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2011年08月29日(月)
『LIQUID R/U/U/M』

『LIQUID R/U/U/M』@LIQUIDROOM ebisu

LIQUID R(ei Harakami)U(lrich Schnauss)U(-zhaan)M(abanua)

なイヴェントだった訳ですが、ご存知のとおり(やのさんの言葉を借りると)ひとり都合がわるくて来られなくなりました。そもそもはサマソニでyanokami観られなさそうだからせめてソロを、ととってたチケットだったのですが。代打としてかAUTORAとagraphが追加。こんな形でAUTORAを観る機会が巡ってくるとは…今迄なかなか日程が合わなかったんだよね。嬉しいけれど複雑な気分ではあった。

何故か山手線が遅れており、トップバッターagraphはちょっとしか聴けなかった。序盤ハラカミくんの「unexpected situations」を演奏したそうですガーン。VJ綺麗だったー。

AUTORAは二番手でした。アキヲさんと高山さんのユニットですが、ライヴはふたりでのセットとバンドセットがあるとのこと。この日は高山さん(Electronics)、アキヲさん(B)、neco眠るの森くん(G)、BOGULTAのNANIさん(Drs)からなるバンドセット。Visualはcatchpulseさん。つーか森くんのギターが森くんの音だった!一度聴いたら忘れられないあの音だった。なんてえの、ペカペカッとしてるけどちょっと気持ちわるい気持ちよさ(なんだそれ)の、サイケなあれですよ。わー説明出来ん、neco眠る聴いたことあるひとなら判る筈ー!(まるなげ)AKRON/FAMILYのギターにも通じる…って、こないだのAKRON/FAMILYの来日公演、森くんセッションバンドで出てたわね。

閑話休題。そう、森くんのギターがまんま活きてたんですよ。これにまず驚いた……。で、そのギターとNANIさんのドラムのリフが続けば続く程アガるって言う。

アキヲさんのベースもモリッとしてるのに優雅ささえ漂う音源とは違う肌触り。ガッツリバンドサウンドです。高山さんがキュー出しも務めておりました。構成としてはまず高山さんがリズム出ししてテンポ決めて、そこに生演奏でリフを載せていく感じかなあ。それが重なっていくとジワジワグルーヴが出てくる。いーやーよかったよう。バンドセットとふたりセット、両方のライヴ盤CDRも買えたし聴き比べよー。

続いて初顔合わせと言うU-zhaan × mabanua。タブラのチューニングタイムが一曲毎にあり、間がもたない(笑)。この日誕生日だった(おめでとうございます)mabanuaは演奏は格好いいのにしゃべるとしどろもどろでした。年長さんのU-zhaanがドS振りを発揮して、mabanuaをいじったり放置したりとひどい仕打ちでしたが、途中「リハでは『mabanuaくん楽しいね!』って言ってたのに…」「U-zhaanさんがドSなのはよく判りましたよ」なんて反撃されてちょっと動揺してた。ははは、グダグダです。いいコンビ。

しかし演奏となるとグダグダからは程遠いぜ。リハは一週間程だったそうだけど、基本は即興だったのかしら。U-zhaanがタブラとアルトホルンのリフをリアルタイムで重ねていってループさせて、そこにmabanuaがリズムパターンを載せていき、そこにまたタブラの音階でメロディーを載せて…と言った曲があったりでどんどん展開が変わり、スリリングな楽しさ。フロアもどんどんあたたまる。MCとギャップがあり過ぎる(笑)。終盤そのグダグダなMCでふたりのなれそめを話してくれました。ハラカミくんがふたりをひきあわせてくれたそうです。mabanuaが退場し、残ったU-zhaanが「スペシャルゲスト、レイハラカミ」と早口で呟いた。「Red Curb」のトラックが流れ出し、タブラを重ねていく。

おお、共演が聴けた。今回のイヴェント、追悼の言葉はアナウンスされていたけどハラカミくんの名前が最後迄消されず、何かするのかなとは思っていたのですが、これは嬉しかったな……。余計なお世話だけど、ちょっとU-zhaanのことは心配でもある。秋口くらい迄フェスやイヴェントが続き、harakami × U-zhaanで出演するものがまだいくつかある。U-zhaanはひとりでステージを務める。一段落ついたときガクッとこなければいいけど。演奏が素晴らしければ素晴らしい程そう思う。

U-zhaan退場後、二面のスクリーンにハラカミくんが映し出された。松本でのライヴの様子で、演奏前のぐだっとしたしゃべりも流してくれた。あー、このハンドマイク持ってのしゃべりがこんなところで観られるとは。機材を置く台が低くて「低っ!!」「腰痛くなりそう。こないだね、朝イチで、ちょっともの拾おうと屈んだだけでギックリ腰になったんですよ……35過ぎるといろんなところに一気にガタがきますよ〜」。フロアから飛んだ声に応えて「何言うてますのん」。屈託のない笑いとぽろりと出た関西弁。演奏が始まる。「river」だ。いつにも増して猫背になった彼の姿が映る。フロアが静まり返った。

ふわりと音と映像が消えていった。大きな拍手。主催者の粋なはからいに感謝。

そんな訳でなんだかすっかり追悼イヴェントみたいな雰囲気に。ウルリッヒさんの来日公演なのにこれはちょっと…やりづらいんじゃないかなと思いはしました。んが、ウルリッヒさんはそんな空気をものともしなかったぜ。80分間世界一周セット(VJ含)!ツンドラから砂漠迄!ひんやりとした音からスタートし、砂嵐のようなノイズを爆発させた終演迄あっと言う間にもってかれました、釘付け。と書くとサウンドデザインの妙で聴かせるみたいだけど、メロディもいいんですこれが。ウルリッヒさんのこと全く知らずにこのイヴェントに来たけれど(ごめんね失礼)、いきなりライヴで観られたのはよかったなあ。アルバムも聴いてみよう!ご本人は痩身で穏やかな感じの方でしたが、小さな機材をぽつんと置いただけのまっさらなステージにひとり立ったその存在感はとても独特。

惜しむらくはお客がそんなに多くなかったことか。時間が経つにつれ、時計を見乍らフロアを出て行くひとがぽつぽつ。時間の感覚がなくなるような幻想的なライヴでもあったので、私も途中ちらっと「どのくらい時間経ってるんだろう。終電大丈夫かな…」と思ったのでした。終演は23時過ぎだったけど、月曜日だったからね。前日のSuperDeluxeの方が沢山ひとが来ていたのかも。

と言う訳で結構な長丁場、ひとりでぼへーと観ていたら隣のひとが声掛けてくれていろいろお話出来たので退屈することもなく楽しかった。ウルリッヒさんを観に来ていたひとだったのでライヴ前にどんな音か教えてもらったりしました。話すうちめっちゃ歳下なことが判明しオロオロしたよ!いい子だったー、有難うございました。



2011年08月27日(土)
『不思議な卵』『奇ッ怪 其ノ弐』

海流座『不思議な卵』@紀伊國屋サザンシアター

お誘い頂き行ってきました、米倉斉加年さんの劇団。米倉さんと言えば、角川文庫『ドグラ・マグラ』『少女地獄』等の夢野久作作品の挿画家としてのイメージが強い。何せ小学生のときに見ましたから、あの衝撃は忘れられません。と言う訳で、卵が先か鶏が先かではありませんが、個人的には米倉さんと言うと画家としてのイメージが強く、舞台作品を観るのは初めてでした。

実際に観る米倉さんはとてもとても物腰柔らかい穏やかな印象。しかし、かつての美しい自然を持った村を知っている150歳は生きているであろう老人、と言うある種異界の住人のような役柄で、こわいと言えばこわいのです。畏れみたいなものを感じました。なんだか動物堂を経営してた頃の飴屋さんが歳とったらこうなりそう、と思わせられる風貌になってた(笑)。

トルストイ『イワンのばか』から構成され、人間の手に負えないものを扱うことについて、自然の恩恵への感謝を忘れてはならない、と言ったテーマを織り込んだ物語。親子で観られるようにとの配慮(何せマチネが11時開演)で、わかりやすい言葉を使い、歌や演奏を交えたあたたかい舞台でした。

JOHNSONS MOTOR CARのブライアンがブラコ名義(かわいい)で出演しており、リコーダーやパーカッションを演奏。格好よかったYo!

