智:君や僕にちょっと似ている』

KAATキッズ・プログラム 2012 こどもとおとなのためのお芝居『暗いところからやってくる』@神奈川芸術劇場 中スタジオ

上記のとおりこどもも観られる作品です。こどもの頃怖かったものって何だろう、おばけ、宇宙人、それから?稽古と試演を公開し、こどもたちの意見も聞きつつ作り上げて行ったそうです。しみじみ面白かった…暗闇には何がいるのか、その気配は何なのか。おばけでもなく宇宙人でもない「怖いもの」。こどもにもおとなにも厳しいドッシリとした重いもの、を示しつつそれを感じられることが大事、と伝える心に残る舞台でした。

KAATの中スタジオは、そのフリースペースを活かして各所にかわいらしい仕掛けが施されていました。入口から劇場へ入る通路に布が張り巡らせてあり、ところどころに段ボール箱。古い家屋に引っ越して来た家族、と言う作品世界へ続くものになっています。布は静かにゆらゆらと揺れる。家屋にとりつけられたカーテンにも見える。ひとの出入りによって、どこかから入ってくる風によって、あるいはなにものかの力によって揺れるカーテン。そして演技スペースに入ると、物語の主人公・輝夫の部屋が現れます。客席はその部屋を三方から取り囲む形。残り一方向には、大きなカーテンが揺れていました。開演迄の時間、演技スペースには入ってもよかったらしく、こどもたちが輝夫のベッドや机の上、整理されていない段ボール箱の中を覗き込んでいました。この間あちこちから聴こえるのは、虫の声、遠くのこどもの遊ぶ声、「夕焼け小焼け」(確か)の町内アナウンス。陽光の照明も、だんだん夕方っぽくなってきます。早めに入場してよかったー。これは楽しめました。本編でも急にハンガーが落ちたり、段ボールが崩れたり。この辺り仕掛け(糸とか)全く見えなかったんだけどどうやってたんだろう?絶妙だったなー。

私が観た回はどちらかと言うと大きめ(笑)のこどもたちが多かったです。輝夫が13歳の設定だったのですが、その同級生くらいの子が主流だったかな。なのでこどもが騒いで芝居に影響が出る、と言ったことはありませんでした。皆静かにおとなしく、と言うよりくいいるように観ていた感じかな。コミカルな場面には笑い声も沢山。おばあちゃんが亡くなった古い家、湿度の変化によってときどき破裂音を立てる柱、あちこちにいる蜘蛛。ひとではない何かの気配が常に感じられ、輝夫はそれに恐怖を感じます。そこへ「暗闇に住む者」の新人と先輩、その監督がやってくる。彼らは人間観察を仕事としていて、出世して異動することになった先輩から新人への引き継ぎ作業のため、輝夫の家にしばらく滞在することにする。ところがこの新人がかなりのダメッ子ちゃんで……。

大窪人衛さん演じる輝夫と、浜田信也さん演じる新人の交流は『太陽』でのふたりを思い出させるものでした。今回イキウメの劇団員さんの魅力が堪能出来たなー。大窪くんの童顔と高い声は中学生役を演じても違和感がなく、浜田さんはグッドルッキングなのにどうしてこうアホの子の役がハマるのか(笑)。伊勢佳世さん演じる輝夫の姉(大学生)と輝夫のきょうだいげんかの様子も、細やかな描写でリアル。様子がおかしい弟を叱りつけつつ、心配しているおねえさん。

終盤かなりゾッとする場面がありました。所謂ホラー映画の怖さではなく、オカルトのそれとも違う。人間の在りようについての事実が提示されるだけのことなのですが、それが怖い。それこそが怖い。そしてその怖さは悲しみをも伴ったもので、克服するものではないのです。受け入れるしかない怖さは暗いところからやってくる。おばあちゃんへの優しい思いと家族を守る勇気を持った輝夫はとてもいい子で、この子がこの心のまま大人になればいいなあと思いつつ、それでは自分はどうだろう、と薄汚れた大人は思うのです(苦笑)。見習いたい……。そして「暗闇に住む者」たちへ思いを馳せる。彼らはおばけかも知れない、宇宙人かも知れない。あるいは死者かも知れない。彼らの存在を感じ乍ら生きること、と言うのは失くしたくない感覚でもあります。こどもにはトラウマになるんでないのと言う場面もありましたが、こういう怖さを心身に刻んでおくのってだいじなことなんじゃないかな、と思いました。

