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2001年10月22日(月)
『夜になるまえに』

20日にリピート。

あのハビエル“ムンムン”(しつこいよ自分)バルデム兄さんが、なにをどうすればあんな静謐な人物に!もともとアレナス本人が、ハバナビーチで五千人斬り(笑・だって本人が言ってんだもんよう)のひとだというのに、穏やかな佇まいで、灼熱キュ〜バのムンムンさと亡命迄の波乱万丈な人生を不思議と感じさせない人物だった様だ。ゲイの仲間たちとドライヴ〜♪の時も(オープンカーにみっしり6人乗り込んでる図はすごいもんがあった(笑))、ほかのひとが大はしゃぎしてる中ひとりにこにこしてるって感じだったしな。

カストロを「亡命を許した心優しき独裁者」と書いた某誌の様に短絡的にはなれない。ゲバラとカストロがおこした革命に熱狂したアレナスも、その後のカストロ政権下で長い間苦しむ事になる。コスモポリタンと言えば聞こえはいいが、彼の場合はどこへでも行けると言う事ではなく、どこにもいられないのだ。自由を求めて亡命したアメリカにも居場所はなく、郷愁にかられながらも帰る事は出来ない…。アメリカに渡りたてのアレナスと親友ラサロが、雪のN.Y.を笑顔で走る車上のシーンが胸につのる。ここらへん、同じシュナーベル監督の『バスキア』で、バスキアと友人ベニーがちっちゃなジープに乗って街を走る終盤のシーンと被ったな。今は安らかで幸せそうだけど、のちに起こる事を予感させるような切ない感じ。

どんな状況でも書かずにはいられない。木の幹に書く、刑務所で書く、森の中で暗くなる前、“夜になるまえに”書く。カチャ、カチャ、カチャカチャ、タイプが走り出す。壮絶なんだけど、そこここに笑えるシーン。ケツの穴に原稿を詰めて刑務所から持ち出す運び屋(ジョニー・デップ最高!艶やか!スーパー☆美尻アクター特許取得)、美しい軍人(これまたデップ、最高)の股間に顔を埋める至福の時を妄想する取り調べ中(命も危ないってのに)、亡命する為の気球を蜘蛛の糸状態でひとりじめして、墜落して死んじゃう元彼、亡命の為の審査方法。こーいうとこでユーモアが出てきちゃうとこがまた凄いんだけど。シュナーベル監督の物悲しいユーモア感覚(気球での亡命案や、アレナスの最期に立ち会ったラサロがとった行動は監督の創作と言う事になっている)とうまくマッチして、アレナスって人物に魅せられてしまう。

選曲を含めた音楽も良かったなー。風景は弦もの、行為はうたもの。検閲を受けた『めくるめく世界』をフランスに持ち出して出版して貰う為、アレナスが家に大急ぎで戻り、原稿を友人カマチョ夫妻の待つ空港に持っていく迄の曲がミスマッチで印象的だった。切羽詰まりきってるのに優雅なうたもの。サントラ買ってみよう。

画ヅラの美しさも満喫。森、海の自然のみならず、囚人たちがアレナスに、これと引き換えに手紙を書いてくれと紐につけた石鹸玉を振るシーンも。泥だらけでキッタナイ監獄なのに、あのシーンは美しかった。これと引き換えにアレナスは書く事が出来たのだから、彼にとって石鹸は宝石の様なものだったのかも知れない。

あ、あとコロッケがやたらとうまそーでした(笑)

N.Y.を舞台にした映画には、もう双子ビルが映る事はない。9月11日以前に撮影された映画の公開は続く。映画の中の、在りし日の風景を見るたび胸が痛む。