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現代能楽集VI『奇ッ怪 其ノ弐』@世田谷パブリックシアター

『奇ッ怪』が帰ってきたよ!劇場はトラムからSePTヘ。まんまと間違えてトラムに行きましたよ……。

一昨年上演された『奇ッ怪〜小泉八雲から聞いた話〜』が夢幻能の形式をとっている(前川さんは無意識だったそうですが)ことから、今回の新作はSePTのシリーズ現代能楽集としての上演となりました。「このあたりの者です」と言う台詞もあり笑いもあり、狂言のエッセンスも。構成の妙も堪能出来ます。そこから浮かび上がるのは3.11の色濃い影。現在と普遍へ果敢に挑んだものになっていました。以下ネタバレあります。

登場人物がその土地にまつわる悲劇を伝承として語る。実は話し手はその悲劇の当事者であり死者であり、やがて成仏していく――これが夢幻能。とある事故(自然災害によるものか、人為的なものかは明らかにされない)が原因で壊滅した故郷に戻ってきた青年。彼は土地の者で彼の父親とも親しかったと言う人物や、土地の調査のためにやってきたと言う人物たちから“奇ッ怪”な出来事を聞いていきます。これが劇中劇で演じられていく。

死者であろうひとたちがかつての出来事を語っている、と言うのはある程度序盤から了解出来る。それに違和感がない。「ある程度」が「確信」に変わるきっかけがあるのですが、それもここぞ、と言うところで投げ入れられるので、判っていた筈なのに鳥肌がたつ。恐怖からではなく、パズルのピースがはまった!と言った鳥肌です。印象的なシーンとしては、入院していた奥さんが帰宅したが、実はそれは幽霊だったと言う場面。病院から電話がかかってきて、家にいるのは実体ではないと夫が気付いた瞬間に妻が“消える”のですが、このシーンの描写がすごかった。演じる岩本幸子さんの表情、それを浮かび上がらせる照明、徐々に大きくなるノイズ。ゾーッ!としたのですが、そこから浮かんだ感情はひたすら悲しみだったのです。これにはハッとさせられたな…原田保さんの白い照明、すごく好き。

と言うように、恐怖の質も独特。やはりこちらも恐れと言うより畏れ、なのです。彼らが未来への希望を語れば語る程、その「これから」はないと気付いている観客の心には悲しみが降り積もっていく。彼らが幸せそうに話す様子を、ただただ見ているしかない。どうすることも出来ない。この辺りの、こわさを悲劇として見せる描写がとても丁寧でした。

そして興味深かったのは、1時間40分と言う上演時間にも現れている凝縮された台詞。ギリギリ迄削ぎ落とされた言葉がさまざまな解釈と余韻を残すものになっているのです。演出と役者の腕のみせどころでもあります。このあたり一昨年の『奇ッ怪』でもそうだったけど、成志さんが冴えまくってたわー。妻を亡くした男が医師免許を持っていると偽り女性のカウンセリングをするパートのやりとりが、ミステリとしても成り立ちそうな鋭さと豊かさでした。彼のひとを救いたいと言う気持ちは自分への悔恨からか医者への復讐のためか?彼女が嘔吐したのは精神的なものかカレーが原因か?幾通りもの解釈が出来る。さあどっちだ〜?とドヤ顔した成志さんが浮かぶようだったわ、にくらしいわー(笑)。成志さんてホント自由よね…あの芸人ネタの数々は日替わりなのでしょうか、ゲラの小松さんはかなりつらそうでしたよ(笑)。

死んでしまった者と生き残ってしまった者への鎮魂とは。あれから半年も経っていないところ、この大きな(そして解決する術が見付かる筈もない)テーマを扱うことに葛藤や試行錯誤が見え隠れする部分はありました。しかしそれを含めた誠実さがひしひしと伝わる作品でした。前川さん、好きな作家です。

よだん:これからしばらく「目、合いましたよね」「家はひとが住まないと傷むんですー!」って台詞が自分内ではやると思います(笑)ヒー

よだん2:仲村トオルさんのオモシロい魅力は舞台で生きるなー。この辺り『ドライブイン カリフォルニア』で一気に花開いた印象。松尾さん、流石の慧眼

よだん3:カメラが入ってた。どっかで放映されるのかな?



2011年08月21日(日)
『和菓子を聴く展』

『和菓子を聴く展』後期@とらや 東京ミッドタウン店

ミッドタウンのとらやは定期的に企画展示を行っているギャラリーというもうひとつの顔があります。洗練された店舗デザインも美しく、眺めに行くのも楽しいところ。この夏の展示は『和菓子を聴く展』。

・とらやブログ『和菓子を聴く』

行けなかった7月中旬迄の前期は「菓銘に宿る世界」。お菓子の名前=菓銘の由来と、そこから拡がるイメージをヴィジュアル化した展示だったとのこと。

後期は「和菓子の音楽」。菓銘、意匠、味わいからのイメージを大友良英さんが音楽で表現したものが展示されています。とりあげられたお菓子は『夜の梅』『水の宿(みずのやどり)』『残月(ざんげつ)』。意匠=模型サンプルの前にヘッドフォンが設置されており、それぞれの曲を聴くことが出来ます。水の宿は1999(平成十一)年からのものですが、残月は1819(文政二)年、夜の梅は1711(正徳元)年から作られている伝統あるお菓子。それぞれの楽譜と大友さんのコメントも展示されていました。大友さんがいちばん気に入った味は『水の宿』だったそうです。

聴いてみるとこれがまたぴったり、とにっこりしてしまうようなお点前。しっとりとした重みのある夜空に浮かび上がる白梅のような夜の梅、ひとの目の触れられない場所から湧き出る清流とそれを照らす陽光を連想させる水の宿、ピリリと軽快な生姜風味の残月。和楽器等は使わずギターとピアノ、シンセで編成された大友さんだーな楽曲なのですが、古来からの日本の風流がパッケージされたような仕上がりです。一曲2〜3分で、構成もちゃんと楽しめる。

レコーディングは6月。このお仕事の依頼がいつあったのかは判りませんが、震災から五ヶ月、大友さんがどれだけ大変な思いをしたか、活動(音楽の方向性が変わる訳ではないけれど、アクションそのものには大きく影響があったと思う)にどれだけ変化があったかを想像し乍ら聴くとほっとするやらほろりとするやら。置かれていたリーフレットに寄せられていた大友さんのコメントもしみたなー。全文アップしてるところないのかしら。転記していいものか……一部抜粋。

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メインではないけれど、食事の最後に余韻と深み、
そして豊かさを与えてくれるもの。
もちろん、いつでもそんな豊かな時間を
過ごせる訳ではないのが人生だ。
ときたまあるからいい。
ときたまだからその良さがわかるというものだ。
だからせめてその“ときたま”くらいは
思い切り贅沢したいと思う。
こう書くと、なんだか音楽に似てませんか。
音楽も始終耳にイヤホンを入れて
聴き続けるよりは、
ふっと深呼吸をしてゆっくり聴くのがいい。
ときたまある豊かな時間でいいと
私は思っています。
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そんな時間を、3.11以降大友さんは持てているのだろうか。作り手にそんなことを思うのも失礼なのかも知れないが。それでもこんな心が安らぐ音楽を届けてくれた大友さんに感謝。ご本人がハラカミくんとのことをブログに書かれていたけど、ホント身体には気を付けて。元気でね。

余談だけどこないだ矢野さんの『えがおのつくりかた』を読み返してたらハラカミくんから矢野さんへのメッセージが載ってて、ここでも「いつまでも健康でいてほしいです。」って書いてた。ハラカミくんはひとの身体のことばかり心配してて、自分のことは、まったくもう……。