前川知大さんと小川絵梨子さんのタッグは『ミッション』に続き二本目。「怖いもの」を示すトリッキーな仕掛けを自然現象に重ね、一場の舞台を丁寧に提示していました。イキウメ公演でもおなじみ土岐研一さんの美術もよかった。太陽光や草むらの音等、自然物を表現した原田保さんの照明とKAATの徳久礼子さんによる音響も素晴らしかったです。

その他。

・こういうのが出来るってやっぱ公共施設のよさで(以下いつもぶつぶつ言ってること)だから続いてほしいのねー!この後もカンパニーデラシネラの公演とかあるのですよ
- 『KAAT キッズ・プログラム 2012』神奈川芸術劇場

・折り込みチラシで知ったのだが大窪くん、九月に太田省吾の『更地』に出演するそうで。あれの男役って確かかなり年齢上ですよね?年嵩のいった役の大窪くんて観たことない。京都の廃校?で4ステージ。ていうかサイトに書いてある『更地』のあらすじがオモロい…こういう押し出しの太田省吾作品ってのも観てみたいわ……

・おひるごはんで目当てにしていたKAATのレストランが閉まっててしろめになりました。秋にリニューアルオープンするそうでするるる(入る店舗は違うとこっぽい)わーんおいしかったのにーそしてKAATて年に数回しか来ないのにー


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『奈良美智:君や僕にちょっと似ている』@横浜美術館

横浜迄来たのでこっちも観てしまえと。会期が長いとついつい先延ばしにして、最後の週に駆け込みで行くと同じようなひと+リピーターで大混雑、と言うことが多いのでね…余裕を持って観られた!いちばん混んでたのはグッズ売り場でした(笑)。やっぱり早めに行った方がいいですね……。近年の大きな立体作品をまとめて、ギャラリーではなく美術館で一挙に観られて迫力。ここ数年よく見られる日本語タイトル(絵のなかにも書き込まれている)、盛り髪の女の子たちの作品を沢山観られたのもよかった。

東横線で行ったので、帰りにヒカリエの8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Galleryでやってた版画展へも寄りました。動線がうまいこといった。



2012年08月01日(水)
ぬー

フジから帰って来たらエンピツのサーバが落ちており、いつ迄経っても復旧しない。最終的には四日近くダウンしていたそうです。リネさんやみぃ♪さんとtwitterで連絡とりあえなかったら不安倍増だっただろうなー、有難うございます。

一時は11年分のログがパーかー、チャーリーパーカー。とぼんやり、その後カウンタが0になったりログイン出来ないひとがいたりでどうしたもんかと思いましたが今はカウンタ含めちゃんとなおっているようです。昨年、震災後にも一度ダウンしたので気にはなる…エンピツさんて機能が新しくならない替わり(?)安定感は抜群だったので、今後はどうだろうと心配しております。ブログに移行とかあんまり考えられないのよね…このシンプルさ+しかしカスタマイズも出来る、と言うところが気に入っているので。有料版はログのダウンロード機能がついてるそうなんですが切り替えの機会を逃したまま無料版を使っており、そしてバックアップを一切とっていません。これからコピペで11年分のログ保存とか……無理!

とは思うものの、行った芝居や映画、ライヴの記録は自分の消えて行く記憶でもありまして、だいたい忘れてることを自分の日記検索から思い出す有様なので(…)消えると困るのね……。地味にちびちびバックアップとっていくかと思っている間にオリンピックが佳境、延々TVを観る日々が続き、先月末のレピッシュ×BBBの対バンもフジもどんどん忘れていく(笑)。どっちもすごく楽しかったし面白かったよ!

と言う訳で上記二本は後でメモをアップするかも知れないー。しないかも知れないー。まあ夏休みもいいもんですよね(暑さに弱い。ホント弱い。いちばん好きな季節は冬です。今暑いから言ってるんじゃなくて冬でもそう言ってます)。

しかし11年も無料で長文ばっか書いてるのをちゃんと保存してくれてるエンピツさんホント有難い…これからも宜しくお願いします……。有料版は3,900円で半永久的に使えるとの事で、それもすごいと言うか太っ腹ですよね。お世話になったお礼も兼ねてこれを機に有料版に、と思ったが、無料版のログを移行するのではなく新規にアカウントを作らねばならないようなので躊躇している。うーむどうしたものか。