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2009年07月18日(土)
『奇ッ怪〜小泉八雲から聞いた話〜』とか

■昨日帰宅したら
ソニーのひとから留守電入っててビックリした…インストアライヴの当選者全員に中止のお知らせしてるようです、ヒーおつかれさまです……。
なんともかんともで落ち着かないので昨夜はweb上を延々うろうろしてたんですが、どっかで「ベースに代役たてるとか、ジェイムズだけ来るとか出来なかったのか」ってコメントに応えて「いやでもこれ以上ひとり減りふたり減りのマニックスは観たくない…」とか書いてたひとがいて、ひいいその通りです!もう減るの勘弁!と思いました。た、頼む皆元気でくらしてくれ……

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『奇ッ怪〜小泉八雲から聞いた話〜』@シアタートラム

思えば先月からおばけがらみのものばかり観ている。しかも『異人たちとの夏』をリピートしているので、今月の土曜日は全ておばけもので埋まってしまった。

……まあ、夏だしいいか。いいのか?

それにしても、おおお一本!な作品でした。お見事、前川知大!この方の名前は『散歩する侵略者』で衝撃的と言っていい程記憶に刻み付けられたのですが、その後なかなか機会に恵まれず舞台を観ることが出来なかった。3年越しです。ああ、やっぱりすごいわこのひと……。カーテンコール後の客席が「これは面白いものを見た!」と言う雰囲気でざわつき、終演後プログラムを買おうと群がるひとの多さも目につき、興奮して語り合うひとも見掛けた。こういった熱気がビリビリと伝わる舞台は貴重です。以下ネタバレあります。これから観る予定の方は読まない方がいいです。特に結末については、現場で体験するのがいちばんよいと思います。

「常識」「破られた約束」「茶碗の中」「お貞の話」「宿世の恋」と言った小泉八雲の短編を、現代に起きたある事件とその謎解きに組み込む。とある山中の古い旅館にふたりの男がやってくる。宿には先客、ある作家。土地に伝わる不思議な話を持ち寄るうちに、それぞれに起こったことが見えて来る。

ひとりの登場人物が伝承を語り始めると、その話の中の登場人物として他のふたりが動き、現実と自由に行き来する。この切り替えと、常にそれを鳥瞰する人物を据えている構成が見事です。5つの話を繋げる現在の謎解き部分も鮮やか。

そして役者陣が素晴らしかった。特に池田成志!本領発揮もいいとこです。このひとってあれだ…あのー作家さんがよく「書いていると登場人物が勝手に動き出す」って言うでしょう、まさにそれなんですよ。台本の中に潜り、それを舞台上にあげ、そしてその中を自在に泳ぐ。恐らくは書き手の予想しないところ迄走る。今回前川さんの書き下ろしではあるので当て書きの部分はあったのかも知れませんが、それにしたって成志さんが演じることでこの田神と言う男は別の命を持ったと言ってもいい程でした。好奇心を常に持ち、あらゆる状況に首を突っ込み、どんなことになっても動じない刑事。だからどこからどこ迄がアドリブか判らない。あの状況で「お風呂に入らないからだよ」って一歩退いた台詞がよく言えるな(笑)しかも「お」風呂て!この毒と茶目っ気も成志の真骨頂です。「もげくさっ!!!」も成志語っぽいな(笑)いやーいつ観てもすごい役者さんですし、何をやっても面白くなるひとですが、今回は観たい成志が久々に観られた!と言う感じで個人的にはもう嬉しくてたまらん。最高です。「茶碗の中」では顔芸も堪能出来ました(笑)

小松さんは謹慎中の検死官と言う役柄。自分の潔白を証明したいが故の焦燥と、事件の真相を知りたいが故に感情を露にする人間くささが魅力的な人物像を造形していました。何故謹慎することになったかの流れがまた巧い構成で、最初はこの役、劇中劇の「茶碗の中」として成志が演じてるんですよね。途中で現在に戻り、小松さんと入れ替わる。そしてそこから、ふたりの追う事件=謎が明らかになっていき、作家との関わりが明かされていく。作家を追求する検死官と、異人に魅入られた男を守ろうとする僧侶を並行して演じるとても複雑な役を、何の違和感もなく見せていたのは流石でした。

仲村トオルさんは天然を活かし(笑)しかし二枚目も活かす。「宿世の恋」での演技が光りました。これ、天然も二枚目も両方入ってたもんね。一途でぼんやりの新三郎は、お露を愛する余り自らこの世を捨ててしまう。「地獄に堕ちることが不幸とは限らない」と微笑さえ浮かべて言い切る姿は悲しくも美しいものでした。反面輪廻転生を信じるあまり自らの命を絶つ作家の狂気の微笑も持っている。いやはやもともと不思議な魅力を持つ役者さんですが、その持ち味が全開になっていたように思いました。

成志を中心に、この3人が舞台上で遊んでいるかのように見える一瞬もありました。ボケツッコミスルー力検定合戦みたいになっていたところも。怖い話なのにこんなに笑うとは思わなかった(笑)

歌川さんも巧いわーなんかコメディ部分は志村けんみたいになってたのに腹がよじれた(笑)あとの4人は全員前川さんとこのイキウメメンバーで、初見の方ばかりだったのですがいやはや全員が舞台のプロと言った風情で巧くて安心して観ていられる。いい座組です。

ひとつ気になったのは、全体的にラウドな物言いだったこと。皆さんトラムとは思えない程の声の張りです(笑)『散歩する侵略者』もそうで、この時は演出だった赤堀さんのプランなのかなと思っていたのだが…この辺り、どうなんでしょう。『狭き門より入れ』もようやっとチケット確保出来たので、注意して観てみようと思います。