とらやな素敵パッケージでCDも販売されていました。「おまけ?」と題されたボートラも収録。10分ちょっとの心が落ち着く曲。聴いてたらその日ずっとジンジンきてた頭痛が治まった!マジで!そんな(どんなよ)音楽です。

モチーフの和菓子も勿論販売。でも大友さんのお気に入りで、自分もいちばん食べてみたかった水の宿はシーズン販売終了していた。ガーンこれ展示の前からカタログで見て楽しみにしてたのにー!会期いっぱいは販売しててほしかった…しょんぼり。夜の梅と残月は小分けパッケージで販売されていたので買ってきました。うふふ、おおともっちセット。



もひとつ企画展限定菓子の羊羹もありました。こちらは菓銘がなく、購入者それぞれが名付けることで完成する作品、とのことです。とらやはやることも見た目のデザインもひとつひとつが粋だわあ。ずっとあのとらの意匠をTシャツにして売ってくれんかなあと思っております。羊羹がぴったり収まるトートバッグとか、素敵ー。

こうやってみると、夏休みは和菓子に縁があったなあ。



2011年08月20日(土)
『和田誠展 書物と映画』『奥様お尻をどうぞ』

『和田誠展 書物と映画』@世田谷文学館

質量ともに充実、これは面白かったです!原画も装丁もポスターも、和田さんの絵が、その絵の性質を表すように整然とテーマ毎に展示されている。映画と音楽、それにまつわる書物=装丁の仕事。

ポスター制作の際の指定紙や映画撮影用の絵コンテもありました。ずっと手掛けているこまつ座の宣美、いちばん最近の『泣き虫なまいき石川啄木』も展示されていたのですが、今でも色は指定で出してるんですね。原画と版下を一度に観られて嬉しかったー。指定の文字が、あの和田さんの文字でした。あたりまえのことだけど感動したなあ。

モノクロ画もカラー画も、無駄な線や色がひとつもない。マットな色調と均質な線で、対象のキモをしっかり捉えている。鋭さと優しさが同居する目線。

カットも多数展示されており、連載等で描かれた好きな映画の名場面が並べられているセクションは壮観でした。ひとつひとつじっくり観て、あの字で書かれた俳優たちの名前を確認して…じっくり観られてよかったー。気が付いたらすごく時間が経っていた。慌てて下北沢へ移動。

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『奥様お尻をどうぞ』@本多劇場

くーだーらーなーいー。あー面白かった、アホ程笑って頬骨が痛い。上演前ケラさんがしつこいくらい「この手のものが笑えないひとは絶対来るな、チケット代の無駄だと思いそうだったら絶対買うな」と予防線引きまくってたのは正直ちょっとズルい、と思っていたのですが、結果面白かったので私はいいです。まあでも怒るひともいるでしょうなあ、ははは。以下ネタバレあります。

滑稽と悲惨は紙一重だと言うのは現実でもあたりまえのことですが、怒りをどれだけ笑いとして描けるかとなるとなかなか難しいものです。今回の主なモチーフになった原発ネタは流石にテーマがデカい、難物。不明瞭な部分も多いですからね。よってストーリーは原子力に替わる発電エネルギーをいかにバカバカしいアイディアで生み出すか、と言う流れ以降の世界は見せない。これ迄何度も世界の終わりと人類が滅亡する物語を描いてきたケラさんが、敢えて「どうやって終わるか」を描かなかったことに興味がわきました。

とにかく猛烈なバカバカしさで終始笑っていた分、時折挟み込まれる深刻なひとことでそのバカバカしい笑いの風力が一瞬落ちるのが惜しいと言う気もしました。笑い飛ばすにはまだまだ重いテーマと言うことだ。反面笑い飛ばさないとやってられないと言う悲壮さを決して表面に出さなかったことは救いでもあり、怒りの大きさを表していたように思いました。それがポップで軽やかなものとして表出されるのはケラさんの作品ならでは。

役者陣もよかったー。いやもうようやりきった…並行する世界のブリッジとして大倉くんとイヌコさんが相当機能していて、ここらへんは流石阿吽の仕事っぷり。ケラさんと長くやってるナイロンメンバーがいるのは強い。どうでもいいが通路での芝居が多く、随分近くで大倉くんをまじまじと観ることが出来たのだが肌綺麗ねー!今回何故か(笑)ヌード写真も披露してるのですがこれがまた美しく撮れててちょ、大倉くん綺麗…!と釘付けになってしまったよ。紙ちゃんのヒロインもかわいくてたまらん!無茶やっても下品にならないところもいいわー。

あとあれよ、古田さんの歌でZIN-SAY!の「オールナイトロング」が聴けるとは…!ええ、金玉が右に寄っちゃった〜♪のあれです。違う意味で感動した…何でこの選曲。しかもなんか、音を伸ばすとこ卓球の唄い回しに似てたんだよ!古田さんあれは意識的なの?たまたまなの?あー卓球と瀧、観に来たかなあ。来ればいい!

そういえばひとつ気になることが。あの客いじり(「こんな芝居観に来るんじゃなかった!帰りたい!」)の部分、私の一列前のひとで肝が冷えたのだが(笑)あれって毎回同じ席なのかしら。アフレコが女声だったけど、あの席にいるのが男のひとだったら男声版のアフレコを出すのか、それとも毎回席は違ってて女性客を狙っているのかどっちなんだろう。

とまあ感想をいちいち書くのも野暮だなあと思う程にひたすら笑った舞台でありました。笑うって楽しいね。

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原発をモチーフにしたコントと言えば、シティボーイズのものがありましたな。当時も笑って観たけど、今は笑えないなんてこともない。現実とそんなに変わらないんだもの。

シティボーイズミックス 原発コント1/2


シティボーイズミックス 原発コント2/2



2011年08月17日(水)
『日本画どうぶつえん』前期

『日本画どうぶつえん』前期@山種美術館

前日はリアルどうぶつえん(上野動物園『真夏の夜の動物園』。毎夏恒例で20時迄やってる)に行ってました。まぬるねこかわいー、だいすきー。本日は日本画どうぶつえん、夏休み企画だそうです。『動物園〜愛しきものたち〜』『鳥類園〜翼をもつものたち〜』『水族園〜水の中のいきものたち〜』『昆虫園〜小さきものたち〜』の4セクション。所蔵の重要文化財である竹内栖鳳『班猫』、速水御舟『炎舞』特別公開が目玉でもあり、前期は『班猫』が展示。

おおう、このひとがこんなかわいいどうぶつを、と思ったのは奥村土牛。うさぎが好きだったそうです。モダンな感じもしますが、考えてみればうさぎって鳥獣戯画にも出てくるくらいだから、むかーしから日本人の身近にいたんでしょうね。鳥獣戯画と言えばの、かえるの絵もありました。あとふくろうが神秘的な対象として描かれているものが印象に残ったなー。

『班猫』のねこは栖鳳が宿泊先でひとめぼれして、写生しきれないからちょうだい!家につれてかえってじっくり描くの!ちょうだい!いやです!ねえちょうだい!の押し問答の末譲り受けたものだそうです…ねこ的にはどうなん(笑)。そう言われて観ると、なんだかねこの瞳が「もうかまわんといて」と言っているような気もします(笑)。

6年かけて描かれたと言う(ねこ=タローは5年で死んでしまったので、残り1年は想像で描き進め、右側のひげが描かれていない)長谷川潾二郎の『猫』もそうですが、その対象への愛があふれかえっている、しかしその画面には執念といったような重いものではなく、ほんわりとしたやさしさと悲しみが静かに浮かび上がっている感じ。

炎天下のなか辿り着いた美術館で和んだわ〜。そしておやつだ!館内喫茶のCafe椿では、菊家の和菓子が食べられます。今回の企画に合わせた特製和菓子があったので、『夏の朝』をいただきました(画像奥)。モチーフは佐藤太清『清韻』なんだそうです。黒糖あんがおいしかったー。冷たい抹茶といただいたけど、コーヒーとも合いそう。



特製和菓子は4種あり、ホントのところは全部食べてみたかったよ……。

そしてなぜかうりぼうのぬいぐるみを買って帰ってきた。企画展に併せてかぬいぐるみが結構売ってて…いのししのぬいぐるみなんて珍しいし……かわいかったし……。



2011年08月16日(火)
『SUMMER SONIC 2011』2日目(その2)

P.i.L単独公演分があるので15日は空けて16日のとこにサマソニ2日目その2を。

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『SUMMER SONIC 2011』2日目(その2)

マリンステージに移動、既にかなりのひと。スタンドへの入口に『満席』の貼紙があり、係のひとが「入場しても席がありません」と説明している。『混雑』の貼紙があったゲートからなんとか入場、しかしホントに席がねー。とりあえず通路でマキシマム ザ ホルモンを立ち見。音が割れまくっとる…しかしすごい盛り上がっとるー。演奏だけでなくMCの音も割れてしまうので、メンバーが叫ぶともう何言ってるか判らない。でもナヲさんがすごいいいこと言ったのはハッキリ聴こえた。「今迄は明日死んでもいいように生きようと思っていたけど、今は明日生きてもいいと思えるように今日を生きたい」と言ったようなこと。これにはグッときた。

ホルモン終了後あまりの暑さにこれは飲料確保しとかんとマズいと思い立ち、一旦ゲートを出る。マリンに入った時点で「仕入れた食材がなくなったので完売、閉店します」と言った売店がぽつぽつ目についていたのでこれは…と思っていたのだが、アリーナから退場してきた汗だくのひとたちに溢れる売店で「ドリンク全て完売しましたー!」の声を聴いたときには流石に焦った。これ、憶えがある…2002年のフジで、RHCPの出番が近付くにつれひとが増え売りものが減り、最終的には大塚製薬ブースのポカリしか飲料がなくなったことを思い出す……。ビールは売ってたが私は酒アレルギーです。これはマジでヤバい、ドキドキし乍らスタジアムを出てすぐの場所にあるバーへ。ソフトドリンクはジンジャーエールしかないと言う。さっきのyanokamiの「ばらの花」を思い出し、それを買う。ジンジャーエール買って飲んだ こんな味だったっけな、だ。

戻ると更にひとが増えていた。そら増えることはあっても減ることはないわな…と言う訳でX JAPANをフルで。初めて観た。アルバムは『BLUE BLOOD』しか聴いてないのだけど、知ってる曲多かったなー。以下のリンク先に全て書いてあるような気がするのでそちらを読むといいですよ。ホントその通りだったわー。あとはーなんだ、TOSHIの声が高音含め出るわ出るわで素直に驚いた。このひとブランクあったんでないの?すごいなあ。

・Togetter『ありのままに東京サマソニのX JAPANの舞台で起こったことを話すぜ!』

X JAPAN終了後の入れ替わりで近くの席が空いたのをポンチさんが確保してくれ、座ることが出来ました。ありがとー。すっかりもう夜、おなか空いたけど何があるか判らないからもう外に出られない…ドキドキし乍ら待つばかり。照明が落ちたときの大歓声には鳥肌だった!

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セットリスト

01. By The Way
02. Charlie
03. Can't Stop
04. Scar Tissue
05. Factory Of Faith
06. Dani California
07. I Like Dirt
08. Otherside
09. The Adventures Of Rain Dance Maggie
10. Throw Away Your Television
11. Ethiopia
12. Right On Time
13. Californication
14. Higher Ground
15. Under The Bridge
encore
[Drum Solo]
16. Sir Psycho Sexy
17. They're Red Hot
18. Give It Away

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サーサイコは2000年の単独でも聴いたけど、それをアルバム音源通りの並びで「They're Red Hot」に繋げたのは初めて聴いた!いやーこれは嬉しかった。ジャズやクラシックを改めて勉強していると言うフリーのベースは随分柔らかいソロが増え、これは興味深い…と思った途端「Higher Ground」のあのベースラインをバッキバキに弾きはじめたもんだからあわわわわ!となった。これはアガッたわー。素で「うおおおお!」って叫んでしまったよ。隣のおっちゃんとギャーて言うタイミングがいちいち被り気味で、聴いてる時期が同じくらいと見た(笑)。

毎度のごとくMCは支離滅裂で、漫談なのか格言なのか判別不能なことばかり言っていたが(こちらのヒアリングの限界もある)、フリーの言葉はひとことひとことが身にしみた。あの高い声で、日本のいいところを並べてくれた。日本のことを、日本のひとたちを愛していると言ったようなことも。日本の文化にも詳しいひとだけど、それを踏まえたうえで配慮に満ちた言葉を慎重に選んで話しているように感じた。繊細なひと、だいすきなひと。

アンソニーはイヤモニさえしっかりしていれば音は外さないんだぜ!はっはっは!と言いたくなるような安定っぷり。もう音痴だなんて言わせねえぞー!てかこのひと多分影の努力家だと思うの…あと自分のバンドでの役割にしっかり線引きしてる。そこがよくもわるくも大人で、反転して魅力にもなっている。本当に難しいひとだと思う。その謎を含めて好きなヴォーカリスト、ラッパー、作詞家。あとやっぱキラキラしてるよね、あの得体の知れないオーラは彼にしか出せない。このひとのファッションセンスは信用していないがステージ立った姿を見ればもう全てオッケーなのよ。ええ私が春迄やってた隠れモヒカンはアンソニーをお手本にしてましたよ。だいすきだー!

あとあのヒゲ、フランク・ザッパに見えるよね(笑)。

チャドがいてくれるのは安心の材料。軋轢も多かったであろう時期を経ても不動のドラマーは、バンドの状態を俯瞰で見られるひとだと思う。実際背もとびぬけて高いしね(笑)。なんつうかさあチャドは神様からバンドへのギフトだよね!だいじにしなきゃダメ!今回サポートで入っていたパーカッション(ATOMS FOR PEACEのメンバー。フリー人脈ですね)、マウロ・レフォスコとのコンビネーションも今後楽しみなところです。アンコールでのソロ〜セッションは楽しかった。

新メンバーのジョシュは日本初お披露目でもありました。なんでもこのメンバーでTVショウ出たのも今回のMステが初めてだったそうで、日本いいとことりましたね。まだジョンの音がしみついているので、「Give It Away」イントロの、空間を切り裂くようなギターが違う音だ!とうろたえたりもしましたが、それはこちらの都合。音への貢献度は明確には掴めませんでしたがフリーとの意思疎通は問題ないように見えた。新譜リリースに向けての一連の記事からするとメンバー間の雰囲気もよさそうだし、なんと言うか、バンド自体が若返ったような印象も受けました。単に若者が入ったってこともありますが(笑)そういうのってだいじ。新譜のツアーで単独来日があると信じているので、そのとき彼のギターを彼の音としてガッツリ聴きたいです。楽しみにしてる。

円熟とヤンチャ、思慮深さと浅薄さが常に同居しているRHCPの魅力溢れるステージは、もう四半世紀近く聴き続け、一緒に歳をとるんだーと常日頃から言っている大好きなバンドのそれだった。後悔はしない、反省はする。自分で経験したことが全て、手を出したことで死んだらそこ迄だ。このバンドには、常にそんな緊迫感がある。そして乾きに乾いた、カリフォルニアの風が吹いている。悲しんでも悲しんでも、いつか涙は涸れる。

メンバーは入れ替わっている。ギターがいつかない。ヒレルは死んでしまった。バンドの状態が厳しいとき、大きな力になってくれたデイヴは元気によろしくやっている。死にかけて、その後ギリギリの線から戻ってきたジョンは、今別の道を歩んでいる。“I'm With You”はジョンがバンドに残した言葉、そして今ギターを弾いているジョシュが書き留めた言葉。新しいアルバムは今月末にリリースされる。もうすぐバンドの新しい音が聴ける。嬉しい、これからも聴き続ける。



2011年08月15日(月)
PiL [PUBLIC IMAGE LIMITED] SUMMER SONIC EXTRA

PiL [PUBLIC IMAGE LIMITED] SUMMER SONIC EXTRA@STUDIO COAST

いやあああ、すごかった。サマソニでRHCPとまる被りと判った時点で迷わず単独のチケットとったんだけど、行ってよかったよー!こわいよー!ライドン先生声でかいよー!いやもう何あれ素敵やん好きになっちゃう!ってな感じでした。やーもう長生きしてー!オリジナルパンクスがどうやって歳を重ねていくかこれからも見せてってちょうだい!(大泣き)anger is energyですヨー!イチバン、イチバーン!

はあはあはあ、落ち着け。二時間半近くみっちみちの緊迫感溢れるライヴ、なのにアンコール最後ではバンドメンバーだけでなくスタッフもひっぱりだして紹介しハグしていたライドン先生最後泣いてましたよね…おじいちゃん…あんなトガッたおじいちゃん……いやまだおじいちゃんて歳でもないが。

まあそれはいいんだ。とにかく声がすごかった。いやさ一昨年再結成してからのライヴ動画ちょくちょく観てて声出てんなあこの歳でこれはすごいと思ってはいたが、実際その場で耳にするともうね…この歳でとかそういう次元じゃありませんよ!確かに声量めっちゃあるしヴォーカリゼーションも素晴らしいんだけど、声そのものの威力が…カリスマの声明ここにありってなものです。そしてそのカリスマが“I hate religion”と呟いたときの風力と言ったら!あとやっぱスタジオコースト音いい。この環境であの空間音響いかしまくりのサウンドを聴けたのは有難かった。

一週間前から「Four Enclosed Walls」一緒に唄うんだ〜はあ〜あああ〜♪と練習していましたが(バカス)やりませんでした。しかし長年の夢、「Flowers of Romance」がライヴで聴けるなんてもうねー!「Death Disco」もな!てかギリギリ入場で、フロアに踏み込んだ途端「(This is not a)Love Song」だったもんだからその時点で卒倒しそうになった。

とにかくどの曲もすごかったんだが「Religion II」でライドン先生がベースの音あげれと指示してからの低音が作り出した場のシビレっぷりには震撼しましたよ。低音の音圧で耳がヤラれそうになった。もうここらへんは食い入るようにステージを見詰めて音に聴き入るばかり、結果地蔵状態。ノッてなかった訳じゃないのよ!あまりにもすごいことが目の前で起こってると固まるのよ!

「Rise」でanger is energyと前の方にいる観客に唄わせたのにはジーン。ふたり目にマイク向けられたひとの声がヘロヘロでズッコケたけど(笑)。緊張と弛緩が怒濤のようにおしよせる非常にフィジカルなライヴでした。

ジョニー!とジョン!と両方の名前がとんでいました。長年のファンも多かった様子(当然)で、愛に溢れたフロアだったなー。しかしあの場に感傷なんてもんはなかった。バンドメンバーはルー・エドモンド(G)、スコット・ファース(B)、ブルース・スミス(Drs)。スミスさんはTHE POP GROUPでも叩いてたそうで、この3日間で何ステージつうか何時間叩いてたの?疲労など全く感じさせない余裕と元気っぷりでした。

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セットリスト

01.(This is not a)Love Song
02. Poptones
03. Home
04. Public Image
05. Albatross
06. U.S.L.S.1
07. Flowers Of Romance
08. Psychopath
09. Warrior
10. Disappointed
11. Bags
12. Chant
13. Religion II
encore(つうか退場時「たばこ休憩」つってたので二部か?笑)
14. Death Disco
15. Memories
16. Rise
17. Open Up
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2011年08月14日(日)
『SUMMER SONIC 2011』2日目(その1)

『SUMMER SONIC 2011』2日目(その1)

そういえば昨日のKORN後ジェンヌに「メンバー仲よさそうな感じねー」と言われたんだが、思えば今ジョナマンキィフィールディて同じ髪型なのな…さっき『See You On The Other Side』のときのアー写とか見てて気付いた(このときはフィールディはサラサラキューティクルみたいなストレートだったわ。そんでみつあみとかしてたわ)。……何その女子高生が同じ髪型しようね!て揃えたみたいな!なんで同じになってんだ…それ仲いい証拠なんですかそうですか。

まあいいことです。

と言う訳で2日目。今回ホントタイムテーブルと移動のやりくりが難しかった。ビーチステージとリヴァーサイドガーデンが会場の端と端、と言うのは痛かった。シャトルバスも通ってないところなので歩くしかなく、混雑のなかでの移動を考えるとどちらも中途半端になりそうなので諦めたものも多々ありました。在日ファンク観たかったよー。

そしてひとが多かったこと!特に日曜日は完売していたので覚悟はしていたが、過去いちばんの人出だったような…と言うか、散らばらないんですよ、客が。フジでもそうだったけど、RHCPが出るとやたらひとがそこに集まっちゃう。嬉しい反面なんとかならんかのうと思ったり…しかしどうしようもないのか……。

と言う訳で、夕方マリンステージへ入って以降はそこから動けなくなりました。出たら再入場出来なくなるかも知れなかったので。RHCPが終わってからの退場にもとても時間がかかったわー。嗚呼、ポップグループ…ジョンスペ、スウェード……(泣)。

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昼に集合、メッセでごはん等を食べONE OK ROCKをチラ見。森進一さんの息子さんがヴォーカルのバンドだそうで、確かに?歌がうまい、そして「おめーらサマソニ楽しんでるかー!」「最後迄聴いてってくださーい!(敬語)」と言ったMCのバランスが面白かった。きっといい子。

いちばん暑い時間帯。でもビーチステージへ行くのです。yanokamiが出るから。4年前に買ったteam yanokamiのマフラータオルをつれて行った。

この日は当初ポツネンの『THE SPOT』とハシゴする予定だった。震災と小林くんの怪我で二度延期になった振替公演日が、サマソニとまるっきり被ってしまったのだ。天王洲で『THE SPOT』マチネを観てから幕張へ移動して、サマソニには夕方くらいから参加出来れば。RHCPには間に合うだろう。yanokamiはきっとまた観られる機会がある。年末の矢野さんのさとがえるコンサートに、ハラカミくんがゲストで出ることもまたあるだろう。そう思っていた。

その機会は、なくなってしまった。

勿論舞台もその日そのときだけのもので、同じものは二度と観られない。しかし、小林くんの怪我はきっと治る、これからも元気でいる、長生きする、新作がまた観られると信じることにした。

エレピのサウンドチェック中。ステージにはU-zhaanがいた。温度や湿度でチューニングが狂いやすい繊細なタブラをいたわるように設置している。twitterでのとぼけた発言からは想像もつかない、いや、あの日以降の発言からは想像出来る。音を届けるために万全の準備をする、真剣な表情。PAとやりとりをし乍ら音の返りをチェックした彼は「バッチリです(完璧ですだったかも)」と言ってステージ袖に消えていった。

ステージMCはブライアン・バートン-ルイスだった。今回の経緯を少し説明して、ハラカミくんに世話になったと言う話をし、「きっと彼は今日ここに来ていると思います」と言った。

矢野さんが出てきた。笑顔。卵形のマラカスを両手に持って、スタンドマイクの前に立った。何度も聴いた、あのトラックが流れてきた。

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セットリスト

01. 終りの季節
02. David
03. 曇り空
04. Bamboo Music
05. cape(rei harakami × U-zhaan)
06. Don't Speculate(yano × U-zhaan)
07. ばらの花(yanokami + U-zhaan)
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「終りの季節」後、エレピに向かってハラカミくんのトラックとともに「David」。終わってMC、「こんにちは、yanokamiです!今やった『David』と言う曲は、今回都合が悪くて来られなかったyanokamiのメンバー、レイ・ハラカミが是非サマーソニックでやりたい、と言っていた曲だったのでやりました」。

「次はユーミンの曲です」と「曇り空」。そして「デヴィッド・シルヴィアンと坂本龍一の曲です。このカヴァー、坂本龍一に聴かせたら『いいねえ!』と言ってくれました」と「Bamboo Music」。どちらもあの音がバックトラックで鳴らされた。コーラスも入っている。あの声だ。

その後「『Bamboo Music』はiTSで発売もされてるんですのよ。買ってくださいねっ」「レイ・ハラカミとの共同作業で作った曲のストックはまだまだあります。出来上がっている曲も、出来上がっていない曲もあります。出来ている分は必ず発表していきます。発表されたとき『レイ・ハラカミ…?誰だったっけ……?』なんて言わないのよ!忘れちゃわないでね!」笑顔で、おどけた調子で話す。

2010年版team yanokamiのマフラータオルを掲げて「これ、3色全部持ってるひといる?いないのー?」しばらくして手を挙げたひとを見付けたようで「あら嬉しい。グッズ、もうこれで最後になっちゃうのかな、さびしいねっ」とポツリ。この辺りの物販告知トークはふたりの噛み合わない(笑)ボケツッコミなやりとりが面白かったところ。だけど今はその相手がいない。「今回(告知もMCも)ひとりで全部やらなきゃいけなくて大変なのよ」と言っていた。あとどこだったかな、「普段は、ここに、重箱なんだか何なんだかわからないものを前にして、レジ打ってるんだか何やってるんだかわからないことをしてるひとがいたんだけど…」とも言ってたな。ハラカミくんは自分のライヴでの演奏を「孤独なレジ打ち」と表現していた。

矢野さんのおしゃべりは終始明るくカラッとしている。矢野さんは強い。しかしその本当の強さと凄まじさは演奏と歌のなかでしか表現しない。追悼の思いも、彼の作った音楽を完璧なコンディションで観客に届けると言った意志も、音以外の説明等で付加しない。全ては音楽に込める。それはその後現れたU-zhaanもそうだった。

U-zhaanが出てきた。紹介しつつ矢野さんが「ユザーンさんはどこにアクセントをつけて発音すればいいの?」と訊くと「そのままです」。「……(むむ)平坦でいいのね?」「はい、日本語の感じで」。ははは、この噛み合わなさ。ハラカミくんとのやりとりを思い出すね(笑)。そのうち「チューニングするんでしばらく喋っといてもらえますか」。このそっけなさ、久保ミツロウさんがツイートされてましたが正に「音楽以外では心通わない感じ」。音楽で心が通えば充分なのだ。と言う訳で矢野さん、場繋ぎでタブラの説明を始める。「このタブラと言う楽器はとても繊細な楽器で、昨日リハのとき触らせてもらったんですけど、あの真ん中の黒い部分を…」「はい、出来ました。もういいです」。観客爆笑。「(ムッ)あらそうお?」と言った矢野さんのふくれっつらがかわいかったな。この間ずっとU-zhaanは真顔でした。演奏への意気込みか、緊張すると無愛想になるのか、いや両方でしょうね(微笑)。

一触即発(笑)なプロレス的様相を呈しつつ、矢野さん一旦退場。U-zhaanが「それではハラカミさんの曲をやります、『cape』」と言い、間髪入れずトラックが鳴った途端に場が一変した。U-zhaanの表情も、まとう空気もガラリと変わった。野外で、雑多な音もバックステージや他のエリアから聴こえている筈なのに、あのときあの場ではハラカミくんのトラックとU-zhaanのタブラの音しか鳴っていないようにすら感じた。と言うか、ハラカミくんがいるなあと思った。思ってもいいよね。あのときU-zhaanはハラカミくんとセッションしていた。きっとふたりしかいない世界だった。U-zhaan、とても格好よかったです。

それにしても、この「cape」すごいいいですよね。もともとあるトラックにタブラの音を載せていく演奏ですが、あれ以上足したり引いたり出来るか?とすら思ってしまうハラカミくんのトラックに、まるで以前からこの音が入っていたかのようにタブラの音が馴染む。ハラカミくんとU-zhaanが過ごした数年のやりとりがこうやって実を結んだんだなあと思ったりしました。これからもこの曲は演奏されていくと思うけど(思いたい)、U-zhaanとともに曲も歳をとっていくんだろう。その経過を聴いていきたい、絶対に。

矢野さん再登場。「次の曲『Don't Speculate』は結構前に音はもう出来ていて、歌詞を書こうとしていたところ震災が起こりました。ハラカミさんはこの震災のことにとても胸を痛めていました。そんな彼を元気づけようと歌詞を書きました」。今回はそのトラックは使わず、矢野さんとU-zhaanのセッションで演奏。これがすごくよかった。曲は勿論、その歌詞も、ふたりの演奏も。矢野さんとアイコンタクトをしたU-zhaanが初めて笑顔を見せた。音楽で、音楽だけで心を通わせたんだなあと思った。どちらもいい顔をしていた。

そして最後に「ハラカミさんを知るきっかけになった曲です」と「ばらの花」を3人の音で。“暗がりを走る 君が見てるから”のラインを、矢野さんは張りのあるよく通るソプラノで力強く唄い上げた。“思い切り泣いたり笑ったりしようぜ”を優しく語りかけるように唄った。矢野さんもU-zhaanも笑顔。

「U-zhaan! and rei harakami!」矢野さんが大きな声でメンバーを紹介し、ハラカミくんがいるであろう場所に拍手を送った。

他の誰も入れない、音楽家同士でしか出来ないやりとり。そして音は残り生きていくと言うこと。それを見せてもらえて、聴かせてもらえて感謝の気持ちでいっぱいです。あの日、あのときあの場所にいられてよかった。有難うございます。



2011年08月13日(土)
『SUMMER SONIC 2011』1日目

『SUMMER SONIC 2011』1日目

個人的にはフジより過酷なサマソニ。ホント暑さに弱い+体調がイマイチだったのでのんびりまったり無理せずに〜、絶対観たいものをだいじに!あとはいきあたりばったり!と言う感じでございました。

と言う訳で観れたらいいなと向かったマウンテンステージは入場規制、早速Perfumeを見逃す。最初に観たアクトはあやまんJAPANであった。なんか…オフィシャルバーでショウ?をやっていたで。意外と縁がある…こないだ野音の『オール電化フェア』で客席にいたあやまん(普通に客で来てたっぽい)が「ぽいぽいぽいぽぽいぽいぽぴー」をやってくれたんだ……と言う訳で今回初めてメンバー揃っての「ぽいぽいぽいぽぽいぽいぽぴー」を観た。下ネタもてらいがなく清々しかったです。

次にレインボーステージでandymori。先日の『天使〜』で使われていた「革命」をやらないかな〜としばらく観る。途中で離れたけどやったのかなあ。ソニックステージに移動してNICO Touches the Wallsの最後の一曲を。ステージ配置やフードエリア確認をかねてしばしメッセ内をうろうろ、おやつ食べたりドリンク買ったりしてしばしまったり…準備万端、意を決して灼熱のビーチステージへ。

VILLAGE PEOPLEが終盤です。ステージ上には5〜6人いましたがメインヴォーカルはひとりかな、あとのひとは踊り子さんだろうか。手ぶらです。陽気なパーティピープルといった風情で盛り上げ上手、バックトラックはカラオケ。メンバーの名前も知らずオリジナルメンバーがいるのかすら知らず、と言った状態でしたが楽しかったー。「YMCA」聴けた!脳内ではヒデキの声と日本語詞も再生された(すりこみ)!振付も一緒に出来た!いい思い出〜。

夕方に差し掛かる時間帯だったので思ったよりビーチは快適、助かった。ここのステージに行ったのは今回が初めてだったんだけどホント海辺、波が!見える!泳いでるひといる!絶好のロケーションですがな。いいとこー。そしてその後他ステージでの音を聴いて実感したのだが音響がいいのよ意外と。爆音ではないけど(ないから)音が潰れないし、ひとつひとつのおとがハッキリ聴こえたなー。

と言う訳でArrested Development初見。歌も演奏も素晴らしく、あたたかみがあり乍らも強い信念を持っているファミリーのような印象。スピーチの声がいいー。以前ジェンヌにつれられて行ったTOKYO JAZZでソロのスピーチは観ているのだけど、バンドでの彼は風格すら漂う落ち着いた佇まいなのに若者のような瑞々しさをも持ち合わせている感じでした。気がフレッシュと言うか。そんな彼が終盤、ステージの照明を落とさせて「光はあなたたちの心の中にある」みたいなことをゆっくりと言い聞かせるように語ったのはしみた。ジェンヌ素晴らしいバンドを教えてくれてありがとー。

すっかり暗くなった空に綺麗な月が浮かんでいた。いいもの見た。しみじみしつつビーチを出て、BEADY EYEまだやってるかしらとマリンステージを覗いてみたらとっくに終わっていた。スタジアムは結構なひとで、うーむ今日でこれなら明日は相当混むんじゃないか?と言うイヤな予感(実際そうだったのだが)を抱えつつメッセに戻る。ピーター・マーフィーも終わっておりました。THE MARS VOLTAをうっかり見出すと移動するタイミングを絶対逃すと思ったので、最初から観たいKORNを優先することにする。各ステージにトリが重なる時間帯だったのでフードエリアはガラガラで、そんなに並ばずごはんが買えたしゆったり食事が出来ましたー。

ほんで!マウンテンステージで!KORN!です!

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セットリスト

01. Blind
02. Here To Stay
03. Pop A Pill
04. Freak on a Leash
[Jam Session]
05. Shoots and Ladders / One(Metallica cover)
06. 4 U
07. Got The Life
08. Oildale
09. Right Now
10. It’s On!
encore
11. Falling Away From Me
12. [メドレー] Coming Undone[Incl. We Will Rock You] / Twisted Transister / Make Me Bad / Thoughtless / Did My Time / Clown
13. Y’All Want A Single
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梱包されたマイクスタンドが置かれている。覆ってる時点でもうわかる、ギーガーだー!もう心臓バクバクです、こないだは普通のスタンドだったもんねー。う、うれしい。その梱包が解かれて大歓声、間髪入れずメンバーが登場。一曲目が「Blind」だったもんでもう感極まる。出会いの曲ですものー!最初からもうトップギア、手を抜きませんいつでも全力ちょーエモいカナリアジョナ全開!今回ステージ後ろからのカメラがかなりいいショットを拾ってて、それをスクリーンにも映してたんですが、序盤でもう酸素吸いにきたジョナのアップが大映しになりどよめきと大歓声が。ジョナがんばれ!ジョナさんすげえっす漢っすスカート履いてるけど!みたいなどよめきと歓声だったと思います(憶測)。

そう、ジョナは最初からキルト履いて登場だったのでした。フェス仕様ですから普段より少ないメニュー、そのなかでもベストコンディションなものを!と言った感じか。もうから正装です!赤と黒のタータンチェック+ハイソックスです!その姿でモニターに片足掛けて絶唱とかするので、マニックスのニッキーよろしくパンツが見えるのではないかとヒヤヒヤしたりもしますが、いっそ見えても構いません邪心なく。自然のままでいるがよい。しかしジェンヌに「キルトの正装はノーパンではないのか」と言う鋭い指摘をされた。正装、オッケーですジョナの好きなようにすればよい。それでモニターに片足掛けたいなら掛ければいいじゃない!それは見えても構わないと言うことじゃない!ジョナがそれでいいのなら見えたら見ますよそれはもう。あるがままって素敵なことですね。いやーしかしよう声出てたわー。ノーパンで声が出るならそれはそれでよい。

PAは序盤イマイチで(と言うかここの音聴いてビーチステージ音よかったんだなー!と思った)、バグパイプの倍音が聴こえない等若干バランスが悪かったが途中からだいぶよくなった。ジョナの声はとにかくよく通り心が震えたよ!うわーん!(泣)「4 U」のときマイクトラブルがあったのかしばし歌が途切れたんだけど、そのマイク交換の間スタンドの前で腕組んだジョナがドヤ顔したり「ちょっと待ってね」みたいなおどけた笑顔とか見せたのにもギャーとなった。あなた前々回の単独公演で音響トラブルあったときマジギレしたやん…そんな彼にこんな余裕が!そういえば退場するとき投げキッスもしたで(これは去年のスタジオコーストでもしてたか)。精神状態がいいんだなーとそんなところにもジーンとしたり。ガラスのハートですからね…いいことだよ……。

はあはあ、ジョナのことばっかりになっている。フィールディとマンキィはいつも安定しているので安心てなところもあるんだよー。てかジョナも歌は安定しているけどその他がいろいろ心配なのでね…レイの音にも慣れてきました(こっちが)。ベースの音があまり聴こえなかったのは残念であった。しかし音響面でつらかったのにも関わらず持ち直したのはPAのひとの腕もあるでしょうし、あれだけ盛り上がったのって、音響に左右されない楽曲と歌、演奏そのものの素晴らしさが伝わったってことですよね。日本で、あれくらいのキャパでKORNが演奏出来る機会ってなかなかないのでよかったなーと思った。最後の「Y’All Want A Single」のやりとりとかすごくよかったー。ポクテーと叫んできました。

そうそう、退場するフィールディが日の丸を広げて持っていたのでええ!?と思ったら、どうやら手渡したひとがいたようです。K●Rnって、Oの部分が日の丸になってた。フィールディ、左右が判らなくなったのか裏返したりして、その後肩に掛けて帰っていきました。いい光景だったー。

よだん。フロアPA卓後ろにもうひとつオペブースがあったんだけど、それを操作しているおにーさんが上半身裸でノリノリであった。もうそこがステージのようだった。終わったあと握手を求められてた(笑)。いいクルーだね!

幸せなまま帰宅、バタンキュー。



2011年08月10日(水)
『天使は瞳を閉じて』

虚構の劇団『天使は瞳を閉じて』@シアターグリーン BIG TREE THEATER

シアターアプルでのインターナショナルヴァージョン以来ですから、約20年振り。その間上演された『コーマ・エンジェル』やミュージカル版は観ていません。虚構の劇団を観るのも初めて。客席には自分と同じくらいの世代、その上の世代であろうひとたちもかなり多かった。若い劇団にこの客層と言うのも不思議な感じがしました。終演後熱心にアンケートを書いているひと、見憶えのある光景だ。しかも劇場はシアターグリーンなのです。実際に第三舞台をシアターグリーンで観ることは叶いませんでしたが、劇場出口で挨拶をしている役者さんたちの姿を見て、あの写真の数々を思い出すひと、私の他にもいたと思います。

でも終演後、作品自体を初見だったと思われる若いお客さんが「すごくよかった!いいお芝居だね、いい話だね」と興奮気味に話していて嬉しかったりもしたー。

と言う訳で正直に言うと、第三舞台の面影と闘い乍ら観ると言う状態になりました。これは完全にこっちの都合です。次の展開や台詞がするする頭に浮かぶ。シーン毎に流れていた曲も鳴る。「おいでませ」は「アンジェリコ」なんだ、「総統」は「議長」なんだ。あの曲はもう使われないのか、ここの曲は絶対変えないんだな。一瞬一瞬を確認し乍ら観てしまった。基本的に演出が変わっていないこともそれに拍車をかけた。役者さんによっては台詞回しが第三舞台のひとたちとそっくりなひともいて驚いた。

しかし芝居そのものの力によって、みるみるストーリーに引き込まれていく。冒頭の描写はかなり変わっていました。もともとのストーリーがあれですから、現在を組み込んでも違和感はないだろうと思っていましたし、むしろより身近に感じられるだろうと覚悟してはいたのですが、実際この手のモチーフを描いた芝居を震災後に観たのは初めてだったので、受けたショックは大きかったです。曖昧な恐怖が像を結ぶのを見たかのよう。スクリーンに文字が溢れるシーンでは、一瞬席を立ち上がり悲鳴をあげる自分の姿が頭に浮かぶ程でした。そしてその後街をつくった人間たちの強さに希望をも持ちました。

それでも最後この世界がどうなるか、誰がどうなるか判っているし、それは変わらない。胸が締め付けられるような思いに駆られ、最後には涙が出た(つうかオープニングでもう泣いてた・笑)。現在と普遍が同居する、やはり名作です。

今回、それこそ20年前に第三舞台がきっかけで知り合った方たちと一緒に観たので、終演後の話にも花が咲いた。あれは鴻上さんの演出(演技指導)によってそうなるのか?それとも役者さんが第三舞台が上演したものの映像を観てあの演技プランにしたのだろうか?(それ程似ていたのだ)そして当時あのスタイルが80年代演劇だと思っていたが、今観るとあれはもはや鴻上さんのスタイルだったのかも知れない。意外なところで笑いが出たのにも驚いたね!最初の「さあ、握手をしよう」で笑いが出たのにはビックリした!ビックリしたビックリした!あそこ必ず私泣きそうになるとこなのに!なんだろうあれ、マスターが見当違いのところ向いてることに笑ったのかな…えーでもそれって……あでもね私の後ろのひとが笑った後に「まんまや」って言ったの。ええ?どういうこと?初演から変わってないってことが笑いに繋がるの?あともう一箇所意外なところで笑いが…どこだったっけ?(このとき思い出せなかったがもう一箇所ってあれだ、太郎に羽根が生えてきてスーツの背中が出っ張ってることにずっとクスクス笑いが…ここらへんはチャーミングな笑いでこっちも和んだ)。虚構の劇団の役者さんたちは、所謂第三舞台チルドレンなのか、全くそれとは無縁のひとたちなのか?役者さんとしては第三舞台のメンバーと比べられることについてはどう思うのだろう、しかしそうやって観てしまうこっちも失礼だよね…等々。

しかし、似ているとは言えコピーではない。演じているひとが違えば当然違う側面が見えてくるし、観ているこちらにも別の感情が生まれてくる。新しい発見にハッとしたり、今この時代にこの作品を観ることの意義に感じ入ったり。この作品を通して新しい集団、新しい役者との出会いがあったことに幸福を感じたりもしたのでした。

そしておこがましいけれど、この作品を書き上げた鴻上さんの年齢をとうに追い越した自分が観るこの世界に、以前観たときとは違う感情が多々浮かんだことも嬉しいことでした。その感情を引き出せたのは、役者さんの力によるところも大きいと思う。マイナーでヘヴィーなものは売れないと言われ続けたケイに、マイナーでヘヴィーなままでいい、それが受け入れられる場所は必ずあると声を掛けたい。反面、それだけ多くのひとに受け入れられることに飢えていたケイの心情を思うと軽々しいことは言えない。いやでもそこらへんは、図太くなったオバちゃんとして今ならおせっかい出来るかも(笑)。見たくないものを見てしまった人間たちに慟哭する天使の肩に手を置き、優しく抱きしめる存在はいないのだろうか?神さまは行方不明になっている。あの天使の姿を、決して瞳を閉じることなく見つめていたい。日々壁に向かうアキラの底抜けの明るさの裏にあるものは何だろう?終盤、マスターに“桃の缶詰”を投げた彼の姿にその片鱗を見た。あんな若者は、いつの時代にも、どこの世界にも存在する。

初見だったのにガッチリ面構えと声が印象に残る役者さんが多かった。名前も憶えたい……。ぴーとさんもツイートされてましたが配役表はあった方がいいと思います。パンフを買って見てね、と言うことだとは思いますが、あの役をやったあのひとは誰?と思ったときって、客電が点いた瞬間、一秒とかけず知りたいものなのです。ロビー迄行ってパンフ買って開く迄の数分すら惜しい。その数分の間に世界が終わるかも知れないしね(今ならすごい実感がわくわ)。

そしてマスター、大高さん。『ごあいさつ』の最後に「『虚構の劇団』に、『第三舞台』の大高洋夫を迎えました。」と言う文章を見付けて、開演前からジーンときていました。『ベルリン・天使の詩』で空中ブランコ乗りに恋をした天使が人間になったその後。今の年齢になった大高さんが演じるマスターは、より老成していて、より達観していて、だからこそより惑いが見られる人間。若者たちを見守り、人間たちを愛してやまないが故に一線を越えてしまう元天使でした。観ることが出来て本当によかった。

20年振りであっても、登場人物たちが身近な友人のように思える。そんな作品に出会えたことに感謝しています。



2011年08月05日(金)
『岸家の夏』

劇団鹿殺し 夏の女優祭り『岸家の夏』@青山円形劇場

久々に観ました、と言うか劇場で観たのは初めて。上京してきて東久留米に鹿ハウス設立した前後にやまこさんからすごいすごいと聴いて、路上公演を何度か観た以来……それからメンバーも随分入れ替わってますよね。『クラウド』に出演した山岸門人さんが素晴らしかったし、今回“夏の女優祭り”として千葉雅子さん、峯村リエさんを客演に迎えるとあってはこれは見逃す手はないと出掛けていきました。

いやあ、楽しかった…ちょっと元気が出ましたよ。すっかり嫌いになりつつある夏に気持ち希望を持ちたいなと思える心向きになった。と言うか、持つようにしようと思うきっかけになれるといいなあ。この世界はまだまだ愛せると思えるようになりたいな。

破天荒なイメージがありますが、ホンはしっかりしてるし(向田邦子の風情すらあった。ここらへんは今回のテーマから意識していると思う)、ダンス、歌、場面転換とあれだけの段取りの多さを(時間的にも空間的にも)まとめあげる演出も見事。シメるところはガッチリしめていて手堅い。そもそも劇団の出発がつかこうへいさんですし、いのうえさんが推すのもよくわかる…これは新感線好きにはハッとするところが多いと思います。ちょっとエンジンかかるのが遅い感じがしましたが(これは観客の反応に左右される要素も大きい)、構成の妙と役者の緩急自在な熱演で、中盤からぐいぐい引き込まれた、これはすごいと思いました。

そしてこの緩急、千葉さんと峯村さんの存在と言うものがとても大きかった。となると男芝居のときはどうなってるんだ…チョビさんの背負うものの大きさもうっすら感じましたが、今回千葉さんと峯村さんがいたことで、そこらへん突っ走れる部分もあったのではないでしょうか。ベテランの女優さんと言うだけでなく、年長者としての人間的魅力に溢れたふたりの女の懐の深さは観ていてゾクゾクするくらいだった。そして年長さんがあがく姿をも見せてくれていたと思う、体力的にも(笑)。あがいていいんだよー、て言うか歳とってもあがくもんですよ。あああれくらい大きい人間になりたいわ。それにしてもリエさんはホント素敵だ…声もしぐさも表情もだいすき。ナイロンの女優さんは皆品がある。勿論本人たちが持つ素養は大きいですが、ケラさんの役者を育てる手腕と言うものもすごいと思う。千葉さんの、『流れ姉妹』でも見せた本当は弱いのに甘えたいのに強がってしまう、しかもそれが出来てしまうからなかなか見抜けない、と言うもはや名人芸とも言えそうなキャラクターも素晴らしかったです。

あとあれよ(ネタバレ)、千葉さんのネグリジエ、リエさんの魔女の宅急便が観られたのんは嬉しかった…どストライクでした。チョビさん有難う!チョビさんのレディーガガ精肉ヴァージョンもかわいかった……。

いや〜ホント「ガードを下げれば舐められる ガードを上げれば寄り付かぬ」って歌詞は核心をついてたわ(笑)。そしてこんだけのダメ男カタログ、よく並べた。戦国武将ネタを観られたのもツボでした(笑)。

久々に劇団らしい劇団の公演を観られたと言うのも嬉しいことでした。ブレイクスルー寸前の劇団と言えばいいか。この歳になると、怖いものなど何もないような希望と野心に溢れた集団が、その幸福な季節の終わりを迎える場面を何度も見てきている。鹿殺しは一度それを経験している。そこからまた、ここ迄来たんだ。彼らの強さを感じました。そうなるともう、ブレイクスルーの瞬間を目撃したくなる。次回は紀伊國屋ホールに進出(こういうところも正統派だ)だそうです。